キャラクター&開発コンセプト
「Sクラス」と同じクオリティながら、ちょっと小さくて安い
スモールカー(Aクラスやスマート)から、ハイエンド・スポーツカー(SL)まで、ここ10年であっという間にフルラインナップメーカーに変身したメルセデス・ベンツ。しかし、同社の根幹かつ得意とする車型はやはり4ドアセダン、それも「超」高級セダンではなく、社用車やパーソナルユースに使われる「実用」高級セダンだ。
そういう意味で、同社の最量販車の一つ、Eクラスは一番メルセデスらしい。Eクラスはそもそも基本的に同社のフラッグシップ「Sクラス」のデフュージョン・ライン。「コンパクトクラス」と初めて呼ばれた「W114」('67年~)から「W123」('76~)、「W124」('85年~)、そして先代「W210」('95年~)まで続く、歴代ミディアムクラスは「Sクラスほどの大きさや豪華さは必要ないが、メルセデスのクオリティは欲しい」という多くの個人ユーザーに支持された。高価には違いないが、コストパフォーマンスに優れた実利的モデル、それがEクラスの人気の秘密だろう。
さらにスタイリッシュになったデザイン。成功間違いなし?
7年ぶりにフルモデルチェンジされ、2002年6月13日から日本で発売された新型Eクラス「W211」。先代の「スポーティ&エレガンス」路線をさらに推し進めたスタイリングが、外から見える大きな変化。ボディ内側の特徴は、大幅に向上したボディ剛性や衝突安全性、センソトロニック・ブレーキ(いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤー)や新型の電子制御エアサス「AIRマティック DC(デュアルコントロール)サスペンション」(E500に標準。E320にオプション)といった最新ハイテク技術が挙げられる。
価格帯&グレード展開
「E240」「E320」「E500」の3グレード展開
ヨーロッパではガソリン3種、ディーゼル2種のエンジンが用意されるが、日本仕様はガソリンのみ。ちなみに、ヨーロッパではEクラスでもマニュアル車(6速だ!)が珍しくないが、日本仕様は当然、全車5速AT。
ラインナップはシンプル。V型6気筒の2.6リッター(なのに名前は)「E240」(605万円)。V6・3.2リッターの「E320 アバンギャルド」(710万円)。そしてV型8気筒・5リッターの「E500 アバンギャルド」(870万円)。
「アバンギャルド」は基本的に内外装がスポーティに振られた仕様を意味する。「E500」には本革シート、バイキセノンヘッドライト、電動サンルーフが標準となるが、下の2グレードでもオプション装着可能。全車、左/右ハンドルあり。販売主力はおそらく、装備、性能とも過不足ない「E320」。しかし「E500」も少ない価格差と内容を考えると魅力的だ。
パッケージング&スタイル
低くスラントしたボンネット。好感度高し?
メルセデスで初めて採用された丸目異形4灯ヘッドライトは、先代Eの印象を大きく変えた。新型のヘッドライトも一見同じように見えるが、傾斜角がぐっと増え、形も同じ楕円ながら躍動感あるものに。レンズカットも美しい。ボンネットのスラントもさらに強まった。フロントガラスの傾斜角も増したように見える。
薄く低いフロントセクションによるCd値向上(0.26とクラストップ)という実利はともかく、実際の印象はたいへんスポーティ。ボンネット先端に屹立するスリー・ポインテッド・スターや例のメッキグリルは相変わらずだが、威圧感はほとんどなし。誰に聞いても好感度が高そう(特に女性には)。
リアは地味でスクエアなデザインから、CクラスやSクラスに似たカジュアルな形となった。しかしよく見ると、リアランプユニットの形状はまったく新しい意匠になっており、微妙ながら新鮮さがある。
先代の大きさをほぼキープ
サイズは全長4,820×全幅1,820×全高1,430mm。ホイールベース:2,855mm。全長は変わらず、全幅、ホイールベースは約20mmアップ。大きいことは大きいが、使いやすいサイズだ。最小回転半径は5.3メートルと相変わらず非常に小さい。
全高は15mmアップだが、1,430mmと低め。近年、セダンの車高は居住性重視でやや高くなる傾向にある。現行セルシオは1,470mm、日産シーマは1,490~1505mm、アウディA6は1,490~1,510mmだ。Eクラスが全高を上げないのは空力や重心への配慮からだろう。1,445mmの現行Sクラスを見下ろすわけにもいかない、のかもしれないが。
ダイエットむなしく、車重は1割以上アップ
E500の重量は先代E430(1,620kg)より1割ほど重い1,780kg。先代ベースのE55AMG(1,690kg)と比べても100kg近く重い。定番メニューの高張力鋼板の使用範囲アップ、ボンネット、フロントフェンダー、トランクフード、そしてリアサス周り(サブフレームとリンク)のアルミ化など、軽量化には努めたようだ。車重は操縦性や動力性能はもちろん、燃費にダイレクトに響くので軽いに越したことはないが、衝突安全性確保や装備の増加もあって、体重の維持はなかなか難しいようだ。
S字曲線のシックなインテリア
人間の背骨のようなS字を描くダッシュボードはSクラスと同じ。E500はアバンギャルド仕様となり、黒色のカエデ材でトリム。「E240」のブラウン系ウッドと違い、クールでモダンな印象。3連メーターは白地のパネル。オシャレだが、見やすさは今ひとつ。中央に速度計、右にタコメーター、左にアナログ時計となる。
一等地に大型のアナログ時計を配したのは賛否両論あるようだが、慣れれば非常に便利だろう。デジタルでは高級感に欠けるし、腕時計は夜間だと見にくい。
ナビやオーディオの操作はやや煩雑
空調やオーディオ、DVDナビ(全車標準)の操作方法は独特で、スイッチも多い。しかし運転に関する各スイッチに関しては機能的に整理されており、取扱説明書がなくても悩まない。例えば、メルセデス定番の、子供でも分かる椅子型の電動シート調節スイッチ。電動テレスコ&チルトステアリング(これはコラムのレバーに変更されたが)と相まって、ドラポジは自由自在。
全体的に奇をてらわないインテリアだが、天上に前後2つある大型室内灯のデザインは面白い。常時ほのかな照明が点灯しておりムードがある。前席リーディングランプは室内バックミラーに内蔵。光が目に入らず、いいアイディアだ。
ドリンクホルダーがない?!
小物入れも豊富。フタの閉まり方も節度がある。イタリア車のような一発芸的美しさはないが、安っぽさ皆無。文句なしのインテリア、と思いかけたその時、ふとドリンクホルダーが見当たらないことに気付いた。無いハズがない! そう思って散々探したが、やっぱり無いものは無い(後席アームレストには2つある)。これはもう、付け忘れたとしか思えない。それとも「乗るなら飲むな!」ということか? ポルシェでさえ、最新モデルはビルトイン式のカップホルダーを装備するというのに。いちおう、小物入れを利用した後付けドリンクホルダーがオプションで用意されるようだ。
基本性能&ドライブフィール
「乗りやすい」その一言に尽きる
試乗したのは新型Eクラスのトップグレード「E500」。EクラスのV8・5.0リッター版と言えば、先先代Eクラスにあったポルシェ・メイドの伝説的スーパーセダン「500E」と混同しそうになるが、今回の「E500」は全くの標準モデル。外観も大人しく、オーバーフェンダーで武装した500Eの凄みはない。
縦置きエンジンらしくボディをわずかに横に揺すってエンジン・スタート。シュワーンという海のさざ波のようなエンジン音が妙に気持ちいい。
着座位置は低いのに、見切りは圧倒的にいい。大きくスラントしたボンネットにも関わらず、ボディ先端(少なくとも、例の3つ星エンブレム)がしっかり見える。とにかく運転しやすい。国産中級セダンと大差ない全幅1,820mmは、左ハンドルにも関わらずほとんど気にならない。右ハンドルなら、5ナンバーセダンから乗り換えてもほとんど違和感ないはずだ。あまりの運転のしやすさに逆に用心深くなるほど。なにぶん高価なクルマゆえ。
針の落ちる音が聞こえる?
室内は非常に静か。あまりにも静かゆえ、走り出すと自動的に掛かる集中ドアロック(これもいつの間にか当たり前の装備になってしまった)のバシュッという音に、何度もビクッとした。夜間のアイドリング時は、クルマの中で通常聞こえるはずのない、かすかな音まで聞こえてまた驚く。エンジン音やロードノイズに関してはセルシオの方が無音に近いかもしれないが、このあたりでもう十分でしょう。
重量をモノともしない鋭いダッシュ
静かで滑らか、かつ乗りやすいE500だが、4.965ccのV8(306ps/5,600rpm、46.9kgm/2,700~4,250rpm)だけあって加速は強力。正直言って3,000回転以下は「トルキーで柔軟」というイメージを越えないが、そこからレッド6,000rpmまでの吹け上がりは、1速、2速(約120km/hまで)ならほぼ瞬間。1,780kgのボディを、楽に加速させる。フルスロットルだと発進時にESPのオン/オフに関係なく、245/45R17タイヤ(コンチネンタル・スポーツコンタクト 2)が一瞬鳴く。でも暴力的な感じはまったくない。
使いやすいティップシフト。賢いAT
Dモードからレバーを左に振ると移行するティップシフトは使いやすい。誤操作を防ぐ意味では、マニュアルモードと勘違いしてニュートラルに入れてしまう可能性も少なく優れている。ティップシフトの反応は速く、306psを解き放って走るには有効。レブリミット付近まで回すと自動的にシフトアップするが、クルマの性格にはこの方式が合っているだろう。
Dモードでもキックダウンは迅速かつショックレス。アクセル開閉度や開閉速度から運転者の意志を読み取って、必要な時はシフトアップせずエンジンブレーキを掛けてくれる、頭のいいATだ。「インテリジェントAT」を謳うクルマは他にもあるが、実際には気を利かせすぎたり、肝心なところで気が利かなかったりが多い。E500の場合、柔軟性のあるエンジンに負う部分もあるだろう。
ワインディングはやや苦手
このクルマでワインディングを攻めることは普通ないと思うが、いちおういつものコースを走ってみた。ここでも乗りやすさが印象的。普通に走る限り、ストレスなく安心して走ることが出来る。コーナー途中のウネリもまったく煽られることなく通過。これも新型エアサスのおかげか。普通ならドカンと突き上げが来るいつもの段差でも、ボディは当たり前のようにミシリのミの字も言わない。ボディ剛性なんて話題にすることすら忘れてしまいそう。
ただし、重さは感じる。こういった低速ワインディングでは、タイヤが音を上げる前にフットワークが鈍く感じられてペースが上がらない。直進では不満のないステアリングフィールも、こういうところではやや大雑把。フロントが100kg以上軽くなるE240やE320なら、おそらくもっと軽快に走るだろう。E500はそれとは違い、コーナーはゆったりクリア、直線ではティップモードの2速でズバっと加速、という走りとなる。
高速道路は全速度域でフラットかつ平穏
当然ながら、E500の得意科目は高速走行。100km/h巡行の回転数は5速で約1,900rpm。CD値0.26の数字通り、風切り音は非常に小さい。そこからシフトレバーを左に2回軽くシェイクすれば、周囲(前方も含む)のクルマをまとめて後ろに放り投げる加速。E500が際立つのは、それをまったく緊張感なく、平穏無事に、ビッタリと地に足を付けてこなすところ。100km/h巡航も160km/h巡航も、速度計の針以外は大差ない世界だ。
ここがイイ
V8のトルクフルな走りは、やはり圧倒的。もはや何も不満がない。また3段階に切り替えられるエアサスによって、それなりにスポーティに走れる。ボディサイズもクラウン並みゆえ、日本の狭いワインディングでも大きさを気にせず走れるのだ。このサイズはむろん街中でも有効。ドライバーズセダンとしてコンビニへの買い物にも使えるはず。
アクセル、ブレーキがすべてドライブバイワイアになっており、コンピュータ様の掌の上で走っている訳だが、そんなことは一切感じさせない。特にSBCと呼ばれるブレーキ系は、スタビリティコントロールを自在に行えるわけで、物理的条件を越えない限りスピンはしないわけだ。アクセルからブレーキまでを集中コントロールするゆえ、ABSもブレーキアシストも、ごく当たり前の仕組みとしてその中に隠れて存在している。ABSが効いたとしても、ブレーキペダルには振動は来ないから、「ブレーキが壊れたと思ってペダルから足を離しちゃってぶつかりました」というおマヌケな話もなくなるだろう。
また今度のEクラスの一番いいところは、先代に比べてデザインが圧倒的によくなったことだろう。先代は多くの人が?をつけたデザインだと思う。フロントの4灯もリアも、デザイン途中で投げ出したかのような形状だった。今度はSクラスにも似た(そこがいいかどうかは別の話だが)クーペっぽいセダンスタイルが確立している。誰が見ても素直にカッコいいといえるだろう。
総合的に見て、現在のドライバーズセダンの中で最強。ハードウエアのすばらしさに加え、ブランド力(現在のクルマの価値の半分はこれ)があるゆえ、もはや無敵。Sクラスより絶対にEクラスをおすすめする。
ここがダメ
DVDカーナビはEクラス全車標準装備。携帯電話をつなげばハンズフリーからメール、web閲覧まで可能だが、この手の機能は現状ですでに陳腐化している。この後10年乗るうちには、ここだけでもグレードアップしたくなるはず。それに対応しておいて欲しかった。ユニット式で簡単に変えられるような対策はないのだろうか。
リアシートの形状だが、ヘッドクリアランスを確保するため? か、お尻がぐっと落ち込むタイプ。小柄な人が乗ると、足裏が浮く感じになる。170センチ以上の人ならいいが、お年寄りなどは座っているのがツラいリアシートだろう。
総合評価
「最善か無か」でないことは今さら言うまでもないだろう。年間24万台も売るクルマであるEクラスは、明らかなマスプロ車だ。名車と呼ばれるW124と比べると、その変わり様は全く別メーカーのクルマみたいに思える。シートは小振りで柔らかく、アクセルは軽く、インパネは無骨でなく、乗り心地はしなやか。トヨタのクルマみたいとは言わないが、W124にあったいわゆるベンツらしさ(それは古くささでもあるが)は皆無だ。マスプロ工業製品としてのクルマは、皆同じような仕上がりになりがちだが、このW211もW124より最近のトヨタ車の方に近いといってもいいだろう。
といってそれが悪いというわけではない。自動車誕生から100年がたち、クルマは電子化によって次の世代に突入しつつある。その先兵がこのEクラスだろう。ドライブバイワイアは明らかに今後のクルマの方向だ。それを見事に具現化しているEクラスには、正直、感動した。
今回はE500という最高峰にしておそらく最良のEしか乗っていないので、その良さが際だつ結果となったが、E240あたりだとかなり印象は変わるかもしれない。室内の質感にしても、かつてのオーラはないのだから。しかしながら外観からは確かに「ベンツのオーラ」を放っているように感じた。特に先代があまりに実用車的な印象が強かったから、今回のEには相当な色気が加わっているように思う。前のEだとドライバーは相当に中小企業オヤジくさく見えるが、同じ人が乗っても今度のEは、やり手実業家風に見えるはず。若いオネーちゃんも今度のEなら引っかけやすいだろう。元々強力なブランド力がこのデザインワークによってさらに強化されたように思われる。おそらく相当なヒット車となるはずだ。
試乗車スペック
メルセデス・ベンツ E500 アバンギャルド
●全長4,820mm×全幅1,820mm×全高1,430mm●ホイールベース:2,855mm●車重:1,780kg●エンジン:4,965ccSOHC V型8気筒・縦置き●駆動方式:後輪駆動●306ps/5,600rpm、46.9kgm/2,700~4,250rpm●10・15モード燃費:6.9km/L●タイヤ:245/45R17●価格:870万円(試乗車:870万円)
公式サイトhttp://www.mercedes-benz.co.jp/




