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カンナム スパイダー F3新車試乗記(第770回)

Can-Am Spyder F3

(1.33L 直3・6速MT/セミAT・199万8000円~)

バイクでもない。
クルマでもない。
カナダから来た
3輪バイクに試乗!

2015年09月26日

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キャラクター&開発コンセプト

カナダ生まれの“リバース型トライク”。日本上陸は2014年


日本では2014年に発売されたカンナム スパイダー RT

「カンナム(Can-Am) スパイダー」は、スノーモービルや水上バイクで世界トップシェアを誇り、カナダに本拠があるBRP(ボンバルディア・レクリエーショナル・プロダクツ)社の3輪モーターサイクル。

いわゆる「トライク」の一種だが、一般的なトライクのように2輪から派生したモデルではなく、前2輪、後ろ1輪の通称「リバース型トライク」と呼ばれるタイプであり、専用に設計されている。

同社がカンナム スパイダーを発表したのは2007年で、販売は2008年から北米でスタート。初代のエンジンはBRPの子会社であるロータックス社が開発し、アプリリアのバイクにも搭載された990cc V型2気筒だったが、日本では排ガス規制が通らず、試験的な導入に留まっていた。

しかし2014年モデルでは新開発のロータックス製1330cc 直列3気筒エンジンを採用したことで、晴れて日本の排ガス規制をクリア。これにより日本でも2014年1月から「RT」の販売が本格的にスタートしていた。

2015年には第2弾として「F3」も登場


2015年から登場したカンナム スパイダー F3
(photo:BRP)

さらに2015年には、RTのパワートレインや基本設計を受け継ぎながら、全く異なるデザインとキャラクターが与えられたニューモデル「F3」が第2弾として登場し、日本では5月に発売された。今回はRTに加えて、このF3を中心に試乗した。

なお、カンナム スパイダーの世界累計販売台数は、この7年間で約7万台。日本での累計販売台数(2014年1月~2015年8月)は、今のところRTを中心に約450台だという。国内の正規販売店は2015年9月現在、関東に7店、近畿に5店、東海に3店など計25店。

日本では4輪免許でOK


今回、メディア向け試乗会が行われた「Sea-Gets(シーゲッツ)」。名古屋市近郊でBRP社の水上バイク等を長年取り扱っている

カンナム スパイダーは日本では3輪車に区分されるため、一般的なトライク同様、普通自動車免許で乗ることが可能で、逆に自動二輪免許では乗ることができない。なお、海外では国・地域によって2輪免許が必要とされる場合もある。

また、安全上はヘルメット装着が推奨されるが、日本ではヘルメットなしでも法的には走行できる。高速道路での通行料金は軽自動車や2輪車と同じだが、制限速度は100km/hではなく、3輪車と同じ80km/hになる。

ボンバルディア社とBRP社について


(photo・BRP)

カナダ・モントリオールに本社があるBRP(Bombardier Recreational Products)社は、スノーモービル、水上バイク、ATV(全地形対応車)などの“パワースポーツ車両”を製造・開発するメーカー。

その起源はスノーモービルを発明したJ.A.ボンバルディア氏が1942年に創業したボンバルディア社にある。後に同社は航空宇宙や鉄道を主力事業とする一大コングロマリットに発展。その基礎を築いたスノーモービル(ブランド名は「Ski-Doo」)、世界で初めて座って乗るタイプとなった水上バイク(「Sea-Doo」)、ATVなどの事業は、2003年に別会社となったBRP社が担っている。2015年現在、BRP社の従業員数は約7100人とのこと。

なお、日本でのBRP製品の輸入販売は、BRP社の100%子会社であるBRP ジャパン(川崎市)が行っている。

 

なお、欧州オーストリアのエンジンメーカーであるロータックス社は、1960年代からボンバルディアにスノーモビール用エンジンの供給を開始した関係で、1970年頃にはボンバルディアが買収。現在はBRP社の傘下にある。BRP社の製品だけでなく、BMW、KTM、アプリリアなどの2輪にもロータックス製エンジンが使われている。

■外部リンク
BRP ジャパン
BRP ジャパン>スパイダー
BRP ロータックス(英語)

 

価格帯&グレード展開

カウル付き「RT」とネイキッドな「F3」の2モデルで展開


RT(左)と F3(右)

ラインナップは大きく分けて、2014年からある「RT」と2015年に新登場した「F3」の2種類。前者は電動フロントスクリーン、大型カウル、サイドケース、タンデムシート用バックレストを備えたツアラー(ツーリングモデル)で、後者は2輪で言えばネイキッドもしくはストリートファイター風のモデルになる。外観や装備だけでなく、フレーム等の設計も異なり、車重もF3の方が70kg以上軽くなる。

パワートレインは基本的に両者共通で、ロータックス製の1330cc 水冷直列3気筒(115ps、130Nm)。トランスミッションにはバイクと同じリターン式の6MTに加えて、RTとF3の上級グレードに6速セミATを用意している。いずれも全車にバックギアが備わる。

 

RTはパニアケースやリアトランクを標準装備し、計155Lの積載容量を持つ

ABS、トラクション コントロール、スタビリティ コントロール、パワーステアリングは全車標準。RTにはiPod接続ケーブル付AM/FMラジオやグリップヒーター、RTの上級グレード(RT-S、RT リミテッド)には電子制御式エアサスペンション(リア)が備わる。また、RT全車とF3の上級グレード「F3-S」にはクルーズコントロールが装備される。

2015年モデルのラインナップと価格(消費税8%込)は以下の通り。2輪車でライバルを挙げるなら、ホンダのゴールドウイング(1832ccの水平対向6気筒、240万8400円~)、BMWのK1600GT(1600cc 直列6気筒、285万円~)、ハーレーダビッドソンのトライク「トライクグライド ウルトラ」(1689cc V型2気筒、425万円~)あたりか。

■スパイダー RT
・RT (6MT)   233万8200円
・RT-S (6速セミAT)  295万9200円
・RT リミテッド (6速セミAT) 308万8800円

■スパイダー F3
・F3 (6MT)   199万8000円
・F3-S (6MT)  215万7840円
・F3-S (6速セミAT)  232万2000円

 

パッケージング&スタイル

バイクでもなければ、クルマでもない


(photo:BRP)

カウルやパニアケースといった装備のないF3のスタイリングは、真横から見るとスポーツバイクのようで、なんとなくドゥカティのディアベル風。鋼管製のロングスイングアーム、短く切り詰められたシートフレーム、スイングアームから伸びたアームで支持されるリアフェンダー&ナンバープレートなど、最新バイクのトレンドを上手に取り入れている。メインフレームは外から見えず、横からチラリと見える極太パイプはF3専用の補強パイプとのこと。低重心・ロースタイルを実現するため、フレームはRTと異なる専用設計になっている。

フロントから見ると、いわゆるノーズコーンとサイクルフェンダーを備えた顔がケータハム セブン風でもあるが、人間はオートバイのように車体中央にまたがるわけで、バイクでもクルマでもない、新ジャンル感が強い。

全長は大型バイク並み、全幅は軽自動車並み


オレンジのフレームは剛性アップ用で、メインフレームは外から見えない。後輪はハーレーのようにベルトドライブで駆動される

ボディサイズは、全長がだいたい大型の2輪車並み(4輪ならスマート並み)、全幅はF3なら軽自動車並み。F3のシート高は675mmで、バイクとしては極めて低いが、どちらにしても停車時に足を地面につく必要はまったくない(むしろ引きずられるのを防ぐため、足はつかない方がいい)。乾燥車重(燃料、オイル、冷却水などのない時の車重)はF3で386kg、RTで459kgあるが、バイクと違って倒れる心配がなく、バックギアもあるので、重くて困るということは基本的にはない。

各部の作りこみや仕上げはボンバルディアの名にふさわしく、200万から300万円クラスの輸入バイクと比べても申し分ないレベル。

 

写真はいずれもF3-SのセミAT仕様。左はオプションのフロントスクリーン付き

足を置く場所はRTのフットボードに対して、F3はステップになる。ステップの前後位置は工具を使って5段階で調整可能。ハンドルバーの形状もオプションで各種用意されている。
 

F3のリアシート下スペースはミニマムだが、ETCくらいならここに入る

フロントトランクは防水仕様で、もちろん施錠が可能。F3の場合、容量は24.4Lとミニマムだが(フルフェイスヘルメットは入らない)、オプションでパニアケース等を装着できる
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) シート高
(mm)
BMW K 1600 GT(2012~) 2324 1000 1440 1680 810~830
ホンダ ゴールドウイング (2011~) 2630 945 1525 1690 740
BRP カンナム スパイダー F3(2015~) 2642 1497 1099 1709 675
BRP カンナム スパイダー RT(2015~) 2667 1572 1510 1714 772
ハーレーダビッドソン トライグライド ウルトラ (2014~) 2670 1390 1430 1670 720
 

基本性能&ドライブフィール

走りだす前にレクチャーが必要

今回は名古屋市近郊にあるBRP正規販売店「シーゲッツ」で開催されたメディア向け試乗会で「F3」と「RT」の2台に試乗。後日「F3」を借りて、主に高速道路を試乗した。

試乗会では最初に、操作方法や特性について入念にレクチャーが行われた。これは4輪免許で運転できるとは言え、操作方法がクルマともバイクとも違うから。予備知識がなければ、エンジンすら掛けられないようになっている。これはおそらく、初心者が一般的なバイクやクルマの感覚で走りだしてしまうのを防ぐためだろう。

電動パーキングブレーキを装備


停車中にパドルシフトの「-(マイナス)」を押すとニュートラルに入る。また「R」ボタンを右手で押しながらパドルシフトの-を押すとリバースに入る

まず、始動方法。スタートボタンでエンジンを掛けるのはバイクと同じだが、キーを回してイグニッションをオンにした後、液晶ディスプレイでシステムの起動を確認し、ハンドル左の確認ボタン(ECOと書いてあるボタン)を押して初めて、スターターが回る(エンジン停止直後ならボタンを押すだけでエンジンが掛かる)。これがさっき言った一種の安全装置だろう。

もう一つバイクと違うのは、停車中に傾斜で動き出さないよう、パーキングブレーキがあること。しかも4輪でもまだ普及なかばの電動で、ボタンでオン/オフする。ただし、4輪用の電動パーキングブレーキと違ってオン/オフは自動では行われず、必ずボタン操作が必要。また、パーキングブレーキをかけずにイグニッションをオフにすると、警告音が鳴る。

 

ブレーキは右足で操作するフットブレーキのみ

最も注意が必要なのは、ブレーキは右足のフットブレーキのみで掛けるということ。バイクや自転車のように手で操作するブレーキレバーはないので、走り出す前に「足でブレーキ」を頭に叩き込んでおかないと、いざというときに慌てることになる。頭で理解するだけでなく、公道に出る前に、必ず安全なところでブレーキの練習を2、3回しておきたい。

なお、道交法上はヘルメットは不要だが、安全上はもちろん被った方がいいし、その方が快適。F3の場合は、雨風だけでなく、顔面に虫の直撃も受ける。もちろんグローブもあった方がいい。

セミATを選ばない理由はない


2眼タイプのアナログメーターと液晶ディスプレイを装備。表示言語は英語

15分程度の説明と低速での練習を終えて、さっそく公道へ。スターターボタンを押すと、ククククッとスターターが回って、バオン!とエンジンが目覚める。もちろんインジェクションで、スロットルも電子制御になる。

セミAT車の場合、パドルシフトの+(プラス)を押すと、バイク的にガシャッと1速に入る。クリープはないが、スロットルを開けると4輪のセミAT車のようにスムーズに発進。レスポンスが鋭いので、不用意にワイドオープンしないよう、少し注意が必要。

MT仕様には、左足先にリターン式のシフトペダルが備わるが、セミAT仕様はクラッチレバーも、チェンジペダルもない。構造的にはリターン式ミッションに電子制御アクチュエーターを加えたものだ。バイク用のリターン式ミッションはいわゆるシーケルシャル式なので、構造的に変速が速く、セミATとの相性は抜群。シフトダウン時には3気筒らしいブホッという野太い音でブリッピングし、瞬時にギアを切り替える。また、シフトアップの際にはスロットルを戻す必要はなく、開けたままパドル操作すればポンポンとシフトアップしていく。よほどのMT好き以外はセミATを選ぶだろうと思うほど、完成度は高い。

 

ただし自動でやってくれるのはシフトダウンのみで、シフトアップは手動のみ。このあたりの感覚は、4輪で言えばセミAT車をマニュアルモードで走らせる時に近い。ちなみにハンドル左の「ECO」ボタンは、燃費のためシフトアップインジケーターを表示させるもので、エンジンやミッションのプログラムがエコモードになるわけではない。

バックする場合は、停車中に右手で左スイッチボックスの「R」と書いてあるボタンを押しながら、左手の指でパドルシフトの「-(マイナス)」側を押すと、ガチャンとリバースに入る。また、停車中に単にパドルシフトの「-」側を軽く押してやるとニュートラルに入る。ややこしいが、これも何度かやっているうちに慣れてくる。

1330cc トリプルでズドン!と加速


RTのタンデムシートにも30分ほど同乗。こちらは丸一日乗ってられそうなほど快適だった

エンジンはスパイダー専用に開発されたロータックス製の1330cc 直列3気筒。最高出力は115ps/7250rpm、最大トルクは130Nm/5000rpmと排気量相応にパワフルで、なおかつ初心者でも扱いやすいウルトラフラットなトルクが自慢。

セミATの場合は、大人しく走っているとエンジン回転が2000rpmまで落ちるが、そこからでもスロットルをひねれば、望むだけのパワーとトルクが湧き出て、7000rpmオーバーまで回り切る。が、そこまで回さなくても十二分に速いし、人間の方が先にギブアップする。濡れた路面なら、1輪しかない後輪を軽々とホイールスピンさせながら加速する(トラクションコントロールは、縦方向のスピンについては割と許容する)。1000ccクラスのバイクほど速くはないが、これ以上のパワーは全く必要ないと思った。

ちなみにRTになると、車重が80kgほど増えるほか、乗車ポジションや足回りのセッティングも含めて、F3より全体にマイルドな印象になる。トラクションコントロールの介入もF3より若干早い設定のようだ。

「ハンドルを切って」曲がるべし


フロントサスペンションは絵に描いたようなA型アームのダブルウイッシュボーン。ダンパーはオフロードバイクやマウンテンバイク用のサスペンションで有名なFOX製(FOX PODIUM)。
(photo:BRP)

独特なのはコーナリングで、先に書いたように車体を傾けて、ではなく、ハンドルを切って曲がるわけだが、面食らうのはハンドル操作に対する反応がドキッとするほどダイレクトなこと。バーハンドルは90度ほどしか曲がらないから、4輪風に言えばロック to ロックは約1/4回転。車線変更でも敏感に反応するので、慣れるまではかなり気を使う。BRP社や販社のスタッフ、そしてオーナーによると、これには必ず慣れるというが、今回は最後まで会得できなかった。3日間くらい乗ってみたくなる。

ちなみにこのバーハンドルは速度感応式の電子制御パワステで、歩くぐらいの低速ではかなり重いが、速度が出ると軽くなる。パワステ付きバーハンドルという存在は初めて知ったが、おそらくATVなどでは珍しくない技術なのだろう。

 

リアサスは鋼管スイングアーム+SACHS製モノショック。駆動はベルトドライブで行う

また、バイクのように体重をイン側に寄せて曲がるわけではないが、コーナリングスピードを上げていくと、4輪車的に横G(遠心力)が大きくなるため、体を外にもっていかれないよう、結果的にはバイクのようにハングオン?することになる。ただしバーハンドルは切り続ける必要があるので、イン側の腕はコンパクトに畳み、アウト側の腕は伸ばす感じ。さらにコーナーの立ち上がりでスロットルをワイドオープンすれば、リアを軽く流すこともできる。どうやればスムーズに曲がれるか、体だけでなく頭もけっこう使う。

フロントブレーキはブレンボ製で、例のブレーキペダルを踏めば3輪同時に作動。さらにBOSCHと共同開発したABSとスタビリティコントロールが備わる。こうした電制デバイスは実効性以上に、精神的に心強い。

ちなみにタイヤサイズは(F3とRTで共通)、前輪は165/55R15と割と一般的だが、後輪は225/50R15と特殊。フロントはあまり減らないが、リアは1万km程度で交換することが多いという。工場装着タイヤは台湾のKenda製だった。

クルーズコントロールで高速巡航も快適

後日、晴れた日にF3で高速道路も走ってみた。バイクのようなヒラヒラとした軽快感はないが、風を全身に受けて走る感覚はバイクと同じ。前述のようにハンドル操作がダイレクトで、直進安定性は独特だが、慣れればバイク以上に安定感があるという。

また、RTとF3-Sには電子制御式クルーズコントロールが備わり、それを使うと格段にリラックスして巡航できる。F3の標準グレード(MTのみ)にはないが、ロングツーリングするなら欲しい装備だと思った。

 

F3の乗車ポジションは低めのシートに座り、足を前に投げ出クルーザー風
(photo:BRP)

100km/h巡航時のエンジン回転数は6速トップで3200rpm。法定速度の80km/hなら2500~2600rpmといったところか。最高速は発表されていないが、車重が軽いF3なら200km/hくらいとのこと。ただ、F3の場合は、上半身に向かい風がダイレクトに当たるため、高速域ではカウルのないバイク同様、風圧との戦いになる。オプションのロングスクリーンが欲しくなる。

ちなみに大型のフェアリングを持つRTなら、真冬でもほとんど寒さを感じず、高速で700kmほど一気に走ってもバイクより圧倒的に疲労が少ないとのこと。標準装備のグリップヒーターも「Low」でいいくらい強力だという。ボンバルディアがスノーモービルで始まった会社ということもあり、寒さ対策は入念なようだ。

 

燃費はほぼバイク並み。タンク容量は27L

今回は試乗パターンが変則的で、車載燃費計もないため、試乗燃費はとらなかったが、BRPのスタッフやスパイダーのオーナーによると、街乗りで15~17km/Lくらい、ツーリングで17~22km/Lくらいとのこと。つまり大排気量のバイクと大差ない感じ。

それでいて燃料タンクはF3が26L、RTが25.5Lと、一般的なバイクより大容量。航続距離は短めに見積もっても400km前後はありそうだ。指定燃料はハイオクになる。

 

YouTube>Can-Am Spyder F3
 

ここがイイ

転ばないこと。全く新しい操縦感覚。セミATの完成度

まず、バイク乗りの目線で言えば、絶対に“立ちごけ”しないこと。そして転倒する可能性が極めて低いこと。おそらくATVで培ったノウハウも活かされているのだろう、優れた車体設計に加えて、トラクションコントロールやスタビリティコントロールといった電子制御デバイスにより、4輪並みの操縦安定性が確保されている。

それでいて2輪のような爽快感やマシンとの一体感を、4輪免許で味わえるのがいい。そして2輪にはない安心感、安定性、利便性も備えている。2輪も4輪も機械的には成熟しきった感が強いが、ここに来てフロント2輪、リア1輪の3輪とすることで、2輪とも4輪とも異なる、まったく新しい感覚の乗り物が出てきたことが、純粋に面白い。

セミATの完成度。バイク用ミッションとセミATの相性はとても良く、アップもダウンも一瞬で決まる。2輪の場合、一瞬でもトルク切れがあると旋回中の操縦性に影響するので、この手のセミATはあまり採用されないが(CVTやDCTはある)、カンナム スパイダーはセミATでもまったく問題はない。

ここがダメ

ブレーキのタッチ、高速道路の法定速度


フロントブレーキはブレンボ製の4ピストン・ラジアルマウント式

メカニズム的に「ここがダメ」という部分はないと思えるほど完成度は高いが、あえて言えばブレーキのタッチだろうか。ノンサーボでもあるせいか、4輪のブレーキと比べて、あるいは右手で操作する2輪と比べても、初期タッチの遊びが多く、コーナーの手前で制動力を調整するのが難しかった。効き自体は問題ないが、もう少しコントローラブルだと操る楽しさが深まると思う。なお、社外品では主に足が不自由な人向けに、手で操作するブレーキレバーのキットもあるらしい。

ウインカーはバイクのような、左手の指で操作するプッシュキャンセル式(オートキャンセラー付)。スイッチに節度感がなく、位置も微妙で、何度か間違えてホーンを鳴らしてしまった。出しっぱなしを防ぐオートキャンセラーが付いていたが(試乗中は気づかず、ずっと手動でキャンセルしていた)、F3の場合はメーター内のウインカーインジケーター照明が小さくて暗く、特に日中は見にくいのが気になった。

車両自体の問題ではないが、日本では高速道路の制限速度が80km/hであること。2輪や軽自動車の制限速度は2000年に80km/hから100km/hに引き上げられたが、当時は高性能な3輪車がほとんど存在しなかったせいだろう、3輪車は80km/hのまま据え置かれたようだ。この制限速度はカンナム スパイダーの性能にまったく見合っていないし、実際の流れにのれないと、かえって危険だと思う(軽や2輪の制限速度が100km/hになったのもそのため)。急な法改正は難しいと思うので、現場には柔軟な対応を期待したいものだが。

所有するにあたって悩むのは、車庫証明は不要でも、屋根付きガレージがやはり欲しいことか。また、出先でも4輪並みの駐車スペースが必要になる。ただしバックを駆使すれば小回りがかなり効くので、狭い場所への駐車は容易だ。

総合評価

簡単に乗りこなせない面白さ

日本では2014年に上陸したばかりのカンナム スパイダーだが、先に発売されたRTを中心に、すでに450台以上が売れたという。オーナー像は様々なようだが、やはり2輪経験者が多いようで、例えば長年ホンダのゴールドウイングやハーレーのツーリングモデルに乗ってきたライダーの乗り換えがあるという。F3はともかく、RTならば積載性や装備はゴールドウイングやハーレーに遜色ないし、なおかつ3輪なので立ちごけの心配がない。そして乗ってみると面白い。バイクの重さが気になってきたベテランライダーが飛びつくケースは確かに多そうだ。

また、今回の取材では、BMWのGS(大型デュアルパーパスモデル)から、F3へ乗り換えた方にも話を聞いた。購入から約3ヶ月で、すでに北海道ツーリングを含めて4500kmほど走ったという。BMWという完成度の高いバイクに乗ってきたユーザーが「乗れば乗るほど面白い」、「コーナリングは独特だが、乗っているうちに慣れる。慣れれば直進安定性も高く、コーナリングも面白い」「これからもずっと乗り続ける」と話していたのが印象的だった。

 

「乗れば乗るほど面白い」というのは、つまり4輪にも2輪にもない新しい面白さがある、ということだろう。実際、今回の試乗でも、距離にすれば100kmほどだが、少しは感覚をつかめたかな、と思えたに過ぎない。普通に走るだけなら割とイージーだが(事前にレクチャーは必要)、慣れ親しんだ4輪や2輪のように乗りこなすのはなかなか。だから、もう少し乗ってみたいと思ってしまう。

これは初めて4輪や2輪に乗った時の感覚とよく似ている。4輪も2輪も、最初から自在に乗りこなせたという人はほとんどいなくて、誰もが最初は難しさに戸惑ったはずだ。公道で経験を積んでいくうちに、個人差はあれ、徐々に上手くなり、面白さを感じるようになったと思う。

そんな忘れていた感覚をカンナム スパイダーは思い出させてくれる。バーハンドルを握り、右手でスロットルをひねり、風を浴びて走るという点は2輪と同じなので、2輪経験者の方が若干とっつきやすいと思うが、それ以外はことごとく2輪とは違う。ある意味、誰にとってもほぼゼロスタートの乗り物と言えるかもしれない。

パーソナルな「新しい乗り物」の可能性

1980年代のバイクブームははるか過去のことになり、今や30代以下の層に50cc以上のバイクは縁遠いものだろう。2輪免許の習得にはお金も時間もかかるし、4輪にはない難しさもある。魅力的なニューモデルは出てきているが、決して安い買い物ではないし、任意保険も4輪とは別で、特に若い人は高い。そしてなによりリスクが高い乗り物でもある。それらが敷居の高さになっているのが、2輪という乗り物の宿命であり、2輪業界にとっての永遠の課題にもなっている。

今回のカンナム スパイダーも決してイージーな乗り物ではない。操縦性は独特だし、走行中は風雨にさらされる。バイク未経験者がスパイダーF3で高速道路を走ったら、あまりのスピード感、あまりの無防備さ、あまりの風圧に驚くだろう。

しかし、そういったバイクならではの体験が、最新の車体設計や電子制御デバイスでバックアップされた形で、4輪免許しかない人でも比較的ローリスクで味わえる。大げさに言えば、より高い安全性が求められている2輪の新しい方向性の一つを示しているとも思えるし、現代の4輪が失いつつある「操る歓び」を生々しく体験できる乗り物でもある。

 

こうした3輪バイク市場が今後、日本でどのくらい伸びるかは分からないが、「トライク」の主流がこうした前2輪タイプに変わっていく可能性は大いにある。また、トヨタの3輪EV「i-Road」(こちらは2輪のようにリーンして曲がる)をはじめ、日本の各メーカーが公道で走らせているマイクロEVを見ても分かるように、今後は超パーソナルでエコな乗り物が都市部だけでなく、郊外でも増えていく可能性は大きい。

そして高齢化が急速に進む日本で、免許の返上を考えるようになった高齢者がプライドを持って実用的に使える「新しい乗り物」が必要とされる時代は、もうやって来ている。体力的に好きなバイクには乗れないし、クルマは大きすぎるし面白くないし、となった時、日々の足として乗れるファンなマイクロカー。そんな可能性も見た、今回のカンナム スパイダーだった。

 

試乗車スペック
カンナム スパイダー F3-S
(1.33L 直3・6速セミAT・232万2000円)

●初年度登録:2015年2月 ●形式:-
●全長2642mm×全幅1497mm×全高1099mm
●ホイールベース:1709mm
●シート高:675mm
●乾燥重量:386kg
●乗車定員:2名

●排気量:1330cc
●エンジン種類:直列3気筒・DOHC・4バルブ・横置
●ボア×ストローク:84.0×80.0mm
●最高出力:86kW(115ps)/7250rpm
●最大トルク:130Nm (13.3kgm)/5000rpm
●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/27L

●トランスミッション:6速セミAT(+リバース)
●JC08モード燃費:-km/L

●駆動方式:ベルトドライブ・後輪駆動
●サスペンション形式(前):アンチロールバー付きダブルAアーム+コイルスプリング
●サスペンション型式(後):スイングアーム+コイルスプリング
●タイヤ:前 165/55R15(Kenda Radial KR31)、後 225/50R15(Kenda Radial KR21)


●試乗距離:-km ●試乗日:2015年9月
●車両協力:BRP Japan有限会社シーゲッツ(愛知県尾張旭市)

 
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