第66回 漫喫・カラオケボックスに負けたクルマ

カテゴリ : その他クルマの話題 / 日時: 2007年05月17日

 

▲私はこの歳まで自動車(以下クルマ)に関わる仕事をしてきた。つまりクルマが元気だった時代の恩恵で仕事をしてきたわけだ。そしてこれからもクルマとは関わっていくつもりだから、ずっと元気でいて欲しいのだが、国内ではいよいよどうにも売れなくなってきて、元気がなくなってきている。新車が売れていないのはよく知られているが、中古車も07年4月の中古車登録台数が前年同期比8.5%減で、13ヶ月連続して前年比を下回っている。つまり、クルマ全体が売れていないのだ。その理由は様々に言われているが、私なりになぜ売れないのか、もう一度考えてみたい。

▲先日、何かで読んで目から鱗だったのが「クルマの空間」に関する話だ。クルマの魅力の一つにプライベート空間という部分がある。昔風に言えば「クルマは俺の部屋」だ。かつては若い男の子がここへ女の子を誘い込むことができるという大きな価値があった。その空間では初めての二人は親しくなれたし、ステディな関係となってからは、厳しい住宅事情の中、二人のまったりとした時間を過ごすことができた。当然あんな事やこんな事もしたりしたわけだ。つまりクルマは移動する手段だけでなく滞在する空間でもあった。そしてその空間こそクルマの大きな所有意義だったわけだ。

▲自分の若い頃のことを思うと、これは確かにとても重要なことだったと思う。いや、金がなくて走りのクルマが買えなかった昔は、クルマの最大の価値はそれだったと言い切れる。ところが今はそんな空間が他にもある。カラオケボックスであったり、漫画喫茶、さらにはカップル居酒屋といったあたり。これらの施設ではごく安い価格で二人きりの空間が提供されているのだ。女の子と親しくなるのに三桁万円の大金をはたかなくても、時間300円でそれが可能となれば、クルマなど買う必要はないだろう。自分のクルマに誘うよりカラオケの方が誘いやすいのは想像に難くない。ここにいたってクルマの空間的価値はほぼ崩壊している。

▲となればクルマがどんな豪華な内装になったとしてもむなしいばかり。やっと最近充実してきた車内AVも時すでに遅し。カラオケ時間300円の圧倒的なや安さにはかなわないし、だいいち車内では通信が弱いから最新カラオケはできない。そう、もはやクルマは移動するという価値しかなくなってしまった。魅力半減。しかもその残りの価値である移動に関しても最近はどうにも分が悪い。

▲その最たるものが駐車違反取り締まりの強化だろう。私の住む名古屋のように路上駐車に寛容だった街でも、最近はクルマが本当に駐めづらい。路上に数分クルマを駐めて用事を済ます間もドキドキしなくてはならないし、パーキングメーターが5分オーバーしただけでも即駐車違反切符を切られることがあるというのは、どう考えても厳しすぎるように思う。一度でもそういう切符をもらってしまったら、もうクルマで移動などしたくなくなってしまうだろう。

▲また飲酒運転の取り締まり強化も、こと地方都市ではかなり大きな影響を与えているようだ。地方都市の郊外型居酒屋は大型駐車場を備えていることが多い。もちろん建前としてはクルマに乗ってきた人は酒を飲まないことになっているが、過去においては事実上、大人の判断に任すという状況だった。しかしこれも徹底的なキャンペーンによって大きな影響を受けており、郊外型居酒屋の売り上げはかなり落ちていると聞く。そんな今でも、交通機関の少ない地方では相当なリスクを負って酒気帯び運転をしている人はまだかなりいるようだ。人生棒に振る覚悟でクルマに乗っているわけで、それはそれでかなり悲しい。

▲AVの整った部屋で、お酒を飲みながらプライベートな時間を安く過ごせるカラオケボックスに対し、カラオケもなくて酒が飲めず、やたら高額な初期投資のいるクルマの室内が勝てるわけがない。トヨタの新型bBはその状況に果敢に挑んだクルマだが、今の販売実績を見る限り、惨敗といえる。こうなると格差社会でもともと金のない若者がクルマに興味をなくすのも仕方ないところだろう。

▲韓国ヒュンダイ自動車が超低価格車を開発中とのことだが、日本でもそろそろ「カラオケボックスに負けたことを認めた」新たなマーケティングに基づいて、クルマ作りを再考した方が良いのではないか。クルマに豪華さはいらない、空間的価値もいらない、もちろん走りの良さなど要らない。効率的に移動できる「道具としてのクルマ」で、しかもできる限り低価格なクルマ。そういうクルマはたぶん軽量小型なので環境的にも負荷は少ないはず。新車価格は昔のアルト(49万8000円)を下回るもの。そんな斬新なクルマが出てこない限り、日本のクルマ市場の低迷は今後も確実に続くだろう。

 
 

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