第65回 ある旅の終わり

カテゴリ : カルチャー / 日時: 2007年05月05日

 

▲本日をもって、ある旅を終わりにしようと思う。その旅に出てから、思えば早15、6年になるだろうか。あまりお金がかからなかったゆえ、気軽に続けてこられたのだが、終点がなんとなく見えてしまったから、もうそろそろ終えてもいいだろう。その旅の名は、旨いラーメンを捜す旅だ。

▲始めた頃、本当に名古屋エリアには旨いラーメン屋がなかった。手元に94年12月発行のラーメン特集ムック本があるが、80件ほどの掲載店のうち、半分ほどは中華料理屋であり、ラーメン専門店は極めて少ない。そして、その専門店でも旨い店はあまりないのだ。ただ、この頃から名店として名をはせたのが西区の「万楽」だ。この行列店によって、名古屋にもラーメンブームがやってきたといってもいい。カップ麺にもなったほど。行列を嫌っていつの間にか足が遠のいた店だが、食べた当時もそう旨いと思ったわけではなかった。しかしブームの起爆剤として貴重な店だったといってもいいだろう。だった、というのは、実はこの店の店主が先頃亡くなってしまったのだ(享年61才と若い)。

▲一方、主人が亡くなったわけではないようだが、超有名店だったにもかかわらず今はないのが千種区の「三吉」だ。いわゆる無科調魚介系のラーメン店として、この店が名古屋のラーメン界に与えた影響は絶大だった。開店してすぐの、人が少ない時期にちょくちょく行ったものだが、正直、ここもそう旨いわけではなかった。が、オリジナリティは間違いなくあった。その後、いわゆる地元グルメTV番組やタウン誌などのマスコミによって祭り上げられたのが不幸だったのかもしれない。初期の頃から、けっこう居酒屋ノリのルーズな店だったのだが、移転以降それがより顕著になり、放漫な印象が強くて足を運ばなくなってしまった。ただ、この店の弟子の人々は皆、今もなかなかいい仕事をしていると思う。

▲三吉以降、いわゆる魚介系の味を売るラーメン店が次々に生まれたのがこの10年の動きだと思うが、客入りはどこもそう良くはないようだ。マスコミで取り上げられると一時客があふれるが、一週間もすれば人はひいてしまう。魚介系はあっさりしている上に量は少なめ、その割に価格は高めということで、試しに食べてみたいという人が一度食べてそれでおしまい、となりがちなわけだ。経営的に苦しいところも少なくないという。その点、とても旨いとは言いがたいチェーン店系ラーメン店は、割安感と深夜営業によりどこもけっこう元気がいい。

▲同様に若い人に人気の豚骨系も魚介系よりは元気がいい。替え玉100円も大食漢には魅力なのだろう。残念ながら私は、豚骨やこってり系のラーメンは、歳のせいかどうにももう受け付けない。豚骨ラーメンでも旨いまずいはわかるが、旨いとはいえ食べたい、食べきりたいとはもはや思えないのだ。それと、何故か豚骨系の店は魚介系より深夜まで営業していることが多い。魚介系ももう少し、営業時間が長いと行きやすい=客が増えると思うのだが。

▲ラーメン旅をやめるのは、最近では旨いラーメンにあまり巡り会えないからだ。特に魚介系のラーメンに一定以上のレベルの店が増え、どれも変わりばえがなくなってしまった。私自身が飽きてきたということもあるのかもしれないが、いいレベルだけれど旨いとはいえないラーメンを食べたときに、なんだか空しくなってしまうことも大きい。「これならムチャクチャ旨いあの店で食べれば良かった」なんて思ってしまう。旅に出て出会いを楽しむより、家でいつもの娯楽で楽しみたい、みたいなものか。私も保守的になってきたのか!?

▲今日行ったのは、かつて繁華街の外れで主人と奥さんだけで営業している知る人ぞ知るという店だったが、人気が出たのかやがて繁華街に進出し、その時はけっこう人も使っていた。そのうちそこもうまくいかなくなったのか、今度は繁華街から遠く離れたところで、また夫婦二人でやっているという店。最初に行ったときからそう旨いとは思わなかったのだが、それなりにこだわりのあるラーメンではあった。この店の遍歴は、ブームに持ち上げられての何か勘違いだったのかもしれない。今日食べてみても、良くできてはいるのだがやはり中の下といったところで、もう一つ旨くないし、店も新しいのに何故か小汚い。700円を支払って出るとき、とても空しい気分になった。もう旅はやめようと思ってしまった原因の一つだ。

▲全国にはまだきっと旨いラーメンがあるとは思うから出張時に行ってはみるが、名古屋はもうこれでいい。感動的なラーメンはもう一通り当たってしまった。自分の中でそう思うように、ラーメンブームもどうやら下火になってきているようだ。名古屋の名誉のために言っておくが、オリジナリティがあって旨いラーメン屋は以下のように今もちゃんと営業を続けている(検索用名古屋エリア旨いラーメン店:新谷・鴨ラーメン・慈庵・翠蓮・ぎんや・晴レル屋・轍・ぶっこ麺)。ただし、もうラーメン捜しの旅はこれで終わりにしよう。よほど評判の新店以外は、時々いつもの店に行くだけでいい。すっかり身についた高脂血症も脂質異常症と名を変えたことだし。

 
 

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