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ホンダ インスパイア アバンツァーレ新車試乗記(第276回)

Honda Inspire Avanzare

(3.0L・5AT・350万円)

  

2003年07月12日

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キャラクター&開発コンセプト

4代目は再び日本生産に

2003年6月19日に発売された新型インスパイアは4代目。先代(3代目)インスパイアと兄弟車のセイバーは、北米モデルのアキュラ・TLそのもので、アメリカで生産したものを日本に輸入していたが、今回の新型はベースこそ北米向けアコードでも国内で生産を行なう日本専用モデルだ。セイバーは今回からインスパイアに統合された。

片バンク休止で11.6km/L、衝突を予測してフル制動

「知的高速移動体」と宣伝で謳われる新型インスパイアの特徴は大きく2つ。一つめは、3.0リッターV型6気筒エンジンの片側3気筒を休止する「可変シリンダーシステム」による11.6km/Lという低燃費。3気筒時の振動は「アクティブコントロールエンジンマウント」が吸収。こもり音は「アクティブノイズコントロール」が低減する。

2つめは進化したプリクラッシュセーフティ技術で、中でも追突の可能性を判断して自動でブレーキ制御を行う「追突軽減ブレーキ」(CMS:Collision Mitigation brake System)が新しい。トヨタ・ハリアーの「ブレーキアシストの立ち上がりを早める」だけのシステムと違い、実際にブレーキをかけ、追突不可避と判断したらさらに強く制動する点で、一歩先を行く。この手の技術としてはもっとも先進的なものだ。もちろん、現行アコードで先行採用した「車線維持支援機能」(車線を読み取り、ステアリング操作をアシスト)や「車速/車間制御機能」(車間距離を測って、車速を自動制御)も採用している。

インスパイアの歴史。初代は縦置5気筒の4ドアHT

初代インスパイアは「アコード・インスパイア」として、1989年に登場。直列5気筒というユニークなエンジンを縦に置き、しかも車軸後方に搭載(いわゆるフロントミッドシップ)したFF車という、凝ったメカニズムを備えており、実際の販売ではむしろその端正なスタイルによって人気車となった。ベルノ店扱いの兄弟車は3代目「ビガー(Vigor)」となり、アメリカでもアキュラ・ビガーとして販売された。

95年に2代目インスパイア(クリオ店)/セイバー(ベルノ店)に進化。98年に米国向け「アキュラTL」の輸入車となる3代目インスパイア(クリオ店)/2代目セイバー(ベルノ/プリモ店)となり、全車V6エンジンとなった。

価格帯&グレード展開

3グレードで270~350万円

グレードは3種類。最上級モデルは、売り物の追突軽減ブレーキや運転支援システムを装備した「アバンツァーレ」(350万円 ※今週の試乗車)。次に、VSA(ヴィークル・スタビリティ・アシスト)、電動シート、イルミネーテッドエントリー(ドアを開けた時に足元を照らす照明)などの装備を備えた「30TL」(295万円)。そして、それらがない「30TE」(270万円)となる。

パッケージング&スタイル

ボディはUSアコードそのもの

全長4805mm×全幅1820mm×全高1455mmの外寸は、先代インスパイアより短く、ワイド。北米向け新型アコードとは、プラットフォームを共有するだけでなく、外観デザインもほぼ同じだ。フロントグリルやヘッドライトの違いが目立つに過ぎない。

デザインは全体にコンサバティブで、ターゲットユーザーたる40~50代を意識している。薄型構造の「ラインビーム」ヘッドライトがちょっと目新しい。

機能的だが、印象に残らない室内

室内の質感は平均的で、機能的だが、これといった特徴に乏しい。木目調パネルの高級感も今ひとつで、仕上げやデザインにはもっと工夫が欲しいところ。その点も初代インスパイアは新鮮だったが…。「ブルーイルミネーション」がスモールランプと連動して、足元やドアポケットなど計7箇所を照らす。

基本性能&ドライブフィール

レギュラー仕様で250ps

試乗したのはハイテク装備を全て備えた「アバンツァーレ」(イアリア語で「前進」の意)。一般道で乗る限り、記憶の中の先代インスパイア/セイバーの3.2リッターモデルと印象は近い。先代タイプS(260ps、32.0kg-m)から10psと1.8kg-mダウンして迫力は失った感はあるが、低回転から高回転まで滑らかに気持ちよく回る。しかも先代タイプSはハイオク指定だったが、新型はレギュラー仕様。多少燃費が良くてもハイオク仕様では意味がない、というのが普通のユーザーの本音だから、これは嬉しいポイントだ。

3気筒休止して、排気量半分に

このV6最大のウリはパワーではなく低燃費であり、走行状況に応じて6気筒と3気筒を切り替える「可変シリンダーシステム」だ。クルーズ状態になると、リアバンク側3気筒の吸排気バルブを休止して燃料噴射も停止。吸・排気に伴うポンピング・ロスを低減する。同様の機構は、最近だとメルセデス・ベンツのSクラスなどが採用。さらに80~90年代の三菱など、いくつか採用例があるようだ。

3気筒時に問題となる振動については、全く体感できないと言っていい。油圧アクチュエイターが同位相・同周期で伸縮して振動を吸収する「アクティブコントロールエンジンマウント」に加えて、気筒休止時のこもり音と逆位相の音をオーディオスピーカーから出力する「アクティブノイズコントロール」が有効に働いているせいか。 後者は10数年前に日産がブルーバードで採用していたものに近いと思うが、専用マイクで拾った音で打ち消し信号を随時更新するなど、精度は当然上がっているはずだ。

いずれにしても、3気筒状態になったことはインパネの「ECO」ランプの点灯で判断するのみ。街中でもクルーズ状態であればECOランプは簡単に点灯するが、特に意識しない限り気筒休止のことは忘れてしまう。そういう意味でも、完成度は素晴らしく高い。

走りそこそこのソフトな足

SOHCだがそれなりにヘッドの重いV6を積むこともあり、フロントの重さが気になるのは先代と同じ。サスペンションの設定もソフトで、運動性能はそれほど高くない。装着するミシュラン・プライマシーも快適志向のタイヤで、しかも先代タイプSの17インチから16インチにサイズダウンされている。グリップレベルは高くなく、コーナーでタイヤを鳴かせるのは造作ない。もっとも、クルマの性格からすれば、これで十分スポーティといえるだろう。

ホンダにしては少し重めの電動パワステは、フィールをよく伝える優れたもの。5速ATのマニュアルモードは自動シフトアップがない一方、状況に応じて適切なギアを選ぶので走りやすかった。アバンツァーレにはVSA(ヴィークル・スタビリティ・アシスト)が標準装備だが、乾いた路面を走る限り介入はごく自然だった。

アコードからさらに進化した運転支援システム

インスパイアの運転支援システムは、「LKAS」(車線維持支援機能)と「IHCC」(車速/車間制御機能)によって構成される。「LKAS」はフロントウインドウ上部のC-MOSカメラの画像によって走行車線を読み取り、電動パワステを動かして車線維持を「アシスト」するものだ。

もう一つの「IHCC」は、言わば車間を自動でキープする賢いクルーズコントロールだ。最高110km/hまでなら、前走車が加速すれば加速するし、減速すればアクセルを絞り、それで足りなければブレーキを掛け、ブザーでドライバーに警告する。以上は昨年発売された現行アコードとほぼ同じだ(過去ログの2002年アコードの記事を参照されたし)。

インスパイアがスゴイのは、アコードよりさらに明確にステアリングを「アシスト」し、減速するところ。ホンダはアコードの時から、クルマによるステアリング操作はあくまでも「アシスト」であると説明してきたが、インスパイアのそれはすでに「アシスト」と呼べる範囲ギリギリのもの。例えば、ステアリングからそっと掌を浮かせると、インスパイアは自分で車線を読み取り、高速道路の緩やかなコーナーをちゃんとトレースしてゆく。渋滞につかまって前走車がハザードを付けながら減速すれば、インスパイアもちゃんと減速する。

一方、手放し運転をすれば、すぐにブザーが警告をしてステアリングアシストを止めてしまう。また、ブレーキも最終的には自分でかけないとぶつかってしまう。そのクルマ側のアッサリした運転放棄ぶりは「運転はちゃんと自分でやってね」とドライバーに諭すかのようだ。とにかく、最後にはドライバーの操作が必ず必要なように(あえて)した点が、自動運転ではない証拠ではある。

最先端のプリクラッシュセーフティ技術

もう一つのポイントが、世界初の「追突軽減ブレーキ(CMS:Collision Mitigation brake System)」。これは前走車などに追突しそうだと判断すると、警報とともにブレーキを掛けて速度を落とし、「絶対にぶつかる」となったらさらに強く制動(減速度は0.6G程度)。最終的に衝突する時のスピードを出来るかぎり下げるというものだ。

同時に、世界初の「E-プリテンショナー」がシートベルトを軽く2、3回引き込む「体感警報」によりブレーキ制御をドライバーに促す。さらには、衝突直前に強く引き込んで拘束力を高める。また、ドライバーが急ブレーキを掛けてブレーキアシストが働いた時にも、連動してシートベルトが引き込まれる。

で、実際にどうかと言えば、前述の通り、警報(ブザーとインパネ表示)とともにブレーキが軽く掛かるところまでは、特に無理をしなくても体験可能。しかしシートベルトの引き込みは、今回の試乗では体感できなかった。危険度が少ないからか、それとも引き込みが弱くて分からなかったのかは不明。そこから先、つまり強い制動およびシートベルトの強い拘束は、ホンダが一部ジャーナリストや関係者を招いて行った特殊な方法(前走車の横に突き出したプレートにぶつかって行く)でしか、今のところ体験はできないようだ。

3気筒休止とHiDSは無敵のコンビ

さて、3気筒休止による10・15モード燃費は11.6km/リッター。で、実際の燃費だが、簡単に言ってアクセルを踏み込んでばかりいれば(つまり6気筒で走ることが多ければ)、普通の3.0リッター6気筒車と変わらない、というのが実感だ。200kmしか走っていなかった試乗車のコンピューターに記録された「生涯燃費」は5.0km/リッター前後。都心の渋滞を実際に走った時は6~7km/リッターだった。

しかしスゴイのは、高速道路でクルーズコントロール(つまりHiDS)を作動させた時だ。クルーズコントロールにはもともと無駄なアクセルワークが減り、燃費がある程度まで良くなるメリットがあるが(ただし無駄な加速を自制できる、巧いドライバーには劣る)、そこに3気筒休止システムが加わると、これはもう鬼に金棒。ほとんどずっと3気筒で淡々と高速巡航することが可能になる。条件さえ良ければ14~15km/リッターも現実的だ。100km/h巡航は約2200回転。5速オートマのギアリングや変速マナーとの相性も良く、非力感はまったくない。

しかし前が空いたからと言ってアクセルを踏むと、たちまち250psのハイパワー車に変身する。みるみるうちにオンボード上の平均燃費の数字が下がるのは仕方がないところ。

ここがイイ

HiDSは運転負荷の軽減という軽いものでなく、エアバッグやABS、TRCやVSA(トヨタ流ではVSC=早く名称の統一を望む)と続く、「役に立つ安全装備」に、もはやなっている。加えてCMSやEプリテンショナーという装備がついたことで「これぞ新世紀のクルマ」になっている。現時点で、最強の安全系ハイテクカーだ。

片バンク休止はVTECの技術転用。走りの技術がエコにも役立つという好例。アイドリングストップのような目に見える(というか、体に感じる)エコ技術じゃなく、ごく普通に走りながらエコを実現している点は高く評価したい。10年前にはおバカにも思えた日産のアクティブノイズコントロールも生きているし、三菱がギャランで高らかに掲げたミリ波レーダー(当時はサスの制御に使った)もHiDSで生きている。90年代の技術が、ここに来ていい意味で転用・実用化されている。

ASIMOに象徴される「技術のホンダ」が進もうとしている道がよく分かるクルマだ。クルマに関する技術は走り屋のためだけにあるのではない。今、ホンダが技術を研究していくと、必然的にインスパイアになっていく。とにかく、このクルマに乗ると21世紀のクルマが見えてくる。それがこのクルマの最もいいところだ。

ここがダメ

残念ながら乗ってみないとスゴさが分からないところ。多くの人はしっかり試乗するわけではないし、いくら試乗記を読んでも、なんだかよく分からないだろう。販売会社の従業員も、おそらくこの手の話は不得手だし、デザイン的にもあまりにコンサバで華がないため、おそらくそうは売れないだろう。こういうクルマこそ、もっと華を持たせて売れる算段をして欲しいところだ。

シートに関しては試乗した人間によって「いい」、「悪い」と意見が分かれた。腰をシートに押しつける正しい姿勢が取れる、というのが「いい」という方の意見。確かにシートベルトの巻き上げがこのクルマの大きな技術であり、その前提として正しく座ることが要求されているため、これは間違ってはいない。しかしシートフロント側を下げて、なおかつ腰を押しつける座り方をしたい人には自由度が少ないシートに思えた、というのが「悪い」方の意見だ。どちらを取るかによって電動ランバーサポートの評価も変わってくる。どんなにハイテク化しても、体に触れるのはシートとステアリング類だけ。この議論はさらに続けたいところ。

総合評価

カードキーを所持しているとキーが必要ない。エアコンはステアリングのボタンを押して口頭で「暑い」と言えば温度を下げてくれる。DVDナビも地名を言うだけで目的地設定が可能(認識率はいまいちだが)。QQコール、ハンズフリーフォン、インターナビシステムやETCも装備されており(残念ながらテスト不可だったが)、これらがちゃんと動くと、操作系はかなり未来っぽい。これらの部分はあまり評価されていないようだが、モーターデイズとしては高く評価したい。

こうした未来っぽい操作系に加え、HiDSやCMSといった自動運転系装備の実用化、片バンク休止エンジンのエコ対応などで、素晴らしいネクストカーとなっている。20世紀までの「ホンダらしいクルマ作り」(走り中心)を過去に葬り、安全と環境系のメニューを21世紀のクルマ作りとして全面に押し出したのがインスパイアであり、マルチメディアならぬ「マルチヴィークル」と命名しよう。

今後はITS(高度道路交通情報システム)こそがクルマ社会の命運をになう、と考えられるが、ITSの要件の一つであるASV(エレクトロニクス技術等の新技術により、自動車を高知能化して安全性を格段に高めるとともに、ITS技術の自動車としての受け皿ともなるもの)がいよいよ現実のものとなってきた、と感慨一塩だ。特に、アコードのハンドル操作に続き、インスパイアではブレーキ操作も自動で行うというハードルを越えたことがすばらしい。お役所的にはAHS(自動運転)という言葉を絶対に使わせないだろうが、インスパイアでは自動運転をほぼ実現している。ただ、これを多くの人が体験できないのが悲しい。ぜひともシミュレーターを作り、各ディーラーに配布すべきだろう(スバルはインプレッサでそれらしいことをやっているし、トヨタもプリクラッシュ・セーフティの3Dシミュレーターをすでに持っている)。一般の人にもっとこれらの装備を、知らしめることがなにより課題だと思う。

いずれこうしたハイテク装備は、全てのクルマに装備されていくとは思うが、まずセダンという不人気車に装備されたことは残念なところだ。ミニバンなど、多くの人が好むクルマにこそ第一に採用されるべきだろう。また、トラックの追突事故が多発している昨今だが、商用車にこそ優先して装備されるべきだ。まもなく施行されるトラックの90km/hリミッター設定には反対だが、どうしても付けろと言うなら、HiDSやCMSとセットにしろ、と言いたい(ついでにエンジンを止めても暖が取れるエアヒーターも標準装備すれば、高速サービスエリアの排気ガスも少しは緩和されるだろう)。HiDSは現時点では110km/hまでしか効かせられないため乗用車には実用的ではない。しかし、トラックには願ってもないもの。CMSで悲惨な追突事故もかなり避けられるはずだ。高速道路の走行車線を100km/hで整然と連結走行するトラックの群れこそ、できるだけ早く現実のものにすべき未来像だ(しかしホンダにはトラックがない…)。

試乗車スペック
ホンダ インスパイア アバンツァーレ
(3.0リッター・5AT・350万円)

●形式:UA-UC1●全長4805mm×全幅1820mm×全高1455mm●ホイールベース:2740mm●車重(車検証記載値):1560kg(F:990+R:570)●エンジン型式:J30A●2997cc・SOHC・4バルブ・V型6気筒・横置●250ps(184kW)/6000rpm、30.2kgm (296Nm)/5000rpm●使用燃料:レギュラーガソリン●10・15モード燃費:11.6km/L●駆動方式:前輪駆動●タイヤ:205/60R16(ミシュラン製 Pirot Primacy)●価格:350万円(試乗車:ー円 ※オプション:音声認識機能付きDVDナビ 本革/木目調ステアリング、木目調パネル、以上が32万円。ホンダ・アクセス製エアロパーツ(前後、サイド、計5点) 21万円、など) ●車両協力:本田技研工業株式会社

 
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