Published by DAYS since 1997 from Nagoya, Japan. 名古屋から全国に発信する新車試乗記や不定期コラム、クルマ情報サイト

ホーム > 新車試乗記 > 日産 GT-R

日産 GT-R新車試乗記(第498回)

Nissan GT-R

(3.8L V6ターボ・6速デュアルクラッチ式AT・4WD・777万円)

「地球の力」と「ハイテク」と
「匠」の技が、ニュルで結晶。
日産はいったいなぜ、
そして何を生み出したのか?

2008年02月16日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加 
  • mixiチェック
 
 
 

キャラクター&開発コンセプト

「誰でも、どこでも、どんな時でも楽しめる」


2007年の東京モーターショーが「偽装のない」新型GT-Rのワールドプレミアとなった

東京モーターショー初日の2007年10月24日に発表、12月6日に正式発売された新型「Nissan GT-R」は、言うまでもなく歴代スカイラインGT-Rの系譜にあるモデル。今回の「R35型」GT-Rではスカイラインの名がなくなっているが、GTカーでありながらレーシングカー並みの性能を発揮するというコンセプトは継承。特に新型では「誰でも、どこでも、どんな時でも最高のスーパーカーライフを楽しめる」とうたい、路面、天候、ドライバーの技量を問わない「新次元マルチパフォーマンス・スーパーカー」を目指している。

世界初のFRトランスアクスル式4WD

シャシーは日産FR車でおなじみの「FMプラットフォーム」をベースとしつつ、トランスミッションを車体後部に移設してトランスアクスル式とした「PM(プレミアム・ミッドシップ)パッケージ」を新採用。リアの独立式ギアボックスから駆動力を再びフロント側に戻して前輪を駆動するという世界初の4WDレイアウトとなっている。新型GT-Rのキーワードとして挙げられる「Force of the Earth」は、こうした重量配分=「重力」やダウンフォースを主とする「空力」など「自然の力を最大限活用」していることを指す。

エンジンは日産VQ系エンジンをベースとしながら、高出力化を図った新開発の3.8リッターV6ツインターボ「VR38DETT」(480ps、60.0kgm)。トランスミッションはボルグワーナー社製のツインクラッチを使った機械式AT「GR6型DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」で、駆動方式は電子制御式フルタイム4WD「アテーサE-TS」となる。

ニュルブルクリンクで7分38秒

歴代GT-R同様、ドイツのニュルブルクリンク・オールドサーキット(1周20.8km)で開発が行なわれたことはGT-Rに欠かせないエピソード。テストを担当したレーシングドライバーの鈴木利男氏により、一部ウェット路ながら7分38秒を公式タイムとして記録。ちなみに「R32型」GT-R(1989年)の時は8分20秒、「R33型」GT-R(1995年)は7分59秒だった。

なお、2008年2月現在の市販量産車のニュル最速ラップは、ポルシェの新型「911 GT2」とV10ミッドシップの「カレラGT」の7分32秒。目下開発中とされる新型GT-Rの高性能バージョン「V-spec」がこれをターゲットとしているのは公然の秘密だ。なおR35型GT-Rの開発総責任者である日産の水野和敏氏は過去に、市販車ではR32型スカイラインや初代プリメーラの開発に携わったほか、NISMOなどでグループCカー、デイトナ24時間、ルマン24時間、全日本GT、F3000などのレーシングカーの設計・開発を行なっている。

生産も販売も異例の体制


車体加振検査を受けるGT-Rのボディ(photo:日産)

生産組立はスカイライン等と同じ日産自動車・栃木工場(栃木県 河内郡 上三川<かみのかわ>町 )で、生産ラインもスカイラインセダン/クーペ系と混流される。ただしエンジンとトランスミッションはクリーンルーム内で、一基につき一人の熟練工が担当。全数が性能検査(エンジンはパワーチェック、シャシーは加振検査 ※右写真)され、完成後もエンジン、変速機、ブレーキの調整、慣らし(ブレンボ製ブレーキの焼入れを含む)を行った上で出荷される。

販売は特別教育を受けた営業スタッフおよびサービススタッフ、および特別サービス工場を備えた全国の「日産ハイパフォーマンスセンター」で行なわれる(2008年2月現在で全国約160拠点)。国内の販売目標台数は月間200台。11月15日の段階で国内の受注は2200台を突破し、1月中旬の段階ではすでに3500台という。生産キャパシティ自体は月間1000台と言われ、もちろん欧州や北米(08年夏)など海外にも輸出される。

価格帯&グレード展開

標準車は777万円

メカニズム的には、標準車(777万円)のモノグレードと言ってよく、カーウイングスHDDナビも装備。標準ホイールはシルバー仕上げで、タイヤはダンロップのSP Sport 600 DSST(ランフラット)。シートは人工スエード(セーレンの「パールスエード」)と革のコンビとなる。

さらに内外装や装備の違いで、上級グレードを2種類用意。「ブラックエディション」(15万7500円高)は、赤いアクセント入りの専用シート、ダーククローム仕上げのホイール&ブリヂストン製ポテンザRE070R(ランフラット)を装備する。

「プレミアムエディション」(標準車+57万7500円)は、Boseサウンドシステム(11スピーカー)、シートヒーター、「サッチャム」(The Motor Insurance Repair Research Centre=英国自動車保険修理研究センター)準拠の盗難防止システム、そして上記ホイールとポテンザのセットを標準装備する。

GT-R(標準車) 777万円 ※今週の試乗車
■GT-R Black edition 792万7500円
■GT-R Premium edition 834万7500円

上で挙げた装備は単独でも装備可能で、カーテン&サイドエアバッグも全車オプションとなる。中でもとびきり高価なオプションは、31万5000円割増で「一台一台、丹念に手磨きを行った」という特別塗装(アルティメイトメタルシルバー)だろう。「GT-R」のエンブレム入りカーペット(12万6000円)も豪華だ。

なおアフターサービスとして、従来の品質保証に加えて、3年間無償(1000km走行時、12、24、36ヵ月経過時) でエンジン、ミッション、ホイールアライメントの計測/調整が行われる。オイル、タイヤ、ブレーキ等の消耗品は指定品以外では保証対象外となる。

Thatcham(英語)

パッケージング&スタイル

FMが進化してPM(プレミアム・ミッドシップ)に


東京モーターショー2007の日産ブースで展示されたカットモデル

ボディサイズは全長4655×全幅1895×全高1370mmで、ホイールベースは2780mm。目安として現行(CV36型)スカイライン・クーペと比べると、全長は同じで全幅が+75mmと幅広い。これはタイヤ幅(前255、後285)や操縦性の案件を考えれば妥当なところだろう。ホイールベースはGT-Rの方が70mmも短い。

クラッチ、トランスミッション、トランスファー、リアファイナルを車体後部で一体化し、「独立型トランスアクスル4WD」とした「PMパッケージ」は、カットモデルを見ると分かりやすい。エンジン→ミッションの駆動力伝達はCFRP(炭素繊維強化樹脂)製プロペラシャフトで行い、ミッション→前軸への伝達はスチール製プロペラシャフトで行なう。

これと似た駆動レイアウトに、GT-Rとは逆のリアミッドにエンジンを置き、ギアボックスをフロントに置いて4輪を駆動する、WRC・グループB参戦用に市販されたミッドシップ4WDスポーツ「フォードRS200」(1985年)があったが、フロントエンジンの量産車としてはGT-Rが世界初となる。

日本刀か、宇宙船か

構造に加えて、スタイリングも特異だ。歴代GT-Rのデザイン自体、世界的な基準からすれば異質だったが、新型GT-Rではスーパースポーツ的な要素が強まった反面、従来モデルよりも「日本」を強く打ち出している。試乗車のボディカラーがシルバーだったせいか、強い光があたるとサイドパネルが日本刀のようにギラリと鋭く光る一方、逆ウエッジシェイプのキャビン部分は「スターウォーズ」に出てくるスペースシップのようにも見える。

リアはもちろん伝統の丸目4灯。完全にボディと一体化されたバンパー、初代GT-Rの2ドア(KPGC-10)を思わせる折れ曲がったCピラーなど見せ場は多い。いずれにしても、どちらかと言えば「バックシャン」(死語?)ではなかろうか。バンパー下部からは、120φの4本マフラーが突き出ており、上の4灯リアコンビと上下シンメトリーに見える。

すべての塗装は「ダブルクリア塗装」と「アンチチッピング塗装」が施され、「世界最高クラスの耐チッピング性能」を持たせたもの。約1000kmに及ぶ試乗後にチェックしたら、極太ハイグリップのフロントタイヤが巻き上げる小石がボディ側面下部に当たった跡が無数にあり、これは必然の処置だと思われる。もちろん塗装の欠けはなかった。

軽量素材を多用。空力も徹底

ボディ素材はスチール製モノコックを基本に、アルミ合金(ボンネット、ドア外板、ドアインナー、ストラットハウジング、リアシート後ろのバルクヘッド、トランクリッド等)、CFRP(ラジエイターコアサポート、アンダーカバーの一部)を使用。車重は1740kgと重いが、FRのCV36型スカイラインクーペでも1650kgだから、当然抑えてはいる。とはいえアルミ製ボンネットなどはかなり重めで、軽量化の余地はまだ十分ありそう。そのあたりは「V-spec」で遠慮なしにやってくるはずだ。

300km/h巡航を可能とするクルマゆえ、空力も徹底。ゴツいルックスにも関わらず、Cd値(空気抵抗係数)は0.27とトップクラスとなっている。フロントフェンダー周辺のデザインは揚力抑制や整流機能を発揮するそうだが、やはり最もダウンフォースを出しているのはフラットボトム用のアンダーカバーだろう。

ハイテク感あふれるインテリア

インパネのデザインは古典的なスポーツカーと一線を画す、ハイテク感のあるもの。もっとレーシーな男っぽい世界を期待する声も当然あるようだが、新型GT-Rは飛行機で言えば、最新鋭のF22戦闘機のようなもの。こうした新しいデザインを真っ先に採用したのは評価すべきだろう。

逐一紹介すると冗長になるので端折るが、スイッチ類の一つ一つがよく考えられており、開発にじっくり時間がかけられたことが分かる。押してノブを引き出すドア・アウターハンドルの使いにくさも、計算づくのはず。センターコンソール配置のスタートボタンも、「普通の日産車とは違う」と運転する前にドライバーが認識するきっかけとなっている。

調整ダイアルは秀逸、マルチユース重視のシート

標準車のシートは人工スエードとレザーのコンビ。丸いダイアル一つで、前後・上下・背もたれの調整が出来るのは良いアイディアだ(座面膝側の高さのみ別スイッチ)。シート形状自体はマルチユースを重視したもので、ホールド性はそこそこ。インプレッサWRX STIのレカロより、普通の乗用車風だ。なお、前にギアボックスがないため足もとは広く、ABCペダルも自然な位置にある。

ステアリングは当然チルト・テレスコ付き(スカイライン譲りのメーターユニット一体式)。マグネシウムに革巻きのパドルはスカイラインと同様のものだが、不満はない。ダッシュボード上部(運転席側)、ドアアームレスト部など、直接手が触れない部分は革風ソフトパッドだが、コストと耐久性を考えれば当然だろう。センターコンソールもアルミ「調」のようだ。

前・後・横Gから舵角まで。ダウンロードも可

専用カーウイングスナビのモニターは、横の「ファンクション」ボタンを押して、「1、2、3、4、A、B、C、D、E、F、G」と11種類もあるインフォメーション画面を呼び出せる。「グランツーリスモ」で知られるポリフォニーデジタル社 がグラフィックスをデザインしたもの。

 

「1」(写真上)は主にブースト計、「2」「3」「4」は水温、油温(エンジンと変速機)、油圧(エンジンと変速機)、前後トルク配分などの各種組み合わせで、「A」は加速Gやアクセル開度、「B」は減速Gやブレーキペダル踏力(%)、「C」はコーナリングG、ステアリング舵角(写真右)、「D」はギアポジション模式図、「E」は燃費関係、「F」はラップタイムの計測が可能なストップウォッチ(ステアリングスイッチでスタート/ ストップが可能)、「G」が通過地点などを記録できるドライバーズノートとなる。走行中、加速・減速・横Gの数値は、オシロスコープのような波状のグラフでリアルタイムで表示される。

数日間の試乗でとても使いこなせない機能だが、操作は簡単。しかも各種データはcsv.形式でパソコンにダウンロードも出来るようだ。市販のデータロガーを積んでサーキットを走り込んでいる人にとっては、まさに感涙ものの装備だろう。サーキット等でのリミッター解除もこの画面で行なう。

リアシートはフットルームが弱点

一見「2+2シートにしては意外に広いじゃん」と思えるリアシート。座面下にGR6型デュアルクラッチ式6速トランスミッションが収まっている割に、シート自体は立派だ。しかし実際に3人乗車してみると、フットルームはかなり狭い。こうなったのは、トランスミッションがリアアクスルと一体型のため、ホイールベースの長さが事実上ミッション搭載位置を決定するからだ。

大人が座れないことはないが、もちろんこの2+2スペースはポルシェ911同様、いざとなれば人が乗れるという「可能性」として捉えるべきで、あくまで普段は手荷物スペースだ。

このジャンルでは抜群の積載能力

トランクは深さ435mm×奥行き850mm×横幅(最大)1470mm、容量315リッターと大きめ。ゴルフバッグなら2セット積載可能という。開口部が上側にしかない穴のような形状なのは、ボディ剛性やデザインを優先したからだろう。後席スペースもあることだし、積載性はこの手のスーパースポーツの中で抜群と言える。全車ランフラットタイヤ(パンクした状態でも80km/hで80kmの走行が可能)仕様なので、スペアタイヤはない。

基本性能&ドライブフィール

新開発「VR38DETT」(480ps、60kgm)を搭載

試乗したのは、標準車(777万円)。シャシーナンバーは9番(000009)なので、かなり生産初期の1台だ。今回借り出した時点でオドメーターは6000km台だった。

エンジンは新開発の3.8リッターV型6気筒DOHCツインターボ「VR38DETT」(480ps/6400rpm、60kgm/3200-5200rpm)。基本的にはスカイラインクーペ/セダン等のVQ系がベースだが、一般的なオープンデッキ構造からシリンダーブロック剛性の高いクローズドデッキ構造に変更。さらに鋳鉄スリーブを廃止し(ライナーレス化)、代わりにアルミ製シリンダー内壁を新開発のプラズマコーティング(厚さ0.2mm)で強化して排気量をアップ、冷却性向上、軽量化(計-約3kg)。そこにエキゾーストマニホールドと一体型のIHI製ツインターボを加えて、VQ37VHR比で馬力を1.5倍、トルクを1.6倍に高めたものだ。エンジンオイルはGT-R専用の100%化学合成油「Mobil-1 0W-40」が指定され、これ以外のオイルは保証対象外となる。

なお、ライバルとなるポルシェ911ターボ(997型)の最高出力は、GT-Rと同じ480ps。最大トルクは63.2kgm(オーバーブースト時は69.4kgm)とポルシェの方が優っている。車重はGT-Rの1740kgに対して、911ターボは1600kg前後とかなり軽い。

50km/hで早くも6速トップに入るATモード

フィアット・バルケッタ風のドアハンドルを引いて乗り込み、左手でスタートスイッチをプッシュすると「ガコッ(ギアの音)、バオン」とエンジンに火が入る。アイドリング時の音は「ウィィィィン」という後方からのギアノイズが主体で、かなり独特。車内ではエンジンの存在感の方が小さい。車外騒音はそれほど大きくなく、深夜の住宅地でもまあ大丈夫と思われるレベルだ(もちろんアイドリングに限るが)。加速する時は迫力のある音を放つ。

Dレンジにシフトして走り出す時のギアの感覚は、いわゆるVW・アウディ系のDSGと近い。電子制御クラッチによる弱い擬似クリープがあり、坂道発進やステアリングを切った状態でも、巧みな半クラッチでスムーズに発進する。

ドライバー背後の極めて低い位置に搭載される「GR6型」DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)は、基本的にはVW・アウディやランエボなどと同様、ボルグワーナー(Borg Warner)社製のシックスプレートツインクラッチやコントロールユニットを使ったもの。ただしゲトラグ・フォード・トランスミッション社製を使うランエボと異なり、GT-Rのミッション本体は自製、正確には愛知機械工業製となる。ツインクラッチ式のATはフォード系など今後どんどん増えてゆきそうだ。

そのままアクセルを踏み込まずATモードで走り出せば、あれよあれよいう間にシフトアップ。50km/hに達すると同時にピタリと6速トップに入る。「480psの超高性能ターボカーで、たった1200~1300回転で走って大丈夫?」と思わず心配してしまうが、ATモードである限り、街中ではずっとこんな感じだ。思わずパドルを引いてマニュアルシフトしてしまうが、基本的にはATモードでほぼ問題はない(というかその方が燃費もいい)。ただし、低速走行では時に変速ショックがあり、特に減速時の自動シフトダウン時には「ガコッ」とメカニカルな音が背後で響く。

愛知機械工業株式会社 http://www.aichikikai.co.jp/japanese/index.html
ゲトラグ・フォード・トランスミッション社http://www.getrag.de/en/195 (英語)

いつでもどこでも圧倒的に速い

マニュアルモードにする方法は、コラム固定式のパドルを引く、もしくはシフトレバーを右に倒す、の2種類。GT-Rでは一度マニュアルモードに入れてしまうとATモードには自動復帰しない。ATモードに戻るためには、シフトレバーをもう一度ポンと軽く弾いてATモードに入れる必要があるが、少なくともGT-Rの場合にはこれが扱いやすい。

走りながら2速を選んでアクセルを全開にすれば、ほとんどスクワット(後ろ下がりになること)なく285サイズのリアタイヤを絶妙に滑らせながらスパートを開始。2速は瞬間的に吹け切り、間髪を入れず3速へシフトアップ後、キュイーンというジェット戦闘機のようなサウンドと共に数秒で吹け切る。4速に入ってメーターに目を落とす余裕が出来るのは、リミッターが作動しているからだ。なお、変速モードを「R」モードにしなければ、マニュアルモードでも自動シフトアップする。

加速の凄まじさでこれに匹敵するものはそうそうなく、例えばモーターデイズで以前リポートしたコルベットのZ06(511ps、64.9kgm、車重1440kg、もちろんFR)あたりが近い。が、GT-Rがすごいのは、路面コンディションをまったく選ばないことだ。Z06は乾燥路で2速でもホイールスピンが始まってしまう。いくら4WDとはいえこの抜群のトラクション性能と直進性は驚異的。謳い文句ではないが、いつでもどこでも誰でもパワーが味わえる。

ただしゼロ発進は苦手?

メーカー発表値は0-100km/h加速が3.6秒。なので、0-400m加速は間違いなく11秒台となる。ただし「通常の状態では」、1速に入れてブレーキを踏んだままアクセルを踏んでも、2000回転で打ち止め(スロットル制御が入る)。これは「VDCーR」の「R」モードでも「オフ」でも、一緒だ。これにより、停止状態からの発進自体は少々大人しいものとなる。回転を上げて発進するには、「隠しコマンド」が必要とされる(取扱説明書に明記なし)。

なお、ポルシェ997ターボはメーカー発表値で、6MTの0-100km/h加速が3.9秒。5AT(ティプトロニックS)ではさらに速く、0-100km加速 3.7秒となる。隠しコマンドを使わないと、厳密な意味でのゼロ発進加速では997ターボに負けそうだ。

ドライバーなりにワインディングでも楽しめる

ワインディングも走ってみたが、さすがにこの性能となると性能の数分の1で、十二分に速い。限界域にはまったく手は届かないが、とにかく安心感と安定性が圧倒的。なのに「もてあます感」がないのは、アンダーステア感もなければ、いきなりオーバーステアに転じそうな恐怖感もなく、前輪も後輪も不思議なほど接地感が高いからか。基本的にはFR車のような動きで、4WDであることも、1740kgの重量もほとんど感じられない。リアにはGKN ドライブライン トルクテクノロジー社(本社:栃木県栃木市)製の1.5wayのLSDが入り、VDCオフならリアを流すことも可能だ。

マニュアルモードであればエンジンも「踏めば響く」ので、そこそこのペースでも退屈しない。1速で約60km/h、2速で100km/h超というギアリングは常識的で、ワインディングでは2速、3速でカバーできる。GT-R専用の「VDC-R」はノーマルモードでも介入は控えめで、一般道では「R」モードに入れるまでもない。

997ターボと因縁のサーキット対決!

911days-31-200.jpg極太のGT-R専用20インチタイヤ(255/40ZRF20、285/35ZRF20)は、試乗車の場合、標準仕様のダンロップ SP Sport 600 DSST。この試乗に先立って、弊社ポルシェ専門誌「911DAYS」でも、同じ車両とタイヤを使い、富士スピードウエイを舞台に新型997ターボ(6MT・PCCB付き)と2台でタイムアタックを行なっている。話によると標準のSP Sportの方が、オプションのBSポテンザ(RE070R)よりサーキットには向いているという。より高価なポテンザは快適性など総合性能重視という位置付けか。ちなみに中に入れる空気は、内圧変化の少ない窒素ガスがいちおう標準である。

なお、次号「911DAYS」(2008年3月7日発売)では、レーシングドライバーの中谷明彦氏に両車で全開アタックしてもらっている。勝敗の行方は・・・、ぜひ本誌にてお確かめください。PRでした。

電子制御ダンパーは「ノーマル」がベスト

乗り心地はまったく良く、下手なスポーティセダンやミニバンより断然いい。「ビルシュタイン ダンプトロニック」電子制御ダンパーは、前後/左右のGやエンジン出力、ブレーキ圧、舵角など11要素をモニターして減衰力を随時可変するもの。あえて「コンフォート」側(こちらも11要素で可変)に切り替える必要はないと感じた。実際のところ、街中から首都高速の目地段差まで、ハーシュネスの遮断などに「ノーマル」モードとの差はほとんどなく、むしろ場合によってはダンピングだけ弱くなるような感じ。逆に、減衰力を最大値で固定する「Rモード」は高速サーキットには必須だろうが、一般道ではハード過ぎて跳ねてしまう。ノーマルモードが万能だ。

むしろ、日常的な走りで気になるのは、ステアリングが多少轍(わだち)に取られることか。ただし、255幅の前輪を思えば許容範囲と思えるし、コーナリング時には正確で剛性感がある。

高速コーナーでの驚異的な安心感

高速道路でも当然ながら圧倒的に速い。6速トップで2150回転ほどの100km/h巡航から、アクセルを踏み込むとトントントンと3速までシフトダウンし、その数秒後には平均的なスポーツセダンが120km/hに達するくらい間合いで、緩やかに190km/hジャストでリミッター介入を受ける。メーカー発表値の最高速は997ターボと奇しくも?同じ310km/h。そもそも開発テーマの一つが「時速300km/hで助手席の人と会話が楽しめる」だ。高速巡航時はロードノイズにかき消され、例の「ウィィィン」音は聞こえないが、オーディオや会話が楽しめる程度の静粛性は十分にある。なお、日本仕様の速度リミッターは、GPSの位置情報により国内主要サーキットのコース内にいる場合にのみカットできる。

圧巻は、並みの輸入高性能車だと思わずアクセルを戻してしまう高速コーナー。GT-Rはまったく緊張感なく行けるし、車線変更もブレーキも自由自在。ただし、これはリミッターによって実質的には速度制限(出力制限)を受けて、シャシー側に余裕が生まれたことも大きい。公平に判断するなら、海外仕様のようにリミッター無しのGT-Rと比較すべきかもしれない。

なお、言うまでもなく直線だけに限れば、高性能輸入車に抜かれてしまうが、高速コーナーで、まして路面が濡れていれば、いくらパワーがあってもGT-Rについてゆくのは難しい。それくらいGT-Rの安全マージンは「GT-R以外のクルマ」に比べて比較にならないほど圧倒的に大きい。とにかく接地感がある。これは4WDだから、というより、車体や空力などの要件によるものという感じがした。

ブレンボ製のモノブロック式フロント6ポッド、リヤ4ポッドブレーキも非常によく効く。フル制動時の姿勢もミッドシップのように車体全体が沈み込み、フロントエンジン車のように前輪にしっかり荷重が乗るという具合に理想的だ。

雪道でもSUV要らず!?

なお、今回は名古屋近郊で撮影中に突然の降雪に見舞われて、期せずしてシャーベット状の路面を1時間ほど走ることになった。クルマがクルマゆえ、もちろん注意を払って走行したが、実際には「雪道でも何の問題もない」というのが率直な感想。タイヤはもちろんノーマルだったが(スタッドレスもオプションで用意)、いかにもフルタイム4WD車らしい接地感とトラクションを発揮し、SUV並みに安心して走れた。「VDC-R」にはちゃんと「スノーモード」もある。

GT-Rのプロモーションビデオには、-25度にもなるという真冬のデトロイトでの一般道テストや圧雪路での坂道発進などの映像が入っており、まさに全天候型スーパーカーといった感じだ。

性能からみれば燃費は驚異的に優秀


370km走行時点の写真。撮影中で少し平均燃費が落ちたが、まだ8.3km/Lを表示している

今回は計1060kmを試乗。実燃費(車載燃費計による)は、全開加速や渋滞走行が入り混じっているため、あくまで参考だが、東京→名古屋間(約380km)をほぼATモードで大人しく東名高速を走って8.6km/L。それに降雪の中での移動(約20kmほど)を含むと7.2km/L。街中から高速道路まで、全開加速を多用して試乗した区間(270km)が5.6km/L。名古屋→東京間(約380km)の東名高速を大渋滞にはまりながら走ってが7km/L。トータルではプレミアムガソリンを162リッター消費し、6.5km/Lとなった。これはほとんど最悪の数値で、一般的には7km/L台に無理なく乗るはずだ。この動力性能や車重などを考えると、燃費は驚異的に良いと言っていいだろう。10・15モード燃費は8.2km/Lだ。

ただ、客観的に言えば、燃費の点でもリミッターは有利に働いているはずで、リミッターを解除してのサーキット走行や、海外仕様でスロットル全開区間の長いアウトバーン等での走行では、それなりに大食いになると推測される。ちなみに燃料タンク容量は71リッターだが、残量警告灯が点いた時点(多分その時の平均燃費にタイミングは左右されるはず)で給油したら57.5リッターを飲み込んだ。

ここがイイ

いろんな意味で日本車らしい

こんなハイパワー車なのに、乗ってすぐなじめるのはやはり日本車、右ハンドルゆえか。運転するとほどよいフィット感(人車一体感)があって、ボディサイズの大きさを感じさず、取り回しが大変楽だ。乗り降りに不満が出ない程度にバケット形状となったシートも、日常の使用に不満がなく、変に気を張ることなく乗れるのがいい。一つのダイアルで操作する電動シート調整も使いやすい。MTの用意がないのも最新の日本車らしいし、ナビを中心としたドライビングコンピューターもハイテク日本車らしいところ。リミッター解除をGPSと絡めたあたりも、日本車らしいすばらしい工夫だ。

ピラーが細く、ミラーもやや下がった位置にあるので右コーナーの視界がいい。総じて前方の視界はとてもいい。コラムごとチルトするステアリング、たっぷりしたテレスコで小柄な人でもピタリとリーチが合うポジションがとれる。運転席はタイトで、コクピット感があるが、それでもけして狭くはない。手の届くところに様々なスイッチがあるのもいい。

そのほかは本文をご参照いただきたい。乗る前は懐疑的だったが、乗ってしまうとやはり絶賛せざるを得ないクルマだった。

ここがダメ

後方視界、速度計、変速ショック・・・

リアはハイデッキで窓も小さく、後方の視界はいいとはいえない。リアビューカメラ(オプションである)はぜひ欲しいところ。インフォメーションディスプレイが左最上段にあって、タッチパネルの他、コマンドスイッチがディスプレイより右に寄っているのが、この位置はもうちょっとセンターの方が使いやすそうだ。ステアリングスポーク左側のオーディオ操作系、右側のクルーズコントロール系は使いにくくはないが、ブラインドタッチまでは少し学習が必要。ボタン形状を見直すといいと思う。

アナログ式のスピードメーターは市街地の60km/hあたりだと、ダイアル表示が細かすぎて読み取れない。そのためタコメーター内のデジタル画面で速度を表示するしかないが、そうすると他の情報(平均燃費など)を見るために、いちいち切り替えなくてはならない。デジタル速度計は固定式で別に欲しいところだ。

6速DCTのショックが大きいのはなぜか。意図的につけられている? あるいは大パワーとのマッチングがまだうまくできないのか。このギクシャク感がスポーツカーに乗っている感覚にしてくれるのは事実だが、やはりもう少し滑らかであってもいい。

バックする時のクリープの弱さ。というか、ほとんどクリープしないから、特に車庫入れなどはしにくい。

危うさと楽しさは残念ながら比例するものだと思う。以前、ランサーエボリューションXで書いたとおり、GT-Rも乗りやすく、そして社会的存在として徹底的に安全にこだわったという点で、ハイパフォーマンス日本車の定番の作りだと思う。その絶対的な安定感は、どこか危うさを持つほかのスーパーカーとは一線を画する。安定感では、同じ四駆である997ターボもGT-Rには及ばない。しかしその安定感のなさこそが、味というものでもあるのではないか。ラップタイムでGT-Rにかなうクルマはないだろうが、ものすごく高い次元で、味の差は出てくるはず。どこか安定しきっているGT-Rには、やがてつまらないという声が出てきそうだ。徹底して危うさのないクルマにせざるを得なかったGT-R最大の不満点になるのではないか。

総合評価

開発秘話より考えたいこと

とんでもないクルマだ。スポーツカーとしては(いやこの性能は、巷で言われている通りスーパーカーの域だ)、歴代国産車になかった超絶性能で、世界のスポーツカーの頂点グループに属すると思うし、それでいてタウンカーとして使える日常性すら併せ持っている点で、凡百のスーパーカーの上を行っている。しかも安い。安すぎ。比較試乗したポルシェ997ターボ(約1900万円)と性能は均衡しているにもかかわらず、そのあまりの価格差には愕然とせざるを得ない。新車の997ターボを買うお金があるなら、GT-Rを買ってさらに中古の997が買えてしまうのだから。1000万円以下の価格帯は、小金持ちなら「すぐに」買える価格だし、サラリーマンでも「無理すれば」買える。そんなスーパーカーは世界のどこにもない。むろん海外ではもう少し高くなると思うが、多くのクルマ好きがその気になれば買えそうなスーパーカーは、このクルマが初めてだ。

このクルマの誕生に至る開発陣の戦いは、やがてこのクルマが名車と呼ばれるようになった時には、NHKあたりが番組にできるほど、すでに伝説的エピソードに彩られている。そうした話はすでにクルマメディアのあちこちに登場しているので、ここではあえて触れない。しかし開発秘話より、もっと考えなくてはいけないのは、日産という日本のメーカーが作ったにも関わらず、このクルマがゴーン社長という外国人トップがいて初めてできたものである、ということだろう。ゴーン社長の号令なくして、このクルマはたとえ技術・能力があったとしても作れなかったと思う。日本人のメーカートップに、このクルマの開発を許可する度量はないと思うからだ。

「存在の耐えられないクルマ」

なぜか。それはこれが日本では全く存在意義のないクルマだからだ。なにせこのクルマに乗っていると、まず遵法運転はできない。いやできるのだが、それにはものすごいストレスがある。遵法走行が苦痛なクルマを作ってどうする? またたぶん事故率は相当に高くなるはずだ。日産はこれでもかというほど安全対策を施してはいるが、これだけよく走るクルマはやはり事故を起こすだろう。これは仕方ないことだが、いやしかしメーカーとしては仕方ないでは済まない。またこれだけ走れば絶対的には燃費がいいわけがないし(前述のようにその走りに比すれば、すばらしくいいのだが)、環境に優しいというわけにもいかない。昨今、それでいいのか?

無理して買ったユーザーにとっては、タイヤやオイルなどの消耗品も純正が指定されるなど、かなりの金食い虫だ。メーカーは特殊な生産体制を設定しなくてはならないし、ディーラーは特殊な接客に対応しなくてはならない。それでいて、売れる台数は限られている(初期需要はすごいが)。最終的にはけして儲かるジャンルのクルマではないはずだ。それでも膨大な開発費を投じるのか?

ということで、ふつうに考えれば日本のメーカーがこの手のクルマを専用開発などにするはずはない。スーパーカーメーカーを標榜するのであれば意味もあると思うが、日産がそうであるはずもないのだから。社員モチベーションの鼓舞、ブランド力のアップという効果はあるものの、このご時世でそれが見合うのかはかなり疑問がある。

777万円の意味

ではなぜゴーン社長がGT-RにGOを出したのか。それはクルマが好きだったから、そしていい意味で「ワンマン」だったからとしか考えられない。乱暴にいえば、クルマ好きのワンマン社長が趣味で作ったクルマがGT-Rだと思う。その意味では光岡オロチにも近い道楽クルマだ。もちろん日産の力を示すという大義名分はあり、それゆえここまでの性能を実現できた。その大義名分でこういうクルマを作れた開発陣は、日本のエンジニアの中ではもっとも幸運に恵まれた人たちだろう。実際、ゴーン社長にしても、開発を始めた数年前ならいざ知らず、昨今の日産およびルノーの状況下でこのクルマを作ると言い出すことは難しいはずだ。

よって、日本人のメーカートップにこの決断はできるはずもないだろう。すべてに幸運が重なったとき、すばらしい製品が生まれるのは世の常。技術があっても、できないものはできない。その意味でGT-Rはまさにラッキーなクルマとしかいいようがない。777万円という価格にはそんな意味が込められているのかも。ほかのメーカーの開発陣は、本当にうらやましいのではないか。うちだって対抗車は作れると思っているに違いないが、それを許す企業風土は日本にはないのだ。

つまりGT-Rは、日本人が作り出した名車には違いないものの、結局外国人の力を借りなくては誕生しなかったクルマでもある。この成り立ちには、昔から変わらぬ日本の姿が見える。まあそれも今となっては日本の伝統といえるのかもしれないが。さらにいえば280psに抑えてゼロ戦的な日本のスポーツカーとなったランエボXに対し、GT-Rは世界のどの戦闘機にも負けない超絶スペックを持った点で、日本的ではないようにも思う。ルノーの一員である日産ゆえにできたクルマだろう。GT-Rは確かにすごい。日本的ハイテクは満載だが、にもかかわらず古典的なスポーツカー好きをも魅了するクルマだ。このクルマを前にすると、さすがに不満を言う言葉を失ってしまう。ただ一つ言いたいことはGT-Rが出た以上、このGT-Rを超えるほどの「日本人の発想による、日本のオリジナリティあるスーパーカー」を世に出そうとする気概を、なんとしても他メーカーのトップに持ってもらいたいということだけだ。

試乗車スペック
日産 GT-R
(3.8L V6ターボ・6速デュアルクラッチ式AT・4WD・777万円)

●初年度登録:2007年11月●形式:CBA-R35
●全長4655mm×全幅1895mm×全高1370mm
●ホイールベース:2780mm ●最小回転半径:5.7 m
●車重(車検証記載値):1740 kg( 950+790 ) ●乗車定員:4名

●エンジン型式:VR38DETT ● 3799cc・V型6気筒・DOHC・4バルブ・縦置
●480ps(353kW)/6400rpm、60.0kgm (588Nm)/3200-5200rpm
●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/71L
●10・15モード燃費:8.2 km/L
●駆動方式:電子制御フルタイム4WD
●サスペンション形式:前 ダブルウイッシュボーン/後 マルチリンク
●タイヤ:前255/40ZRF20/後285/35ZRF20( Dunlop SP Sport 600 DSST ランフラット)
●試乗車価格:821万1000円( 含むオプション:特別塗装色<アルティメイトメタルシルバー> 31万5000円、フロアカーペット 12万6000円 )
●試乗距離:約 1060 km ●試乗日:2008年2月
●車両協力:日産自動車株式会社

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加 
  • mixiチェック
 
 
 
 

最近の試乗記一覧