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シトロエン DS5 シック新車試乗記(第672回)

Citroën DS5 Chic

(1.6直4ターボ・6AT・400万円)

それは4ドアクーペなのか。
未来のステーションワゴンなのか。
革新の国からやってきた
“フレンチラグジュアリー”に試乗!

2012年09月21日

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キャラクター&開発コンセプト

DSラインのフラッグシップ


新型シトロエン DS5
(photo:プジョー・シトロエン・ジャポン)

シトロエンの新型車「DS5」は、「DS3」「DS4」と続いた個性派DSラインの最新かつ最高峰のモデル。最初は2005年に独フランクフルトモーターショーで、コンセプトカー「C-スポーツラウンジ」として登場。市販モデルは2011年4月に上海モーターショーでデビュー。欧州では2011年11月に、日本では2012年8月1日に発売された。

C3とDS3、C4とDS4の関係から、DS5もC5の派生モデルと思いがちだが、メカニズム的にはC4やDS4が使う「プラットフォーム2」のホイールベース延長版(C4 ピカソと同等)を採用。なのでサスペンションは、C5のようなハイドロ(正式名ハイドラクティブIII+)ではなく、一般的なコイルスプリングになる。

 

シトロエン C-スポーツラウンジ (2005年)
(photo:プジョー・シトロエン・ジャポン)

シトロエンによれば、DS5は「グランツーリスモとステーションワゴンを融合」させたスタイルを持った“フレンチラグジュアリー”であり、「既存のジャンルにとらわれない新しいプレミアムカー」とのこと。欧州ではこの半年で1万5000台を販売するなど、出足は好調な様子。

■過去の新車試乗記
シトロエン DS4 シック (2011年11月更新)
シトロエン DS3 シック (2010年7月更新)

価格帯&グレード展開

日本仕様はモノグレードで400万円


ボディカラーは全6色。写真はグリ ガレナ

欧州では直4ディーゼルターボのほか、ディーゼルハイブリッドの「ハイブリッド4」も用意されるが、日本仕様は、1.6リッター直噴ガソリンターボとアイシンAW製6ATの「シック(Chic)」のみ。ちなみに、このトルコン6ATをシトロエンで採用するのは、C5に続いてこれが2モデル目になる。

車両価格は400万円。このままでも装備は充実していて、光軸を舵角に応じて可変するバイキセノンディレクショナルヘッドライト、シトロエン初のスマートキーシステム、ヘッドアップディスプレイ、6エアバッグ、前後ソナー、左サイドおよびバックカメラ、電動サンシェード付の「コックピットルーフ」は標準装備。ただしナビゲーションシステムは販売店オプションになり(20万4750円)、7インチワイドタッチモニターを備えたワンセグ付メモリータイプが、インパネにビルトインされる。

オプションで「クラブレザーシート」を用意


標準装備のコックピット・ルーフとオプションのクラブレザーシート
(photo:プジョー・シトロエン・ジャポン)

またメーカーオプションでは、標準のコンビシート(レザー&ダイナミカ)に代えて、マッサージ機能付のレザーシート(ミストラル=黒のみで25万円高)や、試乗車のようにクラブレザーシート(茶系のフォヴ、ワインレッドのルージュ、ミストラルの3色から選べて45万円高)を注文することもできる。特にクラブレザーシートは、DS5の大きな売りの一つ。

価格的にはDS4(309万円~)より100万円ほど高く、またハイドロがないにも関わらず、C5 セダン/ツアラー(399万~469万円)とオーバーラップする。いかにDS5が「メカニズム以外」にお金を掛けた(付加価値を与えた)モデルかが分かる。

パッケージング&スタイル

「サーベルライン」など奇抜な意匠が盛りだくさん


フロントのサーベルライン、B/C/Dピラーのブラックアウトなどなど、スタイリング上の特徴を上げるとキリがない

ミニバンのようなモノスペース型ボディを押しつぶしたようなスタイリングに、凝った意匠をこれでもかと盛り込んだDS5。全体的にはコンセプトカーのシトロエン C-スポーツラウンジとそっくりだが、DS5の方がフロントオーバーハングは長く、各部のデザインもよりアグレッシブになっている。またコンセプトカーで観音開きだったリアドアは、通常の前ヒンジになり、ドア自体も大幅に大きくなっている。

 

リアバンパーはツインエグゾースト風だが、いずれもダミー。片側だけ奥にマフラー出口が見える

中でも奇抜なのが、ヘッドライトの先端から3角窓まで伸びてキックアップするクローム仕上げの「サーベルライン」。また、フロントバンパー両脇のエアインテークがダミーではなく、ちゃんとホイールハウスの内側まで貫通していることや、大きなスプーンでえぐったみたいに凹型になっているリアコンビランプも面白い。これらの意匠は、すべてC-スポーツラウンジで提案されていたもの。

 

前面投影面積は0.69㎡、Cd値(空気抵抗係数)は0.29と発表されている

また全高は1510mmと、DS4よりも低く、このクラスで現在主流のクロスオーバータイプに比べても目立って低い。高さだけなら機械式の立体駐車場に余裕で収まりそうだが、1870mmもある全幅で不可となるケースが多いかもしれない。

 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転半径(m)
シトロエン DS4 4275 1810 1535 2610 5.3
メルセデス・ベンツ Bクラス 4365 1785 1540 2700 5.2
アウディ Q3 4385 1830 1615 2605 5.7
BMW X1 4470 1800 1545 2760 5.5
シトロエン DS5 4535 1870 1510 2725 5.7
シトロエン C4 ピカソ 4590 1830 1685 2730 5.7
シトロエン C5 セダン/ツアラー 4795/4845 1860 1470/1490 2815 6.1
 

インテリア&ラゲッジスペース

「コックピットルーフ」など奇抜なデザインをてんこ盛り


「操縦桿をイメージ」したというステアリングなど、航空機のコックピットをモチーフにしたインパネ

インテリアにも見せ場は満載。モチーフは航空機の操縦席で、まずは「コックピット・ルーフ」と呼ばれる計3つの電動サンルーフが面白い。ルーフの外側は一枚モノのガラスで、そこに電動サンシェイドを右・左・後ろと3つ付けたもの(ガラスは固定)。言わば、パノラミックガラスルーフやC3の「ゼニスフロントウインドウ」などに続く、新しい天井デザインの提案といったところ。

スイッチなどの操作性には疑問もあるが、デザインは確かに凝っている。エンジン始動スイッチの上にあるフランク・ミュラー風の?アナログ時計、スラッシュスキンを使った過剰なほど造形に凝ったダッシュボード、そして視認性のいいアナログ&デジタル速度計に加えて、さらにヘッドアップディスプレイで速度を表示するという過剰な「演出」など、デコラティブかつガジェット感のあるデザインを遠慮なく行なっている。

 

ガラスは固定式で、電動サンシェイドがそれぞれ備わる。中央部分は小物入れ

天井のスイッチは電動サンシェイド(後ろの3つ)とヘッドアップディスプレイ用(前の3つ)
 

エンジン始動ボタンと一体になったアナログ時計。文字盤のデザインがスイッチ類のレイアウトと似ている

サイド&バックカメラは日本専用で、ルームミラー内の3.2インチモニターに表示。下側に映り込んでいるのはナンバー
 

何だかすごいデザインだが、何のことはない、パワーウインドウのスイッチが並ぶ

ヘッドアップディスプレイには速度のほか、クルーズコントロール/スピードリミッターの設定速度を表示
 

素晴らしき「クラブレザーシート」


見た目だけでなく、座り心地も素晴らしいクラブレザーシート。写真のカラーはルージュ

シート表皮は3種類あり、標準はレザーとファブリックのコンビシートになるが、注目は+45万円で選べる「クラブレザーシート」。これはバイエルン産の雄牛革を使用したもので、背もたれや座面のデザインが、腕時計のベルトをモチーフにした「ウォッチストラップ」風になるだけでなく、亀甲の一つ一つが立体的なクッションになっている。肝心の座り心地は、まるで無数の手で体が下から支えられるような、不思議な感覚。ランバーサポート部がゆっくり伸縮するマッサージ機能も含めて、車両本体400万円+45万円で買えるシートとは思えない素晴らしさ。まさに「クルマのシートを超えた」シート。また後席でも、同じような座り心地が味わえる。レザーが好きじゃない人でも、グラっときそう。

 

後席にはシトロエンにしては珍しくドリンクホルダーを装備(C5にもあるが)

レザーシートには電動ランバーサポートがゆっくり前後するマッサージ機能が備わる

荷室容量はステーションワゴン並み


写真はトノカバーを外して、シート片側を畳んだところ。床はフラットになる

荷室容量は465リッターと中型ステーションワゴン並み。荷室フロアとバンパーレベルはツライチではないが、後席はダブルフォールディングで折り畳めるので、フロアは完全にフラットになる。この非日常感のある車両でも、積載性にこだわるところがバカンスの国、フランスのクルマらしい。

ちなみにリアゲート付近には一見、オープナーがないように見えるが、そんなことはなく、ちゃんとナンバーの上に電磁スイッチが備わる。分かりにくくしているのは、デザインや防犯対策のせいか。

 

後席は最近減ってきたダブルフォールディングで畳む。ヘッドレストを抜く必要はなく、操作は簡単

外観から想像されるより広い荷室。C5 ツアラー要らず?
 

床下には車載工具を収納。スペアタイヤはフランス車らしく床下吊下式

シトロエン初のスマートキーシステムを採用。ドアの施解錠はトヨタ車のようにタッチセンサーで行う
 

基本性能&ドライブフィール

トルキーなエンジンと6ATで、動力性能に不満なし


もう何十回も見た気がするPSA・BMW共同開発の1.6直噴ターボユニット

日本仕様のエンジンは、毎度お馴染みのPSA・BMWが共同開発した1.6リッター直噴ターボ。最高出力156ps、最大トルク240Nm (24.5kgm)といったスペックは、C5等と変わらず、またトランスミッションもC5と同じアイシンAW製の6ATになる。

そんなわけで、パワートレインに新鮮味はないが、全域トルキーなエンジンと、レシオカバレッジの広い6ATの組み合わせに不満はなく、言われたことは、きっちりやる、という感じ。ちなみに、直噴ターボと6ATの組み合わせは、MINIでは2007年から、プジョーでは2010年から308や3008で採用されていたが、どういうわけかシトロエンの場合はC5を除いて、セミATの6速EGSや6MTばかりになっていた。事情はどうあれ、DS5が誰でも違和感なく運転できるトルコン6ATになったことには、ホッとする人が多いのでは。またこの最新世代の6ATは、トルコンの割に伝達効率が高く、燃費性能にも優れている。

 

パワーウエイトレシオは、約10kg/ps(車重1550kg/最高出力156ps)に過ぎないが、最大トルクは240Nm (24.5kgm)もあるから、力不足は感じない。考えてみれば、C5は同じパワートレインで、車重がセダンで1620kg、ツアラーでは1680kgもあり、パワー感がちょうど過ぎるというか、少し余裕のない感じがあったが、DS5は必要十分なパワー感がある。

また、運転し始めて最初に思うのが、左右の見晴らしがいいこと。Aピラーが松葉のように2本になっていて、大きな三角窓から向こうがよく見える。フロントの見切りは良くないが、それを補うべくフロントにもソナーを装備しているから、意外に早く車両感覚をつかむことができる。

 

逆に、後方視界は決して良くないが、それを補うのがバックモニターとバックソナー。ルームミラーに内蔵されたモニターは3.2インチと小さいが、やっぱり便利。また日本の安全基準を満たすためだろう、左サイド前方を映すカメラも装備していて、こちらからの映像はイグニッションをオンにした直後とステアリングコラム左側面のスイッチ(教えてもらわないと気付かない)を押した時に、同じくルームミラーに映し出される。最小回転半径が5.7メートルもあるなど、小回りは決して得意としないDS5だが、これらの装備のおかげで取り回しに関しては、そんなに苦労しないように出来ている。

非ハイドロでもシトロエン風味は相変わらず


標準は225/50R17のミシュラン プライマシー。販売店オプションで18インチも装着できるが、グリップはこれで十分

シトロエンと言えば、気になるのはやはり乗り心地。DS5のプラットフォームは、C4/C4 ピカソ/DS4系の「プラットフォーム2」がベースなので、サスペンションは一般的なコイルスプリングになる。とはいえ、それでもハイドロに通じるシトロエン独特の乗り味になっているのが、非ハイドロシトロエンの伝統。低速で細かなゴツゴツ感があることを含めて、巡航からブレーキング時までフラットな姿勢を執拗にキープするところ、そしてコーナリング時でもロール感がないところは、やっぱり独自。ちなみにブレーキの食いつきが妙にいいカックンブレーキ感も、まだわずかに「残されて」いる。

一方で、ボディの剛性感は今やドイツ車に全く引けをとらないし、サスペンションもかなりガッチリしている。ドイツ車的価値観からすると理解に苦しむユルユル感はすでになく、その点ではシトロエンビギナーにも受け入れやすい気がする。

ワインディングでも安定して速い

ワインディングで驚くほど「速い」のも、シトロエンらしいところ。電動油圧パワステのレスポンスは、微舵に対しては穏やかだが、基本的にはセンシティブにインフォメーションを伝えてくる設定で、切り込むとクイックに反応する。225/50R17のミシュラン パイロット プライマシーを履くこともあり、リアはベタッと路面を捉えたまま、アンダーステア気味にしっかり曲がってゆく。

 

シフトレバーの影に隠れるため、存在を忘れがちなSボタン。滑りやすい路面用のSnowボタンもあるが、これも忘れそう

エンジン自体は上まで回しても大したことはないが、低中速トルクはしっかりある。なので、マニュアルシフトはさっさと諦めて、変速はスポーツモードに任せた方がリズムよく走れる。

ちなみにこの場合、多くのPSA車に共通の欠点は、スポーツモードのボタンがシフトレバーの影に隠れてしまい、走行中にボタンを押しにくい、もしくはボタンの存在を忘れてしまうこと。ま、パワーバンドはほぼ全域なので、押さなくても特に走りが鈍くなるわけではない。

 

ただ、そんな風に走るより、圧倒的な安定感とフラット感に身を任せながら、淡々と巡航する方が断然楽しい。また、次第にそういう走り方になる。

100km/h巡航時のエンジン回転数は約2000回転。C5 1.6Tでは約2200回転だったから、DS5の方が少し低い。静粛性はさすがにC5に及ばないと思ったが、目立ってうるさいわけでない。C5の場合は、速度感応型のハイドラクティブIII+サスペンションのせいか、スピード感がおそろしく希薄で、知らず知らずのうちにスピードが出てしまうが、そういう感じはあまりしなかった。

試乗燃費は8.0~11.3km/L。JC08モード燃費も11.3km/L

今回はトータルで約240kmを試乗。参考までに試乗燃費は、いつものように一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約90km)が8.0km/L。夜間、空いた一般道を無駄な加速を控えて走った区間(約30km)が11.3km/Lだった。ちなみにJC08モード燃費も11.3km/L。また80~100km/hの高速巡航だけに限れば、14~15km/L台はキープできそうだった。高速主体のロングドライブなら、10km/L台が狙えると思う。

燃料タンク容量はC4やDS4と同じで、C5より12リッター少ない60リッター。指定燃料はもちろんハイオクになる。

 

ここがイイ

デザイン、シート、走り、視界

独創的なデザイン。好きか嫌いかは別として、そこはさすがにシトロエン。エクステリアに限らず、インテリアも凝りまくり。操作ダイヤル周りの滑り止め「ギザギザ」が、シトロエンのトレードマークであるシェブロン(山形)だったりと、遊び心も。

試乗車のクラブレザーシートは、市販車で最高と言い切りたくなるもの。シトロエンのシートは伝統的に素晴らしいが、このシートはデザインだけでなく、掛け心地も見事。エンジンと同じくらい、いやエンジン以上にお金が掛かっている感じがする。

 

操作ダイアルの周囲に、やまば歯車(シェブロンギア)風のギザギザがついている。シトロエンの前身はやまば歯車の製造会社だった

姿勢変化が少なく、タイヤのグリップ力もあって、ロードホールディング性能は高い。スポーツカーでもないのに、ブレーキもよく効く。このあたり、燃費のためなら操縦安定性はこんな程度で、というコンセンサスが出来つつある日本車とは大きく違うところ。走りが楽しいシトロエンだ。

サイド&バックカメラやフロント&バックソナー、コーナリングランプ機能付のフォルグランプなど、死角を補ってくれる装備。三角窓が大きく、斜め前方の死角が少ないなど、視界のいいウインドウデザインも評価したい部分。また進行方向を照らしてくれるバイキセノンディレクショナルヘッドライトは、他の現行シトロエンを含めて、照度や照射範囲など申し分なく、夜間は本当にありがたい。

ここがダメ

温度調節の難しいオートアコン、スイッチ類の操作性など

ラテン車ということで大目に見たとしても、オートエアコンは20度まで下げても暑かったり、急に効き始めて寒くなったりと、かなりの気分屋。ブロア風量の強弱を3段階で変えられるスイッチを使いこなせば良かったかもしれないが。

先代C4や現行C5のステアリングスイッチも使いやすくはないが、DS5ではスイッチ類の配置がデザイン重視になり、より分かりにくくなった。オーディオ一つとっても、ステアリングスイッチで音量調節できるのはいいが、それ以上の操作になると、どこをどうすればいいか、しばらくスイッチを探してしまう。

またナビの後付けは、ダッシュボードの形状からすると難しそう。販売店オプションでタッチパネル式のメモリーナビを組み込むことが出来るが、性能・操作性は果たして。またスマホなどを取り付けようと思っても、スラッシュスキンのシボが大きめでステーの吸盤がくっつかないし、形状的にも置き場所に困る。買ったら悩みそう。

総合評価

ヒカリモノとは無縁だった


新型シトロエン DS5
(photo:プジョー・シトロエン・ジャポン)

いきなりだが、シトロエンはそうとうに好きだ。モーターデイズの試乗記を読み返してみても、シトロエンに対しては、どれもかなりの好感をもって書いてきたのが分かる。特に旧来からのシトロエンの、ハイドロの乗り味と奇抜な(というか変な)デザインが好きだった。そしてその変さは、世の趨勢に逆行していた。例えばシトロエン車はどれも、基本的にグリルが小さかった。ベンツに象徴される威張ったグリルではなく、グリル部には小さな穴が開いているだけ。そこが良かった。またメッキ類も控えめだった。ベンツに象徴されるヒカリモノの多用とは無縁のクルマだったのだ。むろん、全体のデザイン自体、そうとう変だったのも好きな要因としては大きいが。

 

しかしこのDS5は、グリルが大きくて、メッキも多い。そこが昔のシトロエンとは違うように思える。DSラインはDS3も、DS4も、大口を開けたグリルデザインだ。このグリルのおかげで存在感は確かに強い。メッキ類もボディサイドの上下に入るなど、やはり強烈。そうとう「派手」といってもいい。

 

シトロエン Numero 9 (2012年)
(photo:プジョー・シトロエン・ジャポン)

またボテッと分厚い印象のスタイリングも、昔のシトロエンとは雰囲気が違う。確かに初代DSはボテッと分厚いデザインだったが、SMやCX、それに1990年代のXMだって薄い印象だった。初代C5には分厚い印象があったものの、現行C5はまだ薄いスタイリングに留まっている。

そしてDS5も全長が長いだけに、DS4よりはいくぶん平ぺったく見えるが、それでもこのモノスペース的なボディは低く構えているようには見えない。DS6?の予告とも言われているコンセプトカー、Numero 9(ニュメロ 9)は写真で見る限り、かなり低く薄く見えるので、ちょっと気になるが。

プレミアムカーの価値

グリルが大きくて、ヒカリモノが多いという件は、多くの日本車がかつてそうだったし、世界的にもプレミアムと言われるクルマの多くは、未だにそういう傾向だ。昔の人はお金を稼いで一旗揚げ、ピカピカ大きなグリルのでっかいクルマに乗るのが夢だった。それがプレミアムカー本来の意義でもあるだろう。そして今でもプレミアムカーとは基本、そういう路線だ。もともとクルマという商品自体、便利な足としてだけでなく、ステイタスの部分が大きな価値を占めていた。昨今の若い人がクルマに興味を持たないというのは、そんなプレミアム感がよく分からない、あるいはそこに共感や価値を見出さないからだろう。そしてそういう価値観の喪失が、社会の上昇志向というか、活力を削いでいるのでは、と思う。いい女を侍らせ、いい家に住んでピカピカのいいクルマに乗る、そのために一生懸命働いて金を稼ぐんだ、という行為が社会経済を活性化させてきたことは事実。それがコモンセンスではない昨今の日本では、経済成長はなかなか難しいのかなと思う。

 

逆に、今そうした上昇志向が一番活発なのは中国だ。DS5は上海でデビューしたし、Numero 9も北京ショーで登場した。世界のプレミアムカーは、今や中国が最大のお得意様。そういう視点で見ると、DS5の立派な立ち姿は、そんな中国でかなり受けるのではないかと思う。そして、メカニズムとして一般的ではないハイドロサスペンションは実際のところ、なかなか中国には持ち込みにくいだろう。そのような事情がDS5の背景にはあるような気がする。

初代DSが出て、すでに57年

デザインの好みは人それぞれ。そこは自由に判断してもらうとして、ハイドロではないDS5の乗り心地は、金属バネ以上、ハイドロ未満というところ。確かにシトロエンらしい乗り味、舐めるようなコーナリングは独自だが、記憶にあるハイドロのそれとは別物。その代わり、元気でトルクフルな1.6ターボユニットのおかげで、走りは相当に活発だし、操縦性も高い次元にあって、かなりスポーティな走行が楽しめた。クルマとして運転していて面白い。ただしそれは旧来からのシトロエンを思うと、ちょっと違う。航空機の操縦席のようなインテリアは、この走りに確かにふさわしいと思うが、こちらもシトロエンらしいかというと、さて、と思ってしまう。要するに初代DSが出て、すでに57年。さすがにシトロエンらしさというものが変わりつつあるということだろう。

 

乗る人を選ぶようなデザインやメカではなく、世界に通用するプレミアムな要素を持ち、なおかつシトロエンらしい変態さがちょっと残っている、というのがDS5だ。そうはいっても、一般的には十分に変なクルマだから、日本で乗るなら個性という点で文句なし。足にもハイドロを思わせるフィーリングが確かにあるし、パワーにも燃費にも大きな不満はない。しかも普通に乗る分には、もはや「かつてのような苦しみ」はないはずだから、シトロエン好きとしては、これはもう買ってもいいかも、と思う。そう思いつつも、やはり昔のシトロエンの変態さに思いを馳せてしまう、というのが、このクルマに乗っての感想。うーん、そろそろ古いシトロエンマニアは退場する時が近づいているのかもしれない。ハイドロと共に。
 

 
 

試乗車スペック
シトロエン DS5 シック
(1.6直4ターボ・6AT・400万円)

●初年度登録:2012年7月●形式:ABA-B85F02 ●全長4535mm×全幅1870mm×全高1510mm ●ホイールベース:2725mm ●最小回転半径:5.7m ●車重(車検証記載値):1550kg(950+600) ●乗車定員:5名

●エンジン型式:5F02 ●排気量・エンジン種類:1598cc・直列4気筒DOHC・4バルブ・直噴・ターボ・横置 ●ボア×ストローク:77.0×85.8mm ●圧縮比:- ●最高出力:115kW(156ps)/6000rpm ●最大トルク:240Nm (24.5kgm)/1400-3500rpm ●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/60L ●10・15モード燃費:-km/L ●JC08モード燃費:11.3km/L

●駆動方式:前輪駆動(FF) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット+コイル/後 トーションビーム+コイル ●タイヤ:225/50R17(Michelin Pilot Primacy) ●試乗車価格(概算):445万円  ※オプション:クラブレザーシー(フロント電動シート&ヒーター付) 45万円 ●ボディカラー:ブラン ナクレ(Pe) ●試乗距離:約240km ●試乗日:2012年9月 ●車両協力:シトロエン名古屋中央(株式会社渡辺自動車)

 
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シトロエン名古屋中央

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