キャラクター&開発コンセプト
新生アバルトの第二弾
1950年代後半から1970年初頭にかけてモータースポーツの世界で活躍した「アバルト」が、2007年に復活した。その第一弾がフィアットのグランデ プントをベースにした「アバルト グランデプント」、そして第二弾がフィアット500ベースの「アバルト500」だ。
アバルト500のエンジンは、135psを発揮する1.4リッター直4ターボで、変速機は5速MT。「サソリの伝統を忠実に再現」したというスタイリングは、フィアットのデザインセンターが手がけたものだ。サソリとは言うまでもなく、小排気量車レース等で数々の伝説を残したカルロ・アバルトの精神を象徴したエンブレムだ。
“Abarth”とは?
1965年に撮影されたカルロ・アバルト。左端はフィアット アバルト OT 1000スパイダー(1964年)、右端はOT 2000 スポルトスパイダー(1965年)
(photo:フィアット グループ オートモービルズ ジャパン)
オーストリア出身のカルロ・アバルト(1908~1979年)はイタリアに移住後、小排気量レーシングカーで短期間ながら一時代を築いたチシタリアの生産設備やスタッフを土台に、1949年にアバルト社(Abarth & Co.)を設立。イタリア・トリノ市に本拠を置き、レース活動をスタートした。その後はフィアット社と特別契約を結び、キットパーツや高性能モデル、レース車両の開発を担当。さらにオリジナルレーシングカーで国際レースの小排気量クラスを席巻したほか、レコードブレーカー(速度記録車)でも数多くのタイトルを獲得した。
1971年にはフィアット傘下となったが、その高度な開発能力を活かしてフィアットのモータースポーツ部門を担当。WRC(世界ラリー選手権)参戦用の124ラリーや131ラリーを開発し、さらに1969年からフィアット傘下となったランチアでは、037ラリー、デルタS4、デルタインテグラーレの開発にも関与した。
一方、市販車では各種ホモロゲーションマシンや高性能グレードの開発を担当したが、実際に関与したのはフィアット・リトモ アバルト(1981~85年)やアウトビアンキ A112 アバルト(1971~85年)が最後となった。
ちなみに日本でのアバルトお問い合わせ番号は「0120-130-595」。この「130」は、アバルトが最後に開発した市販車リトモ アバルト 130TC(1983~85年)、また後ろの「595」は往年のフィアット500をベースにしたフィアット アバルト 595(1957~1972年)が由来と思われる。
■参考(過去の新車試乗記)
・フィアット 500 1.2 8V ラウンジ (2008年4月)
・フィアット プント HGT アバルト (2000年7月)
価格帯&グレード展開
右ハンドル・5MTで295万円
アバルト500は基本的にモノグレードで、車両価格は295万円。フィアット500のエントリーモデルである「1.2 8V ポップ」(195万円)より100万円高いが、最上級の「1.4 16V ラウンジ」(250万円)に比べれば「たった45万円高」とも言える。ただしアバルトにガラスルーフの設定はなく、変速機も3ペダルの5MTのみだ。
■アバルト 500 (右ハンドル) 295万円 ★今週の試乗車
オプションは、標準より1インチ増の17インチホイール、サイドデカールなど。全5色あるボディカラーはソリッドの白以外がすべてオプションとなり、赤、グレー、ブラックは5万円高、パールホワイトが15万円高となる。
さらに専用ECUやBMC製エアクリーナー等でエンジンを160psと23.5kgmまでスープアップする「エッセエッセ(esseesse)」キットの予定もある。そこには専用サスペンション、17インチホイール&タイヤ、ブレーキシステムも含まれるが、現時点(2009年6月)ではコンプリートカーでの販売になるか、キット販売になるか公表されていない。
よりパワフルで広くて安いグランデ プントもある
なお2009年2月にはアバルト500より一足早く、「アバルト グランデプント」が発売されている。エンジンはアバルト500と同じ1.4リッターのターボだが、馬力は20ps上回る155psで、変速機も6MTとなる。価格は270万円とアバルト500より安い。さらに6月に発売された「エッセエッセ」バージョンは180psまで出力が高められている。
■アバルト グランデプント (左ハンドル) 270万円
■アバルト グランデプント エッセエッセ (左ハンドル) 335万円
販売は全国4拠点のアバルトディーラーで
日本での販売は全国に4拠点あるアバルトディーラーで行われる。2009年2月にオープンしたアバルト東京、アバルト大阪、そして4月にオープンしたアバルト名古屋、アバルト福岡がそれだ。またこれ以外の11都市でもアバルトのサービスショップが開設される予定。
パッケージング&スタイル
生意気だけど、ほほえましい
ボディサイズ(フィアット500比)は全長3655mm(+110)×全幅1625mm(同)×全高1515mm(同)。ホイールベースは2300mm(同)。ノーマルとの違いはインタークーラー等を収める大型フロントバンパー、デフューザー形状となったリアバンパー、サイドスカート、リアスポイラー、専用16インチホイール&195/45R16タイヤ、赤く塗装されたブレーキキャリパー、2本出しマフラー、そしてボディのあちこちに配された「サソリ」のマークなどだ。
発表当初はやり過ぎにも思えた外観だが、実車を見ると小さいくせに生意気な感じがほほえましい。往年のアバルト595のように、「一見ノーマル」風の仕様も欲しいところだが、これはこれで魅力的。見慣れてくると特に派手という感じもしなくなる。
「赤と黒」のインテリア
内装は白基調のフィアット500とはガラリと異なり、黒基調の精悍なもの。全車標準のレザーシートは基本的に前席が赤、後席が黒になる(ボディカラーが赤の場合のみ、前後とも黒)。レザーの風合いがちょっとビニールっぽいが、ホールド性はまずまず。乗り降りも苦にならない。ノーマル500のシートもよく出来ており、おそらく骨格自体はほぼ同じものだろう。
ダッシュボードの左上に突き出すのは、ブースト計およびシフトアップインジケーター(高回転での伸びは鋭くないので後者は要らない気もするが)。見た目ほど、視界の邪魔にはならない。
なおエアバッグはノーマル500と同じ計7個を装備。前席フロント×2、前席サイド×2、前席ウインド×2、運転席ニー(膝)×1だ。
体型を選ぶドラポジ、靴を選ぶペダル類
操作系で気になったのは、ステアリングの調整がチルト(上下)のみで、テレスコ(伸縮)がないこと。足を合わせるとステアリングが遠くなるイタ車の流儀は今も生きており、やはりテレスコが欲しくなる。アルファロメオのMiTOにはそれが付いていて、とても役に立ったからだ。
また右ハンドル化のせいもあってか、ペダルレイアウトは少々窮屈だ。特に左足はクラッチペダルとフットレスト(センターコンソール側の凹みにある)の踏み替えがやりにくく、慣れないと引っかかってしまう。イタ車乗りらしく、細身のスニーカーかドライビングシューズを履きたいところ。
D型ステアリング、アルミ製シフトノブ
ステアリングはノーマル500のアイボリーから黒に変更されたほか、下側がフラットな、いわゆるDシェイプとなっている。カッコはいいのだが、もともとステアリングの中心点が下側にずれていたのがさらに強調される格好となり、操舵時には少なからず違和感がある。そもそもアバルトにはもっと小径のステアリングが似合うはずだが、巨大なメーターの視認性を確保するには仕方なかったのだろう。
一方、嬉しくなるのがアルミ削りだしの球形シフトノブだ。夏は熱く、冬は冷たそうだが、大きめの持ち手は意外にフィット感がよく、操作もしやすい。日本車にありがちなアルマイト処理はされておらず、すでに表面にはポツポツと腐食があったが、「アバルト」ならそれもアリだろう。
後席の居住性はノーマル500とおおむね同じ
表皮が黒レザーになったこと以外、リアシートはノーマル500と大差なし。前席シートバックがヘッドレスト一体型になったため少し閉所感は増しているが、短時間なら快適に過ごせそう。
スペアタイヤは修理キットに変更
トランクの眺めも基本的にはノーマル500と一緒。積載性はBMW・MINIや軽自動車あたりと大差ない。後席の背もたれを5:5分割可倒のシングルフォールディングで畳む点もノーマル500と同じだ。