圧倒的な存在感とオンロードの走りっぷり
1993年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー、ビークロス。まさかほぼそのままのルックスで市販されるとは誰も思っていなかったはず。いすゞは117クーペやピアッツァのように、ショーカーをほぼそのままのルックスで市販した例があるので、社内的にはあまり違和感がなかったのかもしれない。乗用車から撤退したいすゞに、まだその元気があったことがうれしいところだ。
「オールラウンド・リアル・スポーツ」がビークロスのコンセプトだ。オンでもオフでも、スポーツカーとも言える走りができることを目指している。エンジンはビッグホーン用V6をベースに、3.2リットルへ排気量アップしたもの。ヘッドにはロッカーアームのないダイレクト・アタック・バルブシステムを採用し、カムカバーは軽量マグネシウム製に変更。吸気系にバリアブル・インテークマニホールドを採用してフラットなトルク特性としつつ、最大出力は215psとハイパワーだ。駆動系には可変トルク配分システム「TOD(トルク・オン・デマンド)フルタイム4WD」を採用する。
足まわりも凝っている。形式は前:ダブルウィッシュボーン、後:センター4リンク式コイルと、ビッグホーン同様だが、横剛性確保のためにリアのラテラルリンク・ブッシュをピロボールマウント化してある。ショックアブソーバーは市販車では初のアルミ製モノチューブ別体タンク式を高性能バイクのように倒立マウント。高剛性の専用タイヤもブリヂストンに特注された。
以上、強力なチューンでSUVとは思えない走りが味わえる。エンジンはどの回転域でもフラットなトルクを発生し、軽快なスタートダッシュをみせる。しかも、4WD特有の腰高感があるのに、普通の乗用車よりコーナリング性能が高く、ワインディングでも攻める走りが可能だ。オンロードも走れます、ではなく、ちゃんと楽しめるのがいい。ヒラリヒラリと回頭性はいいし、コーナーでのロールも非常に少なく、サスはぐっと踏ん張りつつしなやかに上下する。かなり視線が高いのに、スポーツカー的な走りをするのは、なんだか不思議な感覚だ。4WDモードではややねっとりと、2WDモードに切り替えるとFRスポーツカー的な軽快感が堪能できる。エンジンは回転フィール、サウンド共に心地よい。
インテリアの質感はいすゞの常で、かなり落ちる。しかし体に触れる部分にはMOMO製のステアリング、革巻きシフトノブ、レカロ製の新型シートが採用されており、文句はない。後方視界は悪いが、インパネセンター部にカラーモニターを置き、超広角バックカメラでフォローしているのが未来的だ。
このスタイリングで、298万3000円はかなりお買い得だ。月産わずか200台の希少性も魅力。もう街で見かけることがあるが、その存在感は圧倒的。下手な外車より、ずっといい買い物だと思う。価値ある国産稀少車という新しいジャンルと言えそうだ。