Published by DAYS since 1997 from Nagoya, Japan. 名古屋から全国に発信する新車試乗記や不定期コラム、クルマ情報サイト

ホーム > 新車試乗記 > ポルシェ カイエン S

ポルシェ カイエン S新車試乗記(第277回)

Porsche Cayenne S

(4.5リッター・6AT・860万円)

photo_s.jpg

2003年07月19日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加 
  • mixiチェック
 
 
 

キャラクター&開発コンセプト

ポルシェ初のSUV、初の4ドア

創業時から「スポーツカー専業」が看板だったポルシェ。1990年前後から本格的にマーケティング主導型の経営に転換し、ボクスターや水冷化された911(996型)を投入、一転して高収益型企業に変身した。今回発売されたニューモデル「カイエン」はその流れにある第3のポルシェだ。ポルシェにとって最も重要な市場である北米を狙った超高性能・超高速SUVだ。同社にとっては初の4ドア、5人乗りとなる。

「次世代ポルシェ」

「究極のオフロードカー」であり「ポルシェ初のファミリーカー」でもあるカイエンを、ポルシェ自身は「次世代ポルシェ」と呼ぶ。現在、自動車産業全体は脱スピード、脱スポーツカーの流れにあり、そんな中でスポーツ性とプレミアム性を維持しつつ販売台数を確保できる SUVはスポーツカー依存体質を脱したいポルシェにとって、有効な選択肢だ。

カイエン投入により、目下ポルシェは生産規模を従来の1.5倍に拡大する予定。ボディはVW工場のトゥアレグと同じ生産ラインで製作された後、ライプツィヒのポルシェ工場に送られ、そこでツェッフェンハウゼン本社製の自製エンジンとドッキングする。

カイエンの名の由来は世界各地の「痛快」「冒険心」などを表す言葉だという。ちなみに英語でcayenneと言えば、普通はカイエン・ペッパー(唐辛子の一種)のことだ。

価格帯&グレード展開

S(860万円)とターボ(1250万円)

ラインナップはカイエンS(860万円)とカイエン ターボ(1250万円)の2種類。1.5倍、390万円の価格差は、1.3倍の馬力、1.5倍のトルク、エアサスペンション、各種豪華装備で説明される。

S、ターボともに左右ハンドルを用意。オプションの幅が広いので、Sの装備をほとんどターボ並みにすることも可能だ。来年には6速マニュアルの導入も予定されている。

ちなみにトゥアレグはV6(220ps)が495万円、V8(310ps)が645万円。カイエンとトゥアレグをV8同士で比べると、その差は215万円だ。

パッケージング&スタイル

大型だが、威圧感なし

全長4800mm×全幅1950mm×全高1700mmのサイズは、先日試乗したボルボ XC90と長さは全く同じで、幅は50mmワイド。一方で全高は低く、トヨタ・ハリアーに近い。ボディサイズ自体は確かに大きいが、背の低さや滑らかなスタイルが手伝って、実際にはそれほど威圧感はない。 911をリフトアップしたようなフロントデザインは独特で、ポルシェらしいと言えばらしいところ。リアデザインはややのっぺりした印象を受ける。

期待以上のフィニッシュ

サイズがサイズだけに、室内の広さは5人乗りとして十分だ。2メートル近いボディ幅ゆえ、横方向の広さが印象的。ポルシェ(一世代前以上)と言えば、よく言えばタイト、悪く言えば前時代的な閉所感が特徴だが、カイエンはそういう点で別物で、ライバル車と比べても居心地は上々だ。

 

初期の996やボクスターでやや無頓着だった室内の質感だが、試乗したカイエンのクオリティは期待以上に高かった。本革とレザレット(合成皮革)の内装は、見た目、手触りとも悪くない。唯一ケチが付けられるのは、天井のサングラスホルダーを開けた時に「ねじりバネ」が露出する点くらいか。国産・輸入車を問わず、普通なら絶対隠すものだが、これぐらいあっけらかんとしているとかえってカワイイ。

 

ついでに重箱の隅をつつくと、要所要所のシルバーに塗られた樹脂パーツの質感は今ひとつ。アウディTTなどが使う本物のアルミパーツに比べると見劣りする。ただし、カイエン ターボの場合は、アルミトリムが標準で、カイエンSでも12万円の工場オプションで装着できる。

後席の形状と荷室の使い勝手は要チェック

空間自体は3人掛けも問題ない後席だが、お尻の部分が落ち込んだタイプのシートは人によって窮屈な感じを受けそう。ポルシェとしては初の3人がけリアシートとなる。

 

荷室も広い。しかし、全面跳ね上げ式リアゲートは巨大で、小柄な女性だと閉めるのはたいへんだ。ガラス部分だけの開閉も可能だが、こちらもそうとう背が高くないと閉めるときに手が届かない。開口部が高いので荷物を出すのも困難だ。

また、試乗車は強めに締めないと一発でゲートが閉まらなかった。国産車に装備の多いオートクロージャー機構が欲しい。と思ったら、カイエンでも「エレクトリカル・コンフォートパッケージ」(14万円)を選べば装備される。

基本性能&ドライブフィール

意外に優れた取り回し

試乗したのはカイエン S。左ハンドルにこの巨体ということで少し気後れするカイエンだが、意外にも運転はしやすい。左右フェンダーの峰がちゃんと見えるほど、視界も見切りも優れている。この「峰が見える」というのがポルシェ流だ。狭い裏道で緊張するのは、これが高価なポルシェだからであって、運転のしやすさ自体は国産の大型ミニバンやSUVと変わらないだろう。電動調整できるポジションの自由度もとても高い。

「V8・4.5リッター」を忘れさせるポルシェ製V8

エンジンはポルシェ自製の4.5リッターV型8気筒。カイエンSは自然吸気(340ps)、カイエンターボはツインターボ(450ps)となる。トゥアレグにもV8が用意されるが、その4.2リッターV8・5バルブ(310ps)はアウディA8に採用済みのもので、カイエンのエンジンと直接の繋がりはない。

試乗したカイエンSの340ps、42.8kgmの「バリオカム」付き4.5リッターV型8気筒エンジンは、全回転域で滑らか。シュワーーーンと気持ちよく回る。だから「ブイハチ」であることや4.5リッターという排気量は、すぐに忘れる。目線だけ異様に高くした4.0リッタークラスのセダン(Eクラスやセルシオ?)みたいと言えば近いか。圧縮比は11.5と高く、潤滑方式はレーシングカーのようなドライサンプ(これまたポルシェ流)を採用して低重心化されている。

2430kgという超重量級ボディのおかげで、俊敏に、とはいかない。が、それでもカタログ上の最高速は 242km/h。SUVとしてはBMW・X5の最強モデル4.6is(347ps、1070万円)に並ぶ圧倒的な性能だ。静粛性もまったく問題なし。あえて物足りない点があるとすれば、911のような濃厚な「ポルシェらしさ」が特に感じられないところぐらいか。

ちなみに、カタログに記載されるカイエンターボの最高速は266km/h。ついでにボクスター2.7(AT)は248km/hで、911カレラ2(AT)は280km/h。カイエンの車両重量がこれらのほぼ倍であることを考えると、その動力性能の凄まじさがよく分かる。

シャシーと駆動系はトァアレグと共有するが、ユサユサしない

プラットフォームと駆動系は、VW・トゥアレグ(日本では2003年9月発売)と共有し、両車共に日本のアイシンAW製・6速ATを搭載する。本格オフロード走行に備えてローギアモードを備える点も同じだ。

4WDシステムに関しては、歴代911の場合はビスカスカップリングを使ってきたが、カイエンおよびトゥアレグは、共にこのクラスに多い多板クラッチ式・電子制御フルタイム4WDを採用。カイエンの場合は、前38:後62をベースに、0:100から100:0までのトルク配分を変化させ、さらに各種電子制御デバイスと協調してオンからオフまでの走行性能を確保している。

実際に幹線道路を流した時の印象は、あくまでSUVっぽいトゥアレグと異なり、かなりスポーティ。SUVにありがちな、ユサユサ感がまったくないのが気持ちいい。ボディ剛性が高くないと、こういうフィーリングは無理だろう。また操作系の重さも適度で、快適に運転できる。

2430kgを忘れるハンドリング

エアサスが標準のターボと異なり、カイエンSの足まわりはコイル&ダンパー。各専門誌ではカイエンS(バネサス仕様)の乗り心地の悪さが指摘されているが、正直言って今回の試乗車の場合は、乗り心地が気になることは一度もなかった。SUV、18インチの大径タイヤ、ポルシェというイメージからすれば、これも予想以上だった。

高いボディ剛性のせいか、ハンドリングは「え?」と思うほどシャープ。「911のようにソリッド」とは言えないが、普通のSUVとは一線を画すもので、車高の割にロールもかなり少ない。一瞬「新型レガシィみたい」と思ってしまったほどだ。車高を変えられるエアサスはオフロード走行時に有利だが、舗装路では自然なフィーリングのバネサスにデメリットは感じなかった。

ただし、2.4トンという重量は常に頭に入れておく必要がある。サスペンションも基本的にはソフトなので、素早く、大きな操作は受け付けない。ただ、限界はそうとう高いので電子制御デバイス「PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム)」(ESPとかVSC と同じ)が介入することはほとんどなく、介入マナーもごく自然だった。

なお、エアサス仕様は最低地上高157mm~273mmまで計6段階で車高を選択可能。最大で水深555mmの渡河性能を持つ。操縦性や乗り心地のバランスもワンランク上がるはずだ。

タイヤもブレーキも特選品

装着タイヤはブリヂストンの海外メーカー向けロードタイヤのTURANZA ER30。運動性能と快適性を狙ったタイヤで、実際に静粛性、乗り心地、グリップなど、そうとう高性能という感じ。カイエンターボには275/45ZR19のピレリ P-zero ロッソや、275/40R20という途方もないサイズがオプションで用意される。

ブレーキは、フロントに6ピストン・モノブロックキャリパーと超豪華(ターボも形式は同じ)。2.4トンのクルマを難なく止める。ポルシェならではの巌のような剛性感やグッと腰を落とすかのような安定感はないが、一般路ならストッピングパワーも含めて性能は十分だろう。

ここがイイ

これはもう「走りの楽しさ」につきる。「これでもSUVなの」というくらいのスポーティさは、ポルシェファンを自負する人が乗っても納得できるところ。コーナーでの素直さはポルシェの4WDに対するセオリー通りで、軽く吹け上がるエンジンは、V8のイメージを覆すレスポンスの良さが快感。乗る前の「ポルシェのワゴンねぇ」という否定的なイメージは一発で消し飛んでしまった。実に楽しいクルマだ。

911譲りのステアリングシフトスイッチは限りなく使いやすいし、Dモードからでもスイッチ操作すればしばらくマニュアルモードに変わる仕掛けも911同様。これを使いながらのオンロード走行は、よくある台詞だが「SUVであることを忘れさせる」もの。高速巡航能力はアウトバーンでも流れをリードできるはずのものだし、先行車がバックミラーで見る姿は911そっくりだから、容易に進路を譲ってもらえる。オフロードは走っていないが、おそらく並のオフロード4WD程度(あるいはそれ以上?)の性能のはずゆえ、舗装路しか(しかも相当フラットな舗装路しか)快適に走れない 911に比べれば、乗り物としての総合性能は圧倒的に上だ。

また先にショーモデルとして日本へ入ってきたカイエンは、内装の質感の低さにがっかりしたものだが、さすがにこの市販モデルでは大幅に改善されており、ほとんど不満のないものとなっていた。

ここがダメ

ターボは残念ながら乗っていないが、カイエンSでは低速トルクがもう少し厚いと市街地走行でのスムーズネスがさらに向上すると思った。

また楽しいことを含め、ついエンジンを回し気味にしてしまうのは、燃費面を含めてちょっと辛い。ユーロモードの燃費は約6.4km/Lだが、感覚的には4km/Lといったところ。まあ、このクルマを買う人で燃費を気にする人は少ないとは思うが。燃料タンクは100リッターとポルシェらしくデカいので、航続距離は十分だ。

内装の質は悪くないものの、シフトレバーまわりがガタガタしていたのは興ざめ。個体の問題であればいいのだが。またリアシートは小柄な日本人にはちょっと尻になじまない。背もたれの角度が調節できるといい。

総合評価

911DAYSという雑誌を発行しているくらいで、911が大変身近な存在である我々には、カイエンを自分の中でどう位置づけるか、が課題だった。心の中で「ポルシェはスポーツカーメーカーなのだからこんなSUVを作るべきではない」と保守派が主張すると、「いや、(ほとんどが失敗だったものの)時代に応じたクルマを作ってきたのがポルシェの伝統なのだから、カイエンも積極的に評価すべき」という革新派が反論する。さらに「この厳しい自動車業界でポルシェというメーカーが生き残って911を作り続けるには、カイエンのようなクルマも必要だ」と現実派が意見を述べる、という具合で、乗る前はケンケンガクガク。

しかし乗ってみたら、これが全然悪くない。いや、明らかに走りが楽しいという点ではこれまで乗ったSUVとは一線を画す出来で、かなり欲しくなってしまったほど。こうなると、ケンケンガクガクも少し治まってきて、「世界の高級車メーカーが戦う北米市場で、ドイツの弱小メーカーであるポルシェがフォルクスワーゲンの車体をベースにポルシェというブランド力のスパイスをきかせた売れ筋のクルマ(SUV)を作り、そのクルマにスポーティさという伝統の味を持たせ、少しプレミアムな価格で高い利益を得ていくことは、弱肉強食の資本主義のなかでアイデンティティを維持していくための正しい姿ではないか」と思うようになってきた。

考えてみればポルシェは、VWとの関係がかなり深いものの、どこのグループにも所属していない実に貴重な弱小メーカーだ。スバルと比較されることも多いが、スバルはすでにGMグループ。タイ製ザフィーラをトラヴィックとして売っているくらいで、スタンドアローンのメーカーではない。ポルシェのような弱小メーカーがけなげに新型車を出し、その出来がイイとなれば、素直に褒めていいのではないか。

むろんスポーツカー好きとして、そしてポルシェ好きとしては、SUVではなくスポーツカーが欲しいと思う。しかし、スーパースポーツというジャンルがすでに古いタイプであることも、モーターデイズとしてはわかっているつもりだ。ポルシェのSUVたるカイエンは、北米市場におもねるクルマでなく、ポルシェが新たなクルマ様式として積極的にSUVを選んだものであると信じたい。1989年に911に4WDが設定されて以来、今日の911ターボに至るまで、ポルシェは4WDをスポーツカーのあるべき姿として開発し続けてきた。ティプトロニックも同様。世界のどんなスポーツカーメーカーより、ATで4WDなスポーツカーを積極開発してきたのはポルシェだ。それが5人乗れるクルマとして結実したものがカイエンだと思いたい。

以前、どんな道でも走りまわれて、スポーツカー並に走り、広くて安全で快適なクルマ、つまりスポーティなSUVこそが現代のスーパーカーなのではないかと書いたが、かつてのスーパーカー・メーカーでそんなSUVを作ったのはポルシェだけだ。カイエンはポルシェ独特のスポーツカー作りの結晶であるともいえるだろう。カイエンこそ21世紀型のスーパーカーだ。

そして何より評価すべきはポルシェで初めての5人乗れるスポーツカーだと言うこと。初代VWビートルを設計したポルシェ博士が生きていたなら、とうとう私の望んでいたクルマができあがった、と涙するかもしれない。911もしくはボクスターとこのカイエンがあれば、カーライフをポルシェだけで完結できる。それができるお金持ちになりたいものだ。

試乗車スペック
ポルシェ カイエン S
(4.5リッター・6AT・860万円)

●形式:GH-9PA00●全長4800mm×全幅1950mm×全高1700mm●ホイールベース:2855mm●車重(車検証記載値):2430kg(F:1320+R:1110)●エンジン型式:-●4510cc・DOHC・4バルブ・V型8気筒・縦置●340ps (250kW)/6000rpm、42.8kgm (420Nm)/2500-5500rpm●使用燃料:プレミアムガソリン●10・15モード燃費:ーkm/L●駆動方式:電子制御フルタイム4WD●タイヤ:255/55R18(Bridgestone Turanza ER30)●価格:860万円(試乗車:-万円 ※オプション:BOSEサラウンドシステム 21万円、バイキセノンヘッドライト 20万円、電動サンルーフ 19万円、メタリック塗装 14万円、前席シート&ステアリングヒーター 7万円 など)

公式サイト http://www.porsche.co.jp/cayenne/cayennes/default.htm

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加 
  • mixiチェック
 
 
 
 

最近の試乗記一覧