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フィアット 500 ツインエア ラウンジ新車試乗記(第634回)

Fiat 500 TwinAir Lounge

(0.875リッター直2ターボ・5速セミAT・245万円)

愉快、痛快、感動、振動!
復権した2気筒の「鼓動」を聴け!

2011年06月04日

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キャラクター&開発コンセプト

875ccの2気筒エンジン「ツインエア」を搭載


フィアット 500 ツインエア
(photo:FGAJ)

人気のイタリアンコンパクト「フィアット500」に、話題の2気筒エンジン「ツインエア(TwinAir)」が搭載された。この排気量875ccの直列2気筒ターボエンジンは、燃費で従来の1.2リッター直4を上回り、パワーで1.4リッター直4に並ぶという新開発ユニット。イタリア本国では2010年9月、日本では2011年3月24日に発売された。

【ツインエア】について

4輪車ではすっかり廃れてしまった2気筒だが、フィアットでは先代500はもちろん、その後の126、初代パンダ等々に、割と最近まで搭載されていたなじみ深いエンジンだ。

ただしツインエアは従来の自動車用2気筒エンジンとは異なり、高度な環境技術が盛り込まれている。特に重要なポイントは以下の二つだろう。

 

斜め前から見たツインエア。排気側なので小径ターボチャージャーが見える。右下にミッションが付く
(photo:FGAJ)

一つ目はターボの採用によるダウンサイジング(排気量縮小)。この分野では目下、VWグループがリードしているが、ツインエアの場合は3気筒を飛び越して、一気に2気筒・875ccまでダウンサイジングしてしまったのが画期的。気になる振動に関してはカウンターバランスシャフトの採用で対処したという。

二つ目は、吸気バルブの可変制御によって吸気量をコントロールする、いわゆるノンスロットリングシステムを採用したこと。この点はBMWのバルブトロニック等と同じだが、ツインエアではすでにアルファロメオ ミトの1.4リッター4気筒に採用されている「マルチエア テクノロジー」が採用されている。これは排気バルブは通常のカムシャフトで駆動するが、吸気バルブに関してはそのカムシャフトで発生した油圧をソレノイドで無段階制御して動かす、というところがユニーク。

 

後方(キャビン側)から見たツインエア。補器類は背面に配置されている
(photo:FGAJ)

マルチエアの主な狙いは、ポンピングロスの低減だが、それ以外にも低負荷・通常走行時には吸気バルブの早閉じを行って低域トルクを15%向上させ、高負荷時(全開加速時)には遅閉じすることで、最高出力で10%向上させる、といったことが行なわれている。

なお最近のターボエンジンは直噴化(燃料のシリンダー内への直接噴射)がセオリーだが、ツインエアは今のところ一般的なポート噴射。2気筒ターボという全く新しいジャンルのエンジンなので、そのあたりは追い追いかも。BMWでも、直噴ターボとバルブトロニックの組み合わせは、しばらく後からだった。

 

マルチエアでは排気バルブ(左)をカムシャフトで駆動。吸気バルブ(右)はそのカムシャフトで発生した油圧で電子制御する(photo:FGAJ)

これらによって、ツインエアは最高出力85ps、最大トルク14.8kgmを発揮し、従来の1.4リッターDOHCエンジン(100ps、13.4gm)並みのパワーを確保。燃費に関しても、アイドリングストップ機能や5速デュアロジック(セミAT)の採用と合わせて、10・15モード燃費:21.2~21.8km/Lを達成している。

【ツインエア】世界で数々の技術賞を受賞


真横からの図(右が進行方向)。ツインエアは軽量コンパクトで、同クラスの4気筒より10%軽く、23%短いという。排気側カムシャフトはチェーンで駆動される(photo:FGAJ)

ツインエアを開発したのは、フィアットのエンジン開発部門である「FPT(フィアット パワートレイン テクノロジーズ)※注」。開発当初からターボのほか、自然吸気やCNGバイフューエル仕様を想定しており、目標出力値はターボの有無、過給圧、使用燃料の違いによって、65~105psと発表されている。また、あくまで実験レベルながら、2気筒エンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドも開発中のようだ。

市販されたツインエアは今年2011年5月に、自動車エンジン分野の評価で権威のある「インターナショナル エンジン オブ ザ イヤー」の総合最優秀賞を受賞。さらに部門別でも1000cc未満、ベストニューエンジン、ベストグリーンを受賞するなど高く評価されている。

※注 FPTは2011年1月に「フィアット パワートレイン」および「FPT インダストリアル」に分離している。前者は乗用車部門のフィアット社で、後者はトラック・バス関係のイヴェコ(Iveco)など産業車両・重機(建機)を手がけるフィアット インダストリアル社に属する。

■外部リンク
・フィアット公式サイト>フィアット パワートレイン(英語)
・FPT インダストリアル公式サイト(英語)

日本市場では3年間で累計1万台を突破

フィアット グループ オートモービルズ ジャパン(FGAJ)によると、フィアット500の国内販売台数は、発売初年度の2008年が2495台、2009年:3053台、2010年:4280台で、累計販売台数は3年間で1万台を突破した。これは当初の目標である年間3000台を上回るもので、リーマンショック以降の実績としては好調と言っていい数字だろう。

またFGAJによると、ツインエア導入後のディーラー来場者は、昨年同時期の約2倍となり、直近の販売比率では全フィアット500の約50%をツインエアが占めるという。導入から4年目の500にとって、ツインエアが活性剤になっているのは間違いない。

北米でも2010年12月から発売

2010年12月には、北米でもフィアット500の販売がスタートした。北米向けは新開発の1.4リッター直4「マルチエア」が搭載されるほか、ボディ剛性の強化、NVH低減、ブレーキ強化、燃料タンク容量の40リッター化などが行われたようだ。エンジンはクライスラーのミシガン工場製。北米仕様は、クライスラーのメキシコ工場で最終組立が行われる。なお、6月現時点でフィアットはクライスラー株の過半数以上を保有する見込みで、名実共にクライスラーはフィアット傘下となっている。

なお、欧州や日本向けのフィアット500は、エンジンを含めて全てフィアットのポーランド工場製。

■参考リンク(過去の新車試乗記)
・アバルト 500C (2010年12月更新)
・アバルト 500 (2009年07月更新)
・フィアット 500 1.2 8V ラウンジ (2008年4月更新)

■外部リンク
・「FIATのある風景」(フィアット500 1.4 16Vユーザーのブログ)

価格帯&グレード展開

廉価版じゃない。215万~279万円


ボディカラーは全7色。写真はスペシャルソリッド(+5万円)の「ブルーヴォラーレ」

ツインエアが登場したことで、これまでの「1.4 16V」(222万~289万円)はドロップ。日本仕様のフィアット500/500Cは、「1.2 8V」(195万~239万円)と「ツインエア」(215万~279万円)の2種類となった。価格からも分かるように、1240ccの4気筒よりも875cc・2気筒の方が上級という位置付けだ。

ツインエアに用意されたのは、「500 ポップ」(215万円)、「500 ラウンジ」(245万円)、「500C ラウンジ」(279万円)の3モデル。ラウンジは、固定式ガラスルーフ、15インチアルミホイール、バイキセノンヘッドライトを標準装備(+6万円で電動サンルーフも可)する上級グレード。500Cは電動ソフトトップのセミオープンモデルだ。

 

ツインエアの「ラウンジ」に標準装備されるバイキセノンヘッドライトは、アバルト500と同じプロジェクター式。ハイ/ローの切替は遮光板を動かして行う。なおその下のハロゲンライトは、通常モデルだとハイビームだが、バイキセノン仕様ではハイビーム時に手前側を照射する補助ライトになる

アイドリングストップを行う「Start&Stop システム」は1.2 8Vを含めて全車標準。日本仕様のツインエアは今のところ全車5速デュアロジック(セミAT)だが、欧州にはすでに5MT仕様がある。1.2 8Vでも後から5MTが追加導入されたので、ツインエアの場合もあり得るだろう。

【1.2 8V】(最高出力:69ps、最大トルク:10.4kgm)
 10・15モード燃費:17.2~19.2km/L

■500 1.2 8V ポップ(5速セミAT)   195万円
■500 1.2 8V スポーツ(5速MT)   208万円
■500 1.2 8V ラウンジ(5速セミAT)   225万円
■500C 1.2 8V ポップ(5速セミAT)     239万円

【ツインエア】(最高出力:85ps、最大トルク:14.8kgm)
 10・15モード燃費:21.2~21.8km/L

■500 ツインエア ポップ(5速セミAT)   215万円
■500 ツインエア ラウンジ(5速セミAT)   245万円  ※今回の試乗車

■500C ツインエア ラウンジ(5速セミAT)   279万円

パッケージング&スタイル

外観は変わらず。ただし「ブルー ヴォラーレ」はツインエア専用

外観にツインエア専用の意匠は特にないが、写真のボディカラー「ブルーヴォラーレ」だけは、ツインエアの専用色。ソリッドなのにオプションで5万円もするのだが、実にイイ色だ。

ちなみにイタリア語のヴォラーレ(Volare)とは、テレビCMでも使われたジプシー・キングスのカバー曲「ボラーレ」のタイトルと同じ意味で、「飛ぶ」という意味。歌の内容は「あまりの幸せに僕は青い空を飛んじゃうよ」といったもので、標準色のボサノバホワイトやパソドブレレッド共々、この色名も音楽に因んでいる。

 

ボディサイズはこれまで通り、全長3545mm×全幅1625mm×全高1515mm、ホイールベース:2300mmとコンパクト。しかも最小回転半径は「1.2 8V」と同じ4.7メートルで、小回りがとてもよく効く。以前の「1.4 16V」やアバルトは前輪切れ角が少なく、最小回転半径は5.6メートルもあった。

 

インテリア&ラゲッジスペース

「ECO」スイッチが付いた


ダッシュパネル色は外装色と一緒になる

シンプルかつ和めるインテリアは、おおむね従来の500と同じ。ツインエア独自の部分は、ダッシュボード中央に「ECO」スイッチが付いたこと。過給圧を一気に落とし、デュアロジックの変速制御もエコモードに激変させる重要なボタンだ。またインパネ中央には、今やフィアット500に全車標準となるアイドリングストップのON/OFFスイッチが付いている。

屋根はスチール、ガラス、サンルーフ、ソフトトップの4種類


ガラスルーフは「ラウンジ」(1.2 8Vとツインエア)に標準装備

試乗した「ラウンジ」にはガラスルーフが標準で、車内はずいぶん明るい雰囲気になる。夏場はシェードを閉じても若干暑いが、おすすめできる装備だ。

なおラウンジでは、アウタースライディング式の電動サンルーフ(6万円)も選択可能なので、フレッシュエアが欲しい場合はそちらをどうぞ。もちろん、リアウインドウまで全開する500Cという手もある。

ファブリックの肌触りが心地よい


シートの座り心地はとても良い。テレスコはないが、シートリフターは備わる

シート生地もこれまで通り。ザックリした触感がとても気持ちいい素材だ。座り心地もよく、このクラスで秀逸なシートの一つだと思う。ドライビングポジションは、最初のうち何となく座面が高く、ハンドルが遠い感じがするが、直に慣れてしまう。

全部で7個も装備されるエアバッグは、すべて前席を守るもの。正面×2、サイド×2、ウインドウ×2、運転席ニー×1となる。

 

後席はもちろん二人掛け。小柄な人なら、ちょっとした日帰りドライブも可能だろう

外見からは想像できないほど、後席も居心地がいい。ヘッドルームもギリギリだが、何とか確保されている。冷静に観察すると、座面クッションは前後長が短く、太もものサポートが物足りないが、ザラッとしたシート地の風合いがそれを補っている。全車レザーシートになるアバルト500の後席に座って発見した事実だ。

【荷室】従来と変わらず

荷室容量は185リッターで、背もたれを倒せば550リッターに増える。このあたりはBMW MINIの3ドアと大差ないレベルだ。

床下には従来通り、応急スペアタイヤを搭載する。スペアタイヤは中国のタイヤメーカー「GITI」製で、こんなところで図らずしも中国の台頭を感じてしまった。

 

ちなみにアバルトではスペアタイアレスのパンク修理キットになる。また北米仕様では燃料タンクを40リッターに拡大したせいか、スペアタイヤが吊下式になっている。

基本性能&ドライブフィール

懐かしの2気筒サウンド。そして力強い


最高出力は85ps、最大トルクは14.8kgmを発揮する

試乗したのは上級グレードの「ラウンジ」。キーを回すと、ツインエアは期待通り「ブルルルルルン」という2気筒らしい音で目覚める。水平対向2気筒でも、V型2気筒でもなく、まさに直列2気筒ならではマイルドな音だ。静かではないが、少なくともアイドリング振動はほとんどない。直列2気筒というエンジン形式は、軽自動車では1980年代まで珍しくなかったので、40代後半以上の方なら必ずや懐かしさを覚えるはず。

まずはECOスイッチオフで走り出すと。トルクフルで息の長い加速に嬉しくなってしまう。アクセルを躊躇なく踏み込み、5000回転くらいまで回した時の加速は、なかなか爽快。「バアァァァン」という長閑(のどか)なサウンドを響かせながら、いかにも「しっかり過給してます!」みたいな分厚いトルク感で、グゥゥゥンと車体を押し出す。レッド手前の6000回転までスムーズに回り切るが、最大トルクは14.8kgmと1.5リッター車並みで、わずか1900回転で発揮。スペック的にはディーゼルみたいだ。

ただ、感覚的にはクルマというより、同じ並列2気筒のオートバイ、例えばカワサキのW650(今年出たインジェクション仕様はW800)とか、もう少し鼓動感があるトライアンフ・ボンネビル(865cc)に近いかも。まさしくバーチカルツイン、爆発間隔360度のフィーリングがある。

ハイウェイ&高速コーナーは得意。最高速は173km/h


試乗車のタイヤはグッドイヤーの「Efficient Grip」。車両の最終組立地と同じポーランド製になる

ワインディングでも、けっこうよく走る。車重はラウンジで1040kgと、4気筒の「1.2 8V」より20kg重いくらいだが、14.8kgm/1900回転のトルクは強力。燃費が心配になるほど、グイグイ走ってくれる。

ちなみに0-100km/h加速は11.0秒(5速デュアロジック)。「1.2 8V」の12.9秒(同5MT)よりもだんぜん速く、旧「1.4 16V」の10.5秒(おそらく5MT)に肩を並べるレベルだ。

ハンドリングは、もともとフィアット500自体が低速域ではアンダーステアなので、タイトなコーナーは苦手。特にツインエアの場合は、エンジンブレーキの効きが弱めなので(ギアのステップ比が大きく、シフトダウンも受け付けないことが多い)、最初のうちはコーナー侵入時にドキッとする。またエコタイヤのグリップも少々頼りない。

 

ただ、3速で走るくらいの速度域では、頭が軽く、しかもサスペンションが最後まで粘ってくれるので、とても気持ちよく走れる。車検証数値によると前軸荷重は1.2 8Vより20kg重く、65:35とフロントヘビーだが、重心などのバランスは良いのかも。ちなみにツインエアのエンジンブロックは鋳鉄製だ。

フィアット500全般に言えることだが、高速走行時の安定性や快適性も高い。特に静粛性はエンジン回転が低い分、ツインエアが有利だし、ターボによる力強い中間加速は、自然吸気エンジンのような回転依存型のそれと異なり、頼もしさがある。100km/h巡航時は、1.4 16Vの2900回転に対して約2600回転だ。

ちなみに最高速はメーカー発表値で173km/h。「1.2 8V」の160km/hと「1.4 16V」の182km/hの、ちょうど中間くらい。

【スタート&ストップシステム】ここがイイ:よく止まるし、始動性もOK

アイドリングストップ機能は、すでに昨年から「1.2 8V」に採用されているもの。これが思った以上によく作動してくれる。停止すれば必ずエンジンも止まる、という感じ。バッテリー状況さえOKなら、エアコンオンでも、ヘッドライトオンでも確実にエンジンは止まる。


アイドリングストップは、インパネ中央のボタンでオフにも出来る

ツインエアの場合、例のエンジン音がパタリと止まるので、最初はちょっと驚くが、これもすぐに慣れる。夜間だとバイキセノンライトが白々と前方を照らしたままなので、思わずライトを消したくなるが、スモールポジションがないフィアット500ではライトを切ると車体正面が無灯火になってしまうので、消すべきではない。バッテリーはいちおう強化されているようだ。

そしてブレーキを離せば、キュキュキュッとセルが回って、エンジン始動。スターターが回る時間は特に短くないが、スターターノイズが耳障りではないので、気にならない。まあ、アウディには申し訳ないが、スターター音はA1の方がノイジーだ。

【スタート&ストップシステム】ここがバツ:坂道発進で落ちる。発進時にショックが出やすい

アイドリングストップに関しては、逆に気になるところも少なくない。まず、このフィアット500、ESP付でヒルホールドシステムは標準装備なのに、アイドリングストップからの始動時にはヒルホールドが働かない。つまり坂道での再発進だと、ブレーキを離してからエンジンが掛かるまでの間に、必ず後ろに下がってしまう。

これに対処するには、サイドブレーキを使って発進すればいい。実のところ車内には、その旨を記したコーションラベルも付いていた。また裏技?としてはシフトレバーを操作するか、スタート&ストップシステムを切って、エンジンを始動してしまうという手もある。こうすればヒルホルダーが普通に働くはずだが、実はこのヒルホルダー、ある程度の斜度がないと作動しないのが困ったところ。やはりサイドブレーキが一番無難な方法か。

また発進時には、デュアロジック(セミAT)の構造上か、ツインエアのエンジン特性か、クラッチがつながった瞬間にドン!とショックが出ることがある。また前述の通り、止まるや否やエンジンが停止するため、一旦停止でも止まりそうになるのは困りもの。この二つは、ちょっと気を使う部分だ。もちろん、どうしても気になるなら、アイドリングストップをオフにしてしまえばいい。

【ECOスイッチ使用時】極端に低回転化&パワーダウン


ツインエアのみに装備される「ECOスイッチ」。1.2 8Vの「エコノミースイッチ」が変速制御だけ行うのに対して、こちらはエンジンのパワー抑制まで行う

力強い走りで乗り手をすっかり魅了するツインエアだが、例のECOスイッチをオンにすると、走りは低燃費モードに激変する。さっきまで2速、3速でガンガン5000rpmくらいまで引っ張っていたデュアロジックは、2500回転以下をキープするようになり、パワーもいきなり弱々しくなる。

諸元を見ると、ECOスイッチ使用時の最高出力は通常時より1割減の77ps、最大トルクに至っては何と3割減の10.2kgmにまで落ちる。このあたりは、過給圧次第でパワーを自在にコントロールできるターボならでは、というところか。

 

「ECOスイッチオンでは、メーター内に小さく「E」と表示される。非常に分かりにくいが、走ればその違いはすぐに分かる

それにしても、デュアロジックの変速制御は極端。あまりに低回転を維持しようとするため、赤信号で止まる直前、交差点での左折、コンビニの駐車場に侵入する時には、クルマがガクガクと揺れるほど。思わずMT車のように、左足でクラッチを切りたくなる。驚いたのは、5速トップで40km/hまで車速が落ちたときも、約1050回転でガクガク言いながら走り続けるところ。そんな時でも瞬間燃費計は20km/Lオーバーをキープしていたので「狙い」通りなのだろうが、クルマに詳しくない人は少し不安になるかもしれない。

 

フィアット車でおなじみのデュアロジック。左に倒す度に、オートとマニュアルで交互に切り替わる。ツインエアでは、「エコノミーモード」のボタンが省かれている

それにしても、ECOスイッチ使用時に常用される1500回転~2500回転のうち、特定のポイントで出る振動は大きめ。2気筒らしい「鼓動感」だとポジティブに捉えることも可能だが、4気筒以上の滑らかさを求めると厳しいものがある。ただこれもツインエアの問題というより、ECOスイッチ使用時の変速プログラムに原因がある、というのがフェアなところか。エンジンマウントにも改良の余地があるかもしれない。

試乗燃費は11.5~19.7km/L。乗り方やECOスイッチのオン・オフに左右される

今回はトータルで約300kmを試乗。あくまで参考ながら、試乗燃費はいつもの一般道と高速道路をほぼノーマルモードで走った区間(約90km)で11.5km/Lだった。

また一般道をECOスイッチオン、エアコンオフで走った区間(約45km)が12.5km/L。同じくECOスイッチオン、エアコンオフで、燃費を意識して走った区間(約45km)が15.5km/Lだった。

さらにダメ押しで、ECOスイッチオン、エアコンオフで、深夜の一般道を燃費最優先で走った区間(約30km)では19.7km/Lとなった。ただ前述の通り、このECOスイッチ任せの走り方はちょっとマニアックだ。

 

フューエルキャップは相変わらず鍵式。初めてだと、ちょっとまごつく

10・15モード燃費は21.2~21.8km/L。実はこのフィアット500、従来の1.2 8V(同17.2~19.2km/L)や1.4 16V(13.8km/L)でも、実燃費がいいことでは定評がある。そのため、ツインエアの実燃費にも期待したのだが、結果から言うと、従来の4気筒に間違いなく優るとは言い切れない、という印象になった。少なくとも、燃費を伸ばすのに少々マニアックなコツや我慢を要するのは確かだ。

なお、指定燃料はプレミアムガソリンで、燃料タンク容量は従来通り35リッター。米国仕様では40リッターに拡大されたようで、日本の500乗りにはちょっと羨ましいところ。

ここがイイ

トルクフルな加速感。意外と真面目。タイミングチェーンの採用

2気筒らしいトルクフルで、息の長い加速感。いちおう低燃費が売りのエコモデルのはずだが、日本車の低燃費系にはない「ガソリンが燃えてる感じ」、「ピストンが上下にドコドコ動く感じ」があって嬉しい。

いうまでもなくデザイン。特にツインエア用に設定された水色のボディカラーは素敵。また振動のない回転域では、意外に快適だし、「耳障り」という意味でのノイジーではない。クルマとしては、根が非常に真面目。大衆車っぽさを残しているという意味では、MINIより真面目だと思う。

フィアットのプレスリリースを引用すれば、「エンジンのランニングコストを大幅に削減したメンテナンス不要のタイミングチェーン」の採用。これでもうタイミングベルトを数万kmごとに換える必要はない。

ここがダメ

ECOスイッチ使用時のデュアロジック。アイドリングストップの熟成不足。MT仕様がない

ツインエアに限って言えば、デュアロジックの制御や振動対策が不十分。2気筒はどうしても低回転で振動が出やすいが、ツインエアのデュアロジック、特にECOスイッチ使用時のそれは、そのあたりの配慮に欠けている。ただ、ことプログラムに関しては、最近は購入後の車両でも無償でどんどんアップデートされるので、ツインエアの場合も改善される可能性はある。

本文で触れたように、いい部分もあるが、欠点もいくつかあるスタート&ストップシステム。こちらも、もう少し制御を見直したいところ。

同じく本文で触れたように、ノーマルモード(ECOスイッチオフ)で走ると、燃費が伸び悩むこと。特に過給圧を掛けた気持ちいい走りを楽しむと、燃費は11~12km/L台に落ち込みやすい。そのあたりは割と簡単に低燃費で走れてしまう自然吸気エンジンとずいぶん異なる。

今のところMT仕様がないこと。燃費はデュアロジックのECOスイッチ使用時の方がいいはずだが、ツインエアの“エンスー”な魅力を堪能できるのは間違いなくMT。出来ればMTに乗ってみたい。

水色(ブルーヴォラーレ)は1.2 8Vでは選べないし、500Cでも選べない。しかし水色が欲しいばかりにツインエアを選ぶ、というのも、フィアットとしても本意ではないはず。いい色なので、どのモデルでも選べる方がいいと思う。

総合評価

エンジンと人の関係が濃密だった時代

若い頃は単気筒のバイク、いわゆるシングルが好きだった。昔、乗ってたのはヤマハのSR400。なぜ単気筒が良かったかというと、それは「振動」だろう。いや振動というより、エンジンの「鼓動」だ。シングルはそれがたまらなかった。

昔はエンジンが不調になると、「エンジンが死にそう」とか、「良かった、まだ生きてる」とか言ったもの。特にシングルエンジンは、まるで生き物のようだった。どこまでも滑らかなモーターのような回転とは対極にあるピストンの上下動こそ、エンジンが生き物のようである証。そしてエンジンが生きていれば、人も生きていられた。バイクやクルマと人が濃密な関係を持っていたそんな時代に、エンジンとより親密になれると思ったのは、マルチよりシングルだった。

 

ホンダ N360 (1967-1971年)。強制空冷の直列2気筒を搭載
(photo:Honda)

あるいはツインだ。直列(並列)ならカワサキのW1、ヤマハXS、そして水平対向のBMW、V型のハーレー、L型のドゥカティ。2気筒のエンジンが載ったこれらのバイクは、どれも鼓動を楽しむ乗り物だ。ドカドカうるさいロックンロールバンドとドコドコうるさいハーレーのヘルズエンジェル。このマッチングが象徴するように、クルマが、バイクが、そしてロックがローテクであった時代に、音と振動は人の心を揺さぶるものだった。

クルマだって当時の若者が買えた軽自動車はツインだった。スバルもホンダのNコロ(N360)も。スバル360やR2は2サイクルだったから、振動はちょっと少なめだったが、Nコロや初代ライフといったホンダの軽は4サイクルゆえ独自の振動や音があったもの。Nコロは明らかにMINIのパクリだったが、2気筒エンジンなので、走りのテイストはまるで異なった。MINIよりさらにプリミティブ。スバルの軽もやがて排ガス対策で4サイクルとなったが、左右気筒同時点火によりデスビが要らなくなったので、メンテがとても楽になった、などというのは、今やジジイの昔話かw。

イタリア人らしい洒落っ気が作り出した

そんなわけでフィアット500 ツインエアに乗ると、すっかり昔の気分になれる。ドコドコした鼓動はオジさんにはたまらないだろう。いや、今でもSRやハーレーが老若男女に大人気であるように、若い人だって好きになるはず。最近のクルマにはない「生きているクルマ」感がたまらない。

エンジン設計においては本文で書いたとおり、様々なメリットを考えての新型ツインエンジンなのだろう。けれど実際には往年のフィアット500を、スタイルだけでなくエンジンまでも蘇らせてやろうという、イタリア人らしい洒落っ気が作り出したものだと思う。日本でもいずれ2気筒の軽が登場するはずだが、それはあくまで燃費や効率といった機能性の追求によるものだろう。昔のプロダクトを洒落で蘇らせるなどということは「真面目」な日本のメーカーにはとてもできそうにない。

そんなクルマゆえ、乗るなら昔同様のマニュアルミッションに限ると思う。ツインエンジンの低回転域(振動とトルク感)を堪能するためには、デュアロジックの2ペダルロボットシフトに操作を任す手はない。日本で販売するには2ペダル仕様が必需品だが、MT仕様が設定されていないのはどうにも残念。セミATではなく、いっそDCTにでもしてしまえば、かなり違った味も出てくるはずだが、基本的にはMTを想定して作られたエンジンだと思う。早く日本にもMTを導入して欲しいものだ。

 

現行のデュアロジック車に乗るのであれば、これでもう十分にエコなクルマなのだから、アイドリングストップスイッチは潔くオフにしよう。自分で運転をコントロールできるMTであれば悪くない機能だが、現状ではあまりメリットを感じない。これから夏になれば、エアコンを効かせるためにもアイドリングストップはあまりしなくなるだろうし。しかしまあ、昔はエンジンが止まったら、次にかかるかどうか冷や汗モノだった場合もあったから、贅沢な時代になったものだ。

それでもこのエンジン、小型、軽量といった特徴を活かすことで、もっと面白いクルマを作れる可能性を秘めていると思う。エンジンの横にモーターを置いて、ターボの代わりとした小型ハイブリッド車などどうだろう。パタパタ振動するハイブリッド車だ。そんなエンジンの楽しさを残したハイブリッド車が作れるかも、と考えると、今回フィアットが開発したプロダクトは単なる洒落だけでないとも思える。

電気モーターへの逆襲

とまあ、クルマとしての面白さを絶賛してみたものの、趣味のクルマとして楽しむのではない限り、この振動、この走りは、もはやオジさん(あるいはオバさん)が欲しいものとは言えない。オジさんは多気筒エンジンを載せた高級車の快適さを覚えてしまったし、強力な低速トルクを持つ電動モーターの味もハイブリッド車やEVで知ってしまった。「今後はこれ一台で」というクルマとして選ぶのには、いささかためらいがある。日々乗るクルマなら、もっと楽に乗れるクルマがいい。そういうクルマが今はいくらでもあるのだし、プラグインハイブリッドなどといった、もっと進化したクルマにも乗ってみたい。今さら昔風味のガソリン車なんて、というのも一方で事実。セカンドカーなら是非欲しいが。

ということで、つい欲しくなるオジさんより、若い人にこそ、このクルマに乗って欲しいものだ。強力な低速トルクと心を揺さぶるその味わいは、同じように低速トルクを売り物にしている電気モーターへの、エンジンの逆襲だ。そして、クルマは生き物、生きているクルマと対話しながら走るという感覚を、このクルマなら味わえる。クルマはまだまだ面白い、いや特に輸入車は面白いということを、比較的手頃な値段で楽しめるだろう。全く壊れない白物家電的な日本車より、実際、壊れそうだし、手はかかるかも。それを含めて、喜怒哀楽なカーライフが楽しめる痛車、いやイタ車だ。

試乗車スペック
フィアット 500 ツインエア ラウンジ
(0.875リッター直2ターボ・5速セミAT・245万円)

●初年度登録:2011年4月●形式:ABA-31209
●全長3545mm×全幅1625mm×全高1515mm
●ホイールベース:2300mm ●最小回転半径:4.7m
●車重(車検証記載値):1040kg(680+360) ●乗車定員:4名

●エンジン型式:312A2
●排気量・エンジン種類:875cc・直列2気筒SOHC ※・4バルブ・ターボ・横置 ※排気バブルはカム駆動、吸気バルブは油圧駆動
●ボア×ストローク:80.5×86.0mm ●圧縮比:10.0
●最高出力:85ps(63kW)/5500rpm  ※エコスイッチ使用時:77ps(57kW)/5500rpm
●最大トルク:14.8kgm (145Nm)/1900rpm  ※ECOスイッチ使用時:10.2kgm (100Nm)/2000rpm
●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/35L
●10・15モード燃費:21.2km/L ●JC08モード燃費:-km/L

●駆動方式:前輪駆動(FF)
●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット+コイル/後 トーションビーム+コイル
●タイヤ:185/55R15 (Good Year Efficient Grip)
●試乗車価格:250万円 ※オプション:スペシャルソリッドカラー 5万円
●ボディカラー:ブルー ヴォラーレ
●試乗距離:約300km ●試乗日:2011年5月
●車両協力:アルファロメオ フィアット守山(株式会社ホワイトハウス)

 
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