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スズキ アルト エコ S新車試乗記(第653回)

Suzuki Alto Eco S

(0.66リッター直3・CVT・99万5000円)

バイバイ、リッター20km時代!
ハロー、リッター30km/L時代!
そしてエコカーはどこへ行く?

2012年02月17日

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キャラクター&開発コンセプト

JC08モード燃費30.2km/Lを達成


新型スズキ アルト エコ
(photo:スズキ)

2011年11月24日に発表、12月13日に発売された「アルト エコ」は、現行の7代目アルト(2009年12月発売)をベースに、燃費性能を追求したモデル。JC08モード燃費30.2km/Lは、3ヵ月先に発売されたダイハツ ミライースの30.0km/Lを0.2km/L上回り、現時点ではハイブリッド車を除くガソリン車でトップだ。

アルトからの変更点は、新世代エンジン「R06A型」の採用、停車直前からエンジンを停止する新アイドリングストップシステムの採用、車体の軽量化、車高の15mmダウン等による空気抵抗の低減、転がり抵抗の低減などなど。ちなみにアルトのJC08モード燃費は、FFの4ATで22.5km/L、CVTで24.5km/Lなので、アルトエコの燃費向上率は前者に対して約34%、後者に対して約23%になる。

ミラシリーズに対抗し、ワゴンRを援護射撃

販売目標台数はこれまで通り「アルト」シリーズ全体で月間7000台。広告では「Hello! 30.2km/L」をキャッチコピーに、人気モデルの香里奈を起用して一大キャンペーンを展開中。

昨年の年間販売実績は目標通りの8万3100台だったが、ライバルのミラは9月に登場したミライースが爆発的に売れ、シリーズ全体で12万0014台を達成。軽自動車の年間販売ランキングでは、ミラが4位、アルトが5位と逆転された。ミラシリーズはその後も好調で、10月から今年1月まで4ヵ月連続で販売台数トップをキープ。このまま行くと軽の年間ランキングで8年連続トップのワゴンR(2011年は16万0439台)を脅かす存在になるかもしれない。


本社隣の「スズキ歴史館」玄関横に展示中のアルトエコ

【外部リンク】
■スズキ>プレスリリース>新型「アルト エコ」を発売(2011年11月)
■スズキ>プレスリリース>「MRワゴン エコ」を発売(2012年2月)

【過去の新車試乗記】
■スズキ アルト X(2010年1月更新)
■ダイハツ ミラ イース(2011年10月更新)

価格帯&グレード展開

キーレス付なら99万5000円


エントリーグレードの「L」。キーレスの他、カラードドアミラーやプライバシーガラス等が省かれる。ボディカラーは全6色で、写真は「ミルクティーベージュメタリック」
(photo:スズキ)

「アルト エコ」は2グレード構成で、エントリーグレードの「ECO-L」が89万5000円。キーレスエントリー、電動格納式カラードドアミラー、UVカット機能付ガラス、リアスモークガラス、防犯アラームシステムを追加した「ECO-S」が99万5000円。今やキーレスなしで、というわけにもいかないので、販売主力は後者か。

実質的な価格はアルトの上級グレード(CVTになる)と大差ないが、その最上級グレードのX(102万9000円)に付くキーレスプッシュスタートシステム、チルトステアリグ、運転席シートリフター、後席ヘッドレスト、分割可倒式リアシート等は、アルト エコでは「設定なし」になる。


■アルト バン VP(商用)  FF:67万7250円(5MT)/75万6000円(4AT)、4WD:88万4100円(4AT)
■アルト F     FF:80万8500円(5MT/4AT)、4WD:96万2850円(5MT/4AT)
■アルト G     FF:89万2500円(4AT)/95万0250円(CVT)
■アルト X     FF:102万9000円(CVT)
■アルト G4     4WD:110万9850円(CVT)

■アルト エコ-L   FF:89万5000円(CVT)
アルト エコ-S   FF:99万5000円(CVT)   ※今回の試乗車

パッケージング&スタイル

前バンパーやホイールキャップは専用品。全高は15mm低い

外観はおおむねアルトのままだが、ホイールキャップは専用品で、リアには「ALTO ECO」と「IDLING STOP」のエンブレムが付く。フロントバンパーもよーく目を凝らして見ると、コーナー部に空気抵抗を低減するエッジが入った専用品。ハイマウントストップランプやテール&ストップランプはLED化されている。

 

また最低地上高は床下の空気抵抗を減らすため155mm→145mmと10mm減らされ、それに伴って全高も1535mm→1520mmと15mmダウン。この程度なら車止めや段差でアゴを打つ心配はない。ちなみにミライースの最低地上高は150mm、全高は1500mm。

 

試乗車のボディカラーはリーフホワイト

そんなわけでデザインは普通のアルトとそんなに違わないが、もともとはインドで生産して欧州にも輸出されるグローバル版アルトと同じ路線なので、軽自動車というより「欧州のAセグメントカー」っぽく見える。少々フェミニンだが、それも狙ってのことだろう。

インテリア&ラゲッジスペース

チルトステアリングやシートリフター等が省かれる

全体のデザインをはじめ、ベージュの内装カラー、チェックのシート地まで、見た目はほとんど2年前に試乗したアルトと一緒。とはいえアルトの上級グレードと比べると、アイドリングストップのオフスイッチ等が追加される一方で、上でも触れたようにいくつかの装備が省かれている。

 

チルトステアリングの設定はなし。コラム下の切り欠きはアルト上級グレード用の名残り

まず運転席に座って気付くのがチルトステアリングとシートリフターが省かれたこと。平均的な体格の男性や女性なら自然なドライビングポジションが取れるが、もともとはあったものだけに少し残念。またキーレスプッシュスタートシステムもアルトの上級グレードにはあって、「エコ」にはないもの。無くても困らないが、「話題の最新エコカー」という期待をもって見ると、ちょっと新しさに欠ける感も。ただ車両コスト低減や軽量化のために装備を削るなら、真っ先に「仕分け」されそうなものではある。

 

平均的な男性の場合はヘッドレストを伸ばさないと高さが足りない

全体に小ぶりなシートはアルトと一見同じだが、アルトエコでは軽量化のためにシートクッションのパッドを低密度化してある。そこまでやるか、と驚いてしまうが、座り心地はとりあえず悪くない。

後席ヘッドレストも設定なし

後席の広さや乗降性に不足はなし。シートはやはりクッション低密度化のほか、背もたれの構造も変更されているが、座り心地は悪くない。ただアルトの上級グレードにあって、アルトエコにないのが後席ヘッドレスト。これはミライースにもないが、それゆえ付いていたらセールスポイントになったはずで残念。頭を保持するものがないのは、人を乗せるにしろ自分が乗るにしろ、少々不安を感じる。

トランクボードの材質まで軽量化


普通のアルト同様、荷室には大型のA型ベビーカーが収納できるはず

後席背もたれはアルトの下位グレードと同じ一体可倒式。座面は固定で、背もたれがパタンと倒れるだけだが、床面に段差は生じない。

アルトエコ専用品となるのが、トランクのフロアボード。普通のアルトでは木質系の素材だが、アルトエコでは樹脂製になる。もちろんこれも軽量化のため。

 

床下の装備品は普通のアルトと同じで、車載工具、テンパースペアタイヤ(ファルケンのMade in Indonesia)、小物収納スペースがある。なおミライースの場合はスペアタイヤはなく、パンク修理キット。スペアタイヤの方が重量は増えるはずだが、これくらいのタイヤサイズだとコストはトントンか、かえって安いのかも。

 

ここは普通のアルトと同じ

基本性能&ドライブフィール

R06A型エンジンと副変速機付CVTは、スズキの宝


ロングストローク(64.0×68.2mm)、吸排気VVT付の新世代R06A型エンジン
(photo:スズキ)

試乗したのはキーレスエントリーやプライバシーガラスなどを装備した上級グレード「エコ-S」(99万5000円)。今回は浜松本社で広報車を借用し、名古屋に持ち帰って試乗を行った。

アルトエコのエンジンは現行アルト用のK6A型ではなく、現行MRワゴン=日産モコと同じ「R06A」型。64.0×68.2mmのロングストロークタイプで、吸排気VVTを備えた今後のスズキ軽を担うユニット。これが低回転からトルクフルで、相変わらずいい仕事をする。

さらにアルトエコのR06Aは、ピストンのコーティングパターンやピストンリングの表面処理を変更してフリクションを減らした改良型。最高出力は従来のK6A型やR06A型の54ps/6500rpmに対して、少し低めの52ps/6000rpm。ミライースの52ps/6800rpmと最高出力は同じが、発生回転数はぐっと低い。

 
altoeco_15body.jpg
アルトエコでは、R06A型エンジンに合わせてフロントアンダーボディの骨格を設計変更している
(photo:スズキ)

力強い走りには、スズキ車でおなじみジヤトコ製の副変速機付CVT(フリクションを低減した改良型)も貢献している。なにしろ変速比はロー側が4.006~1.001で、ハイ側が2.200~0.550。合わせて4.006~0.550という超ワイドレンジ。ミライースの変速比(3.327~0.628)と比べても、低速域ではより力強く、高速域ではより低回転で走ることが分かる。

ちなみに車重は普通のアルトより20kg軽く、同型エンジンを積むMRワゴン エコより60~80kgも軽い740kg。ボディを専用開発したミライースの730kgに近いところまでダイエットするのは大変だったはずだ。

そんなわけで、トルクフルなエンジンとローギアード化によって発進加速は力強いし、超低回転でトロトロと巡航するのも得意。またアイドリング時の静かさにも感心してしまう。副変速機がローからハイに切り替わる時に、ショックがかすかに感じられるのはご愛嬌。このパワートレインは地味ながらも、スズキ軽の宝だ。

アイドリングストップも文句なし。坂道で落ちず、再始動は素速い

エンジンが暖まると、停車時にはアイドリングストップするようになる。ミライース同様、停車直前の緩やかな減速時に(ミライースは約7km/h以下、アルトエコは約9km/h以下)、エンジンが止まるようだが、感覚的には「いつの間にかエンジンが止まっている」感じで、大げさに言えばハイブリッドカーみたい。少なくともアルトエコのシステムは、ハイブリッド車以外のガソリン車では、かなり完成度が高い方の部類に入る。

いったんエンジンが暖まれば、アイドリングストップの頻度は高い。ヘッドライトオンで、外気温がかなり低い時(2~3度Cくらい)でも、ばんばん止まる。夜間はバッテリーが心配になるが、テール&ストップランプのLED化や燃料ポンプシステムの改良など、消費電力を抑える工夫がされているようだ。そもそもバッテリーの充電状態が良くないと、アイドリングストップはしないし、いったんエンジンが再始動すると、車速を一定以上に上げないと再びアイドリングストップしないようになっている。

 

もちろんアイドリングストップをオフにもできる

再始動もスムーズで、スターター音もそんなに煩わしくない(もっとノイジーなモデルが他にたくさんある)。アルトエコでは停車しかけてエンジンが停止しても、走行中に再始動が可能な新型スターターモーターをスズキ車で初めて採用。徐行時や交差点など、停まりかけて、すぐに発進、みたいな状況でも、スムーズにエンジンを掛けてくれる。この部分も、ちょっとハイブリッド車みたいで巧い。

さらにブレーキを踏んだままでも再始動できるように、ステアリングを動かすと再始動する制御も新採用。これはマツダのi-stopや新型インプレッサなどと同じだ。またESPはないが、坂道発進時には、ブレーキを離しても2秒間ブレーキを保持して車両の後退を防ぐヒルホールドコントロールも装備。実際、坂道で落ちることはなかった。

指定空気圧2.8kgの専用エコタイヤを装着


アルトやMRワゴンと同じダンロップのSP10だが、設計は別物。目印はサイドウォールにあるエコマーク(給油機と地球のイラスト)

こんな感じで街中では不満のないアルトエコだが、ワインディングで調子に乗るとタイヤが早々にアゴを出す。普通のアルトと同サイズ、同銘柄(ダンロップ SP10)の145/80R13だが、実は新開発のゴムを採用したアルトエコおよびMRワゴン エコ専用品。指定空気圧は前後280kPa=2.8kgで、設計はまったく違うらしい。

実際のところは、ポンポン弾むとか、踏面が硬いとかいった感じはないが、そこで油断して最初のコーナーに勢いよく飛び込むと、ズルズルと外側に膨らんでゆく。もちろん車重は軽いし、挙動がアンダーのまま安定しているので、慌てずクルマが曲がり始めるのを待てばいいが(操舵時の転がり抵抗に負けて、車速もすぐに落ちる)、最初はちょっと学習が必要。新世代プラットフォームのMRワゴン(エコじゃない方)の粘りのある走りを知っていると、ちょっと物足りなく思える。

意外に?高速巡航も得意

直進安定性は、おおむね問題なし。浜名バイパス名物の強烈な横風を受けると多少揺れるが、車重が740kgしかないことを思えば許容できる。むしろ向かい風を受けた時の失速感の方が大きく、そこでも車重の軽さがしのばれる。

それと同時に実感するのが、フリクションや転がり抵抗がいかにも小さそうなこと。エンジン回転数がかなり低いこともあって、まるで緩やかな坂をクラッチを切って下っているような感覚で巡航する。フリクション低減策はエンジンやCVTの他に、軽自動車初のハブ一体構造車軸ベアリング(前輪)、リヤ車軸ベアリングの構造見直し、引きずり抵抗を低減したフロントブレーキパッドなどなど、細かいところに及んでいる。

軽量化が効いているせいか、最高速も予想に反してよく伸びた。メーター読み105km/h以上では「ECO」ランプが消えてしまうが、それを無視してアクセルを踏み込めば、車速はゆっくりと、しかし抵抗感なく伸び、あっけなくリミッターのお世話になった。さすが740kg。

また、そこからアクセル開度一定の巡航に戻れば、エンジン音が聞こえないほど回転がドロップし、平穏にクルージングできる。実はロードノイズや風きり音はそれなりに高まるのだが、突出したノイズがないので「静かだな」と錯覚してしまう。100km/h巡航時の回転数は過去の例から言って3000回転を下回っているのは間違いない。タコメーターがないのが残念。

ただし雨の日には、「バシャッ」といったスプラッシュ音や石をパチパチ跳ねる音がホイールハウスから直接的に伝わってくる。最初は「窓が開いてるのか?」と思って、思わずパワーウインドウを閉め直してしまったほどだが、これも軽量化のためと思えば納得できる。

試乗燃費は19.3~26.0km/L

今回はトータルで約530kmを試乗。肝心の試乗燃費は、いつものように一般道と高速道路を走った区間(約90km)が19.3km/L。市街地から郊外までの一般道を燃費運転を心がけて走った区間(約30km)が23.8km/L。高速道路を80~100km/hで巡航した区間(約100km)が26.0km/Lだった。

はっきり言えるのは、100km/hより80km/L、80km/Lより60km/Lで走る方が、明確に燃費がいいということ。つまり100km/hで流れる高速道路よりも、60km/h程度で流れる自動車専用道路や信号の少ない一般道の方が、30.2km/Lに迫りやすい。おそらく50~60km/hくらいがアルトエコの経済速度(最も燃費のいい速度)と思われる。

タンク容量は20リッター。航続距離は実質300km前後か

賛否が分かれるのは、燃料タンクの小ささだろう。容量はスズキの2人乗り軽、ツイン(21リッター)より少ない20リッター。実のところ、燃料タンク自体は普通のアルトと同じ(容量30リッター)らしいが、それをアルトエコではモード燃費に影響する「車両重量」(燃料満タン時の数値)を軽くするために容量をあえて狭めている。ちなみにダイハツの軽は36リッターが主流だが、ミライースは30リッターに減らされている。

20リッターまで減らした根拠は、燃料警告灯(残り3.6リッターで点灯)がつくまでの航続距離が、JC08モード燃費30.2km/L×16.4リッター=約495kmというところらしい。ただしメーター内に表示できる「航続可能距離」は、アルトエコの場合、新車時からの「生涯燃費」に基づいて算出されるそうで、今回試乗した車両の場合は、貸出時(ほぼ満タン)の表示が残り300kmで、返却時(完全に満タン)でも残り335kmだった。メディア向け試乗会に使われた広報車ゆえ(借用した時点ですでに走行距離は1300kmを回っていた)、特殊な乗り方だったせいもありそうだが、軽自動車で多い近距離でのチョコチョコ乗りが多い場合、警告灯が点くまでの実質的な航続距離は300km前後かな、というのが今回の実感。

    10・15
モード
燃費(km/L)
JC08
モード
燃費(km/L)
モーターデイズ
試乗燃費(km/L)
燃料タンク
容量(L)
車重(kg)
マツダ デミオ
13-スカイアクティブ
30.0 25.0 14.8~20.2 35 1010
ホンダ フィット
ハイブリッド
30.0 26.0 15.3~22.0 40 1130
スズキ MR ワゴン エコ 30.0 27.2 30 800~820
ダイハツ ミラ イース 32.0 30.0 18.0~27.3 30 730
スズキ アルト エコ 32.0 30.2 19.3~26.0 20 740
トヨタ アクア 37.0~40.0 33.0~35.4 16.8~23.2 ※2 36 1080
 ※表内はすべて2012年2月現在の現行モデルで、2WD車
 ※試乗燃費はそれぞれの取材時のもので目安です
 ※2:試乗車はオプション装着により車重1110kg、JC08モード燃費33.0km/L

ここがイイ

パワートレインやアイドリングストップの出来の良さ

新世代のR06A型エンジンと副変速機付CVTによる走りと燃費の良さ。このユニットの素晴らしさは世界に誇れるものだと思う。燃費を気にせずにアクセルを踏めば、軽とは思えない走りが得られる。

アイドリングストップもほとんど煩わしさがなく、よく出来ている。今のところ軽では一番の出来では。

ミライースみたいにエコ専用車ではないが、それゆえベース車であるアルトの良さが残っている。おかげで軽量化や低コスト化には苦しんだかもしれないが、ユーザーにとってはむしろイイことでは。

当たり前ながら、軽はやっぱり取り回しが良くて、便利なこと。特にアルトのサイズ感は、一人か二人で乗るには最適。

ここがダメ

装備の省略。タンク容量の縮小

軽量化のために、元々あったものが削られてしまったこと。チルトステアリング、シートリフター、後席ヘッドレストは、せめてセットオプションとして用意して欲しかった。またライバル車であるミライースではVSCが選べることを考えると、アルトエコやMRワゴン エコにもESPを用意して欲しかった。

燃料タンクは30リッターのものをわざわざ20リッターに縮小したようで、これはやはり勿体ない気がするし、容量も少ないのでは。普通の主婦で月に500km程度しか走らないような場合、毎日パートや買い物、子供の送り迎えで乗るとすれば、実用燃費はせいぜい20km/L程度、無給油で安心して走れるのは300kmまでくらいだろう。せめて25リッターは欲しかったが、それだと30.2km/Lは無理だったか。

総合評価

低燃費のためには気が抜けない

昨年末に名古屋モーターショーで中嶋悟氏とステージイベントをやったので、20年ほど前に書かれた同氏のドライビングに関する本を少し読んだ。そこには、ATであろうとも、こまめにシフトして、トラクションを掛けた運転をすべきとあった。その通り。とはいえ当時はせいぜい4速ATの時代。そんな運転では燃費は悪化しそうだ。でもその当時は今ほど燃費(つまり環境)に関してヒステリックではなかっため、こうした表現も許されたのだろう。しかし今はそれが許されないと思うほど、世の中は低燃費志向一辺倒だ。というか、特に日本車では燃費の良さだけがクルマの価値と言わんばかりの「偏り」ぶりである。

運転するということは、タイヤをしっかり地につけて、走るにしろ、曲がるにしろ、止まるにしろ、その感覚をドライバーが体に受け止めることが基本。ふわりと雲の上を走っているような感覚という、かつてのシトロエンでも接地感は意外にちゃんとあった。その上で、より快適な走りだったのだ。それと比較してはいけないのかもしれないが、アルトエコは惰性で走る感じが強く、アクセルを離してもそのまま走っていく感覚がある。軽快と言えなくもないが、地に足がついた感じとは正反対で、ちょっと心もとない。とにかく燃費のために低回転を維持し、タイヤがよく転がるという仕立てで、トラクションを感じながら走るというのとは正反対の乗り味だ。

 

もちろんアルトエコは最高の燃費性能を達成するためのモデルゆえ、こうせざるを得ないのは分かる。ミライースという当面のライバルがいる以上、その数値を上回ることはメーカーとしては至上命題。スズキは昔、一部品一グラム削減なんていうスローガンで軽量化を目指したものだが、今回は専用開発車でなく既存モデルの改良でミライースを越えたわけで、これまで培われてきたスズキの技術力が実感できる。今回の試乗燃費でもまさにガソリン車で最高と言っていい数値が出たが、これは巡航時の燃費が極端に良かったことが効いている。信号の少ない郊外の道路でぐんぐん燃費が向上していくのだ。それこそアクセルを踏まなくても転がっていくという感覚。

日を変えて、最高速ならぬ最高燃費に挑戦するため、都市高速(60km/h制限)をほぼ制限速度で15kmほど巡航した時は、カタログ燃費を若干上回る30.6km/Lを記録した。ただその時はアクセルワークにかなり気を使った運転。アクセルを戻した状態からわずかに踏み続ける、というものすごく微妙な操作で、アクセルをちょっとでも踏み過ぎると燃費が落ちるし、踏まないと減速してしまうので、ずっと気が抜けない。モード燃費は、そういった技術や忍耐をドライバーに要求する運転で出した数字ということだろう。

アルトエコか、MRワゴンか


2月14日に発売された新型スズキ MRワゴン エコ
(photo:スズキ)

いずれにしてもアルトエコは、こういった燃費を出せるように削れるところは全て削ってある。特にチルトステアリングやシートリフターがないのは困ったことだし、リアシートのヘッドレストもない。プアなタイヤによるワインディングでの不安な走りも、どうかと思う。ミライースに用意されているESPも用意されていないし、タンク容量まで削ってある。それでもまあ、内装などはあまりチープではないし(これは専用設計でなかったから幸いした部分)、パワーウインドウも全窓にあるし、キーレスもある。快適性やら安全性やらで不満が出るか出ないか、という「ギリギリ」まで削ってあるわけだ。

そう、お買い物中心に使うような人にとっては、ギリギリ不満が出ない、まさに寸止め状態で実用性や快適性がキープされている。ドライビングポジションも小柄な人向けだし、メインユーザーの主婦や若い女の子なら、これで十分、と思うかもしれない。燃費が良くて、お財布に優しいことが、より重要ということだろう。その意味で生活の足としては、これほどいいクルマはないとも言える。100万円を切った価格といい、これこそ軽自動車本来の姿かもしれない。

つまりは、どうにも悩ましいのだ。「クルマ」として考えればアルトエコよりも、同じエンジンを積んで、フル装備で、広くて快適で、モーターデイズでも2011年のイヤーカーに選んだMRワゴンの方を迷わずオススメしたくなる。チョイ乗り中心の実用燃費で大差がつくことはないだろうし、足はしっかりしてるし、ちゃんとリアシートにヘッドレストも付いているし。一方、実用車として考えれば、まるで初代アルトのようにシンプルなアルトエコはもの凄く魅力的だ。ワインディングを攻めることなど、普通の人は絶対にないはずだし。むしろ普通車のコンパクトカーを凌駕するMRワゴンのような軽自動車の方が、妙に背伸びしてしまった奇形児なのかもしれない、とも思う。

このまま行くと二極化しそう

ただ燃費性能というものは本来、クルマの本質の後についてくるものであってほしい。適度に低燃費でありながら、シッカリ地に足のついた操縦性、そして良い乗り心地を持ち、安全装備が十分に奢られたクルマ。それこそが本来求められているクルマの姿ではないか。燃費がいいからという理由で、このクルマを買った人が、「軽だからこんなもの」とか「ガソリンタンクが小さいのは不満」なんて思ったとしたら、アルト本来の姿から見れば、もの凄く残念な結果だ。

とにかく何より困ったことなのは、カタログ値の不毛な競争だ。アクアにしても、ミライースにしても、このアルトエコにしても、特殊な状況でない限り、日常的な使用ではカタログ値を大きく下回ってしまうのは明らか。それでもアクアが爆発的に売れているし、ミライースもワゴンRを脅かすほど売れてきている。そういう状況ゆえ、アルトエコを出さざるを得ないメーカーには同情したいほど。ワーッと一方向へ流されやすいのが明治以降、第2次大戦後も続く日本人気質だとすれば、それはこの低燃費車の販売状況にも表れている。そして買ってから「思ったより燃費が伸びない」と不満を言う人が多いのも残念なところだ。

 

クルマを選ぶ基準は燃費だけではない。燃費のために犠牲になっている部分があることをよく知り、それを納得した上で買って欲しいと思う。過熱する燃費競争を抑えるために、さらに燃費の測定基準を変えて、北米のような実燃費により近いシティモードなども導入してもらいたいものだ。それでもまあ、そこでまた数字の争いが起きるだけなのかもしれないが。

クルマのネットワーク化が進めば、実燃費のデータ収集もできるが、そこに至るまでにはまだまだ時間がかかりそう。今のように燃費の数字ばかりを追っていると、今後は燃費のいい量産モデル以外は売れない時代が来そうで、それが恐い。今でもエコカー減税対象にならないクルマは悲惨だが、このまま行くと日本車は量産車とマニアな少量生産車に二極化してしまいそうだ。それがやがて日本車が衰退していく原因になるのでは・・・・・・。杞憂であればいいのだが。


試乗車スペック
スズキ アルト エコ S
(0.66リッター直3・CVT・99万5000円)

●初年度登録:2011年12月●形式:DBA-HA35S ●全長3395mm×全幅1475mm×全高1520mm ●ホイールベース:2400mm ●最小回転半径:4.2m ●車重(車検証記載値):740kg(470+270) ●乗車定員:4名

●エンジン型式:R06A ●排気量・エンジン種類:658cc・直列3気筒DOHC・4バルブ・横置 ●ボア×ストローク:64.0×68.2mm ●圧縮比:11.0 ●最高出力:38kW(52ps)/6000rpm ●最大トルク:63Nm (6.4kgm)/4000rpm ●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/20L ●10・15モード燃費:32.0km/L ●JC08モード燃費:30.2km/L

●駆動方式:FF(前輪駆動) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット+コイル/後 I.T.L.(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)+コイル ●タイヤ:145/80R13 (Dunlop SP10) ●試乗車価格:-円  ※オプション:- -円 ●ボディカラー:リーフホワイト ●試乗距離:約530km ●試乗日:2012年2月 ●車両協力:スズキ株式会社

 
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