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BMW 745i新車試乗記(第218回)

BMW 745i

 

2002年04月26日

 
 
 

キャラクター&開発コンセプト

近年まれにみる問題作。革新的なインターフェイスとデザイン

BMWセダンのトップレンジがこの7シリーズ。1994年にデビューした先代7シリーズ「E38」の跡を継ぐのが今回登場した「E65」である(745Liのみ「E66」と呼ばれる)。

2001年9月のフランクフルトショーで登場した新型7シリーズ「E65」は、その斬新なエクステリア・デザインが論議を呼んだ。物議を醸したのはデザインだけではなく、ドイツでは発売当初の不振の原因が「iDrive」と呼ばれる新しい操作系インターフェースにあるとして責任問題にまで発展したという。予定では今後すべてのBMWモデルに適用されるはずの「iDrive」だが、成功するか否かはこの7シリーズにかかっている。BMWの答えは、間もなく登場する新型5シリーズで明らかになるだろう。

ハイテクのオンパレード。とてもじゃないが書ききれない

新型7シリーズの技術的トピックを書き上げればキリがない。これは新型7シリーズについて書く時の決まり文句かも。バルブトロニック(スロットルバタフライの役目を吸気バルブが行う)の新型V8、計10個ものエアバッグに代表される安全装備、操縦安定性を確保するための各種電子制御ディバイス、アルミを多用した軽量化、などなど。

しかしこういったことは実際のところ、どういうものか分からなくても何ら困らない。運転者が気付かないうちに、いろいろ手助けしてくれる黒子のような存在だ。問題は「iDrive」。これだけは、少なくとも使い方を学ぶ必要がある。

価格帯&グレード展開

830~1080万円の3グレード。全車V8、6AT装備

とりあえず日本に導入される新型7シリーズは、3.6リッターV8エンジンの「735i」(830万円)と、4.4リッターV8の「745i」(990万円)、そして「745i」のロングホイールベース版「745Li」(1080万円)の3本立て。全車6速ATを装備。ハンドルは左右ある。

また6.0リットルV12エンジンを持つ「760i」もしくは「760iL」のデビューは今年夏、もしくは秋以降と噂される。

パッケージング&スタイル

先代Sクラスの再来? 一回り大きくなった新型

ボディサイズは全長×全幅×全高:5029×1902×1492mm、ホイールベースは2990mm。745Liはホイールベースおよび全長がさらに140mm延長される。

先代と較べると、全長がプラス44mm、全幅プラス42mm、全高プラス57mmと一回り大きくなった。特に幅が広くなり、さらに背が高くなったのが特徴。メルセデスのSクラスが先代から現行型でダウンサイジングしたのと違い、BMWはサイズアップしてきたのが面白い。

逆に言えば、新型7シリーズのサイズはちょうどメルセデス・ベンツの先代Sクラスに近い。見た目の印象もそれに近いものがある。均整の取れたプロポーションなので写真では分かりにくいが、実物を目にした人がまず最初に口にするのは「でかい!」の一言である。

奇抜なディテールのエクステリア

フランクフルトで登場した新型7シリーズは、まずその奇怪なデザインで物議をかもした。BMWのセダンと言えば、端正でスポーティなエクステリアが定番だが、あるデザイナーは「ラインが無茶苦茶で、とくにリアはまるでトランクリッドが空いたままみたい」と言ったとか。ただし先代は実に7年間もモデルチェンジなく販売されたわけで、先のことを考えるとモデル末期に「古くさい」と言われないためには、「攻めのデザイン」が必要だ。

また、奇抜なのはフロントのヘッドライト周り、特に眉のようなデザインのターンライトとリアのトランクリッド周辺のみで、全体のシルエットやボディサイドのキャラクターライン、サイドウインドウの切り方などは、伝統のBMWルックそのものである。

細かい部分ではあるが、キーレスを作動させると各ドアノブの裏側に仕込まれたライトが光ったり(これは初めてみる照明)、リアドアを開けると足元を照明が照らすなど、エンターテイメント性のあるライティングにはちょっと感激。

先進的なデザインだが高級感は今一歩のインテリア

インテリアはBMW言うところの「ホリゾンタル・ライン」と言われる水平基調&左右対称デザインを持つダッシュボードが特徴。水平方向に伸びる幅広の木目パネルにはそれなりに重厚感がある。そこに仕込まれたアルミ風の吹き出し口も緻密な造りだ。ただし1000万円もする高級車の内装として考えると、今ひとつ圧倒的な高級感や華やかさ、贅沢感に欠ける。この辺りは、トヨタの高級車(セルシオやソアラ)のインテリアの方が、贅沢で精密に見えるのだが…。

センターコンソール上の「iDriveコントローラー」は完成度が高いとは…

今回の7シリーズでBMWが最も力を入れたとも考えられるのが「iDrive」。そのうち、コンフォート機能を司るのが、センターコンソール上に設置されるiDriveコントローラーだ。ナビゲーションやエアコン&オーディオの微調整などを行う。つまり使い方を知らなくても、基本的にはそれほど困らない。多分、困るのはラジオの選局ができないとか、ナビの表示を変えられないとかいったことぐらい。エアコンに関しては、通常のスイッチで基本的操作が行える。

結論を言えば、この銀色に光る未来的な「マウス」の操作感はお世辞にも良いとは言えない。基本的な操作は「回す」「スライドさせる」「(下に)押す」というものだが、この「スライドさせる」と「押す」という操作がグニャリとした感触でやりにくい。操作する喜びがないのだ。またダッシュボードの一番の上席に置かれたにも関わらず、液晶モニターの表示がやや不鮮明で見にくいことも足を引っ張っている。

試乗時間も限られることから、iDriveコントローラーに関しては操作方法を完全に理解するところまでいかなかった。基本的な操作はなんとかできるようになったが、マスターするには携帯電話の使い方を学ぶ程度の努力と時間は確実に必要なようだ。

基本性能&ドライブフィール

マニュアルが無ければ動かせない。しかしすぐに慣れる

さて次はドライビング系の「iDrive」だ。これの一番面白いところは、クルマの普遍的(と思われていた今までの)操作法を変えてしまったことだ。

まずエンジン始動だが、ブロック型のキー(リモコン兼用)をステアリング左のスロットに差し込み、ブレーキを踏んで、その横のスターターボタンを押す。ダッシュ右端のボタンを押せば、パーキングブレーキは解除できる。

シフトセレクターは「コラムシフター」と呼ばれるステアリング右側の(ウインカーのような)小さなレバー。先端のボタンを押すことでパーキングからニュートラルへ。さらにレバーを引きながら下げるとドライブ。引き上げるとリバース。ポジションはR-N-D-Pの4つのみ。ストロークは短く、力は全く必要ない。これでアクセルを踏めば普通のAT車同様、走り出す。

面白いのは、「オートパーキングブレーキ」なる機構。これはあらかじめ設定しておいた上でステアリング上のボタンでONの状態にすると、停車するたびに自動的にブレーキをかけてくれるというもの。停車中クリープを止めるためにブレーキペダルを踏み続ける必要がなく、坂道で下がることもない。

要するに、この新型7シリーズは何もかもが電気仕掛け、フライ・バイ・ワイヤーなのだ。ちなみにウインカーレバーも電気式で、初めはちょっと違和感がある。

説明すると複雑だが、このドライビング系「iDrive」は、慣れるとなかなか便利なシステムだ。オートパーキングブレーキはさておき、シフトやパーキングレバーがスイッチ一つで出来るのは大変スマート。しかも機械的なショックが一切ない。一度覚えれば短時間で慣れることが出来た。ただし、全く初めて乗る場合は予備知識なしではまず動かせないだろう。始動すらムリかもしれない。

問題は操作する前や、操作した後に「ホントにこれで良かったっけ」と頭の中で再確認が必要だったこと。そしてシフトセレクターがステアリングの影になって見にくいことなど。

スムーズで素速い加速。迫力にはやや欠ける

試乗車は4398ccのV8エンジンを載んだ745i。

車重1945kgとドライバーとガソリン込みで軽く2トンを越すクルマながら、動き出しに重さはほとんど感じ
られない。エンジンがエンジンだけにそれも当然か。0-100km/hは「745i」で6.3秒だ。

この新型4.4リッターV8ユニットは、インテイクマニフォールドの可変制御、「ダブルVANOS」&「バルブトロニック」によって、「燃費を約14%削減」&「最高出力を約14%向上」(333ps/6100rpm、45.9kgm/3600rpm)させたという。

というメカニカルなことは、アクセルをひと踏みすれば忘れてしまう。ただし思わず声を漏らしてしまうような圧倒的加速感はない。トルク感より、軽い吹け上がりが印象的なエンジンだ。

ところで新型7シリーズを運転して最初に圧倒されるのは、動力性能でもなく、スポーティなハンドリングでもなく、あるいは静粛性でも、乗り心地の良さでもない(後になれば全てたいへん素晴らしいことに気付くのだが)。それはボディの大きさ。正確に言えば横幅だ。1902mmの全幅は先代比プラス42mm、メルセデスの現行Sクラスのプラス47mm。一応、ボディの見切りが意外に良いこと、ステアリングがよく切れることもあって、実際にはそれほど困らない。しかしいつもの見慣れた裏通りが一回り以上狭く見え、「プレステージカーに乗るのもけっこうたいへんだなぁ」と認識を新たにした。

世界初の6AT。ただしマニュアルモードには問題あり

オートマチックは世界初の6段AT(ZF製 6HP26型)。通常のドライブモードの他、スポーツモードとマニュアルモードが選べる。スポーツモードは感覚的には1段低いギアを選ぶ感じで、なおかつアクセルを戻してもシフトアップせずにエンジンブレーキが効く。ただしゆったり走りたい時は、少しギクシャクする。

問題はBMWが「ステップトロニック」と呼ぶマニュアルモード。ステアリングの左右斜め上に付いたボタンがシフトダウンであるのはすぐに分かる。しかしステアリング裏側のシフトアップ用ボタンはマニュアルを見ない限り分かりにくい。表でダウン、裏でアップというのはトヨタと同じだが、大柄なドイツ人がテストパターンなのか、小さめの手には位置がイマイチ良いとはいえなかった。

こうなると「ステップトロニック」をうまく活かす方法はただ一つ。それは「シフトダウンのみ使う」というもの。この7シリーズのマニュアルモードはレブリミット手前で自動的にシフトアップする。だからシフトアップはクルマに任せて、人間はダウンに専念するのだ。

しかしこのクルマはそうやってシャカリキになって走らせるクルマではない。また、いろいろ試してみたが、結局のところよほど走るところを選ばない限り、スポーツモードがベストだろう。速く、スムーズで、気楽で、安全である。一度シフトアップすると、マニュアルモードは停止しても3速までしか落ちない(つまりうっかりしていると3速発進になる)のも煩わしい。一般道ではマニュアルモードのことは忘れることにした。

ハンドリングは申し分ないが、やはり幅が気になる

ラグジュアリーセダンとは言え、BMWのバッジを付けるからにはフットワークにも期待がかかる。結論から言えば、745iの走りは期待以上にスポーティ。ロールはほとんど感じないほど小さく、ステアリングの反応も速い。同じBMWによる新型MINIの宣伝文句「カート・フィーリング」という言葉さえ頭をよぎった。とは言え、車両重量2トン、990万円(オプション込みで1030万円)のクルマであることを思い出し、すぐにペースを落とした。

それはさておき、ペースを上げられない最大の理由はここでも横幅。車幅感覚はつかみ易いが、日本の狭いワインディングでこのクルマを振り回すのは「幅的に」かなりの技量が必要だろう。

ちなみに試乗した745iには電子制御の可変ダンパーやスタビリティ・コントロールなど今や当たり前の装備に加え、「ダイナミック・ドライブ」がオプション装備されていた。これはスタビライザーに油圧アクチュエイターを組み込んで、スタビライザーの固さを変えるという新機構。これはコーナリング時の安定性を高めるためのものだが、通常の走りにおいては貢献度は残念ながら不明。

飛ばせば飛ばすほど良い乗り心地

高速巡航こそこのクルマの生きる道である。6速トップ、100km/h走行時のエンジン回転数はわずか1700rpm。「CVT並みのワイドレシオを実現した」という6速ATのなせる技。低速では今一つと思われた乗り心地も、ハイスピード域では申し分ない。もちろん踏み込めば、すぐさま2段落とし、3段落としでワープできる。静粛性も最高で、打倒セルシオというキーワードがあったことは想像に難くない。

最後に燃費だが、参考ながら160km走って約40リッターを消費、4km/リッターとなった。自分のクルマにするには恐ろしい数字だが、2トンのクルマを数限りなく全開加速させた上での最悪の数字がこれなら、まあ悪くないと言えるのではないだろうか。

ここがイイ

シフトレバー、ウインカーレバー、パーキングブレーキといった20世紀的アナログ操作系をデジタル(というかスイッチ)に置き換えるという冒険を、あえておかしたBMWのがんばりに拍手。新たな操作系の出現はシトロエンDS以来40数年ぶりなのでは?。考えてみれば、他のクルマでも多くはすでにフライ・バイ・ワイヤーで、伝統的な操作系を残しているのは、単にユーザーに違和感を与えないため(販売対策)、といってもいい。だれかが新しいことを提案しない限り、この部分は変わらないわけで、新型7シリーズは例えは悪いが初めてナマコを食べた人のように、偉大な先人として自動車の歴史にその名を刻まれるはずだ。

ここがダメ

とはいえ、さすがに誰もがすぐ使えるという類のものではなく、まだまだ改良が必要に思えた。盗難に遭いにくいという思わぬ副作用はありそうだが。操作系はまだしも、カーナビ系は使いやすさを研究しまくっている日本の製品に比べ、直感的に使えないという意味で、たいへんイライラがつのった。トヨタが使う(デンソー製の)タッチパネル式、そして日本のメーカーが得意とするリモコンの使い勝手の良さを知っているだけに、厳しい見方をせざるを得ない。

総合評価

自動車としてのハードウェアはたいへん素晴らしいものだった。乗り心地はあくまでゆったり、それでいてとばしてもついてくる足回りのよさ、6速ATの滑らかさ、十二分なパワー、高い静粛性、リッチなシート、電動で開閉するトランクなど、フラッグシップらしいスキの無さはさすがだ。その風格ある走りはメルセデスSクラスより、より高級感に満ちている。おそらくこれで通常の操作系を持っていれば、フラッグシップカーとして、無難に世界最高峰と評価されたはず。聞けば本国では訴訟騒ぎすら起きたというiDriveが、このクルマを単なるフラッグシップ以上の存在に押し上げて(あるいは押し下げて)いる。

モーターデイズとしては、こうした冒険を高く評価したい。意図的に一切のマニュアルを読まずに試乗したにもかかわらず、最初のとまどいを過ぎれば、操作系は逆に使いやすく感じられたし、ボタン式のパーキングブレーキなど、こちらの方が当たり前で使いやすいと思える。またオートパーキング機構も素晴らしい。冒険者は孤独だが、BMWにはぜひこの方式を下のクラスにまで広げて欲しいものだ。いいかげん、20世紀的なクルマ作りには別れを告げないと、クルマそのものが「つまらないもの」になってしまう。今後登場する燃料電池車がシフトレバーを持っているなんて、かなり滑稽なことではないか。

●車両協力:Nagoya-Minami BMW

BMW公式サイトhttp://www.bmw.co.jp/

 
 
 
 
 

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