キャラクター&開発コンセプト
累計1000万台以上のベストセラー車
2002年に欧州で発売された小型車「フィエスタ」は、WRC(世界ラリー選手権)で活躍するフォーカスの下に位置するコンパクトカー。日本ではなじみが薄いが、欧州では1976年以来、累計1000万台以上を誇る大ベストセラー車だ。
5代目となる新型が日本で発売されたのは2004年4月2日。欧州より導入が2年遅れたのはオートマチックの設定が無かったからだが、今回やっとアイシンAW製の4ATを得て日本上陸となった。開発はドイツとイギリスに拠点をおく欧州フォード。プラットフォームはマツダ・デミオ(欧州名マツダ 2)と共有するが、ヨーロッパに狙いを定めた走行系のセッティング、機能性、デザインで独自性を打ち出している。
コンセプトは“ラテン・スピリット&ジャーマン・ヘッド(Latin Spirit & German Head)”。ラテンの情熱とドイツの知性、つまり「コンパクトカーのアクティブでカジュアルな性格と、欧州フォードならではの実用的かつ高い基本性能」(プレスリリース)を兼ね備える。フィエスタの名はスペイン語で「祝祭」を意味し、生産拠点もドイツのケルン、およびマツダ2と同じスペインのバレンシア工場だから、この辺りもコンセプトの所以だろう。
価格帯&グレード展開
177万9750円と195万8250円
欧州には3ドアもあってバリエーション豊富だが、日本仕様は5ドア・1.6リッター・4ATモデルのみ。グレードはベーシックな「1600 GLX」(177万9750円)と「1600 Ghia」(195万8250円 ※今回の試乗車)の2種類。Ghiaにはカーテンエアバッグ(計6エアバッグ)、アルミホイール、インダッシュ6連奏CDチェンジャー付きオーディオ、フルカラード前後バンパー、グリルのメッキ縁取り、フォグランプが備わる。
なお、Ghia(ギア)とは、イタリアの老舗デザイン工房「カロッツェリア・ギア」のこと。あのジウジアーロも、イタルデザイン社を興す前に短期間ながら在籍した名門である。ギアは1970年にフォード傘下に入っており、以来フォード車の最上級グレードの証としてそのバッジが付く。
GLXはフロント2ピーカーだけの完全なオーディオレス。2DINなので、好みのオーディオやナビを使いたい人にはいいかも。しかし、エクステリアは黒い樹脂が目立ち、カタログ上でさえあまりに華がない。営業車用?という感じだ。
パッケージング&スタイル
デミオとほぼ同じだが、背は妙に低い
サイズは全長3915mm×全幅1685mm×全高1445mm。デミオとほぼ同じ大きさだが、全高は100mmほど低い。ハッチバックと言えば昔はこの程度が普通だったが、ミニバンを見慣れた目にはやけに低く感じられてしまう。
ボディカラーは全部で8色あり、試乗車は「フレアメタリック」という赤みの強いオレンジだ。
クリーンなスタイリング
ホイールベースは2485mm。デミオの2490mmと5mmしか違わないから、足まわりの取付位置といった微妙な差だろう。横から見ると無駄の無いクリーンなスタイリングがよく分かる。フォーカスや、欧州では現役で、まだまだ人気があるkaでは斬新なデザインに挑戦した欧州フォードだが、フィエスタでは生活車らしく手堅くまとめる。スタンダードっぽいのも狙ったところだろう。
目を引いたのがサイドシルの形状だ。スポーツカーでもないのにBピラー付け根が太い。リアドア下も乗降性を損なわない程度に大きくされ、開発者の気合いが感じられる。
デミオとインパネ骨格は同じ
インパネはごくあっさりとシンプル。4つの丸い空調吹き出し口が印象的。デミオのインパネと見比べると各種スイッチ/レバーの位置が同じで、基本骨格が同じなのが分かる。前席は見た目こそ平凡だが、長時間乗っても疲れない。
後席は平板だが、このクラスとしては座り心地が良く、ヘッドレストも3つ備わる。デミオより全高が低くても、天井高は十分だ。GHIAには前席&サイドエアバッグに加えて、前・後席用カーテンエアバッグを装備。
このクラスの欧州車のリアウインドウはレギュレーター(手回し)が当たり前。それはいいが、ガラスは真ん中辺りで全開だ(写真)。まあ、子供が頭や手を出す危険性は低いが…。
コンセプトの違い
デミオのリアシートは前後に160mmもスライドし、前方にタンブルする形でダブルフォールディングと凝っているが、フィエスタは普通のダブルファンクション。デミオ自慢の「マウンテンバイクがそのまま2台積める」荷室には負けるが、それはコンセプトが違うから仕方ない。フィエスタもこのクラスとして十分な通常時284リッターの容量を誇る。
一つ困るのはゲートにオープナーが備わらないこと。盗難防止対策(信号待ちで盗難に遭う可能性が海外ではある)だと思うが、日本では不便だ。ただし、オープナースイッチはダッシュボードにあり、ドアの外からでも押しやすい。
基本性能&ドライブフィール
力強いエンジン
1.1トンにジャスト100馬力のパワーバランスはこのクラスの標準。デミオやベリーサと比べても、数値的に大差はない。しかし、実際に運転した感じはまさに「欧州コンパクト」。まず、ハイオクを使って圧縮比を11.0まで上げ、低速から力強いエンジンがマツダ車とはひと味違う。マツダのMZR系エンジンも優れたパワーユニットだが、フィエスタはシリンダーブロックが厚いような?エンジンのがっしり感が魅力だ。低速でアクセルを踏み込んだ時はちょっとうるさいが、トルクがフラットで、質感の高い走りは素晴らしい。回すとノイズや振動が逆に小さくなる感じで、つまり高速走行ではパワーをフルに使って走るのが向いている。こうなると5速MTが欲しい。
アイシンAW製の4速ATのシフトも違和感なく、ボディもコンパクトな上、見切りがよくて、運転するのに気を使う点はほとんどない。
欧州直輸入の走り
乗り心地は国産コンパクトと比べると固めだが、ボディがしっかりしているので不快感はない。剛性感はVWポロもかくやと思うほどで、ツギハギだらけの荒れた舗装路を強行突破してもタタタタンと軽くやり過ごす。
このボディだから、ハンドリングもガシッとしている。シャープではないが、正確な油圧パワステを一定の角度で切ったまま、アクセル全開でコーナーを抜けることが可能。足まわりの無駄な動きもほとんど抑え込むし(ダンピング性能が高い)、段差でバンッという衝撃がステアリングに伝わるのをあえて許すところも国産車と違う点だ。サーボを抑えたブレーキはタッチが良く、スピード・コントロールもしやすい。
高速走行もお手の物だ。100km/h巡航は2800回転くらいで、このあたりなら十分静かだ。パワーをフルに使ってメーター読み160km/hあたりでも不安感はない。まさに欧州直輸入の高速安定性が味わえる。メーカー発表の最高速は欧州仕様(同じ1.6リッター、 4AT)で179km/hとある。
ここがイイ
力強く、気持ちのいい中低速域。変速ショックのない、適正な変速プログラムのAT。後輪ドラムなのに問題なくじわりと効くブレーキ。高い衝突安全性。一見どうということのないデザインだが、よく見るとなかなかカッコいいスタイリング。今や多くのドイツ車が失った、欧州直輸入の質実剛健さを感じられる点。
ここがダメ
一見かなりチープな内装。右ハンドル化でやや左にオフセットしたペダル類。シーケンシャルモードのない4ATで、シフト・インジケーターもインパネにないこと。フィエスタのゲートは一直線で、一般的なODスイッチがシフトレバーに付くが、そのインジケーター照明が暗くて、日中ほとんど役に立たなかったのは少々困惑。また、ダッシュボード上のトランクボタンは押しやすいメリットはあるものの、間違えて押す可能性も高く、功罪相反する。ガソリンが高い昨今、このクラスでハイオク仕様はつらい。
総合評価
日本ではかつて、売れないクルマの代表として5ドアハッチバックがあった。80年代の赤いファミリアも3ドアがメインで、5ドアは全く売れなかったものだ。しかし今やコンパクト5ドアハッチバックの隆盛は驚くほど。8月の販売実績ではフィットがまたトップとなっている。
逆に欧州では主力がずっと5ドアハッチバック。代表的なゴルフも当然そうで、現行の新型ゴルフにおいてもそれは同じ。合理的に乗る限り、5ドアハッチバックこそコンパクトカーの主流なのだ。ゴルフと同じくらい長い歴史をもつフィエスタもその点は全く同じで、まさに正統派の5ドアハッチバックだ。
この手のクルマは伝統的に走りがしっかりしている。フィエスタも同様で、このままラリーに出られそうな走りの質は、ATが搭載された日本車でも十分感じられる。走って実に心地よいのだ。さらにユーロNキャップ4つ星の衝突安全性など、完全に質実剛健の方に振られている。
その結果、というかそうした走りの基本性能へ注力されたために、内装は実にシンプルかつ、正直なところチープ。変に飾られていない分、広々としてはいるが、作り込まれた日本車の仕上がりや質感からは相当遠いところにある。これは初期のヴィッツにも共通することで、欧州コンパクトハッチバックとしては不思議ではないが、ヴィッツのようなギミック(センターメーターとか)がない分、少し弱いのは否めない。
つまり、フィエスタはまさに30年近い歴史に基づく、伝統どおりの典型的な欧州コンパクトハッチバックそのものなのだ。一方、日本で売れている5ドアハッチバックの多くは、ミニバンの要素を多く含むスタンス(というか今やミニ・ミニバンそのもの)で、そのコンセプトは大きく異なる。例えば先回の試乗記のポルテとフィエスタでは全長・全幅サイズにほとんど差がないが、全高の差は275㎜もあり、ポルテはさらに片側スライドドアという斬新な手法で5ドアでなくても使いやすく出来ることを証明した。両車のコンセプトの差はとにかく大きいと言わざるを得ない。
しかし、走りの質は確実にフィエスタが上。つまり乗って気持ちいいフィエスタか、使って「異常に」便利なポルテか、という選択肢となる。日本ではウケなかった5ドアハッチバックもミニバン的要素を入れることで爆発的に売れるようになったのだが、元々5ドアハッチバックが売れている欧州では伝統をより昇華させる方向に進化したわけだ。とはいえ、伝統と革新の戦いのどちら側につくかは、人によって簡単に結論が出せるはず。
フィエスタにとって、クルマの出来とは別にあまりに弱いところはやはりブランド力だ。欧州フォードというのはとにかく日本での知名度が低いし、マニアウケもない。ここは日本でも人気上昇中のWRCあたりをうまく使って、よりブランド力を高めるセールスプロモーションを活発化して欲しいところ。なにせWRCで上にいるのは、あのシトロエンなのだから。伝統の製品はブランド力があってこそ、と思う。
試乗車スペック
フォード フィエスタ Ghia
(1.6リッター・4AT・195万8250円)
●形式:GH-WF0FYJ●全長3915mm×全幅1685mm×全高1445mm●ホイールベース:2485mm●車重(車検証記載値): 1130kg(F:670+R:460)●乗車定員:5名●エンジン型式:FYJ●1595cc・DOHC・4バルブ・直列4気筒・横置●100ps (74kW)/6000rpm、14.9kgm (146Nm)/4000rpm●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/45L●10・15モード燃費:12.0km/L●駆動方式:前輪駆動(FF)● タイヤ:175/65R14(Continental EcoContact EP)●価格:195万8250円(試乗車:195万8250円 ※オプション:なし)●試乗距離:約150km
公式サイトhttp://www.ford.co.jp/fiesta/index.htm