MINI ワン クロスオーバー新車試乗記(第628回)
MINI One Crossover
(1.6リッター直4・6速AT・FF・278万円)
2011年04月02日
キャラクター&開発コンセプト
MINI初の4ドアで、5人乗りも用意
BMWの新型「MINI クロスオーバー」(R60型)は、MINI初の4ドアモデル。ボディタイプとしては、ハッチバック(R56型)、コンバーチブル(R57型)、クラブマン(R55型)に続く4番目のモデルになる。
パワートレインは従来のMINIと共通だが、プラットフォームは全くの新規で、ボディサイズは一回り大きい。また4人乗りのほか、MINI初の5人乗りも用意され、さらに「ALL4」と呼ばれる4WDもMINIで初めて採用されるなど、「初めて」尽くしのブランニューモデルとなっている。
海外ではカントリーマン。BMW MINI初の非英国製
欧州での車名は、クラシックMINI時代の2ドアワゴンモデルと同じ「カントリーマン(Countryman)」。ドイツ本国でのデリバリーは2010年春に始まったが、日本では約一年遅れの2011年1月13日に発売された。
最終組立はオーストリアのマグナシュタイアー社で行われている。つまりBMW MINIでは初の非英国製モデルだ。
WRCにワークス参戦
MINIとラリーと言えば、何と言ってもモンテカルロラリーでの1964年、65年、67年の優勝が有名だが、ついにBMW MINIも2011年から、このカントリーマン/クロスオーバーでWRC(世界ラリー選手権)に挑戦する。WRCへのワークス参戦は、BMW MINIにとっては今回が初だ。
この背景には、従来のWRカーに代えて1.6ターボと4WDという規定による「スーパー2000 WRC」が2011年に始まったことがある。市販車をベースにした「MINI カントリーマン WRC」の開発は過去にスバルのインプレッサWRC等を手がけた英国のプロドライブ社(Prodrive Automotive Technology Limited)が担当する。
MINIのwebサイトによると、今シーズンは開幕戦(ラリー・スウェーデン)から第4戦まで欠場。初参戦の舞台は5月第1週のラリー・イタリア(サルディニア島)となる予定だ。残念ながらモンテカルロは2011年のカレンダーに入っていない。フル参戦は2012年からの予定。
※外部リンク
■MINI モータースポーツ.com>WRC
価格帯&グレード展開
計4グレードで265万円~379万円
海外には1.6リッター直4ディーゼルターボもあるが、日本仕様は例の如く1.6リッター直4ガソリンの各種チューン違いをラインナップ。ハッチバック等と同じで、ワン(98ps、15.6kgm)、クーパー(122ps、16.3kgm)、直噴ターボのクーパーS(184ps、24.5kgm)がある。変速機は6MTか、アイシンAW製の6ATだ。
さらにクーパーSでは「MINI ALL4」と呼ばれる4WDも用意。これはFF車では一般的な電子制御4WDで、湿式多板クラッチをリアデフ直前に配置したものだ。ただし前後トルク配分を100:0から、通常時は50:50まで、さらにスリッパリーな状況では0:100、つまりほとんどFR状態まで可変するところがBMWらしい。
なお全8車種のうち、エコカー減税対象車は5車種だが、そのうち4車種は6MT。6ATで減税対象になるのはクーパーSのFFだけだ。
■MINI One Crossover 265万円(6MT)/278万円(6AT) ※試乗車
■MINI Cooper Crossover 299万円(6MT)/312万円(6AT)
■MINI Cooper S Crossover 345万円(6MT)/358万円(6AT)
■MINI Cooper S Crossover ALL 4 366万円(6MT)/379万円(6AT)
パッケージング&スタイル
MINIだけど大きい。大きいけどMINI
第一印象は「見た目はいつものMINIなのに、何かデカイ」。ヘッドライトに角が付いたり、4ドアになったり、ルーフレールが付いたり、といった違いはあるものの、やはり「MINIにしては大きい」というのが最大の特徴だ。特に路上で隣の5ナンバー国産車より大きいのを見ると、軽いショックを覚える。子供に背の高さで追い抜かれたみたいな感じ。
ワンおよびクーパーのボディサイズ(カッコ内はハッチバック比)は、全長4105mm(+365)×全幅1790mm(+105)×全高1550mm(+120)。ホイールベースは2595mm(+130)。数字的に近いのは、日産ジュークとかVWゴルフだが、水平基調のボディライン、ブラックアウトしたピラー、小ぶりのグラスエリアなどによって、全体の印象は見事に「BMW MINI」になっている。ホワイトルーフのクーパーあたりは、特にそう感じられる。
なお、欧州仕様車の全高は1561mmだが、そのままでは日本の一般的な機械式駐車場に入らないため、BMWでは日本専用のルーフアンテナのマウント形状を開発し、全高を11mm下げて1550mmに抑えたとのこと。何だか日本市場を重視してくれてるみたいで嬉しい。
全長(mm) | 全幅(mm) | 全高(mm) | ホイールベース(mm) | |
■MINI クーパー | 3740 | 1685 | 1430 | 2465 |
■VW 5代目ポロ | 3995 | 1685 | 1475 | 2470 |
■MINI クーパー クラブマン | 3980 | 1685 | 1440 | 2545 |
■日産 ジューク | 4135 | 1765 | 1565 | 2530 |
■MINI ワン クロスオーバー | 4105 | 1790 | 1550 | 2595 |
■VW 6代目ゴルフ | 4210 | 1790 | 1520 | 2575 |
インテリア&ラゲッジスペース
パーツは共通なれど、空間は大きく変化
インテリアの印象も、これまた「いつものMINI」。センタースピードメーター、ステアリング奧のタコメーター、慣れを要するトグルスイッチ、UFOみたいな円盤状のブロックキーなどなど、相変わらずだ。そもそもパーツ自体が今までのMINIと共通らしい。
ただし全然違う部分もある。スポーツカー風の砲弾型カバーが付いた空調吹き出し口や操縦桿のような形状に変更されたハンドブレーキレバーなどだ。
また運転席と助手席の間には、新開発の「MINI センターレール」が走る。アルミ製のまさにレールで、オーディオのAUX出力があり、iPodなどの小物を置くのに便利。さらにドリンクホルダーやメガネケースといったアタッチメントも取り付けられる。夜間はLEDの照明でライトアップされる仕組みだ。
何より今までのMINIと違うのが、視点が高いこと。見晴らしは良く、乗り降りも自然に出来る。この点は、まさに一般的なコンパクトカーと同じだ。
4人乗りか、5人乗りかを選択。ゴルフに匹敵する居住性
クロスオーバーの場合、標準仕様は4人乗りで、5人乗りは無償オプション。4人乗りの場合は、後席は独立シートになり、例のセンターレールが前席から後席まで貫通する仕様になる(前後2分割の2ピースタイプも選択可能)。
4人乗りか5人乗りかは、購入時に選択することになるわけだが、なにぶん法定上の乗車定員に関係することなので、割り切れる人以外は、5人乗りタイプを選ぶことになりそう。
後席はMINIという先入観を持って乗ると、拍子抜けするほど快適で、乗り降りも容易。MINIだということを忘れて、ゴルフに乗っているような気分になる。BMWがあえてセパレート式の4人乗りを標準にしたのは、MINIの独自性を強調するためではないだろうか。
積載性はおおむねゴルフと同等以上
リアゲートはゴルフのようにバッジを反転させると開く。荷室容量は5代目および6代目VWゴルフと同じ350リッターで、ベンチマークがゴルフだったことをうかがわせる。さらに背もたれを倒せば1170リッターに拡大可能。
またフロアボードでラゲッジを上下に仕切れば、ステーションワゴン風に敷居とフロア面をツライチにも出来る。この場合の荷室高は実測で80センチほどだった。仕切らなければ、スペアタイヤレスゆえの深底を活かして、手前部分で90センチほどの荷室高を確保できる。
なお、スペアタイヤはないが、BMW御用達のランフラットタイヤはクーパーSのALL4のみに標準装備。ワン、クーパー、クーパーSのFF車は、パンク修理キットが助手席のシート下に入っている。ランフラットタイヤは1万8000円のオプション。
基本性能&ドライブフィール
1.6リッター直4とアイシンAW製6ATの組み合わせ
試乗したのはワンの6AT(278万円)。エンジンは基本的にクーパーと同じだが、最高出力はクーパーの122ps/6000rpmに対して98ps/6000rpm、最大トルクはクーパーの16.3kgm/4250rpmに対して15.6kgm/3000rpmに留まる。これは主にプログラムによる違いだ。プレスキットにあった出力曲線を見ると、4000回転までは似たような感じで、実際に走らせても大きな差は感じられない。6ATはおなじみのアイシンAW製だ。
車重は1350kgで、これはほとんどVWゴルフと同程度。そういえば先代ゴルフには、同じように1.6リッター直4とアイシンAW製6ATを搭載した「E」と呼ばれるグレードがあったが、乗った感じもそれによく似ている。過不足ないパワー、ソツのない6ATの変速マナー、そして何となくノイジーなところ、といったあたりだ。つまり派手に得点を稼ぐわけではないが、失点もないタイプ。もちろん、直噴ターボのクーパーSあたりに乗れば、また話は別だ。
ファミリカーとして普通に乗れる
2代目のR56以降、ずいぶんマイルドになったとは言え、MINIのトレードマークは相変わらず例の「ゴーカート・フィーリング」。しかし新開発のプラットフォームを採用したクロスオーバーでは、トレッドやホイールベースが一挙に増えたほか、おそらくサスペンションストロークも増えたおかげで、乗り心地はいい。また電動パワステの反応もかなり大人しく(というか中立付近はあんまり反応しない)、飛ばした時もドキドキしない。これならファミリカーとして普通に乗れる。
一方、ワインディングでペースを上げると、グラリと非MINI的にロールしながら、「なめるなよ」と言わんばかりに鋭いターンインを見せる。とはいえ、基本的にはかなりアンダーなので、飛ばしても楽しくはない。
100km/hでの高速巡航は、6速トップで約2500回転。静粛性は特に高くはないが、特にうるさくもない。エンジン音、ロードノイズ、風切り音、それぞれが同程度にうるさいという感じ。最高速(メーカー発表値、欧州仕様)は以下の通り。
・ワン 168km/h(6AT)/173km/h(6MT)
・クーパー 182km/h(6AT)/190km/h(6MT)
・クーパーS 210km/h(6AT)/215km/h(6MT)
・クーパーS ALL4 205km/h(6AT)/210km/h(6MT)
試乗燃費は9.8km/L、10・15モードは13.2km/L(ワン・6AT)
今回は全体で180kmを試乗。参考までに試乗燃費は、いつもの一般道と高速道路の混合区間(約90km)が9.8km/L。空いた一般道を無駄な加速を控えて走った区間(30km)が12.3km/L。高速道路での80~100km/h巡航(約30km)が13.3km/Lだった。
試乗したワン・6ATの10・15モード燃費は13.2km/Lで、JC08モードはそれよりも良い13.8km/L。指定燃料はもちろんプレミアムで、容量はハッチバックの50リッターより少し減って47リッター。
ここがイイ
ファミリカーになり得る普通さ
同じMINIでも、これまでのキャラクター商品ではなく、良い意味で普通のクルマになった。5人乗りもあり、これなら一家に一台のファミリカーとして大手を振って乗れる。
ルーフアンテナのマウント部をわざわざ日本専用品にしてまで、全高をぴったり1550mmに下げたこと。都市部のユーザーに受けそうなクルマゆえ、販売台数の上乗せに貢献するはず。
ここがダメ
あえて言えばAT車の燃費
以前のMINI試乗記でも書いたが、あえて言えばワン/クーパーではAT車の燃費にもう一伸びがなく、ATだとエコカー減税の対象にならないこと(クーパーSのFFは対象)。6MTの10・15モード燃費は、ワンで19.2km/L、クーパーで17.8km/Lと抜群に良いが、6ATだといずれも13.4km/Lに留まる。日本製ミッションなのは嬉しいところだが、フィーリング面も含めて、そろそろDCTに替え時だと思う。
総合評価
クラシックMINIの形は現代にも通用するということ
「いいなあ、なんでもやれて」と妬みのひとつも言いたくなるクルマだ。だってそうでしょ、みんなの大好きなMINIのカタチを活かして、ゴルフ対抗馬を作ってしまったのだから。反則じゃん、とも言いたくなる。そのゴルフがスタイリングのためにいろいろ苦労しているというのに。
例えば富士重工がスバル360のデザインテイストだけ活かして、アイサイト付きの軽自動車を現行規格で作ったら、売れるかもしれない。でも富士重工はとうとう軽自動車から撤退してしまったから、それはもはや完全な夢物語。いや、トヨタやダイハツからシャシーをもらって、それにスバル360のガワを被せるなんてことならできるかも。
などと妄想していたら、ハタと気づいたことが。スバル360のスタイルではパッケージとして無駄が多く、広くて快適な小型車にはできないかもしれない。その点、MINIはクラシックMINI誕生の時から、見事に究極のコンパクトカーとなっていた。だからそのスタイリングを利用しても、今の世の中に通用するコンパクトカーが作れているわけで、BMWがそこまで見越してMINIの権利を買ったとすれば大したもの。いずれにしろクラシックMINIはやはり正真正銘の名車だった。
そんなクラシックMINIと比べると、MINIクロスオーバーの全長はなんと約1メートル、全幅で約40センチ、全高で約20センチも大きいのだが、それでも一応はまだ、現代の基準ではコンパクトといえるサイズであり、ミニという範疇に入れられなくはない。何より「2ドアではファミリーカーとしては辛い」と躊躇していたMINI好きには、かなり刺さりそうだ。となればネーミングは欧州同様のカントリーマンでいってもらいたかった、なんて思うのは年寄りの証拠か。
こうなったらもう何でもあり
しかしまあ、街でクロスオーバーを運転しながらハッチバックのMINIと並ぶと、それより一段高いアイポイントがなんだかちょっと気恥ずかしくなる。普通はアイポイントが高ければ優越感があるものだが、その逆。なぜかちょっと後ろめたい気持ちになるのはMINI本来のコンセプトを外れて、ニーズに合わせたクルマとなっている(あるいは新たなニーズを創りだして売ろうとしている)ことが、心の奥底にわだかまりとしてあるからかもしれない。こうまでしなくていいじゃないか、という気持ちは拭えないのだ。
一回り大きくなり、少なくともワンではクイック感やパワーもたいしたことはないが、元気のある走りは、やっぱりMINIだなと思う。何よりインテリアは、これはもうMINIそのもの。ただそれゆえに、どうにも見づらいセンターメーターや、使いづらいスイッチ類もそのままだ。センターレールやその使い勝手のためのハンドブレーキレバーといった工夫はあるものの、ナビだって相変わらずダッシュボードに設置しにくい。デザイン優先で使い勝手はいまいち、それを納得の上で買うしかない。
旧いデザインを生かしたクルマの筆頭だったニュービートルは消えてしまい、ポルシェ911(997)もいよいよ変わるという。さすがにこれらのクルマでは、4ドアにするという暴挙(英断?)は断行できなかった。しかしMINIはカブリオレ、ステーションワゴン(クラブマン)、そして4ドアと、続々とやってのけている。このあとは噂のクーペ&ロードスターも控えているようで、こうなったらクラシックMINIにも存在したピックアップや、さらにはMINIモークまで作り、もうなんでもありとしてもらいたいものだ。
MINIの場合、ベーシックなカタチがコンパクトな2ボックスなので、なんでもやれてしまうわけだが、もしエクステリアとインテリアの「デザインテイストそのもの」に大きな手を入れたら、それはもうMINIではなくなってしまうというリスクも抱えている。デザインテイストを生かした上で、さらに進化したクルマを作るのはそうとう大変なことに思える。次のMINIでBMWは、果たしてそれを成し遂げられるだろうか。
大きくなりすぎと言われるゴルフだが、それに近いサイズになってしまったMINI クロスオーバー。ダウンサイズの時代に、大きくなったMINIでダウンサイザーを取り込むという展開は、ビジネス的には正しいと思うけど、なんだか皮肉だ。クルマ好きの心情にはちょっと微妙。MINIにはできるだけミニなままでいてほしい、などという感情(感傷?)は、クラシックMINIがニューMINIに変わったときに葬り去られるべきだったかもしれないが・・・・・・。20世紀は遠くなった。
試乗車スペック
MINI ワン クロスオーバー
(1.6リッター直4・6速AT・FF・278万円)
●初年度登録:2011年2月●形式:CBA-ZA16 ●全長4105mm×全幅1790mm×全高1550mm ●ホイールベース:2595mm ●最小回転半径:5.8m ●車重(車検証記載値):1350kg(800+550) ●乗車定員:5名
●エンジン型式:N16B16A ●排気量・エンジン種類:1598cc・直列4気筒DOHC・4バルブ・横置 ●ボア×ストローク:77.0×85.8mm ●圧縮比:11.0 ●最高出力:98ps(72kW)/6000rpm ●最大トルク:15.6kgm (153Nm)/3000rpm ●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/47L ●10・15モード燃費:13.4km/L ●JC08モード燃費:13.8km/L
●駆動方式:前輪駆動(FF) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット(+コイル)/後 マルチリンク(+コイル) ●タイヤ:205/60R16( Michelin Energy Saver ) ●試乗車価格:294万1000円 (含むオプション:5シーター(無償)、クールパッケージ<レザーステアリング+16インチアルミホイール+クロームラインエクステリア> 10万円、ボディカラーミラーキャップ 1万円、フロントフォグランプ 2万5000円、コックピットサーフェス:ダークシルバー 2万6000円) ●ボディカラー:ピュアレッド ●試乗距離:約180km ●試乗日:2011年3月 ●車両協力:MINI 名古屋名東 (株式会社ホワイトハウス)