キャラクター&開発コンセプト
407シリーズの高級クーペ
日本では2006年6月5日に受注を開始した「クーペ407」(発売は7月7日)は、先代「406クーペ」の跡を継ぐ高級クーペ。ベース車は先に発売された407シリーズだ。同社の高級クーペは代々、ピニンファリーナがデザインと生産を行ってきたが、今回はプジョー社内のデザインとなり、生産もフランスで行われる。単純な後継車ではないという意味か、車名は「クーペ407」とクーペ+数字の順になった。日本国内の販売目標(2006年)は250台だ。
コンパクトカーやセダンのイメージが強いプジョーは、昔から高級クーペも得意としている。ピニンファリーナ製ボディの「404クーペ」(1962年)、「504クーペ」(1969年)、そして「406クーペ」(1997年)などは、いずれも実用セダンをベースとしながら、美しいボディと瀟洒な雰囲気が魅力のモデルだ。
価格帯&グレード展開
日本では最も高価なプジョー
日本仕様は3リッターV6+6ATのワンモデルのみ。ナビやレザー内装などはすべて標準装備で、あとは左/右ハンドルが選べる程度だ。価格は549万円で、プジョー・ジャポンの現行ラインナップでは一番高い。ボディカラーは6色、内装は4色が用意されている。
パッケージング&スタイル
SWより長く、セダンより低い
見た目はセダン/SW系とよく似たクーペだが、アウターパネルは全て別物。ボディサイズ(カッコ内はセダン/SW 比)は全長4815mm(+130/+40)×全幅1870mm(+30/+30)×全高1405mm(-55/-105)で、つまり全長はSWより長く、背はセダンより拳一つ分も低い。ホイールベースは3車共通の2725mmだ。また、先代406クーペと比べると、全長で+200mm、全幅で+60mm、全高で+40mmと一気に大型化している。
「迫り来る猫科の猛獣」
デザインは前述の通り、プジョー社内で行われたもの。ピニンファリーナが手掛けた先代406クーペの古典美を越えるべく、今にも噛み付かんばかりのラジエイターグリル、エラのような3本のスリット、そして407シリーズ共通のスポーティなシルエットが、プジョー言うところの「迫り来る猫科の猛獣」をイメージさせる。実物の印象はボディの大きさもあって、写真より迫力がある。
407シリーズ共通のインパネ
インパネ全体の印象はセダン/SWと大差ないが、前席は9mm後方、かつ20mm低い位置にすえられた。Aピラーはこれでもか、というくらい寝ているが、圧迫感はなく、視界も特に悪くない。フロントウインドウとサイドウインドウに特殊フィルムを挟み込んだ防音ラミネートガラスを採用し、セダン/SWより静粛性を高めている。
左右独立調整式オートエアコンは従来のように室温を急激に下げてから徐々に設定温度に近づける方法ではなく、燃費を向上させるため冷却力を適正に制御するものらしい。確かに立ち上がりは少し甘いような気もしたが、効き自体は問題ない。日本専用のパイオニア製HDDナビは標準装備だが、その一方で前席用のドリンクホルダーはセダン/SW同様、クーペにも無い(そんなはずはないと思って今回も探してしまった)。こんなところも、北米市場から撤退して久しいプジョーらしいところか。
豪華なレザーシート、重厚なドア
目を引くのが豪華なフルレザーシートだ。立体的な形状は美しく、カーフレザーの風合いや手触りもいい。手縫い風のサドルステッチも上品だ。ダッシュやシートの裏側など、手の触れないところに合皮を使うのは今や常識だが、クーペ407はすべて本物のレザーを使う。試乗車の内装色は「セルベール(Cerbere)」という名の渋いワインレッドで、それをドア内側のアルミパネルやクーペ専用のメーターが引き締めている。
ドアは長く、側面衝突対策の補強のせいか、驚くほど重い。ヒンジ式ドアでは、おそらく最も重い部類だろう。サイドシルに2つ穴があり、そこにドア下端のツメ(フィックスラグ)が挟まるのも側突対策の一つだ。おかげで407クーペは「ユーロNCAP」の衝突テストでクーペ初の5つ星を獲得している。
フル4シーターとして使える
2人掛けのリアシートも凝った作りだ。パワーシートの前席は自動でスライドするので、乗り降りは割とラクだし、一度座ってしまえば意外と快適。足元と天井の空間はギリギリだが我慢は必要ないし、何より仕立てが良いので気分もイイ。後席にはフェンダー側アームレストの下に、ドリンクホルダーが備わる。
ダブルフォールディングでトランクスルー
トランク容量はセダン(407L)に遜色ない400L。さらにセダン/SWと同じようにガバッとダブルフォールディングで後席が畳める。天地は低いが、工夫すればスポーツワゴン風にも使えそうだ。トランクを開けるときは例の通り、リアのバッジ「407」の数字「0」の中を押す。
基本性能&ドライブフィール
上品な3リッターV6とアイシンAW製6AT
3リッターV6(210ps、29.5kg-m)とアイシンAW製6ATは、407シリーズやシトロエンC5でお馴染みのもの。このパワートレインの特徴は、とにかくスムーズなことだ。車重が1660kgと重いせいで、ドラマチックな盛り上がりには欠けるが、回転上昇に比例して自然にパワーが出るタイプで、変速もまったくもって滑らか。もっとエンジン音が聞きたいと思うほど静粛性も高い。
飛躍的に進歩したボディ剛性
足回りはセダンに比べてバネレートを10%アップし、フロントで10mm、リアでは23mmもローダウンされている。後輪トレッドはオフセットの変更で65mmもワイドだ。さらに235/45R18という立派なサイズのタイヤを履く。おかげで荒れた舗装では多少固さを感じるが、乗り心地は基本的にとてもいい。新しい407系シャシーの剛性は、当然ながら10年以上前に設計された先代406系の比ではなく、路面からのショックを完璧に受け止めて減衰する。
先日の新型ジャガーXKのように電子制御ダンパーも備えており、ゆったり走る時はソフトに、コーナリング時はハードに設定を変えるほか、油圧パワステも電子制御でアシストの度合いを変える。さらにボタンでハード固定のスポーツモードを選択することもできる。当然、ESPは標準装備だ。
2人のための高速ロングツアラー
クーペ407の長所が一番よく味わえるのは、やはり高速道路だろう。トップレベルの静粛性、前輪駆動ならではの直進安定性がいかんなく発揮され、まったくストレスというものが生じない。ただしパワーウエイトレシオは約8kg/psと特に優れていないので、追い越しは意外と緩慢だし、運転行為自体に刺激はない。ハンドリング自体もスポーツカーのようなものを最初から目指していない。それよりも、ゆったりと助手席の人と会話や音楽を楽しみながら、数百km先の目的地を目指す、という走り方がふさわしいし、自然とそういう走りになるクルマだ。おそらく助手席の女性にはそうとう気に入ってもらえるはず。
ここがイイ
破綻なくまとまったクーペスタイルは、406クーペほどのクラシカルではない分、受け入れやすいものだと思う。アイシンAW製の6ATやカロツェリアのHDDナビなど、安定した日本製品が使われているのも、安心感がある。
社内制作ということで気合いが入ったスタイリングだろうが、結果としてはプジョーらしい、いい意味で力の抜けたクーペ作りとなった。気に入ったら長くつきあう、そんなクーペであり、しばらくすれば406クーペのようなエンスー度も伴ってくるはずだ。
ここがダメ
やっぱり前席用のカップホルダーが欲しい。快適なロングドライブのためにはぜひ。
ドアが異様に重い。しかも大きいので、狭いところでの乗降がつらい。特に小柄な人が乗るとシートが前の方にセットされるから、実に出入りしにくいのだ。これを避けるには、いっそ1007みたいな電動スライドドアか、電動ガルウイングか。ユーザーの自宅駐車場がいくら広くても、狭い日本の民間駐車場の実情があることを考えると、何とかならないかなと思ってしまう。
6ATの「スポーツモード」に入れるときはシフトレバー手前の「S」ボタンを押す必要がある。これは慣れないとブラインド操作できないし、使いにくい。レバー自体で選択できた方がいい。
高速道路を長く走ったときにこのクルマの真価を発揮できるとはいえ、日本の高速道路状況は、そんな気持ちのいい走りを許さない。特に東名高速では、90㎞/h程度で2車線を併走するトラックの壁に遮られがち。空いている高速道でも大半は制限速度が80㎞/hであり、むろんこの速度域でクーペ407の真価は問えない。法を犯さないと気持ちよくなれないという商品が売られることに矛盾を感じる(もちろん問題はクーペ407にはなく法の方にあるが)。
総合評価
2ドアクーペというだけで、今の世の中的には相当にスペシャリティだ。一応4座が使えるクルマだが、やはり2シーターが基本と考えると、いわゆる実用性は低い。道具の必要なレジャーに、このクルマで出かけることは少ないだろうし、第一そんな使い方にはなじまない。といって、走りが楽しいスポーツカーではないから「箱根へ、そしてサーキットへ」という展開もないだろう。そうするとこのクルマはホテルへ横付けできるようなライフスタイルの人が乗るべき。レジャーといっても、温泉とかに行くような、そういう人の暮らしのパートナーだ。
しかも価格は500万円を超える。500万円出せばかなりいろいろなクルマが買えるだけに、このクルマを選ぶというのは真の金持ちの道楽と言えるかもしれない。むろんこのクルマ一台の暮らしではなく、複数台所有する中の一台、という買い方になるだろう。それこそがプレミアムの証であり、このクルマのライバルとして考えられるのがレクサスSCあたりとすれば「旦那のLS、奥さんのSC」の図式にもはまるはず。プジョーだと「旦那の607セダン、奥さんのクーペ407」か。ただ、607がない日本では、407セダンはさすがに役不足なので、メルセデスあたりに置き換わるのかもしれない。いずれにしてもプジョーブランドで十分なプレミアム感が得られるというのがクーペ407の存在意義だろう。
こうなるとこのクルマの大きな価値はその豪華な内装にあると言える。豪華と言っても80年代のトヨタ車のような「水商売的ゴージャス」ではなく、欧州車らしいシックな豪華さだ。その豪華さを醸し出しているのが革の内装であり、その革をリッチに見せる「ステッチ」だろう。革シートそのものは最近いくらでもあるから「ステッチ」や「パイピング」の役目は大きい。かつては革の縫い合わせのためにあったステッチや、縁の強化のためにあったパイピングも、今やほとんど装飾と化している。しかしこれらは内装を1クラス上に見せることができる重要なアイテムだ。
クーペ407はダッシュボードまでが革で覆われ、そこやシートに手縫い風ステッチが効いている。一方、ポルシェ911の場合、カレラ(標準車)のダッシュボードは樹脂だが、上級のカレラSは革で覆われ、やはりステッチが効いている。車両価格1000万円を超えるカレラでも上級車との差別化のために、革とステッチがないのだ。しかしクーペ407は半額の500万円台でもそれがある。つまりステッチは車両価格に比例するとは限らず、むしろメーカー的に「これぞ」というクルマに設定する「勝負仕様」として使われるわけだ。
その昔、二代目プレリュード(当時300万円位だったか)にはこのステッチの効いた内装が奢られており、そのスペシャリティ感にただただ憧れたものだが、そうしたメンタリティは今も脈々と続いているから「勝負仕様」が用意できるわけだ。ではなぜ人はこのステッチに惹かれるのだろうか。「人の手によって一手間かかっているということに対する魅力」とか、「高級な革製品には昔からステッチがあったという学習効果」とか。いろいろ意見はあるが、どうにもそれだけでは理解できない。例えば布シートにもステッチが入っているものがあるが、やはりステッチの無いものよりは高級な感じがする。
ステッチに対する人の感性、そのあたりを解明すれば豪華内装に関する新しい商品開発のカギがあるような気がする。このステッチを効かすという内装はたいして製造原価はかからないだろうから、例えば軽のクラス破壊車「ソニカ」に使ってみるとか。そうすれば相当に面白いクルマになると思うのだ。
いずれにしてもクーペ407には、倍の価格のポルシェ911カレラにもない革とステッチの豪華内装が奢られているのだから、費用対効果の高いクルマといえるだろう。レクサスを除く日本車では、今後当分出てこないジャンルのものゆえ、「輸入車に乗る」という行為の対象としては価値あるクルマだ。
試乗車スペック
プジョー クーペ 407
(3.0L・6AT・549万円)
●形式:DH-D2CPV●全長4815mm×全幅1870mm×全高1405mm●ホイールベース:2725mm●車重(車検証記載値):1660kg(F:-+-)●乗車定員:4名●エンジン型式:-●2946cc・V型6気筒・DOHC・4バルブ・横置●210ps(155kW)/6000rpm、29.5kg-m (290Nm)/3750rpm●カム駆動:タイミングベルト●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/65L●10・15モード燃費:-km/L●駆動方式:前輪駆動(FF)●タイヤ:235/45R18(-)●試乗車価格:549万円(オプション:-)●試乗距離:約200km●試乗日:2006年8月
公式サイト http://www.peugeot.co.jp/cars/showroom/407/coupe/index.html









