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三菱 i-MiEV新車試乗記(第583回)

Mitsubishi i-MiEV

(モーター+リチウムイオン電池・459万9000円)

「EV元年」と呼ばれた09年!
その象徴である i-MiEVで
EVの未来を検証する!
 

2009年12月18日

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キャラクター&開発コンセプト

リース販売でスタート。2010年4月から個人にも発売


今回試乗した量産型i-MiEV(2009年式)。ボディカラーはオプションで用意されている三菱カラーの赤・白2トーン
車両協力:中部三菱自動車販売株式会社

三菱は2009年6月5日、電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」の量産型を正式に発表。7月下旬から国内の法人、官公庁、自治体向けにデリバリーを開始した。販売形式は基本的にメンテナンスリースという、車両費用、税金、保険費用、整備費用の一部を月々で払う形になるが、すでに9月の時点で2009年度内に予定していた1400台は完売している。

個人向けへの販売は2010年4月からで、2010年度の国内販売予定は5000台。ちなみに中部三菱自動車販売によると、愛知、岐阜、石川エリアでの2009年12月末までの登録・納車予定は計86台で、さらに2010年3月末までの予定(受注済み)は44台、そして2010年度(4月以降)の仮予約受付け台数は現時点で64台(自治体3台、一般企業51台、個人10台)だという。

三菱自動車自体は2020年までに総生産台数の20%以上をEVとする目標だ。i-MiEVは排出ガスのまったくない「ゼロエミッション車」であり、三菱によれば発電時のCO2排出を含めてもそのCO2排出量はガソリン車である「 i 」の約1/3だという。

ちなみにi-MiEVという名称は「Mitsubishi innovative Electric Vehicle」の略。市販化にあたり、車名表記が従来の「i MiEV」から、ハイフン付きの「i-MiEV」に変更されている。

2010年から海外でも販売開始


こちらは2009年の東京モーターショーで展示された郵便局仕様

三菱は2010年から始まる海外への本格出荷に向けて、すでに北米、ニュージーランド、豪州、英国、モナコ公国などで実用テストやプロモーションを実施中。欧州向けの左ハンドル車も2010年度から投入予定だ。

またPSA(プジョー・シトロエングループ)には、2010年末から販売するプジョー・ブランドとシトロエン・ブランドのEV用にi-MiEVを供給することが決まっている。開発時間の短さやコスト低減の点でも、外観等の改変は最小限のはずだ。

過去の新車試乗記>三菱 i (2006年3月)

価格帯&グレード展開

購入補助をフルに受ければ月々5万7855円×60回

車両価格は大手メーカーの軽自動車としては、史上最高額と思われる459万9000円。予備知識がないと「は?」と聞き返しかねないほど高額だが、電気自動車であるi-MiEVの場合、2009年度については139万円を上限に購入補助が政府から得られる。またいわゆるエコカー減税により、購入時の自動車取得税と自動車重量税もハイブリッド車同様、100%免除される(こちらは現時点では2012年春まで施行予定)。

139万円の購入補助をフルに受けた場合の概算リース料(5年間、月間走行1000km)は、月々5万7855円×60回。これは基本メンテナンス込みの価格で、スタッドレスを除くタイヤ交換、補器用バッテリー交換、点検、車検(1回分)等が無償となる。

【i-MiEV】   459万9000円 ★今週の試乗車

パッケージング&スタイル

MiEV独自の意匠はLEDヘッドライトや専用色くらい


ホイールベースは2550mmと現行のVWゴルフ(2570mm)並みに長い

ボディサイズはガソリン車の「 i 」と、ほぼ同じ全長3395mm×全幅1475mm×全高1610mm。MiEVの車高が10mm高いのは、200kgほど増えた車重に対応してサスペンションストロークを伸ばしたからか。タイヤはサイズも銘柄もガソリン車と同じだ。

 

こちらはクールシルバー×ホワイトソリッドの2トーン仕様

MiEVならではの外観上の特徴は、ハロゲンに対して50%ほど消費電力が少ないというLEDヘッドライト(軽自動車初)やLEDリアコンビランプくらい。アルミホイールすら、ガソリン車と共用する。EVだからと言って、スタイリングに特別なところは少ない。ただし外装色は3種類のモノトーンのほか、MiEV専用色として、2トーンが2種類、専用デカールタイプが3種類用意される。

インテリア&ラゲッジスペース

回転計はパワーメーターに、燃料計はバッテリー残量計に変更

一見インパネもガソリン車とあんまり変わらないが、まったく違うのはメーターだ。ガソリン車のアナログ回転計は、i-MiEVでは「Charge(減速時の回生=充電)」「Eco」「Power」を針で示す「パワーメーター」に変身。このあたりはプリウスなどのパワーメーターと同じだ。

 

また、よく見ると燃料計は給油リグの絵がコンセントになっていて、つまり「駆動用バッテリー残量計」となっている。

そして右上の距離計には、航続可能距離も表示される。航続距離が限定的なi-MiEVの場合には、これが非常に重要な情報になる。写真はほぼ満充電で「←64km」となっているが、これは直近の走り方だと64kmしか走れないことを意味する。ただしエコ運転していれば徐々に上がってくるか、あるいは減りが遅くなる。

冷暖房はひかえめに

空調パネルのデザインもガソリン車と一緒。ただし当然ながら作動原理はまったく異なる。冷房用のコンプレッサーはもちろん電動、暖房には電熱による温水循環式ヒーターを使うため、つまり電気をかなり消費する。クルマのボディは住居と違って、ほとんど断熱性がなく、しかも夏は直射日光の影響をモロに受けるから、冷暖房能力はそうとうに強力である必要がある。

シフトレバーもちょっと違う

シフトレバーもガソリン車の「D-3-2」ではなく、「D-Eco-B」。Ecoはもちろんエコ運転。「B」はDレンジと同等の力強い走りのまま、回生ブレーキを最も強く働かせるモードだ。

なお試乗車に装着されているメモリーナビ(パイオニアの楽ナビLITE)は販売店オプションだが、インパネ最上段という配置も含めて、なかなか使いやすい。純正のi-MiEV用メモリナビ「三菱マルチエンターテイメントシステム(MMES)」だと、SDカードによるアップデートで、充電場所の情報提供も予定しているという。いずれにしろメモリー式なのは、省電力のためだ。

インテリア空間はガソリン車と同じ


ステアリングに調整機構はないが、シート高は調整可

室内の広さ自体は、普通の「 i 」とほとんど同じ。相変わらずステアリングがチルト(上下)やテレスコ(前後)できないのは残念だが、ドライビングポジションはまずまず不満なく決まる。シートの座り心地は良好で、視界もよい。

 

後席の背もたれはリクライニング調整が可能

リアシートもクッションこそ薄めだが、座り心地は悪くない。実際に大人男性の4名乗車を試してみたが、空間的にはドア側への余裕こそ最小限でも、前後方向は足が組めるほど広く、十分に快適だった。

なお、ガソリン車の場合、燃料タンクはフィットのように前席シート下にあるが、MiEVではフロントシート下からリアシート下までの床下が駆動用バッテリーの搭載スペースとなる。

荷室はメンテナンスリッドまで同じ

荷室の眺めは、ガソリン車とまったく同じ。床下に原動機を積む関係で、フロア高そのものは高めだが、普段の買い物には不足はないだろう。背もたれをパタンと倒せば、ほぼフラットなフロアが広がる。

なおガソリン車同様、スペアタイヤは搭載されず、パンク修理キットになる。

 

床下にはインシュレーターの下に、やはりガソリン車と同じように、蝶ネジで留まった黒いメンテナンスカバーが現れる。ここを開けると、左側に車載充電器(家庭用AC200V/ AC100V用)とDC/DCコンバーター(補器用バッテリー充電および電装品のため12Vに降圧する)、右側にインバーター(駆動バッテリーの直流電流をモーター駆動用の交流に変換するのが主な役目)がある。モーターはもっと下の方で、車体底から見ることができる。

基本性能&ドライブフィール

モーターは明電舎製


写真右側に見えるのがモーター、左側がトランスミッション(リダクションギア)。床面はほぼフラットになっている

試乗したのは愛知、岐阜、石川県で三菱車を販売する中部三菱自動車販売が所有する車両だ。登録から約4ヵ月半で、走行距離はすでに4690kmだった。

キーをいっぱいまで回すと、メーターのバックライトとREADYという表示が点灯。同時に電子音が「ポーン」と鳴って、走行可能になる。エンジンの音がしないのにスルスルと走り出すのは、プリウスと同じだ。クリープも普通のトルコンATのように自然かつ強力に発生する。

モーターはハイブリッド車などでも定番の、ネオジム磁石を使った永久磁石式同期型。産業用など電気機器全般を得意とする明電舎製で、形式名は「Y4F1」。インバーター共々水冷式で、フロント部にはガソリン車と同じようにラジエイターを装備する。

またリチウムイオンバッテリーは、3.75Vの電池セルを直列で88個つないだもの。総電圧330V、総電力量16kWhを確保している。大手バッテリーメーカーのGSユアサとの共同開発品で、生産は三菱自動車、三菱商事、GSユアサとの合弁会社となるリチウムエナジージャパン社が行う。全体はケースで密閉され、衝突安全テストをクリアするほか、水没しても漏電しないという。

排気量2リッター車並みの力強さ

最高出力こそ軽の上限となる64ps。しかしトルクは排気量2リッター並みの18.4kgmと強力で、しかも発進直後の0回転から2000回転まで発揮し続ける。車重はガソリン車の200kg増しとなる1100kgだが、そんなものなどモノともせず、ヒューンと力強く加速してゆく。間違いなく軽のターボ車より速く、特に上り坂では2リッター車並みの力強さでグイグイ上ってゆく。何より加速感が気持ちいい。

なおアクセルを踏めば、電気がたくさん流れてモーターが力を出すわけだが、実際には自然な運転感覚を出すため、「MiEV OS(MiEV Operating System)」という制御システムが介在する。発進直後のちょっとダルな特性もわざと作り出しているはずだ。

高速域では快感のジェットサウンド

真骨頂は70~80km/hあたりからの加速。基本的にギアは1段しかないので、車速を上げれば上げるほどモーターの回転数も高まる。このあたりからモーターの「キュィーン」という音も高まり始め、100km/hを越えてなお、絶頂に向けて途切れなく「キュィーーーーン」が続く。この音はまさに旅客機の離陸時の音にそっくりだが、i-MiEVの場合、高速道路であれば好きなだけこの音が味わえる。

リアシートに座ったスタッフによると、これがけっこううるさいようだが、前席にいる限りは、十分に静か。ロードノイズこそ目立つが、例のモーターノイズを除けば静粛性は3代目プリウスに張ると思う。

リミッターは128km/hで作動するようだが、制限がなければ160km/hも可能だろう。それくらい動力性能は強力で、しかも痛快だ。

床下のバラスト?のおかげで理想的なハンドリングに


最小回転半径は4.5メートル。体感的にも小回りは抜群に効く

ハンドリングも非常にいい。コーナリングは絵に描いたような弱アンダーで、さらにリア駆動車らしく、ステアリング操作やアクセルのオン・オフなどでリアの流れ具合も調整できる。ESPはなく、モーター制御によるトラクションコントロール(TCL)のみだが、介入が体感されることはない。

いずれにしてもリアエンジン車(ミッドシップを含む)にありがちな、フロントの接地感の薄さ、アンダーステアの強さ、高速域でのフロントリフト感は一切なし。スポーツカー好きなら、「これで着座位置のもっと低い2シータースポーツを作ったら、どんなに素晴らしいことか」と考えるはずだ。

 

写真はガソリン車のカットボディ。バッテリーが配置されるのは前席シート下から後席シート下までの空間だ

もちろんそうなったのは、車重が200kgも増えるほど重い駆動用バッテリーを床下中央に集中配置したから。この「バラスト」のおかげで、ガソリン車ではあり得ないほど極端に重心が低くなり、前後重量配分も510kg:590kg=46:54と、前輪にも後輪にも適度に接地圧が掛かるようになっている。ただガソリン車と同じフロント145/65R15、リア175/55R15という細め(特に前輪)のタイヤはしなやかではあるが、ちょっと負け気味かも。指定空気圧は前後2.5と高めだ。

ブレーキは油圧が主役

それからブレーキのタッチもいい。エンジンがないので、ひょっとしてノンサーボか?というと、そんなことはなく、制動時に電動ポンプで負圧を発生させている。

油圧ブレーキと回生ブレーキを併用する点はプリウスと一緒だが、プリウスの油圧ブレーキは電子制御(ECB)で、回生効率を高めるために複雑な協調制御を行っている。そのため初代プリウスでは、途中から急にブレーキが効き始めるなど、制動力の変化があり、その協調制御をどんどん改良して3代目プリウスのような自然なブレーキタッチにしてきた、という経緯がある。

一方、i-MiEVの油圧ブレーキはサーボ部分を除けば、基本的にメカニカルなので(ガソリン車とほぼ同じ)、協調制御はしない。結果的に油圧ブレーキが主となり、それが自然なフィーリングになった理由だろう。

また、プリウスの場合、回生ブレーキは前輪にしか作用しないが(駆動・発電用モーターがあるのは前輪なので)、i-MiEVの場合は後輪に作用する。そのせいか、回生ブレーキをガンガン効かせる「B」レンジでも、違和感は少ない(2輪車でリアブレーキを掛けるのと同じだ)。またi-MiEVの場合は、重心が非常に低く、後ろ寄りなので、制動時にもほとんどノーズダイブ感はない。

航続距離は現実的には80kmくらいか


写真は充電中。残り3/16目盛りで、走行可能距離は13kmと表示されている

そんな走りばかり試していると、バッテリーはみるみるうちに減ってゆく。10・15モードでの航続距離は160kmだが、三菱が現実的な目安として挙げるのは、市街地(40~60km/h)で約120km、同クーラー使用時で約100km、同ヒーター使用時で約80kmだ。

また、高速道路(100km/h)での航続距離の目安は、その2/3となる約80kmで、クーラー使用時だと約60km、ヒーター使用時だと約50kmまで短くなる。ガソリン車と違って、高速走行では仮に巡航しても省燃費にはならない。

今回の試乗では、一晩かけて一度会社(デイズ)の家庭用電源(100V)で満充電にした後、翌日いつもの試乗コースへ出発。しかしヒーターを多少使いつつ、高速道路をしばらく走ったところで、バッテリー残量計の減りの速さを見て、通常のコースを断念。

そこからはヒーターをオフ。すると表示される走行可能距離が少し増えてくれる。それでも大事をとって、急加速をひかえつつ、約60kmほど走ったところで会社に戻った。この時点でバッテリー残量計は16目盛り中、3目盛りだったので、残りは約2割。全部使い切ると、やはり約80kmというところだ。

その例から言えば、一般道での約120kmという航続距離も妥当なところか。実際、中部三菱自動車販売のスタッフが達成した最長記録も120kmだったという。

最後には「亀」マークが点灯、空調オフのセーブモードへ

さらにバッテリー残量が少なくなり、目盛りが残り2つになると、表示が点滅し始める(航続距離は残り5kmと表示)。今回の試乗では、そこでちょうど車両を販売店に返却できたが、さらに目盛りがゼロになると、残り0kmと表示され、亀マークが点灯。同時に、空調やオーディオ類がオフとなるパワーセーブモードに入るという。言わば充電施設や安全な場所に辿りつくための、エマージェンシーモードだ。

充電は家庭用100Vだと14時間、200Vで7時間


通常充電用ケーブルのコンセント側。アース付の3極になっているが、基本的には家庭用100Vコンセントで使える

さて、気になる充電時間は一般的な家庭用AC100V電源(15A)で約14時間、工事してもらって付けるAC200V電源(15A)で約7時間だ。

AC100V電源であれば、単純計算だと約10km走行するために充電が2時間ということだが、実際にはリチウムイオンバッテリーは満充電に近づくほど充電時間が長くなるので、空に近い状態からの充電スピードはもう少し早いと思われる。

そして施設さえあれば、三相200V 50kWによる急速充電も可能だ。こちらはほぼ空の状態から、約30分で最大80%まで充電する。なぜ80%かと言えば、上に書いたように満充電に近くなるほど充電時間が長くなるからだ。

通常充電は右側の充電リッドから。急速充電は左側


写真は通常充電用の充電ガン(下も)

家庭用電源で充電する場合は、運転席側の充電リッドを開けて、「充電ガン」の付いた標準装備のケーブル(200V用が5メートル、100V用はアダプターでつないで+1メートル)とコンセントを接続する。この普通充電に使う充電ガンと充電コネクターは、トヨタ自動車と自動車・住居用のワイヤーハーネス類を得意とする矢崎総業の共同開発品とのことだ。

 

なお、今回は利用しなかったが、急速充電施設で使う専用充電ガンは、助手席側にあるリッドに差し込む。

ちなみに電気代の目安は、深夜電力ベースで1kmあたりだいたい1円くらい、とのことだ。10円で約10km、100円で約100kmだから、ガソリン車の1/10程度か。昼間電力でも1/3くらいに済むという計算になる。

外出先の充電施設について

充電施設は、AEONなどのショッピングセンターが協力する方向にあるほか、高速のSAやPA、ファミリーレストランなどへの設置が考えられているようだ。今のところ東海地区では、岡崎市役所や岐阜県庁といったところに急速充電器が設置されているという。

また三菱の各販売店でも、充電施設を全拠点に設置する方向にある。2009年11月末時点では、例えば東京では37店舗、神奈川では28店舗が設置。愛知県下では9店舗だ。今のところは非急速タイプの200Vが多いようで、利用も営業時間内となる。

■三菱自動車>販売会社 充電ポイント一覧
http://map.mitsubishi-motors.co.jp/charge/index.html

ここがイイ

基本性能の高さ。量販車としての発売

走る、曲がる、止まる、の基本性能が優れている。クルマとしては全く素晴らしい。さらに快適、静か、コンパクト。しかも大人4人が乗れて、荷物も積める。これらの項目でi-MiEVを上回るクルマはそうそうない。スタート時におけるトルク感の制御も絶妙で、走行上の違和感はないし、普通の軽自動車を遥かに上回った実用車になっている。

年間5000台を売る量販車として計画されていること。ついにちゃんとしたビジネスフォーム(利益を上げる体制)のもとで、EVが作られたということは、やはり画期的だ。しかも日本の軽自動車規格のクルマがEVという形で欧米で販売され、走ることも画期的なことと思う。

ここがダメ

(言うのは心苦しいが)高価、航続距離の短さ、ユーザーを選ぶ

これだけ生産コストが高いと思われるモデルで、価格のことを言うのは心苦しいが、やはり個人がおいそれと買える値段とは言えないこと。普及のためには、あと100万円は下げないといけないだろう(つまりインサイトやプリウスと同じ200万円台前半)。その意味では、「出来過ぎ」であることが問題かもしれない。EV普及のためには、走りから装備まで、もうちょっとチープな作りでも構わないのでは。

残念ながら充電施設などのインフラが整っていない現状では、航続距離の短さがかなり使い方を限定してしまう。チョイ乗り専用がコンセプトだが、この価格でチョイ乗りしかできないクルマを買う人は少ないはず。もう1台ガソリン車があれば買えるが、2台持つのは経済的にも辛いだろう。

また当然ながら、コンセントのあるガレージを確保する必要がある。その意味でも、そうとうユーザーを限定する。チョイ乗りはこのクルマで、遠出はレンタカーで、必要に応じてカーシェアリング車両も使う、なんてのが理想のカーライフかもしれないが、一台だけガソリン車を持つよりお金がかかりそうだし、それができる環境で暮らす人は少ないだろう。

総合評価

それほどRAV4 EVはよくできていた

当サイト「モーターデイズ」のモーターという部分は、サイトを始めた1997年当時からエンジンで走る乗り物全体という意味と、まさに電気モーターの意味をひっかけてある。そして当時すでに「21世紀は電気モーターの時代になる」と確信していたのだが、その確信は一台のクルマがもたらしてくれた。そのクルマの名は、トヨタの「RAV4 EV」(1997年)。当時、これに試乗したことによって、「クルマはもう電気で十分、モーターの日々が間もなくやってくる」と実感できた。

それほどRAV4 EVはよくできていた。現実的な航続距離こそ、i-MiEV同様の80km程しかなかったが、高速道路でも120km/h巡航ができたし、力強く、静か。しかも搭載するニッケル水素電池によって車重が増えたことで、重厚感のある乗り心地まで実現していた。航続距離を除けば、すでにクルマとしては何の問題もなかったのだ。

しかし問題は充電。結局、RAV4 EVの試乗中は一度も充電できなかったが、当時は近所のショッピングセンターに公的な200Vの充電施設も作られ、やがてあちこちにできるのでは、という期待も持てた。またリチウムイオン電池もすでに出現していたから、「10年もたてば電池も改良され、この手のクルマが当たり前のように走り回っているだろう」と思ったもの。もちろんその頃には、「21世紀へGO!」という215万円の初代プリウス(1997年)も登場したので、21世紀はモーターが内燃機関に代わってクルマの主役になっていくことは間違いない、と思ったものだ。

 

2009年の東京モーターショーで発表されたコンセプトカー「i-MiEV カーゴ」

しかし10年以上の時を経てやっと登場したのは、電池こそリチウムイオンになったものの、走らせてみればRAV4 EVと、ある意味、素人目には大きな差のないi-MiEV。逆に言えば、RAV4 EVと差が感じられないほど、i-MiEVはいいクルマだったわけだが、ゆえにスゴイと興奮するほどではなかった。そしてEVにとって必需品であるはずの充電設備は、まだこれからの充実に期待するしかないという状況のままだ。

ガソリンから電気へと大きく変わり、文字通りモーターリゼーションとなって、環境への影響を最小限にしながらクルマを自由に乗り回せる時代こそ、夢の21世紀だと思っていたのだが、実際には21世紀も1/10が過ぎたというのに、モーターの時代はちっとも到来しない。しかも残念ながらそうならなかったがゆえに、クルマは「悪」扱いされ、業界は衰退産業のごとく見られている。

「移動の自由」を確保するには


2007年の東京モーターショーで発表されたコンセプトカー「i-MiEV スポーツ」(下も)

必要に応じて、いつでもどこでも活動を行える「移動の自由」こそ、人が人であることの証、人が進化するための糧だと思っている。クルマこそがそのための、誰もが認める素晴らしい道具とならなくてはいけない。

i-MiEVも乗ってみると、「走る、曲がる、止まる、さらに快適」といったクルマとしての出来は、もう普通の軽自動車を遥かに上回っている。素晴らしい移動道具だ。となれば、どうやって航続距離を伸ばすか、またそうでなければ充電施設をどう充実させるかという課題がすべてだろう。100km程度しか走れないのでは、「移動の自由」は確保できない。となれば街中はもちろん、田舎にも、山の中にも充電設備をつくることが最重要課題なのではないか。ディーラー、コンビニといった民間から、役所、交番、農協、果ては「充電施設貸しますボランティア」などのインフラづくりがもっと論議されるべきだろう。それがまったくと言っていいほど、なされていない。

 

あるいは電池をパッケージで交換できるようにするか、だ。電池交換スタンドの設置はもちろん、電池自体を誰の所有物とするか、あるいは法的整備の不備という課題もあって、これも相当険しい道に思える。電池性能に劇的な進化がない限り(多分それは当面かなり難しい)、走行距離の飛躍的な改善は不可能だと思うので、今やるべきはやはり充電インフラの整備だろう。それさえできてしまえば、i-MiEVは十分実用になると思う。また、これまでのEVも、結局そのあたりの問題で実用化できなかっただけだと思う。かつて試乗したスバルサンバーをベースとしたEVトラック(岐阜県のゼロスポーツが制作)でも、航続距離以外は十分実用性があったのだから。

国をあげてインフラ整備に取り組むかどうかがカギ


名古屋駅近くのコインパーキングに設置された200V充電施設(下も)

先日NHKを見ていたら、中国ではEVがすごい勢いで作られているという。ガソリン車で先進国を追い抜くのはなかなか至難の業だが、電気自動車ならそれが不可能ではない。先進国はガソリン車並みの快適性や安全性をEVに求めてしまうが、それを考えなければ構造の簡単なEVなど、いくらでも作れるだろう。中国政府がそうした国内EV産業を支えるため国家をあげて充電インフラを整えたとしたら、21世紀の「モータリゼーション」のトップにだって立てるはずだ。中国が世界最大の自動車販売市場になるのは時間の問題であり、ガソリン車ばかりが増え続けると環境面やエネルギー面で問題が出てくるのも間違いないので、中国は政府としてEV普及の算段をするように思えてならない。とにかくEVは国家をあげてインフラ整備に取り組めるかどうかが普及のカギだと思う。

 

ドイツでは電気会社が2015年までに国内の主要都市に充電スタンドを行き渡らせるらしい。このようにビジネスとして民間が行うことが正しいとは思うが、日本ではこの不況下、そんな悠長なことは言っていられないのでは。名古屋市内で充電施設を併設したコインパーキングを見つけたが、早くこうしたインフラが整わないと、いまここにあるi-MiEVに価値がなくなってしまう。こうなると民間というより、政府が景気対策や公共投資として将来に向けた充電インフラづくりや、充電施設設置補助金制度などをもっと積極的に行うべきだろう。温室効果ガス25%削減はそうすれば可能になると思うし、その恩恵で産業界も少しは活況を取り戻すのではないか。方向性がはっきりすれば、他のメーカーも電気自動車を作ることなど、そうは難しくないはず。EVの生産は既存のクルマ産業以外にも広がっていく仕事だから、国内の景気はもう一度活気づくだろう。そして中国に負けない「もの作り日本」が復活するのではないだろうか。

卵はすでに孵っている


2009年 東京モーターショーの三菱ブースにて

今のところ、マンション住まいや屋外駐車しかできない人は、EVが買えない。見る見る減っていくバッテリー残量を気にしなくていいインフラがあるなら、いくつかの意味で「リミテッド」なエコプレミアムカーといった印象のi-MiEVに乗り換えられるのに、と思いつつ、今のままの状況では、いつか乗ったEVと同じ道を進むように思えてならなかった。「卵が先か、鶏が先か」はなかなか答えがでないが、「EVが先か、充電インフラが先か」は、卵がすでに孵ってしまった今、育つ環境を早く作らなければならない、という答えがすでに出ている。世界の環境のために、日本のために、そして何より移動の自由のために、EVこそが必要であり、クルマはそこへ向かうしかない。なんとか生きているうちに夢の21世紀を目撃したいと思う、21世紀9年目の年末だ。


試乗車スペック
三菱 i-MiEV
(モーター+リチウムイオン電池・459万9000円)

●初年度登録:2009年7月●形式:ZAA-HA3W ●全長3395mm×全幅1475mm×全高1610mm ●ホイールベース:2550mm ●最小回転半径:4.5m ●車重(車検証記載値):1100kg( 510+590 ) ●乗車定員:4名 ●モーター型式:Y4F1 ● 定格出力:25kW ● 最高出力:64ps(47kW)/3000-6000rpm、18.4kgm (180Nm)/0-2000rpm ●駆動用バッテリー:リチウムイオン電池 ● 総電圧:330V ● 総電力量:16kWh ● 10・15モード交流電力量消費率:125Wh/km ● 10・15モード 1充電あたり走行距離:160km ● 駆動方式:後輪駆動 ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット/後 3リンク ド・ディオン ●タイヤ:前 145/65R15、後 175/55R15( Dunlop SP Sport 2030 ) ●試乗車価格:476万9830円 ( 含むオプション:2トーンカラー 7万3500円、オーディオレス仕様 -1万5750円、ナビゲーションシステム<パイオニア楽ナビLITE> 9万円、ETC 2万3080円 )●試乗距離:約100km ●試乗日:2009年12月 ●車両協力:中部三菱自動車販売株式会社

 
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