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ホンダ エレメント新車試乗記(第275回)

Honda Element

(2.4L・4AT・259万円)

2003年07月05日

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キャラクター&開発コンセプト

アメリカ生まれのアメリカ育ち

2003年4月16日に発売されたエレメントは、CR-Vをベースに、観音開きボディを与えたクルマ。「ジェネレーションY」と呼ばれる、10代から20代前半のアメリカ人の若者をターゲットにした新種のマルチパーパスビークルだ。開発はホンダ R&D アメリカ、生産はホンダ・オブ・アメリカ(オハイオ州)。基本的に、アメリカ市場向けのクルマを右ハンドルにして、日本に持ってきた、ということになる。

RX-8と同じく観音開きドア

目を引くのは、センターピラーレス構造と両側観音開きの「サイドアクセスドア」だ。奇しくも同時期の発売となったマツダ・RX-8と、実質的にほぼ同じものと言える。今までにない斬新なデザインや「サーファー御用達」をイメージした、思い切りのいい機能性重視も画期的だ。

走る「ライフガードステーション」

なにせモチーフは海岸でライフセーバーが待機するライフガードステーション(見張り用のキャビン)だ。静的な存在の「建物」をモチーフにした点が珍しい。かつて本田宗一郎は神社仏閣をモチーフにオートバイを作ったが…。多くのアメリカ人にとって、ライフガードステーションはサーフィン文化はもちろん、カッコよさや安心感を与えるものと言っていいだろう。

CMで使う曲は、もちろん誰が考えてもビーチボーイズで決まりだろう(「Getcha Back」1985年)。車名「エレメント」は、一般的には「要素」や「元素」の意。ホンダは特に「土、水、空気、火」の4大要素を意識してネーミングした、と説明する。ちなみにホンダ・ベルノ店で、「エレメントなんですけど…」と言うと、「オイルですか」と聞かれます(実体験)。

ジェネレーションYならず、ベビーブーマーに人気

北米では5速MTや前輪駆動モデルも用意されるが、日本に導入されたのは4速AT&4WDの1車種のみ。昨年末から発売されたアメリカでは月平均5000台オーバーというヒット車となっているようだが、実際に購入しているのは主に40代の中高年層と言われている。日本での販売目標は1000台/月だが、さてこの国ではどんな世代が買うことになるのだろう? 販売チャンネルはベルノ店のみ。

価格帯&グレード展開

259万円の1モデル

車両価格259万円の完全1グレード。オートエアコン、ディスチャージドヘッドランプ、16インチアルミ、4スピーカーなどは標準装備だが、オーディオはオプションだ。サイドエアバッグなど、メーカーオプションの類は一切用意されない。オーディオレスで259万円という価格は、若者に手が届きやすい価格とはちょっと言いがたい。

ボディカラーはサンセットオレンジ、ガラパゴスグリーンメタリック(軍用車両のような暗緑色)など、個性的な5色が用意される。アメリカ仕様にはこれにブルーが加わる。

北米では2WDが主流で、マニュアルもある

北米では4グレード展開。2WDモデルが1万6100ドル(約190万円。1ドル=120円換算)からスタートするが、下位グレードはエアコンがオプションになるなど、装備はかなり省かれる。為替レートで換算すると200万円近いが、生活感覚的には1ドル=100円なので、現地では160万円という感覚だ。2万ドルを越える上位モデルは日本仕様に近いが、オーディオや脱着式ガラスルーフ、クルーズコントロールなど日本仕様にはない装備が付く。全グレードにマニュアルの設定があるのが、ある意味アメリカらしい。アメリカであえてホンダ車を選ぶ人たちは、燃費の良さといった経済性を重視するからだ。小型車のマニュアル率も日本よりずっと高い。

パッケージング&スタイル

モチーフもディテールもぶっ飛んでる

全長4300mm×全幅1815mm×全高1790mmは、一見巨大なサイコロ風。短い全長に対して、ワイドで、背が高い。ホイールベースも2575mmとやや短め。「ライフガードステーション」をモチーフにしたボディデザインは一見奇抜だが、完成度はそうとう高い。頭の固い、つまり普通の人には考えられないような、ブッ飛んだデザイン処理がそこら中に見られる。ひょっとするとここ数年内に出たSUVのデザインの中で最高傑作ではないか、とさえ思う。

アルミフレーク入り樹脂フェンダー

例えば、前後バンパーのみならず、前後フェンダー、サイドステップを無塗装(材料着色)の樹脂剥き出しにしたところがスゴイ(※今回の試乗車は販売店によるスペシャルオプションとして、ボディ同色塗装が施されていた)。この樹脂は金属片(アルミフレーク)を混入した複合素材。メタリック塗装のようにキラキラ光り、耐スクラッチ性も高いという。この「ツギハギ」状のボディ外板やアーチ状のルーフなど、見れば見るほど斬新で、しかも理にかなっている。

「ちょっと便利」という軽いノリ

注目の観音開きドアはセンターピラーが無いということで、前ドアを開けないと後ドアは開かない。RX-8の開発スタッフも言っていたが、こうするしかないようだ。アメリカの安全基準のせいもあるという。後ドアはヒンジ類も強化され、閉じたときにはBピラーの役目も果たす。

前席シートベルト本体は後席ドアから伸びる。つまり前席の人がシートベルをした状態で、後席の人がそのドアを開けて降りることは出来ない。また、後ドアを開けたまま、前ドアだけ閉めようとしても、ウエザーストリップのゴムに当たって跳ね返される。また、後ドアを前ドアの上から重ねても、ゴム部分が先に当たるようになっている。

後席から降りる時は、前ドアをまず開けてもらわないと降りられない(RX-8と同じ)。結論から言うと、リアドアはあくまでも荷物の出し入れや、いざという時の後席乗車に便利、くらいに考えた方がいい。ホンダもそういう気持ちで作っているようだ。

確信犯的な質感の低さ

インテリアの割り切り方もスゴイ。「高級感なんて要らないでしょ」と言い切るように、豪華な感じはまったくない。259万円のクルマなら付いてて当たり前の、ソフトパッド入りダッシュボード、メッキ室内ドアハンドルも当然なし。バニティミラーさえ備わらない(アメリカ仕様の上位グレードには助手席にのみ設定あり)。質感、各部の作りは、完全にホンダ・ライフのレベル。価格が価格だけに、これはもう確信犯というしかない。

インパネの3眼メーターは透明レンズ部分が尖った、昔懐かしい? コーンシェイプ型。これはちょっと面白い。アメリカ育ちをアピールすべく、速度計にはマイル表示も併記する。小さなタコメーターの視認性は悪いが、まあ別に問題というほどではない。

防水シートは◎

なかなか良いと思ったのはシート。ホールド性は普通だが、固めのクッションでサイズが大きく、座り心地がいい。シート表皮は撥水ではなく「防水」。表皮の裏にポリウレタンフィルムを重ねたもので、縫い目を除いて水分は染み込まない。つまり飲み物をこぼしたり、濡れた体で座ってもスポンジまで染み込まない。おそらく自動車用シートで初だろう。通気性は通常のファブリックに劣るが、表時の肌触りは優れており、特に蒸れる感じはない。

後席シートも同じような造りだが、こちらの座り心地はかなり平板。足元スペースは広く、床も完全にフラットだが、人によっては閉所感を感じるかもしれない。サイドガラスがヒンジで少ししか開かないからだ。

後席はベッドにするか跳ね上げて

基本的に後席は、背もたれを寝かせて簡易ベッドとして使うのがいい。平板なので、こういう使い勝手にはピッタリだ。横に跳ね上げれば(登山用のカラビナを模したフックで引っ掛ける)、小型ワンボックス車のような荷室スペースが出来る。天井が高いこともあり、使い勝手は良さそう。カタログにはこの状態で「6フィートの長身の方でも足を伸ばして眠ることが出来る」とある。ちなみに6フィートとは約180センチ。なにせメイド・イン・USAなので。

テールゲートはレンジローバーやボルボのXC90などのように、上下2分割で開く。下のゲートはもちろん大人が座っても大丈夫で、実際にちゃんと座れる。荷室床は樹脂製の「ワイパブルフロア」で水拭き可能。天井のライナーも撥水仕様だ。

基本性能&ドライブフィール

心地良い閉所感

一言で言って、エレメントは居心地のいいクルマだ。ホンダ車らしからぬ、直立した天地の狭いフロントガラスで、適度な囲まれ感がある。実はサイドウインドウも小さく、グラスエリアはクーペ並みに小さい。閉所感がないのは、ほぼ直立したAピラー、高い天井、余裕ある室内幅などのせいだろう。ほとんどの人が乗ってすぐに「広い」と感じるはずだ。大らかでイージーな運転フィーリングは、どことなくアメリカン。梅雨の晴れ間にサイドウンドウを開けて腕を外に突き出して乗ると、いつもの渋滞路がサンタモニカや、ホノルルのアラモアナ・ブルバードに見える。

悪くない取りまわし

ボディ幅があってハンドル切れ角が大きいからだろう、小回りも効く。資料を確認すると、最小回転半径は5.2メートルとやっぱり小さい。これはCR-VやHR-Vと同じで、意外なことにシビックの5ドアより小さい。オーバーハングも短いし、ボディの角も落とされている。パワーステアリングはちょっと重めで好印象。左前方の見切りはちょっと悪いが、それ以外の視界は悪くない。

肩の力が抜けたエンジン

新型アコードのものに近い2.4リッター直4エンジン(160ps、22.2kgm)は、1560kgの重めのボディを軽快に引っ張る。もっとモッサリしたフィーリングと思っていたが、良い方向に予想は外れた。低速側に振られたエンジンは回転を問わず自然なパワー感がある。個人的にはこういう、ちょっと肩の力の抜けたホンダ・エンジンがいいと思う。

気になったのは加速時に出る、吸気音と思しき「コーー」という音。エンジン自体のノイズ、排気音はほとんど聞こえないので、この音だけが妙に目立つ格好になってしまっていた。

意外に軽快

見た目以上に操縦性はしっかりしている。タイヤは16インチの舗装路・快適系オフロードタイヤ(グッドイヤーのWRANGLER HP)だが、普通の山道を走る程度ならワイドトレッドの足まわりでキビキビ走る。センターピラーレス化によるボディ剛性への影響は、まったく感じられない。

最近の新型車で当たり前になりつつある電子制御系デバイスは装備されないので(ABSは付くが)、攻め込むとカウンターが当たるくらい挙動は出る。が、修正は簡単で、しかも怖くない。しっかりしたボディに限界の低いタイヤ、トルク重視でレスポンスのいいエンジン、の相乗効果だろう。

ノイジーというほどではないが

突き上げは少し強めだが、乗り心地はこの手の中型SUVとしては平均的。100km/h巡航は2500回転。巡航する限り、例の吸気音も聞こえないから静か。と言いたいところだが、ロードノイズ(おそらくタイヤのせい)と風切り音はちょっと気になった。特に前者は「ゴーゴー」という粗い音ではないが、もう少し静かだと快適性が250万円級になると思われる。とは言え、内装の質感同様、「それがどうした?」と言われれば、「まあ別に」というレベルだ。

ちなみに、前輪ホイールハウス内を覗くと、なんとエンジンが丸見え。さらにその反対側のホイールハウスから向こうの景色?まで見えた。ロードノイズの原因が全てこれではないと思うが、最近のクルマではまず無いので驚いた。

10・15モード燃費は10.6km/L。今回の試乗では約130km(高速道路半分を含む)を走行してレギュラーガソリンを約20リッターを消費し、約6.5km/リッターだった。ゆったり流すのが気持ちいいクルマなので、燃費の落ち込みは少ないかもしれない。

ここがイイ

乗るまではかなりなキワモノに思えていたが、乗ってみるとこれがいい。スポーツカーとか乗用車とかの対局にある乗り物で、(ワゴンR的スタンスの)アメリカの軽自動車という感じだ。デザイン的にもそうとうスゴイ。しかも幅が広いことがデザイン全てに有利になっている。つまりアメリカでしかできないものだろう。過去最高収益、今絶好調の北米ホンダの迷いのない「コンセプトカー」だ。もちろんちゃんと必要十分に走る。

内装パネルが全てプラスチック張りで汚れない。というか汚れても拭ける。日本では初代ステップワゴンがそうだったのだが、マイナーチェンジで(安っぽい)布張りとなった。この経験から日本車では今後も採用は難しそうだが、アメ車ならできるわけだ。同様にビニール張りの床も素晴らしい。絨毯張りフロアはかつては防音の意味もあったが、今や高級感のためのもの。とはいえ高級住宅でも今やほとんどフローリングの時代なのに、なぜクルマだけがいつまでも絨毯張りなんだろう。

後席は観音開きドアで乗り降りはちょっとしづらいが、乗ってしまえば広くて居心地がいい。前席より高めで見晴らしもいい。サイドに跳ね上げてたためるのは、床のフラット化がはかれるため高評価。フラットシートより床で寝る方が安眠できるのは、車中泊経験者には広く知られたところだ。

ここがダメ

リアドアの窓はポップアップするものの、できれば全開する工夫が欲しい。同様にリアハッチのガラス部分も開けられるといい。窓を開けて走るというのはこのクルマにふさわしいシチュエーションだと思うから。サンルーフも欲しいな。

若者が買えない値段。いや若者でなくてもちょっと躊躇してしまう。160万円くらいなら、若者でなくても食指が動く。月1000台なんて控えめな数字でなくてもいけるはず。

総合評価

先日、昔よく行った海へ出かけた。若い頃、夏の間一ヶ月以上にわたって仕事をした若者向けのリゾートホテルは、日帰り温泉に姿を変え、ファミリーで賑わっていた。しかし隣にあるちょっと新しめのリゾートホテルは、2年前につぶれて荒れ果てていた。これが今の日本なのだろう。

若い頃には確かにエンドレスサマーという夢があった。いや実際にその頃はエンドレスサマーを生きていると思っていた。友達はクラウンバンにサーフボードを乗せ、僕たちはエアコンのない(あったかもしれないが少なくとも動いていなかった)初代プレーリーの観音ドア車(後部ドアはスライドだったが、開口部はエレメントより広かった気がする)に大勢で乗り込んで海へ向かったものだ。

時とともに、年齢を重ねるごとに、夏はエアコンの彼方へ消えていき、ビーチボーイズの「オール・サマー・ロング」をBGMに、日々仕事に追われている。しかしエレメントを試乗してから、もう何もかも捨ててエンドレスサマーに向けて、旅立てたらと思うようになった…。

などとちょっと感傷的になってしまうほど、エレメントはアメリカンだった。コンセプトとしては初代プレーリーに近いとも思うが、その雰囲気はまるで別物。機能性は素晴らしいと思った初代プレーリー。しかし、どうカスタムしてもカッコよくならなかったのだが、エレメントはそのままでカッコいい。なんといっても幅が広いし、やっぱり日本人ではできないデザインだ。

クルマの出来としてはこれまた実にアメリカンで、よく言えばおおらか、悪くいえば雑。これは誰が見てもわかるはずだ。ただしこのクルマは日本人や欧州人が好きな「乗用車」ではなく、アメリカの道具である「トラック」なのだから、それもしかり。クルマとして評価すればたいしたことない、となるが、道具として評価するならかなりの高得点が与えられる。エンドレスサマーを生きるにはこういう道具がいるのだ。

昔、プレーリーじゃなくエレメントがあったら、今のような人生は送っていないかもしれない。人の生き方が道具を選ぶと考えがちだが、道具が人の生き方を変えることも確かにある。カタログ文化という言葉はいつの間にか使われなくなったが、物にこだわるライフスタイルは完全に現代に根付いた。エレメントは単なるクルマではなく、人生を変える道具になり得る。

エレメントは当面、若者に売れるのだろう。しかしそれにはちょっと高すぎる気がする。道具としてはもうちょっとチープで、安い方がいい。米国にあるFF廉価版の日本発売を期待したい。そして今はまだちょっと早いかもしれないが、もう数年すれば今の若者の親世代、つまりリタイヤしたかつてのビーチボーイ達がエレメントを買うようになるだろう。ジジイがエンドレスサマーへ再出発するには、エレメントはいい選択だ。

試乗車スペック
ホンダ エレメント
(2.4L・4AT・259万円)

●形式:UA-YH2●全長4300mm×全幅1815mm×全高1790mm●ホイールベース:2575mm●車重(車検証記載値):1560kg(F:890+R:670)●エンジン型式:K24A●2354cc・DOHC・4バルブ・直列4気筒・横置●160ps(118kW)/5500rpm、22.2kgm (218Nm)/4500rpm●使用燃料:レギュラーガソリン●10・15モード燃費:10.6km/L●駆動方式:4WD●タイヤ:215/70R16(グッドイヤー製 WRANGLER HP)●価格:259万円(試乗車:ー円 ※オプション:フェンダー/バンパー同色塗装 30万円(販売店による特別オプション)、DVDナビなど) ●車両協力:株式会社ホンダカーズ東海

 
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