▼全国的にはたいしたニュースではないと思うが、2月10日に報道されたニュースの中にトヨタの社員が元部下から金を借り、結局殺してしまった、というのがある。新聞報道によると、愛知県岡崎市のトヨタ自動車社員林信行容疑者(57)が愛知県豊田市の無職時任正幸さん(50)を絞殺し静岡県に死体遺棄。時任さんの自宅に林容疑者に約一千万円を貸していたことを記した金銭貸借のメモが残っていたという。トヨタも社員は多いから、こういう輩が出てきても仕方ないだろうが、社内的には大騒動だろう。
▼今回はそんなトヨタについての話ではない。その後の報道を見ると、借金のあった林容疑者が、九州から出てきてトヨタ工場で長年働いてきた独り身の時任さんの金をねらったという、ありがちな図式の犯罪なのだが、この林容疑者が金に困ったとされる原因にちょっと注目したいのだ。新聞報道によると、それは息子夫婦にマンションを買ってやったことが一つの原因だという。
▼林容疑者は30年ほど前に家を建てて普通に暮らしてきたが、数年前に息子夫婦にマンションを買ってやった頃から金に困り始めたらしい。彼がトヨタのどういった役職の人間だったかはわからないが、所詮はサラリーマンであり、親から受け継いだ資産でもない限り、息子にポンとマンションを買ってやるような、有り余ったお金があったとは考えにくい。無理して買ってやったことは想像できる。というよりなぜ無理してまで息子にマンションを買い与えるのだろうか、という疑問がわくはずだ。
▼これにはこういう事情がある。それは「愛知県の郡部の人は、息子が結婚したら家を買ってやることがあたりまえ」なのだ。長男夫婦が同居したら2世帯に住宅に建て替え、次男が結婚したら新築建て売りを買ってやる、娘が嫁いだら新築費用を援助してやる、それらはこのあたりの親の甲斐性なのである。
▼私の知り合いにもそういう人は多い。20歳代後半で一戸建てに住んでいる人の多くは、このパターン。で、毎日真面目にトヨタおよびその関連企業の工場などに勤務するわけだ。大都市圏に住んでいる人には想像できないかもしれないが、これは現実。林容疑者はこうした風潮の中で、無理をしたのかもしれない。昔からの土地持ちならいざ知らず、普通のサラリーマンには、そんなことはもはやできない経済状況なのだから。
▼たいていこういう事件は、もう少し調べがすすむと女がらみの問題などが出てきて、息子のマンションのせいばかりではない、となるものだが、原因の一つであることは間違いないだろう。愛知県郡部の人は「一生真面目に働いて、その証として息子に家を残してやる」という人生目標のもと、アリとキリギリスでいえば「アリ的人生」をおくっている。そういう人達がトヨタのクルマを作っているわけだ。
▼反面、殺された時任さんのように、集団就職で田舎から出てきて、ずっと女っ気なしの一人暮らしをし、お金だけは貯め込んでいる人もいる。時任さんは九州の大牟田市出身で、トヨタ自動車に30余年り勤務し、昨年三月、自己都合で退職したという(もしかしてリストラ?)。育てたサボテンを眺めるのが趣味だったとか。貸した1000万円は退職金だったのかもしれない。合掌。
▼わからないのは、マンションを買ってもらった息子の心情だ。ただこうした息子は金に余裕がある分、高いクルマを買うわけで、それでまた大元のトヨタに金が回っていく次第となる。となるとこれはこれで自由主義経済としては正しいのかもしれない。今回林容疑者はそんな好循環から落ちこぼれただけ、なのだろうか…。厳しさを増す経済状況の中で、愛知県郡部の常識がそろそろほころび始めているのを象徴する事件に思えた。












