第102回 自賠責が赤字。その原因の一つは私かもしれない

カテゴリ : 法律 / 日時: 2011年11月11日

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▲自動車損害賠償責任保険、いわゆる自賠責が赤字ということで、今年(2011年)4月から保険料が引き上げられていることをご存じだろうか。自賠責がどう運営されているのか、なぜ赤字なのかが今ひとつはっきりしないが、いずれにしても事故での支払いが多いということに関しては間違いないようだ。私も昨年、この保険が大量に払われた事故に遭遇したので、報告しておきたい。ちょっと、なんだかな、と思う話だ。

▲まずその事故だが、四十絡みの女性が乗る自転車に、私のクルマがかすったというもの。事故状況だが、横断歩道で止まった私のクルマの前を横切った自転車の駐輪スタンドの後端に、少し動き出した私のクルマ前部がかすった(らしい)。女性は子供を自転車後部のチャイルドシートに乗せていた。クルマ側にはなんら衝撃は無く、そのまま通り過ぎるところだったが、自転車を止めて振り向いた女性がわめいているので、クルマを止めると、当たったと言う。むろん自転車は倒れてなどいないし、クルマを見ても当たった形跡がないので、そんなことはないというと、足が痛いと言い出した。当たり屋ではないかと疑ったくらいの強い語気に、それなら警察へ行こうと近所の交番へ。この時は特に痛がる様子もなかったのだが。

▲交番で事故処理班を呼んでもらい、現場検証したが、そこで私のクルマのバンパー下にごく小さな擦り跡があり、ここに接触したのだろうということに。そうなれば致し方ないので、こちらも下手に出ることにしたのだが、そうすると今度は後ろに乗っていた子供も体が痛いといっていると言いだした。さすがにこれは普通じゃないなと思ったが、警察とも話をして、一週間様子を見て人身事故にするかどうか決めるということでその日は別れた。翌日、お詫びとして菓子折を持って事故現場すぐの自宅に行くと、受け取らない。保険屋と話すから受け取れないという。今までいくつもの事故に対応してきたが、この時点でちょっとやっかいな人であると再確認した。

▲一週間過ぎたら警察から連絡があり、案の定、先方は人身事故扱いにしたいと言っているとのこと。うちの保険会社と相談したが、そうした人だったら保険を使った方がいいでしょうとのアドバイスもあり、その後の対応は保険会社に任せた。そして私には軽微な人身事故(ただし女性と子供の二人分)ということで行政処分点4点がつけられた。おかげで累積6点になってしまい、以前のコラムで書いたように講習出席の次第となったのである。ただし、いわゆる罰金はまったく来なかった。警察としてもごくごく軽微な事故という認識だったからだろう。

▲それからは保険会社からの報告書を読んでいただけなのだが、後ろに乗っていたの子供には半年後に治療費約30万円、賠償金約50万円が支払われた。女性の方はそれからさらに半年以上(事故から1年以上)治療に通い続け、治療費約120万円、賠償金約150万円が支払われた。あとで見たら自転車にも修理代として4万円弱が支払われていた(もちろん壊れてなどいないが)。保険会社によると、本人はまだまだ通院すると言ったそうだが、さすがに保険会社もこれ以上はということで、多めの賠償金で手を打ったそうだ。クルマがかすっただけで実に350万円ものお金が支払われたのである。

▲自賠責は任意保険に優先して一人あたり120万円まで支払われる。つまり子供の分は全額自賠責から、女性の分は120万円が自賠責から支払われ、残りの150万円ほどが任意保険からの支払われた。人身事故の場合、このようにまず自賠責が使われる仕組みである。つまり120万円までは、任意保険会社の自腹は痛まない。このため割に支払いが甘いとされるが、それを超えると示談を急ぐ傾向にあるようだ。これを知ると自賠責が赤字になるのは、今回のケースのようにどんどん支払われてることも原因の一つではないかと思えてきた。

▲一般的には加害者という立場になる私だが、このケース、さすがに素直にごめんなさいという気になれない。保険会社によればこのような支払い事例は少なくないようだ。この女性に関しても、初めての事故ではなく、過去にそれなりに経験があるように思われるという。ただそうしたデータを自賠責は持ってはいないようだ。任意保険の会社では、自社が支払った人のデータベースを持っているようだが、それでも他社のデータまで見ることまではできないようで、いわゆるブラックリストのようなものは、公には存在していないという。同じ会社で二度目の事故請求となれば、当然それなりの対応をするようだが。

▲いずれにしても自賠責が赤字になっている中で、今回のような支払い事例を見てしまうと、まじめに自賠責のお金を支払っているドライバーがバカを見ているような気がしてくる。また死亡最大3000万円、けが最大120万円の自賠責では賠償金が全額支払いきれないケースが多い(今回もそう)。であれば自賠責などもう撤廃して、民間の自動車保険に一本化し、加入を義務づける方が合理的ではないだろうか。保険会社も支払いが慎重になるだろう。もちろん保険に入らない人はより厳しく取り締まるべきで、警察にも意味のよくわからない交通取り締まりばかりでなく、こちらにも力を入れてもらいたいもの。

▲また、多大な労力をかけて警察が現場検証をしてくれるのだから、個々の事故に応じて過失責任を算定する仕組みと、それに対する賠償を明文化できないものだろうか。今回のケースであれば、この保険金支払いが何だかちょっと変だと言える第三者は、当日の現場検証をして書類を作った(それゆえ行政処分を下した)警察しかいないのだから。何百万円ものお金が動く話なのだから、民事不介入の一言で済ましていいのかとも思う。どれだけ安全に気を使って運転していても、事故は起きるときには起きてしまう。その時の備えを、個人はもちろん、制度としても見直す時が来ているのではないだろうか。

▲昨年(2010年)の無保険車(自賠責未加入車)摘発が過去10年で最多の5385件に上っているという。自賠責に入っていない人はものすごく多いようだ。また無保険車によって事故にあった被害者を救済するため、国が賠償金を加害者(無保険車運転者)に代わって立て替える制度があり、そうして支払われた立替金を加害者から回収できなかった額は458億円に上るという。この制度では自賠責とほぼ同額が被害者に支払われるが、その原資は自賠責保険料の一部とのこと。今回、もし私が無保険車であった場合、どのように支払われただろうか。被害者であることを声高に主張すれば、この制度でも支払われるのだろうか。クルマを取り巻く問題の一つがこんなところにもある。

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