キャラクター&開発コンセプト
待たされたフルモデルチェンジ。これぞ王道、唯一の国産最高級ステーションワゴン
日本を代表する高級車であるクラウンは、定期的に4年サイクルでフルモデルチェンジをして進化を続けてきた。これに対して、クラウンワゴンは3世代前、つまり12年前に登場した8代目クラウンがベースのままで、忘れ去られて? いた。
今回、なんと12年ぶりとなるワゴンのフルモデルチェンジ版は、ユーザー層の若返りを狙った11代目現行クラウンの派生モデルとして誕生。名称も欧州車風に「エステート」に改められた。サルーンと同様の、走りのアスリートとラグジュアリーなロイヤルという2つのシリーズ構成を踏襲し、エンジンバリエーションはセダンと同じ、3種類(2.5l直6、2.5l直6ターボ、3.0l直6・D-4)で、従来型にあったディーゼルターボは廃止。なお、今回の変更で商用バンはラインナップから消滅した。
価格帯&グレード展開
価格はセダンより10~13万円高い、348~391万円
走りのアスリートシリーズとラグジュアリーなロイヤルシリーズで、グレードは3タイプのエンジンにより分かれる。アスリートシリーズは全4グレードで、最も速いのが280馬力2.5リッターターボの「アスリートV(388万円)」、最も環境に配慮しているがが3.0リッターD-4の「アスリートG(391万円)」、そしてベーシックな2.5リッターの「アスリート」とその4WDの「アスリートFour」。 ロイヤルシリーズは3.0リッターD-4(391万円)と2.5リッター(351万円)の全2グレード。ちなみにセダンとの価格差は10~13万円アップにとどめられており、ワゴン人気を考えればかなりお買い得といえるだろう。
ライバルは、日産・ステージア? ホンダ・アヴァンシア? それとも三菱・ディアマンテワゴン? いやいや、クラウンの最大のライバルといえばセド/グロ。でも、セド/グロのワゴン(これまた'83年デビューという長寿車)は、昨年6月にサルーン系のフルチェンジを機に消滅している。ということでクラウンエステートのライバルたる風格を持つ国産ワゴンは不在。強いて言えばステージアになるが、性格は異なるからあまり比較の対象にはならないだろう。
輸入車では、ボルボV70、メルセデスE320ワゴン、BMW528ツーリング、アウディA6アバントなどが挙がるが、価格的にはクラウンが圧倒的に有利。トヨタが想定している仮想敵車はおそらくメルセデスEクラスだろう。
パッケージング&スタイル
12年ぶりとはいえ、あくまで正統派の作りにこだわる
ベースとなったのはもちろん、サルーンのロイヤル&アスリート系。エクステリアはフロントマスクからフロントドアまでがサルーン系と同じで、リアドアから後ろが専用設計となる。そしてワゴンらしさを特徴づけるルーフレールを標準装備する。これはエクステリアデザインの重要なポイント。もしこれがないと、かなりインパクトが弱まる。
ボディサイズは全長4835mm×全幅1765mm×全高1510mm、ホイールベース2780mmと、クラウンより全長がリアデッキ分だけ15mm長く、全高はルーフレール分だけ55mm高くなっている。国産最高級のワゴンボディだが、あまり大きく感じられないのは、やはり全幅が狭いこと。全幅はメルセデスEクラスよりも35mm狭く、マークIIクオリスよりも20mm狭い。その意味ではやはりクラウンらしい、分をわきまえた日本的なワゴンといえるだろう。
太いクォーターピラーが骨太な印象を与え、あの独特のグリルでそれなりの風格はある。しかし、一方で海外のプレミアムブランドと比較してしまうと、華がないというか、全体に地味すぎるデザインという印象は否めない。先行披露の場であった昨年の東京モーターショーでも、ほとんど見向きもされていなかったことが記憶に甦る。クラウンゆえ、ハデではいけないということなのだろうが、この地味さは最近のトヨタデザインとしてはちょっとね、という感じだ。それともまた12年細く長く売るつもりで、意図的にこうした何でもないカタチにしたのだろうか。
ワゴンで後席にパワーリクライニングシートを採用したのは世界初
内装はまんまクラウン。アスリートはダークグレー系のスポーティーなものとアイボリーのシックなものがチョイス可能。ロイヤル系は後者のみだ。試乗したアスリートのシートにはざっくりとした荒い折り目の生地が使われており、これは好感が持てた。前席のシート形状は基本的にクラウンと同じで、後席にワゴンとしては初となる電動リクライニング機構を採用しているのが注目に値するところ。もちろん、ワゴンとしてお約束の6:4分割可倒機構も備えているが、どうせならこれも電動にして欲しかったところ。
乗員だけでなく荷物にも気を配ばるラゲッジルーム
さて気になるラゲッジはどうだろうか。荷室容量は511リットルとビッグサイズ。ビッグサイズなのだが床面は高めで、一見あまり広い感じはしない。例えば4人乗り状態でそこそこ背の高いものを積むとしたら、セダンの場合はトランクに押し込んでいくという感じだが、エステートの場合はトノカバーのラインより上に突き出ることになる。結果的にはワゴンの方が乗る量は多いのだろうが、荷物の収まりとしてはセダンの方が心理的に安心感がある。後席を倒せば、完全なフラット形状にはならないが奥行きはグッと伸びるので、長尺物には確かに便利ではあるが。また高級ワゴンらしく隅々までに敷かれた高級カーペットは、汚れた荷物を載せる気にさせないだろう。やはり荷物を積んでレジャーに使いまくるというより、エステートの持つグレード感を楽しむクルマといえそうだ。
フロア下のアンダーポケットの材質、トノカバーの作りにはさすがに抜かりはない。アクセサリーソケットも当然装備する。そして装備の極めつけとなるのが、半ドア状態のバックドアを自動的に閉めるイージークローザーだ。これ、確かサルーンのトランクにはなかった機能。加えて3.5万円のオプションで、荷室の空気清浄機までも用意している。魚釣りファンには嬉しいオプションだ。
基本性能&ドライブフィール
最強モデルはトヨタ初の280馬力ワゴン
エンジンはサルーン系でも設定されている全3タイプ。まずアスリートシリーズは、直噴D-4となる3リッター直6(220PS/30.0kgm)が「アスリートG」に、2.5リッター直6ターボ(280PS/38.5kgm)が「アスリートV」に、2.5リッター直6(200PS/26.0kgm)が「アスリート」とその4WDの「アスリートFour」に搭載される。なお、トヨタとしてはワゴンに280馬力を用意したのは今回のエステートが初となる。
これに対して、ロイヤルシリーズは3.0リッター直6と2.5リッター直6の2つしか搭載されておらず、アスリート系重視の姿勢がよくわかる。タイヤサイズを含めた足回りはセダンシリーズと基本的に同じだ。 ギアボックスは「アスリート」「アスリートG」と、D-4搭載の「ロイヤルサルーン」が5速ATで、他は4速ATとなり、アスリート・シリーズのFR車全てにステアシフトマチックも採用される。このステアマチックの操作感はグッと向上している。ボタン位置が指に近づいており、表のスイッチも裏のスイッチもずいぶん押しやすくなっていた。今までずっと不満だった点が解消されたので、表と裏のスイッチでもまあ悪くはないか、と思えてきた。
クラウンの持つ信頼性を裏切らない静かで快適な走りは健在
試乗したのは200馬力の「アスリート」。一般的にセダンとワゴンを比較すると、ワゴンはリアの剛性や全体の静粛性が劣るものだが、さすがにそんな定説はあてはまらず、がっしり感があり、かつ静かな走りが印象に残る。各グレード一律の80kg増量分による運動性能のマイナス要素も感じられない。
ロイヤルとアスリートとではかなり印象が異なるようで、以前、試乗したロイヤルサルーンはいかにもクラウンらしい安楽指向の静かな走りが印象的だったが、今回は試乗した「エステート・アスリート」では、その印象は随分異なり、走って楽しい仕上がりとなっていた。
パワーが200馬力ということもあって、280馬力ターボのような刺激こそなかったが、パワステは重みが増しており、足回りもかなり引き締め上げられていて、走っていると十分スポーティーなフィーリングがある。一方、加速のマナーや段差の吸収の仕方はあくまで高級車のもので、硬質というよりはしなやかという感じ。高級車を乗り継いでいる人にとってはリアが多少硬いかなと思うかもしれないが、多人数乗車や荷物を多く搭載する機会の多い性格を考えれば、許容できる範囲だろう。ブレーキは強力で、ブレーキアシストが効くので、いとも簡単にフルブレーキングでき、しかもABSでタイヤがロックせず確実に止まれる。60km/hくらいから横断歩道手前の路面に書かれた三角マークのあたりでフルブレーキングすると、横断歩道の前で止まることができた。これが誰にでもできる時代なわけで、この点での最近のクルマの進化はたいしたものといっていいだろう。
また特に感心させられたのが静粛性の高さだ。アクセルを踏めば線の細いエンジン音がそれなりにドライバーに伝わって、心地よいフィーリングを与えてくれるが、ワゴンボディゆえ懸念されるリアからのいやなロードノイズは見事に遮音されている。ルームミラーで後方を見るまではワゴンということを忘れてしまうほど。
高速巡航では、100km/hでも150km/hでも感覚がまるで同じだ。100km/h走行の心理的余裕が150k/mになっても同じように続く。エンジン回転自体も100回転ほどしか変わらないから当たり前といえば当たり前だが、風切り音がちょっと高まるだけで、ずっとリラックスしたまま走行できる。ただ、あまりに緊張感がなく、これがいいかどうかはちょっと疑問だが。
ここがイイ
ハードウェアとしては特に不満をつけるところはないこと。セダンの優れた静粛性、快適性をそのままにしながら使い勝手の良いワゴンに仕上っており、やはり日本で乗る分にはライバルのEクラスより、数段快適で、安心感が高いだろう。しかも走っていてもさほど退屈ではない。クラウンも快適さが売り物のサルーン系にはあまり興味がないが、エステートのアスリートなら乗ってもいいかと思ってしまった。
ここがダメ
国産最高級のワゴンとしては地味なこと。クラウンというベース車の保守性から仕方のないことかもしれないが、サイドビューは平凡で、リアビューは古くさい。ライバルのEクラスとは比較にならないダサさ。もう少し何とかならなかったのだろうか。ということで、レッドマイカのボディカラー(試乗車の色)がいい。これでかなり華ができる。
総合評価
11代目のサルーン系は走りのアスリートなる新グレードを追加して、ユーザー層の若返りを狙ったわけだが、その意図がよく分からなかった。何で今さらクラウンに走りを求める? と。ところがエステートに乗ってアスリートの意味が分かってきた。つまりアスリートはエステートのためにあるグレードだったのだ。ただのサルーン系のワゴンでは30代から40代のユーザーには売れない。アスリートなら売れる。そういうことだ。高級なスポーティワゴンでなく、スポーティな高級ワゴンが演出できている。これなら新規ユーザーや若い年令層も獲得できるだろう。
セダンよりもワゴンが売れるこの御時世に、12年もの間、クラウンワゴンをほっておいたことはおかしな話。輸入プレミアムワゴンが売れていることはわかっていたはずなのに。ブームも下火になった今頃になってやっと出してきたわけだが、現在では他にそれらしいライバル車がいないだけに、ニッチマーケットねらいとしては結果として大正解。クラウン自体の延命策としても効果的だ。今まではサルーン系が売れていたから手を出さず、この先売れなくなりそうな気配を感じてエステートを投入。さすがトヨタのマーケティングはうまい。
公式サイトhttp://toyota.jp/