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トヨタ 86 GT リミテッド新車試乗記(第662回)

Toyota 86 GT Limited

(2.0リッター水平対向4気筒・6AT・FR・305万円)

四半世紀ぶりに蘇ったハチロクは
スポーツカーに春を告げるか?

2012年06月15日

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キャラクター&開発コンセプト

スバルと共同開発したFRスポーツ


トヨタ FT-HS (東京モーターショー 2007)

トヨタの「86(ハチロク)」は、トヨタと富士重工業(以下スバル)が共同開発した小型FRスポーツモデル。企画・デザインは主にトヨタが行い、生産はスバルが担当。デザイン等が若干異なるスバル版は「BRZ」として発売されている。

トヨタブランドでは久々の本格スポーツモデルであり、後輪駆動車としてはミッドシップ・オープンスポーツのMR-S(1999-2007年)以来、約4年ぶり。FRスポーツモデルとしてはスープラ(2002年で販売終了)以来、約10年ぶり。また車名の由来であるAE86型カローラ・レビン/スプリンター・トレノ(1983-1987年)から数えれば、25年ぶりの「復活」になる。

 

トヨタ FT-86 コンセプト(東京モーターショー 2009)

またトヨタでは86のルーツとして、トヨタ 2000GT(1967-70年)のほか、86と同じ水平対向エンジン(ただし790ccの空冷・2気筒)を積んだ軽量FRスポーツのトヨタ スポーツ 800(1965-69年)も挙げている。

86の原型は2007年に発表されたハイブリッドスポーツのコンセプトカー「トヨタ FT-HS」。2008年にはトヨタとスバルが共同開発を発表し、2009年の東京モーターショーでコンセプトカー「FT-86」がデビュー。その後も世界各地のモーターショーで発展型が発表され、2011年の東京モーターショーで市販バージョンが登場。翌年の2012年2月2日に正式発表された。発売は4月6日から。

水平対向4気筒+「D-4S」を搭載


トヨタ 86 コンセプト(東京モーターショー 2011)

86/BRZは、新開発の2リッター水平対向4気筒・自然吸気エンジン「FA20型」をフロント・ミッドシップに搭載。エンジンは新型インプレッサ用の「FB20型」がベースだが、ボア×ストロークが異なるほか、燃料噴射システムに直噴(シリンダー内直接噴射)とポート噴射を併用するトヨタの「D-4S」が採用されている。なお水平対向4気筒エンジンはスバル以外にも、VW(ビートルなど)、ポルシェ(356など)、アルファロメオ(スッドなど)、シトロエン(GSなど)などで採用されているが、FRモデルでは極めて珍しい。

販売はトヨタ全店。うち283店舗に「AREA 86」を設置

 

スバル BRZ(東京モーターショー 2011)

生産は富士重工業の群馬製作所・本工場(群馬県太田市)。国内の販売目標は月間1000台だが、受注は発売後1ヶ月で7000台を突破。トヨタの発表によると、6月1日時点での納期は、人気グレードの「GT」の場合で11月以降とのこと(約6ヶ月待ち)。

国内の販売チャンネルはトヨタブランド全店(トヨタ店、トヨペット店、トヨタカローラ店、ネッツ店)。うち283店舗に「スポーツカー好きが集う大人のたまり場」をコンセプトに、専門スタッフと86の試乗車・展示車を配置する「AREA 86」を設置。また2013年には86ワンメイクレースの開催も目指している。すでにアフターパーツ業界は、ちょっとした「86バブル」に湧いている。

 
86_01pr_ae86_200.jpg
AE86型カローラ・レビン(写真)/スプリンター・トレノ。もともと1600ccクラスのスポーツモデルとして人気があったが、しげの秀一のマンガ「頭文字(イニシャル)D」(1995年~連載中)でブレーク

なお、海外での販売も順次スタートしているが、車名は地域によって異なり、北米では「サイオン FR-S」、欧州では「トヨタ GT86」、アジア・オセアニアでは日本と同じ「トヨタ 86」になる。

■外部リンク
・トヨタ自動車>ニュースリリース>TOYOTA、86(ハチロク)を発売(2012年2月2日)
・トヨタ自動車>ニュースリリース>86 納期目処についてのご案内

価格帯&グレード展開

販売主力は279万円~。競技ベース車も用意


ボディカラーは計7色。写真はサテンホワイトパール(3万1500円高)

グレードは計4種類で、一番安いのが競技用ベース車両の「RC」(6MTのみで199万円)。次が標準グレードの「G」(6MT:241万円、6AT:248万円)、そして上級グレードの「GT」(6MT:279万円、6AT:287万円)。最上級グレードは「GT APEX」ならぬ「GT リミテッド」(6MT:297万円、6AT:305万円)になる。

「RC」は、いわゆる廉価版ではなく、バンパー無塗装、エアコンレス(ヒーターのみ)で、オーディオ配線や遮音材も省かれた競技用ベース車。「G」は16インチアルミ&タイヤを履き、エアコンはマニュアル式、ステアリング等はウレタン、トルセンLSDはオプション(3万1500円 ※MT車のみ)になり、AT車ではパドルシフトが付かないなど、装備が細々削られる。実際の初期受注は、装備が揃う「GT」以上に集中している。

 

競技車両のベース車として用意されるRC
(photo:トヨタ自動車)

最上級グレードの「GT リミテッド」は、本革とアルカンターラ(東レの人工スエード)のコンビシート、シートヒーター、リアスポイラー、スポーツブレーキパッドを標準装備する。

■RC        199万円(6MT)
 ※競技用ベース車。前後バンパー無塗装、エアコンレス、16インチスチールホイール
■G         241万円(6MT)/248万円(6AT)
 ※マニュアルエアコン、16インチアルミホイールを標準装備
■GT        279万円(6MT)/287万円(6AT)
 ※ディスチャージヘッドランプ、トルセンLSD、17インチアルミ、本革巻ステアリング等を標準装備
■GT “Limited”
  297万円(6MT)/305万円(6AT) ※今回の試乗車

 ※本革×アルカンターラシート、シートヒーター、リアスポイラー等を標準装備

パッケージング&スタイル

ハチロクというより2000GT風


ボディサイズは全長4240mm×全幅1775mm×全高1300mm(全高はアンテナベースを含む数値で、実際のルーフ高は1285mm)

ボディサイズは現代の2+2・FRクーペとしてはかなりコンパクト。またボンネットもフロントエンジンとは思えないほど低い。これは搭載位置が低く、前後長が2気筒分で短い水平対向4気筒だから出来ること。86/BRZでは前輪用のデフがない分、既存のスバル車よりもエンジン搭載位置はさらに低くなっている。おかげで、これだけボンネットが低いにも関わらず、歩行者衝突時の安全基準も、ポップアップ式ボンネットといった特別な工夫なしにクリアしている。

 

中央が凹んだパゴタルーフは空気抵抗低減とルーフパネルの剛性アップが目的。写真はリアスポイラーを標準装備したGT リミテッド

スタイリングは決してロングノーズではないが、ボディ後半は名車トヨタ 2000GT風。特にリアクォーターガラス、Cピラー、リアフェンダーは、明らかに2000GTをモチーフにしている。この関連性は日本では積極的にアピールされていないが、欧州ではジュネーブショーで86と2000GTを並べて展示したり、車名を「GT86」にしたりと、多少2000GTのイメージが利用されている。

 

Cd値(空気抵抗係数)は、アンダーカバーをフルに装備した状態(GT リミテッド)で0.27

一方、車名の由来となった元祖86との共通点は見当たらず、ちょっと寂しいところ。白/黒とか、赤/黒の2トーンカラーでも用意すると、ハチロクっぽかったと思うが。

 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転半径(m)
マツダ ロードスター RHT(NC型) 4020 1720 1255 2330 4.7
ホンダ S2000 4135 1750 1285 2400 5.4
トヨタ 2000GT 4175 1600 1160 2330
トヨタ カローラレビン/
スプリンタートレノ(AE86)
4180 1625 1335 2400 4.7
トヨタ 86 4240 1775 1300 2570 5.4
日産 フェアレディZ(Z34型) 4250 1845 1315 2550 5.0
マツダ RX-8 4470 1770 1340 2700 5.3
 

インテリア&ラゲッジスペース

操作性にこだわったデザイン


前席は横方向に広く、助手席のドアがやや遠く感じられる

大きめのセンターコンソール、直立した水平基調のダッシュパネル、近めのフロントウインドウ、といった眺めはFRスポーツの典型。さらに運転席からフェンダーの峰がはっきり見えるところや回転計を中央に配したメーター、操作性へのこだわりなど、随所に走りオタク的な設計思想が見える。

ちなみにアナログ速度計は260km/hスケールだが、視認性はイマイチ。逆に回転計の中にあるデジタル速度計は見やすく、運転中はここしか見なくなる。実は開発途中まではデジタルだけの予定だったようだ。ただしこのデジタル速度計は「GT」以上にしか付かない。

小技としては、フレーム(枠)を廃して鏡の面積を増やした世界初の「フレームレスインナールームミラー」(ルームミラー)も注目のポイント。鏡の周囲はきれいに面取りされていて、横から見た時の透明感がいい。これも「GT」以上の装備。

ステアリングは真円の365mm径


ステアリングのリムも、操作性にこだわったフラットな形状。AT車のパドルはステアリングと一緒に回るタイプ

ステアリングはトヨタ最小の365mm径で、真円タイプ。最近はスポーツカーでもメーター視認性や乗降性などの兼ね合いで下側がフラットなタイプや偏心タイプが多いが、86では操作性が優先されている。

センターパッドはエアバッグを内蔵しながらコンパクトで、慣性モーメントを小さくするためにステアリングスイッチも一切排除。おかげで操舵感はMOMOなどの真円タイプに似ていて悪くない。またMONOでよく使われる350mmより、ちょっと大きめの365mmという径にも、こだわりが感じられる。

ホーンボタンのあるセンターパッドには「86」のロゴが入る。ただ、BRZでは六連星のバッジ、北米仕様のFR-Sでは「SCION」のバッジが入るので、日本仕様でも普通にトヨタバッジで良かったような気もする。

 

エンジン始動ボタンはトヨタでは異例のセンターコンソール下。サイドブレーキの位置は引きやすさ優先

ドリンクホルダーはシフト操作のジャマにならない位置。さらに前後にずらすことが出来る

「GT」以上はデジタル速度計、レブインジケーター、ホワイトメーターを装備
 

ヒップポイントは400mm。乗降性も悪くない


GT リミテッドはアルカンターラと本革のコンビ。写真は黒内装

シートはトヨタ紡織(株)製で、ヒップポイントは量産スポーツカーでは最も低いレベルの400mm。フロアが低いので、室内高も十分にある。またシートリフターの上下調整幅は40mmもあり、もちろんステアリングはテレスコとチルト付きなので、身長150センチ台から180センチ台まで、適切な乗車姿勢が取れる。ホールド性もなかなかいい。国産車のシート、特にこの価格帯のクルマでは出色の出来では。

また日常的にスポーツカーに乗る場合、億劫になるのが乗り降りだが、86の場合はサイドシル(敷居の部分)が低いので、足運びにも無理がない。乗降性もスポーツカーとしては最上レベルだと思う。

すべらないシート地で、走りを追求


こちらはGT リミテッドの赤内装
(photo:トヨタ自動車)

シート地は素材別に4種類。RCとGは全面スエード調トリコット。GTは赤いステッチ入りで全面スエード調トリコットか、センター部を通気性の高い織物にしたタイプの2種類。GT リミテッドは本革×アルカンターラになる。

いずれのシート生地にも共通するのは、トリコットやアルカンターラといった、体が滑りにくい素材を選んでいること。要するにここでもスポーツドライビングのことが考えられている。

後席は身長170センチまで想定


普段は手荷物スペースに最適。背もたれを倒した時にも収納スペースが残る

後席はいわゆる「+(プラス)2」だが、「乗員2名(身長170cm)が着座可能」と資料にある通り、割と実用的なもの。足の置き場は前席の人に少し遠慮してもらえば、とりあえずOK。座面が深くえぐられている分、ヘッドルームもそこそこある。

ただ、身長が170センチ以上だと、頭がリアウインドウに当たるため、首を少し斜めにする必要があり、長時間は苦しい。また昼間は当然ながら頭が直射日光に晒される。感覚的にはCR-Zより実用的で、今のポルシェ911(996~991型)と同程度といったところか。

なおエアバッグは前席フロント、前席サイド、前後席カーテンシールドの計6個を標準装備する。

定員4名よりタイヤ4本


その気になれば車中泊も可? 背もたれの肩口にあるロックを外すのが少し面倒

トランクは開口部こそ狭いものの、奥に深い構造。VDA方式の容量は公表されていないが、米国仕様のスペック表には「6.9cu.ft(立法フィート)」とあったので、これを換算すると195リッターになる。マツダ ロードスターの150リッターより広い。

 

ヒンジは荷室への侵入が少ないダブルリンク式

さらに背もたれを倒してトランクスルーにすれば、タイヤを4本積めるのが86/BRZの売り。これはサーキットへタイヤを積んで行くことを想定したもので、開発時には乗車定員4名よりタイヤ4本の方が課題だった、との話も。ゴルフバッグ(9インチ)なら2つ収納できるようだが、「ゴルフ場へ行く暇があったらサーキットへ行け」という荷室になっている。

 
日本仕様はスペアタイヤレスで、床下にはパンク修理キットや小物入れが備わる

なお、トランクリッドを開ける方法は、トヨタの上級セダンとおおむね同じ。「GT」以上のスマートキーの場合は、運転席のボタンを押す、スマートキーのボタンを押す、あるいはスマートキーを携帯してトランクリッドのボタンを押す、スマートキーに内蔵された金属キーで開ける、の4通り。「G」と「RC」のリモコンキー(非スマートキー)の場合は、運転席のボタンを押す、リモコンキーのボタンを押す、金属キーで直接開ける、の3通り。

基本性能&ドライブフィール

エンジンはスバルとトヨタのダブルネーム


新開発の「FA20型」エンジン。上にカバーや補器類がないため、エンジン全体がよく見える

試乗したのは「G リミテッド」(6AT)。ドアを開けるとサイドウインドウがサッと少し下がり、「スポーツカーへようこそ」という感じで出迎えてくれる。エンジン始動ボタンは、トヨタでは規格外のセンターコンソール下部にあり、それを押すとタコメーターの針が一瞬振り切れながら、馴染みのある「ザザザザ」というサウンドが聞こえてくる。スバルの水平対向エンジンだ、と思う瞬間。

ただし音量はインプレッサより少し大きめで、ブリッピングした時の反応もスポーツカーらしくてイキがいい。ドロドロした音はまったくなく、振動もほとんどない。

 

インテーク途中から伸びるダクトは「サウンド・クリエイター」へつながる。吸気音を特殊なダンパーで増幅してキャビンに伝達する

2リッター水平対向4気筒・自然吸気エンジン「FA20型」は、現行インプレッサで採用された新世代ユニット「FB20型」をベースとしたもの。ただし最高出力をベースエンジンの150psから200psに、つまりリッターあたり100psにするため、高回転型に設計変更。ボア×ストロークは元の84×90mmから、偶然なのか狙ったのか、「86」×「86」mmと完全スクエアになっている。ちなみにこのボア×ストローク値、セリカ GT-FOURにも積まれていた往年のスポーツエンジン「3S」系と同じ。

また燃料供給システムは、直噴(シリンダー内直接噴射)とポート噴射を併用するトヨタの「D-4S」を採用。だからエンジン上部のインテークカバーは、「SUBARU BOXER」と「TOYOTA D-4S」のダブルネームになっている。インジェクターはポート噴射用に4本、直噴用に4本の計8本備わる。

ちなみにちょっと脱線するが、この86×86mmの「FA20型」は、マイナーチェンジした現行レガシィの「2.0GT DIT」に直噴ターボ化されて搭載されている。こちらの最高出力は300ps、最大トルクは400Nm(40.8kgm)。

エンジンも、身のこなしも「軽い」

86を走らせた時の印象を、一言で言うなら「軽い」だろうか。単に軽量というのではなく、まずエンジンのふけ上がり方が「軽い」。そして身のこなしが「軽い」。これに比べるとマツダ ロードスターの2リッター直4エンジンは豪快、身のこなしはクイックかつ少々ピーキーといった感じか。86の水平対向エンジンは「コォーーン」とフラットに回るものの、パンチ自体が軽い。そして足はヒタヒタ、曲がる時はミッドシップのロータス エリーゼみたいにロール感がなく、スッとノーズが入る。ロードスターよりRX-8に近いと言った方がいいかも。

53:47という前後重量配分は2名乗車時のもので、空車時は57:43(車検証数値から換算)と意外にフロントが重い。ただし1Gでのフロント荷重が多少あった方がステアリングへの応答性は良くなる、というのが開発スタッフの説明。マスの集中や低重心化は夢のように理想的なので、後は好みや狙いに合わせて是々非々で、というところか。

 

前輪を回すためのデフが不要なので、エンジン搭載位置はかなり低い
(photo:トヨタ自動車)

重心高は460mmで、レクサス LFA(445mm)やフェラーリ 360(447mm)並みというのがトヨタの主張。これは確かにワインディングと言わず、ちょっとした交差点や車線変更でも感じ取れる。普通の直4ではドライサンプにでもしないと、この低重心「感」は出せそうにない。

パワーステアリングは電動だが、手応えは油圧パワステかと思うほど自然で、ちょっとヌメっとした重さがある。一方、駐車時の切り返しのような時には、いかにも電動的にクルクルと回る。最小回転半径は5.4メートル。FRの割に大きいのは、水平対向エンジンのせいで切れ角が少ないからだと思うが、困るほどではない。

VSCの設定は、ノーマル、スポーツ、完全オフの3段階


フロントブレーキは2ポッドの片押しだが、GT リミテッドにはトヨタとアドヴィックスが開発した高ミューパッドが付く。ブレーキダストは確かに多め。なお、下位グレードの16インチタイヤはヨコハマのdB(デシベル)

86で少し頑張って走ると、すぐに分かるのはVSCが早期に介入してくること。17インチ(215/45R17)の「ミシュラン プライマシーHP」はあっけなくスキール音を上げ、すかさずVSCが介入する。このタイヤはプリウスの上級グレード(ツーリングセレクション)が履く汎用エコタイヤそのもの。ただし4輪の接地感はすごく高い。

またノーズダイブ感がないのは、ひとえに低重心・フロントミッドシップ搭載の水平対向エンジンのおかげだと誰もが実感できるはず。一番分かりやすいのは高速走行時の車線変更。一般的なクルマではあり得ないような安定感でクルマが水平移動する。

「スポーツVSC」を選択すれば、VSCの介入は控えめになるが、8割くらいのペースでもコーナーではチカチカとVSCの作動警告灯が点滅する。さらにそのVSCを後ろ盾にして、FRらしい動きを感じながら、もう少し攻めてみる、ということも可能。こういうところが、元祖ハチロクというか、昔のFRと大きく違うところ。

 

左端がVSCオフスイッチ。長押ししないとVSCが復帰してしまう

とはいえサーキットを走る場合は、VSCオフがおすすめ。VSCオフボタンを押すと雪道などの低ミュー路用にトラクションコントロール(TRC)だけ切れるが、これだと50km/h以上で復帰してしまう。そうではなく、3秒以上長押しすると、ABSと電子制御LSD機能が残ったまま、TRCとVSCが完全オフになる。結果、後輪の動きをコントロールしながら走るということが、上手な人は上手なりに、下手な人は下手なりに楽しめる。とにかく前輪の接地感が強い一方、タイヤ自体のグリップは低いので、パワーオンによるリアの滑り出しはかなり早い。6AT車でも。

またVSC完全オフ時のエンジンは、TRCが入らずホイールスピンが増える分、パワフルに感じられる。全体にトルク感を得にくい特性なので、ここは嬉しいところ。GT以上に標準装備されるトルセンLSDもいい感じで効いてくれるので、サーキットでもスポーツ走行くらいなら機械式LSDじゃなく、このままでいいじゃん、と思える。

ちなみに、発売前に鈴鹿サーキットの東コースで行われたスバル BRZの試乗会では、ジムカーナやGT300で活躍する山野哲也選手が乗るBRZに同乗できた。6ATの完全ノーマル車両だったが、山野選手はシフト位置をD(ドライブ)にしたまま、TRC完全オフで、1コーナー、2コーナー、S字など全てのコーナーを完璧にスムーズなドリフトで回っていた。

6ATと6MTでギアリングが大きく異なる


6MTは輸出向けIS用の改良型で、アイシンAI製。1~3速にトリプルコーンシンクロを採用するなど、シフトフィーリングに関しては入念に詰めたとのこと
(photo:トヨタ自動車)

6ATはクラウンやマークX、レクサス ISに使われているアイシンAW製がベース。もちろん制御は86専用で、雑に踏み込むとガツンと来るほど味付けはスポーティ。特にスポーツモード選択時の変速は、DCTに引けをとらないかも、と思えるほど速い(0.2秒)。もちろんブリッパーも備えるため、シフトダウン時には「バヒュン」とブリッピングしてくれる。ロックアップを積極的に効かせた、ダイレクト感が気持ちいい。

とはいえ気になるのは中回転域で今ひとつトルク感がないこと。このエンジン、200ps/7000rpm、20.9kgm/6400-6600rpmという、今どき珍しいほどの高回転型だが、出力曲線を見ると3000~4500回転くらいでトルクの谷がある。6AT車の場合、1速でレブリミットの7500回転まで引っ張らないと、2速でこの回転域に落ちてしまい、いわゆるパワーバンドを外した状態に。そうなるとシフトダウンしようとしても、「ピー」という電子音で拒絶されてしまう。仕方なく回転上昇を待つのが少々じれったい。そのまま2速で7000回転超まで回すと100km/hを超える。

ちなみにギアリングは、ATとMTで大きく違い、6ATは6速トップが高めのハイギアード。MTはつながり重視のクロースレシオという感じ。各ミッションの変速比は以下のとおり。なお、最終減速比は6ATでも6MTでも共通の4.100(「G」と「RC」の6MT・オープンデフ車のみ3.727)。米国仕様(出力数値もギア比も日本仕様と同じ)の場合、0-62mph(100km/h)加速は、6MTが7.6秒、6ATが8.2秒とある。

 

■6AT:1速:3.538、2速:2.060、3速:1.404、4速:1.000、5速:0.713、6速:0.582
■6MT:1速:3.626、2速:2.188、3速:1.541、4速:1.213、5速:1.000、6速:0.767

高速走行は快適。かつエンジンを回しきる快感もあり

ワインディングが楽しい86だが、高速道路も悪くない。6AT車の場合、100km/h巡航は約1900rpmで、この時の室内は平穏そのもの。エンジン音はやや大きめだが、ロードノイズや風切り音はほとんど無視できるレベル。雨が降ってくると天井を雨粒がパラパラと叩く音が少々気になったが、総じて快適性は高い。

また、抜群の安定感と共に、FA20型エンジンを高回転まで回して乗るのは、6ATでもかなりの快感。豪快なパワー感や加速感はないが、レッドゾーンが始まる7500回転まで「コォーーン!」と突き抜けるように高まるボクサーエンジンのサウンドは、かなりクセになる。パワーがない分、エンジンを回しきる楽しさはある。

最高速は180km/h+αで制限されるはずだが、米国仕様は6MTで140mph(225km/h)、6ATで130mph(209km/h)。14km/hもトップスピードが違うのは、トルコンATのロスにしては大きく、ギアリングが影響してるのかも。計算上、どちらも5速で最高速に到達するはず。

試乗燃費は9.5~13.0km/L、JC08モードは「GT」系で12.4km/L

今回はトータルで約350kmを試乗。参考までに試乗燃費は、一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約120km)が9.5km/L。空いた一般道を無駄な加速を控えて走った区間(約30km)が12.6km/L、幹線道路をやはり無駄な加速を控えて走った区間(約25km)が13.0km/Lだった。なお、JC08モード燃費は、GT系の6ATと6MTで共に12.4km/L。

印象としてはゴー・ストップが多い市街地だと、アイドリングストップがないこともあって、特に6AT車では伸び悩むが、大人しく走ると意外にいい、という感じ。郊外の長距離通勤なら、10km/L台キープは難しくないと思う。ただしスポーツモードでブン回すと、速さ相応に燃費は悪化する。

燃料タンク容量は50リッターなので、航続距離は悪くても400km、高速巡航なら500km以上か。今回は燃料警告灯が付いてから10kmほど走った後で、ちょうど40リッター入った(取扱説明書には7リッター以下で点灯とある)。リッター100psの高性能エンジンゆえ、指定燃料はもちろんハイオクになる。

ここがイイ

夢のレイアウト、カスタマイズの余地、4人乗り、フレームレスのミラー、シート

水平対向エンジン+FRという夢のようなパッケージングのFRスポーツカーを、ゴルフ並みのコストパフォーマンスで実現してしまったこと。たぶん日本よりも、欧州での評価の方が高いのでは。その開発過程を知ると、こういったクルマはもう二度と日本では出来ないのではないかとすら思う。

基本の部分だけしっかりして、パワーもタイヤもブレーキも、あるいはスタイリングも、「そこそこ」に抑えたところ。だからこそカスタマイズやチューニングのベース車になり得るわけで、この点も「ハチロク」らしい。

開発側は、とにかくタイヤを4本積みたかった、ということのようだが、多くの人にとって嬉しいのはやはり4人乗りである点では。こうした実用性の高さはカローラ/スプリンターの名を冠した元祖86にもあったし、またトヨタの良さでもあると思う。

世界初というフレームレスのルームミラー。昔ながらのものが、こうして「進化」しているのが単純に嬉しい。また本文に書いたようにシートの出来も素晴らしい。

ここがダメ

あと一歩のデザインとパワー感。ハイマウントストップランプの位置など

86という名称は、おそらく購入の主力になるであろう40代後半から60代までの年齢層には今ひとつピンと来ないのでは。北米では「FR-S」になったように、そして欧州では「GT86」となったように、車名はトヨタにも何となく迷いがあったのではないか。トヨタ FR-S、スバル BRZ、でも良かったように思われる。

パッケージングが素晴らしいだけに、スタイリングももう少し、と思わざるを得ない。悪くはないが、人間の物欲に強烈に訴えるところまではあと一歩足りない。排気量も同じ2000ccだし、もっと2000GTをデザインで意識しても良かったと思う。実際のところ、2000GTルックな後ろ姿はなかなかカッコいい。

 

ルームミラーに映るハイマウントストップランプ

2リッターの自然吸気エンジンは、今や欧州車で主流の直噴ターボと比べて明らかに線が細い。確かにNAらしい爽快な吹け上がりはあるが、パワー感、トルク感、そして燃費の良さで単純明快に上回る直噴ターボ勢を思うと、もう少しパンチがあったら、というのが率直なところ。レガシィ 2.0GT DITの直噴ターボが載ったらと考えると、いろんな意味でドキドキしそうだが、果たして。

試乗中に一番気になったのは、ハイマウントストップランプが後方視界を遮ること。かなり細かい部分まで配慮されたクルマで、視界もスポーツカーとしては悪くないのに、ここだけはまるで後で付け足したかのよう。後続車のちょうど顔(フロントグリル)のあたりを遮るので、車種が判別できないことが多い。もちろん、事情あってここに落ち着いたのだと思うが(リアスポイラーの選択自由度やデザイン、位置を優先したとか)、ルーフやトランクリッドに埋め込むなどの方法があったと思う。

 

細かいところだが、トリップメーター&ディスプレイ切り替えボタンに夜間照明がないのも戸惑った。慣れると手探りで押せるようになるが

また、法定速度の範囲内では260km/hフルスケールのアナログ速度計はほとんど読み取れない。その代わり、回転計の中にはデジタル速度計も備わる。要はタコメーターの辺りだけ見ればいい、という仕掛けで、これは開発途中のデザインにある通り、意図したものだと思う。その意味では「ここがイイ」なのだが、ならばデジタル速度計は全車標準にすべきでは。

あとはインパネのデザインとか質感。車両感覚をつかみやすくするための造形らしいが、もっとシンプルな方がこのクルマには合うのでは。また右のAピラーが作る死角もやや気になった。

総合評価

完成しているのに未完成感が強い

ついに86に公道で試乗して、原稿を書かなくてはならない、ということに関しては、結構気が重かったりした。なぜなら、乗ってみて良くなかったとは書けないから。今の日本のクルマ業界で、86のようなコンセプトでもって製品を登場させたことは奇跡にも近い。ライトウェイトスポーツカーを手が届く価格で新規に作るなんてことは、現在の自動車産業では単なる道楽にしか思えない。いやこれは、豊田章男社長の道楽と言い切ってもいいかもしれない。

しかしこの道楽こそ、クルマ好きにとって今や最後の「一縷の望み」でもある。つまり86は、出来をうんぬんするより、このクルマが登場したこと自体を寿(ことほ)ぐというのが、これまでクルマ好きを自認してきた者として、とるべき姿だろう。86素晴らしい、皆さん、ぜひ買って、走りのクルマの系譜を未来へつなげて欲しい。以上おしまい。

しかしあえてそうではなく、とにかく感想を書いていこう。まず、このクルマに乗って最初に思うことは、誤解を恐れずに言えば、理屈ぬきに楽しいとか、文句なしにカッコいいとか……、要は「なんていいクルマなんだ」と素直に思えないことだ。ついつい、いつもの試乗より距離を走ってしまったように、乗っていると、もうちょっと先へ行きたくなってしまう。それは距離ばかりではなく、もっと面白いんじゃないか、もっと走るんじゃないかと、走っている間もけして満足できず、その結果、どんどん走りこんでしまうことになる。それ自体、面白いこと、楽しいことではあるのだが。

 

200馬力で1.2トンほどというのは、手の内で乗りこなすのには、もっとも扱いやすい黄金比ともいえる。しかし低速トルクが思ったほどないので、ちょい乗り程度ではさほど面白くない。しかし高回転を使って振り回せば(振り回せるテクのある人には)、これがかなり面白くなってくる。普通のクルマよりは数段面白いが、少し運転がうまくなってくると、素のままでもその出来の良さがわかって、より面白くなるタイプのクルマだ。

高速道路でも法定速度で走っている限り、ただ退屈なだけ。しかしサーキットで飛ばせば、全く違う面白さが出てくる(こちらは以前BRZで走ったのだが)。これまで乗った「いいクルマ」は、日常域でも面白く、満足できる。しかし86はそれとは少し違って、もっと先へ先へと進みたくなる。そして気がつけば、だんだん面白くなってきて、ついついいつもより多く乗ってしまう。完成しているのに未完成感が強い。そういうクルマだ。

自分バージョンを作って初めて完成

逆に言えば、ノーマル状態なら奥さんの足としても使える。買い物車として走り回ってもなんら問題ないし、スポーツカーとしては乗り心地も悪くない。4シーターだから、子供が小さいうちは4人家族でもなんとかなる。荷室もそこそこ広いから、生活道具を積み込むことも可能だ。トヨタはそれを意図的に狙ったようで、一家に一台のクルマでありながら、週末にサーキットへ行けるというコンセプトで作られている。クルマにお金がかけにくい子育て世代には嬉しい配慮だ。もちろん黒木メイサのようなカッコイイおねーちゃんとか、若いクルマ好きにも値段的にはなんとか買えそうと思える。むろん、もっと安いのに越したことはないが。

こうしたことを考えるに、86はとても多くのことを高い次元で融合し、バランスをとってある。素の状態では足にもなり、価格は低めで素人が手軽に楽しめるスポーティなクルマ。それでいて腕のある人なら振り回して楽しむことのできるクルマ。さらにマニアックなクルマ好きに向けて、チューンの余地が残されており、自在にカスタマイズを楽しめるクルマ。

このように、いかようにでも使えるのは超高次元でバランスがとれたクルマだからだろう。「ここがイイ」では、そこそこに抑えてあると書いたが、抑えてあるのでなく抑えてあるように見えるくらい高いレベルでバランスしている。そのバランスを保ちながら、さらに手を入れて高めていける。それ以上発展する余地のない「完成されたクルマ」ではない。それこそが86の本質ではないか。その意味では、現代の量産車では極めて珍しい、素材としてのクルマだと思う。

 

トヨタ 86 (名古屋モーターショー 2012にて)

とはいえ、これまで乗った「いいクルマ」たちは、ちょっと乗るだけで良さが分かるし、しばらく乗れば走りに満足できる。「なんていいクルマなんだ」と感動すら覚えるものだ。しかし86にそれはない。「低速トルクがもうちょっとあったらどうか」とか、「もうちょっと動きがクイックであれば」とか、頭に浮かぶのは、こうしたらどうか、ああしたらどうなる、ということばかり。スタイリングにしても、このラインがこうだったらとか、もうちょっとタイヤが大きくて外に出ていたらとか、インテリアデザインも質感をもうちょっと何とかしたいなあとか、とにかく「もうちょっとこうしたら」という言葉が次々に出てくる。見て、乗って、楽しんでいるくせに、あーしたい、こーしたいと言わずにはいられないクルマなのだ。

つまり86に乗るのであれば、その走りを自らで好きに作り、スタイリングさえ自分好みに仕上げることが求められる。ゆえにノーマルではあまりかっこ良くないのだ。またCANから車両情報を取り出し、プレステとつながるという新機軸があるが、これはやがて誰もが車載コンピュータのプログラムをも変えられるようになる、ということへの前段階だろう。そうして自分バージョンの86を作って初めて、このクルマは完成する。なにしろすでにメーカーからしてトヨタバージョン、スバルバージョンを各自で作っているくらいなのだから。いい素材を売って、あとは買った人が自分で好みに仕上げられる。そんな仕組みが初めてメーカー公式で用意されたわけで、これもまたクルマとしては画期的なことではないか。

 

それでもクルマの場合は法規の問題がかなり厳しい。86の速度計は260km/hを刻んでいるが、公道では全く現実的ではない。このメーターが示すように、86は法的にはそうとう曖昧な存在だ。当然、クルマで走るという行為自体、制限速度の問題などが示す通り、法的にはそうとうに曖昧だが、そうした曖昧さを今後も許す日本社会であって欲しいと願う。

という意味では、トヨタが始めた、オトナが健全に楽しめる峠の情報シェアサービス「86スポーツカルチャー構想・86峠セレクション」は、いいことなのか悪いことなのか判断が難しい。峠などそっとしておいて欲しいとも思うし、同時にこういうことで社会的に認知してもらえたらとも思う。つまり今後もクルマにいい意味で「無駄に乗る」こと、あるいはクルマを「改造すること」を社会が悪とせず、寛容に対応して、やがて文化にまで高められるかどうかが86で試されるだろう。現在の初期人気がいつまで続くかが、それを占うのでは。クルマに楽しく乗り続けるためのイバラの道は続いているが、それゆえ86の登場には一縷の望みを見るのだ。

 

試乗車スペック
トヨタ 86 GT リミテッド
(2.0リッター水平対向4気筒・6AT・FR・305万円)

●初年度登録:2012年3月●形式:DBA-ZN6-A2E7(L) ●全長4240mm×全幅1775mm×全高1300mm ※全高はアンテナベースを含む数値。ルーフ高は1285mm ●ホイールベース:2570mm ●最小回転半径:5.4m ●車重(車検証記載値):1250kg(710+540) ●乗車定員:4名

●エンジン型式:FA20 ●排気量・エンジン種類:1998cc・水平対向4気筒DOHC・4バルブ・直噴+ポート噴射・縦置 ●ボア×ストローク:86.0×86.0mm ●圧縮比:12.5 ●最高出力:147kW(200ps)/7000rpm ●最大トルク:205Nm (20.9kgm)/6400~6600rpm ●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/50L ●10・15モード燃費:-km/L ●JC08モード燃費:12.4km/L

●駆動方式:後輪駆動(FR) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット+コイル/後 ダブルウイッシュボーン+コイル ●タイヤ:215/45R17(Michelin Primacy HP) ●試乗車価格(概算):-円  ※オプション:-円 ●ボディカラー:ライトニングレッド ●試乗距離:350km ●試乗日:2012年6月 ●車両協力:トヨタ自動車株式会社

 
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