キャラクター&開発コンセプト
190の跡を継いだコンパクトセダンの2代目
日本でいうところの5ナンバーサイズにも収まった小型セダンの190シリーズの後を受け、1993年に登場したのがCクラスだ。その後に登場したAクラスによってベンツのボトム・ポジションは卒業したものの、メルセデスセダンのエントリーモデルとして、また身近な高級ブランドカーとして幅広い層に支持されている。
その初代の登場から7年ぶり、初のフルモデルチェンジによって登場したのが2代目となる今回の新型Cクラスだ。キーワードは「スポーティー&エレガンス」。スタイリング、インテリアともにそれまでのコンサバなものから一転してスポーティーなものとなり、Eクラスから始まった新しい、アバンギャルドなベンツ像を踏襲する。なお、駆動方式はFRで、乗車定員は5名となる。
価格帯&グレード展開
価格帯はクラウンクラス。右ハンドル仕様は南アフリカ産
日本仕様のグレードは2リッター直4の「C180」、そのスーパーチャージャー付きの「C200コンプレッサー」、2.6リッターV6の「C240」の3本立てで、エンジンの排気量とグレードの数字がバラバラ。かつてのベンツとは異なり、数字は排気量を表すというより、キャラクターを表すものとなっている。
価格は「C180」が戦略的な値付けで390万円。「C200コンプレッサー」が450万円、「C240」が500万円。装備面では先代のように「エレガンス」など装備の差別化を図ったサブグレード分けはない。ベーシックな「C180」でもオートAC、フォグランプ、クルーズコントロール、パワーシートなどを標準化し、装備はかなり充実している。特に安全装備に関してはメルセデスらしく一切の妥協は無く、計8つのエアバッグ、ブレーキアシスト、ABS、ESPなどがグレードに関係なく標準化される。
さらに「C200コンプレッサー」にはアルミホイール、本革ステアリング&シフトノブ、電動チルト&テレスコピックステアリングが加わり、本革シートと電動サンルーフもオプションでチョイスできるようになる。「C240」ではこれらにレインセンサー、6連奏CDチェンジャーが加わる。
ハンドル位置はC180が右仕様のみで、あとは左ハンドルも併設される。ここで注目したいのが生産国。左ハンドル仕様は従来と同じドイツ工場で生産されるが、右ハンドル仕様は昨年夏頃に立ち上がったばかりの南アフリカ工場で生産されるのだ。そう聞いてクオリティを心配する人も出てきそうだが、ダイムラークライスラーは「品質はどちらも変わりない」と自身たっぷり。でも右ハンドル仕様の「C180」だけが遅れて12月発売だったという事実は確かにある。
パッケージング&スタイル
涙目でユーザーを引きつける印象的な顔つき
Sクラスあたりから始まったメルセデスのエモーショナルなデザインは、質実剛健だったメルセデス像にスポーティーなイメージをもたらし、新しい方向性を与えたわけだが、新型Cクラスもその流れをくんだ作品だ。一見、先代よりも大きく見えるが、見た目の印象と異なり、数値の上ではほとんど変わっていない。ボディサイズは全長4535mm×全幅1730mm×全高1425mm、ホイールベース2715mmと先代比はそれぞれ+10mm、+10mm、+5mm、+25mmとなる。
全体的なデザインは完全にSクラスを踏襲したもの。というか、そっくり。ドアミラー上のウインカー、ルーフライン等、随所に共通点を見つけることができる。特に印象に残るのは「涙目」のヘッドライトだろう。全体が流れるようなデザインに変更されたために、空力特性も大幅に改善されたことも特筆すべき点。Cd値は先代の0.30~0.32から、0.26というたいへん優秀な数値へと変わっている。
ここ数年にリリースされた新しいメルセデスのクルマは、デビュー当初、デザインに関してとにかく物議が醸し出されたが、こと新型Cクラスにはそれがあまり聞かれない。これはEクラスやSクラスのデザインがすでに多くのユーザーに認められて定着したということの裏付けだろう。国産車のようにちょっと変えると「奇抜なだけ」と切り捨てられることもなく、ベンツらしいといわれてしまうメルセデスのデザイン力…、というかブランド力にはやはり脱帽だ。
包まれ感が強くなったのは、スポーティーさをあえて強調したため?
インテリアも先代とは全く違う。重厚な雰囲気から一転してカジュアルな方向性が与えられている。インパネは一体式から、高度な組立精度を必要としない上下2分割式の構造となっている。気になる品質に関してだが、現行Eクラス以降、コストを重視したために「安っぽくなった」とも言われたが、その後、改善の努力が報われて、このCクラスはパッと見た目では安っぽさを感じさせない仕上がりとなっている。木目パネルが多用されているので、人によってはむしろ高級になった、と見えるだろう。
しかし、細かく見てみると、素材にも、組み上げにもかつてのような高級感はない。誤解を恐れずいえば、VWゴルフやパサートのほうが精巧で高級な仕上がり、というのが正直な感想だ。「南アフリカ産」であることや、初期モデルゆえ、という部分を割り引いても、昔のベンツの過剰なまでの仕上がりや高級感はそこにはない。価格相応(もちろん輸入車としてのだが)の仕上がりというのがベンツの現在なのだろう。
シートの感触はドイツ車であることを主張するような固くて張りがあるもの。たがこれも昔と思えばずいぶんフツウだ。少し小ぶりで、日本人にも良く馴染む。居住性はホイールベースの延長によって、数値上では広くなっているのかも知れないが、実際はそう感じられない。確かに外観から見ていたよりは狭くはないし、傾斜のきついAピラーもそれほど気にならない。しかし後席のルーフ周りなどはけっこう圧迫感がある。一方、見た目に反してトランク容量は先代より45リッター広い430リッターを確保する。トランクスルーができるのが今風だ。
日本車的おもてなしの贅沢装備満載
装備は極めて贅沢で、レインセンサー、クライメートコントロール、マルチファンクションステアリング等、Sクラス並の装備が惜しげもなく投入されている。ウインドウ、シート、ステリングとほとんどの調整部分は電動スイッチになっており、それは全てドア側に設置される。またドアミラーの調整スイッチや足踏み式パーキングレバーのリリースも右側にある。だから操作は右手で全て用が足りる。ついでにウインカーレバーはステアリングコラム左側にあるので、左手はステアリングから放す必要がなくなる。合理的といえば合理的だ。
乗る者を驚かせるドリンクホルダー、操作性は後退? 国産車のほうが使い勝手はいい
しかし、シートとステアリングをカタチ取ったポジション調整スイッチは、夜間照明がなく、夜は非常に不便。位置もちょっと遠い。また、同じ操作系で他に気になった部分といえば言えばシフトレバーもそうだ。一見、MT風のシフトレバーはレザーブーツをはいており、お馴染みのジグザグゲートはもはや無い。その結果節度感が足りなく、先代より操作性が劣るという印象がある。メーター内にも今どのレンジにあるのかというインジケーターが備わるのだが、単色の液晶表示でやはり確認しづらい。国産車が続々とゲート式を取り入れる中、本家は止めてしまった。これはたいへん興味深いことといえる。その他、コンソール部分やステアリングに多く並ぶ多くのスイッチ類は、先代からの乗り換え層でも、かなりの戸惑いを覚えるだろう。
それとドリンクホルダーも少々問題アリ。コンソール部分のフタを開けてボタンを押すと「ギーガシャン、ガシャン」と派手に出現。乗員を驚かさせる凝った仕掛けになっているのだが、右ハンドル車の場合、実際に缶を収納するとシフトレバーの操作がしにくくなる。かつての「最善か悪か」という哲学はそこにはなさそうだ。
基本性能&ドライブフィール
エンジンは3本立て。スーパーチャージャー付きもアリ
日本仕様のエンジンはC180の2リッター直4DOHC(129馬力/19.4kgm)、C200コンプレッサーのスーパーチャージャー付き2リッター直4DOHC(163馬力/23.5kgm)、C240の2.6リッターV6DOHC(170馬力/24.5kgm)の3本。これに5速ATが組み合わり、Dレンジからそのまま左右に動かすことでマニュアル操作可能なティップシフトが備わる。なお、本国にはこの他3.2リッターV6、ディーゼルエンジンとして2.2リッター直4、2.7リッター直5DOHCなど幅広いエンジンが揃う。
足回りは前が従来のダブルウィッシュボーンから3リンク式ストラットへ、後ろが改良型のマルチリンクが採用される。セーフティデバイスは車両安定装置ESPを全車に標準装備する。
ルックス相応のスポーティーさをみせるが、ちょっと異質なグレードに乗ってしまった
試乗したのはC200コンプレッサー。ステアリングはこれまでのものより径が小さく、グリップが太いので、乗った瞬間からスポーティーな印象を受ける。遮音対策は大幅に向上しているようで、アイドリング時にエンジン音が車内に侵入するようなことはない。高級車としての面目躍如といったところか。
出だしから軽快感があるのも、先代と違うところ。それもそのはずでC200コンプレッサーに搭載されるエンジンは、2.4リッター並のトルクを発生するスーパーチャージャー付き。ちなみにトップグレード「C240」に搭載される2.6リッターエンジンとほぼ同じスペック。しかも最大トルクの発生回転数は2500~4800回転という極めて低く広い範囲で発生する。また特にフリクションに注意しなければスーパーチャージャーが付いていることも気付かないほどで、噴け上がりは軽やかで鋭い。4000回転以上ではクォーンという緻密な快音も聞こえてきて、積極的に運転したい気分になる。
上質さを求めずスポーティーさだけに限定すれば、価格面を含めたパフォーマンスが高いのは「C200コンプレッサー」といえるだろう。しかし、このクルマの本質的にはちょっと違うと思われる。やはりベンツのセダンらしく、小さくてもジェントルな走りをみせてもらいたいところ。「C240」に試乗していないので確かなことは言えないが、こちらにこそ本当のCらしさがあると思われる。スタイルにふさわしい、スポーティーさを求めるならC200コンプレッサーも悪くはないが。
FRらしい挙動をみせながらも絶対的に安全
先代からの変更で忘れてならないのがステアリング型式。伝統のリサーキュレーティング・ボール式から遂にラック&ピニオン式となった(これもコスト削減による影響のよう)。段差などによるキックバックがステアリングに伝わってくるがラック&ピニオン式の短所。しかし、一般的な走行をしている限りでは、それは感じなかった。中立付近の曖昧さもほとんどない。穏やかな性格と走りの先代に比べて、反応が鋭くなったこともあり、走りから受ける感覚は「わかりやすいスポーティーさ」だ。ただ、ステアリングを切ってから戻るまでの力が弱く、曲がるたびに意識して戻してしまった。
挙動は一瞬にしてFRとわかるもの。軽快といえる反面、絶対的な安定感はFFの比ではない。ただスポーティーなC200コンプレッサーならこの性格も悪くはない。試乗日が大雨のため、路面のグリップが悪いこともあり、ESPがたいへんよく効く印象だった。その意味ではとても安全なクルマといえるだろう。 左右に動かすティップシフトになれていないため、ついつい上下に動かしてミスシフトすることもあった。多くのクルマがこうしたマニュアルATでは上下に動かす方式をとっており、人間の感覚的にもその方が自然。慣れればいいのだろうが、このあたりは各社統一して欲しいと思う。
同じく大雨によりいくぶん間引いて読んで欲しいが、高速での直進性や、どっしり感もあまり関心するものではなかった。速度を上げるにつれ安定してくるといった印象があったかつての190シリーズとは違い、通常速度では快適だが、速度を上げるにつれ、緊張感も高まるといったフィーリングだ。これも安全という点では正しい方向だとは思うが。
ここがイイ
スタイリングは素晴らしい。独自で美しいセダンスタイルはまだまだ作れるものなのだなと感心しきり。威圧感はさほどないが、主張すべき点は主張しており、それなりにイバリも効く。グリルは小さくてもボンネット上のオーナメントの存在は重要だ。日本車に足りないのはきっとこれだろう。
ここがダメ
カーナビを想定していないと思われるインパネの造形は、評価できない。ディスプレイはどこにつければいいのだろう。Cクラスが作られる今後8年間の間に進むクルマのIT化にどう対応していくのだろうか。この分野でのメルセデスの対応の遅れは、たいへん気になる。また右ハンドル車のカップホルダーはいずれ変更されるだろう。
総合評価
かつてのメルセデスベンツを知る人には、現在のメルセデスベンツは別のクルマに写るだろう。それはこのCクラスも同様。最良のクルマに対して高額な対価を支払って乗るというにはちょっと役不足な気がする。先代Cクラスのような、露骨なコスト意識はさすがに感じられない分、より高級感が増して、昔のベンツに近づいているといえなくもないが、やはり世界市場で生き残りを図るダイムラークライスラーの売れ筋商品としての、相応なクルマという印象は否めない。
では悪いのかというと、もちろんそんなことはない。現在のクルマとしての出来は悪いはずもなく、誰が乗っても不満はない。ジェントルにもスポーティーにも乗れるわけで、SUVの必要性がない人にはベストな選択だ。そしてボンネットに輝くスリーポインテッドスターにより、その価値は一気に高まる。正直、ハードウェアとしてのクルマとしてだけとらえると、新型マークIIの方がいいかもしれない。しかし、そのブランド力は比ではない。
現代の商品はその出来ではなく、ブランドが価値及び価格を決めることは自明の理。ロレックスの時計とカシオの時計の差は、機能ではなくブランドとデザインだ。その意味で、圧倒的なブランド力のCクラスは売れ続けるだろう。特にC180は390万円という「お安い」価格。大不況といいながら600万円ほどのセルシオが月5000台も売れる日本では、390万円のブランド品を買える人は数多い。そういう人にとって満足できる品質をCクラスが備えていないわけはない。きついことをいうと、クルマ好きのためのベンツでなく、ブランド好きのためのベンツなのだが、これからしばらくの間(おそらく燃料電池車が出るまで)の自動車産業にとってこれは最も重要な課題といえる。性能を買うのでなく、ブランドを買う。クルマもそういう商品になってきたのだ。
公式サイトhttp://www.mercedes-benz.co.jp/




