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スズキ アルト新車試乗記(第754回)

Suzuki Alto

(660cc 直3・5速セミAT/CVT・84万7800円~)

好きになるのに、1秒もいらない。
いやいやホントに惚れるのは
走らせてからでも遅くない!


2015年02月27日

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キャラクター&開発コンセプト

先代比-60kg。最軽量モデルで車重610kgを実現


初代アルト(1979年)。東京モーターショー 2009にて

スズキ アルトは、1979年に登場した軽自動車。初代は47万円という低価格で大ヒットし、以後はスズキ軽のベーシックモデルとして、時代に合わせて進化。1990年代以降はワゴンRに主役の座を譲ったが、過去35年間の国内累計販売台数は約483万台に及んでいる(2014年11月末時点、アルトラパンを除く)。

そのアルトの8代目が2014年12月22日に発売された。技術的トピックは数多く、車体ではロングホイールベース化や前後サスペンションの一新を図った新世代プラットフォームを採用(今後、他のモデルにも展開される)。これにより車重は先代アルト エコ比で60kg軽くなり、最軽量モデルで610kgと、現代の軽自動車としては驚異的な軽さを実現している。

5速セミAT「AGS」も用意


8代目となった新型スズキ アルト
(photo:スズキ)

また、個性的な外観デザインも大きな話題。“目力(めぢから)”のあるヘッドライト形状、グリルレスの顔、全高を抑えたスタイリングなどが目を引く。広告キャッチコピーは「好きになるのに、1秒もいらない」。

パワートレインには、定評あるR06A型エンジンと副変速機付CVT(無段変速機)の改良型、スズキ車でお馴染みの「エネチャージ」、「新アイドリングストップシステム」、「エコクール」を主力グレードに搭載している。CVTのFFモデルの場合、JC08モード燃費は純ガソリンエンジン車でトップの37.0km/Lを達成している。

一方で、スズキの国内向け乗用車では初となる5速セミAT「AGS(オートギヤシフト)」を、ベースグレードと商用バンに設定。AGSの採用は、昨年発売された新型キャリイ(軽トラック)に続くもので、今年2月には新型エブリイにも採用されている。

 

月販目標台数は7000台。

■外部リンク
スズキ>プレスリリース>新型「アルト」を発売(2014年12月22日)

■参考記事
新車試乗記>スズキ アルト エコ (2012年2月掲載)
新車試乗記>スズキ アルト (2010年1月掲載)
新車試乗記>スズキ アルト (2004年10月掲載)

 

価格帯&グレード展開

5MT/5AGSは84万7800円~、CVTは89万4240円~


試乗したF(AGS)。写真のボディカラーはシフォンアイボリーメタリック

乗用のアルトと商用のアルト バンがある。

乗用は安い方から「F」「L」「S」「X」の4グレード。エントリーグレードのFは5MTと5AGSで、それ以外の上位グレードはCVTのエネチャージ付。オーディオは全車標準(レスも選べる)。ESPはバンを除いて標準装備になる。

価格は、Fの5MTと5AGSが共に84万7800円(4WDは95万3640円)で、CVT車は89万4240円~122万9040円(4WDを含む)。また、レーダーブレーキサポート装着車は2万1600円高。諸経費込みでも100万円前後の予算で検討できる。

ボディカラーは全8色。また、Xではバックドアがミディアムグレー、アルミホイールがガンメタ塗装の「2トーンバックドア仕様車」が1万6200円高で選べる。

バンは69万6600円(5MT)からスタート


アルト VP。バンのボディカラーはスペリアホワイトのみ
(photo:スズキ)

4ナンバーのアルト バンは「VP」グレードのみで、ボディカラーはソリッドの白(スペリアホワイト)のみ。

価格は5MTが69万6600円(FFのみ)、5AGSが77万7600円(4WDは88万5600円)と、乗用のFグレードより10万~15万円ほど安い。

ただし、バンの後席は4ナンバー用の簡素なもので、前席のパワーウインドウも省略。オーディオはスピーカー内蔵タイプのAM/FMラジオだし、ESPどころかABSも標準ではない。また、このバンと乗用Fの5MTでは、吸・排気VVT(可変バルブタイミング機構)も外されるため、最高出力は3psダウンの49ps、最大トルクは5Nmダウンの58Nmになり、JC08モード燃費も1割ほど落ちる。一般ユーザーは、Fを選んだ方が無難。

ただし、バンにも軽商用車で初のレーダーブレーキサポート装着車が用意されている(5AGSのみ)。これはESPやABSとセットで4万8600円高と割安だ。

3月には「ターボRS」も発売予定


アルト ターボRS コンセプト。東京オートサロン 2015にて

2015年1月に開催された東京オートサロンでは、高性能モデル「アルト ターボRS コンセプト」が発表されている。発売は3月の予定。普通のアルトは自然吸気エンジンだが、こちらはターボエンジン(64ps、98Nm)を搭載する。かつて人気を集めたアルト ワークスの再来と言えるモデル。

 

パッケージング&スタイル

欧州車テイストが漂う、個性的なデザイン


全長3395×全幅1475×全高1475mm(ルーフアンテナ付は1500mm)、ホイールベース2460mm

新型アルトが発表された時、最も話題になったのは外観デザインだろう。フロントはスズキ言うところの「目力(めぢから)」を感じさせる異型角型ヘッドライト、そしてグリルレスという構成で、超個性的。スズキによれば、100m先からでもひと目でアルトと分かるデザインにしたかったという。

ちなみにヘッドライトを囲む枠は、左右が眼鏡のように繋がった一体モノで、「めがねガーニッシュ」と呼ばれ、各色が純正アクセサリーで用意されている。CMキャラクターのベッキーが眼鏡をかけているのは、そのへんが理由。

 

Xの2トーンバックドア仕様車

後ろ姿もユニークで、リアコンビランプを商用車や昔のジムニーみたいにバンパーレベルで低く配置。これは、S字にうねったバックドアパネルの面をきれいに見せるためだという。ここも個性的だが、造形そのものはシンプル。

デザイナー陣の本意はともかく、全体的には1970~80年代の欧州車テイストが強く感じられる。角型ヘッドライトは、往年のフロンテ71(1970~72年)風とも言えるが、グリルレスはフィアットの126(1972~85年)や初期のフィアット パンダ(パンダ45)あたりを連想させる。

クオリティ感はup!に張る?

 

全高は先代より45mm低く、1475mm(ルーフアンテナ付は1500mm)で、VWのup!(1495mm)と同じくらい。加えて均整のとれた縦横比、短い前後オーバーハング、リアサイドウインドウのキックアップ具合、Cピラーの形状、質感などの点で、VWのup!に近いものが感じられる。

ホイールベースは先代より60mm伸びて2460mmになり、ここはup!(2420mm)より40mmも長い。全幅は軽の枠いっぱいの1475mmだが、これは全高とほぼ同じで、軽自動車としては近年まれな安定感を見せる。

 

フィアット 126(1972年)

こちらは2トーンではないFの後ろ姿
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転
半径(m)
スズキ アルト (2014~) 3395 1475 1475~1500 2460 4.2~4.6
VW up! (2012~) 3545 1650 1495 2420 4.6
スズキ アルト エコ(2011~2014) 3395 1475 1520~1530 2400 4.2
ホンダ N-ONE (2012~) 3395 1475 1610~1630 2520 4.5~4.7
スズキ ハスラー (2014~) 3395 1475 1665 2425 4.6
ホンダ N-BOX スラッシュ (2014~) 3395 1475 1670~1685 2520 4.5~4.7
 

インテリア&ラゲッジスペース

「白いご飯」のシンプルさ


ワゴンRのような“豪華さ”はないが、“素の良さ”が感じられるインパネ

内装は基本的には簡素だが、安っぽくならないよう、注意深くデザインされている。アイボリーの横長ダッシュボードパネル、ヘッドランプと同じ異型角型のメータークラスター、ライトブルー地で白いパイピング付のシートなど、シンプルながら主張のある意匠が気持ちがいい。つまりコストがかけられないことを言い訳にしていない。デザイン開発においては、“白いご飯”のような日常における美しさ、クオリティ感を大事にしたという。

 

左右席間は+30mm、前後席間は+85mm


上位グレードには運転席シートリフター(S、X)、チルトステアリング(X)が標準だが、下位グレード(F、L)でも割と違和感のない運転姿勢が取れる

室内空間は新型になってさらに広くなった。前席では、運転席と助手席の距離(カップルディスタンス)が30mm増えて620mmになった。二人で乗ることが多い場合、これはありがたい。室内幅は+10mm (1215mm)なので、ショルダーまわりは差し引き10mmほど狭くなったはずだが、全く気にならない。

また、前後乗員感の距離(タンデムディスタンス)は、ホイールベースが一気に60mm伸びたことで、85mm増えた。天井はワゴンRより明らかに低いが、後席は足をまっすぐ伸ばせるほど広くなった。ワゴンRと比べるとクッションが平板で、座面も短く、前後スライド機能もないが、短時間なら大人でも快適に過ごせる。一つ残念なのは、5速AGSの設定がある下位グレードには、後席ヘッドレストがないこと。

 

足もとは十分過ぎるほど広いが、座面は短かめ。サイドウインドウのキックアップ部分はボディパネルむき出しになる

助手席の下にはエネチャージ用のリチウムイオン電池がある(CVT車のみ)
 

後席使用時の荷室は、18Lポリタンクが2つという感じ。床下にはパンク修理キット、ジャッキ、小物収納スペース

後席の格納は、左右一体の背もたれを倒すだけ。バンのカタログ値は、奥行き1350mm、荷室高855mm
 

基本性能&ドライブフィール

【AGS】セミATのネガをほぼ解消。期待以上にスムーズ


試乗した「F」のAGS

今回は浜松市のスズキ本社を起点に、AGSとCVTの2台に試乗した。また参考のため、ワゴンRのNAモデル(Sエネチャージ付)にも試乗した。

まずはAGSから。これはセミATとか、AMT(オートメイテッド マニュアル トランスミッション)とか言われる、シングルクラッチ式のAT。従来の5速MTをベースに、電動油圧式のアクチュエーターを追加したものだ。

セミAT自体はフィアット 500(デュアロジック)、ちょっと前のアルファロメオ(セレスピード)、スマート、VW up!、プジョー、シトロエンなどでおなじみだが、日本車での採用はかなり珍しく、レクサス LFA(6速セミAT)か、トヨタ MR-S(前期が5速、後期が6速のセミAT)くらいしかない。

 

R06A型エンジンも改良型。シリンダーヘッドがエキマニ一体型になり(これによりタコ足が消えた)、圧縮比は先代エコの11.2から11.5にアップ(写真はCVT車)

そんな日本市場にAGSを投入するにあたって、スズキはセミATのネガを可能な限り排除している。まず、シフトゲートにはセミAT車では無いことが多い「P(パーキング)」位置があるし、やはり無い方が多いクリープ現象も、電子制御クラッチの働きで発生するようになっている。おかげで、発進するまでの一連の感覚は、普通のAT車やCVT車とほとんど同じ。坂道発進もなかなか上手い。

また、セミATで一番の弱点である、シフトアップ時の息継ぎ感も、これまでのセミAT車で最良のレベルに抑えこまれている。アクセル全開での2速へのシフトアップには、まだ少しタイムラグがあるが、それ以外はほぼ問題なし。普通にゆったり加速すれば、30km/hくらいで3速に、40km/hくらいで4速に、55km/hくらいで5速に入る。

車重の軽さは侮れない


AGSのシフトレバー。CVT用とは異なり、マニュアルモードとシフトブーツが備わる

AGSならではのダイレクトなパワー伝達感、小気味のいい加速感は、CVTでは味わえないもの。低回転からトルクのあるR06A型エンジンとの相性もいいし、アクセルを踏み込んだ時のキックダウンや、シフトダウンも文句なしに速い。シフトレバーでマニュアルシフトも可能だが(パドルシフトはない)、使う必要はほとんどない。

もちろん、走りの良さには車重の軽さも効いてるはず。AGS(FF)の車重はわずか620kgで(バンのAGSなら610kg)、最高出力52ps、最大トルク6.4kgmでも、非力感なく普通に走ってしまう。ちなみにパワーウエイトレシオは約11.9kg/psで、これはホンダ ビート(64psで760kg、5MTのみ)と同値だ。

 

こちらはX(CVT)。

静粛性については、AGSでもCVTでも、エンジンをぶん回せばそれなりに騒がしく、後で乗ったワゴンRとは歴然とした差がある。ただし、AGSはアクセルを踏み込んでもCVTのように無闇に高回転をキープしないし、CVT特有のベルトノイズがないのがいい。

ただし、アルトAGSでちょっと驚いたのは、シフトダウン時にASGの作動音が聞こえること。普通に赤信号などで減速していく際に、自動シフトダウンが行われるのだが、その時に「ガコッ(3速にダウン)、、ガコッ(2速にダウン)」という音が聞こえてくる。しかも、なぜか後ろから。メカメカしていてクルマ好きとしては面白いが、メカに詳しくない人には少し説明が必要かも。

AGSはシャシーもいい


浜名バイパスにて。ここの横風の強さは折り紙付き

AGS車はシャシーを含めた走り全体もいい。プラットフォームは完全新設計で、リアサスはスズキ独自のI.T.L.(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)ではなく、今回から一般的なトーションビームになったのがニュース(4WDは引き続きI.T.L.)。主な目的は軽量化で、このリアサスだけで11.2kgも軽くなっている。

高速走行もパワー的には余裕十分。風切り音やロードノイズでそれなりに騒がしいから、軽として考えても決して静かとは言えないが、耳障りではない。ターボ車のような余裕はないが、高回転では意外に伸びるので、許されればメーターを振り切る実力はあると思う。

一つ気になったのは、高速域での直進安定性。車重が軽いせいもあるし、また海風が直撃する浜名バイパスだったことも割り引いて考える必要はあるが、ついついステアリングを握る手に力が入ってしまった。この印象はAGSでも、CVTのXでも同じだった。

【CVT】AGSに比べると印象が薄い


Xのタイヤは写真の15インチ(165/55R15)、それ以外は13インチ(145/80R13)になる

最後はCVTモデルについて。パワートレインは改良型R06A型エンジンと副変速機付CVTで、そこに限っては先代アルト エコの進化版という感じ。それに加えて、今回は完成度が高いAGSに乗った後ということで、何となく印象が薄くなってしまった。

なお、試乗したXで少し気になったのは、電動パワステのフィーリング。スズキによればセッティングはAGSと同じとのことだが、試乗車では微舵付近に何となく重々しさがあり、また、交差点ではステアリングの戻りの悪さ、いわゆるキャスターアクションの弱さが気になった。なお、試乗したXでは、前後サスにスタイビライザーが入り、タイヤが165/55R15になる。そのあたりも影響してるかも。

試乗燃費はAGSが21.8km/L、CVTが19.7km/L


AGSの試乗燃費。ちょこまか市街地を走っても22km/L前後をキープ

今回は2台で、スズキ本社のある浜松周辺の一般道や自動車専用道路を試乗。あくまで参考ながら、車載燃費計による試乗燃費は、F(AGS)が21.8km/L、X(CVT)が19.7km/Lだった。

なお、JC08モード燃費は、AGSが29.6km/Lで、CVTが37.0km/L。つまりモード燃費はCVTの方が圧倒的にいいが、実燃費ではAGSの方がいい、という結果になった。このあたりは、セミATのフィアット500やVW up!の実燃費がいいことを知っていると、それほど不思議ではない。

 

CVTの試乗燃費。大人しく丁寧に乗ればもっと伸びるが、アクセルを無造作に踏んでしまうと20km/Lを割ってしまう

ちなみに燃料タンクの容量は、先代アルト エコだとわずか20Lだったが、さすがにこれは不評だったようで、今回は普通の先代アルト(30L)に近い27Lになった。めでたしめでたし。新型で上手に走れば、無給油で500km以上走れるだろう。

 

ここがイイ

完成度の高いAGS。デザイン。価格

AGSの、予想を上回る完成度。変速のスムーズさや、初心者でも普通に扱える操作性など、完成度が高いので、クルマ好きが2台を乗り比べたら、間違いなくAGSを選びたくなるだろう。

軽量化への努力。ライバル車の追随を許さない徹底的な軽量化にはとにかく頭が下がるが、乗り味まで軽薄になってしまったら元も子もない。しかしそうはなっていないことが、今回試乗ではよく分かった。こうなると軽量化のメリットがただただ目立つ。衝突安全性も十分に配慮されているようだし。

デザインもいい。特にエクステリアは、軽自動車もしくはコンパクトカーの原点とも言えるようなシンプルなデザイン。メッキギラギラのフロントグリルを付けたクルマが販売実績を伸ばす日本において、勇気と信念を持ってグリルレスとしたところは全面的に支持したい。

 

Fはシートの上下調節ができなかったが、案外気にならなかった。ベースグレード用とは思えない出来栄え。新しい軽量化シートは、座り心地、肌触りともに良好。薄いブルーの生地に細かい模様があり、パイピングもあってオシャレだ。

そしてやっぱり価格の安さ。試乗したFのAGSは、レーダーブレーキサポート付で86万9400円。諸経費込で100万円以下に収まると思う。後でアルミホイールくらいはつけたくなりそうだが、おおむね装備に不満はない。クルマ好きが自分のために買える軽がついに出た、という感じ。軽自動車本来の姿がここにある。

ここがダメ

AGSだと後席ヘッドレストがない。高速域での直進安定性

AGS仕様は、後席ヘッドレストがないFグレードとバンにしかないこと。こんなに後席が広いのにヘッドレストがないクルマを新車で買うのは、軽とはいえ抵抗を感じる人が少なくないのでは。クルマの出来栄え、走りの良さから言えば、AGSが最上級グレードでもよかったと思うが、そこはひょっとするとターボRSとの棲み分けも考えてのことか……。スズキとしては、やはり初モノのミッションということで実際にどれだけ売れるかは未知数であり、今回のようなグレード設定になったという事情もあるようだ。AGSの販売動向も含めて、今後の展開に期待したい。

シートの出来はなかなかいいが、ポジション的にはもうちょっとステアリングを手前に持ってきたいと思った。こんな安いクルマにテレスコをつけて欲しいと言うのも何だが。

走りで一つ気になったのは、高速域での直進安定性。本文にあるように軽量ボディや横風のせいもあったと思うが、それをモノともしないビシッとした直進安定性が備わったら、さらに素晴らしいクルマになると思う。

総合評価

デザインとミッションの2つで冒険

スズキのクルマには乗るたびに驚かされてきた。どこまで進化しちゃうわけ、なんていつも思ってしまうのだが、その進化は実際のユーザーからもちゃんと評価されているようで、スズキは昨年(2014年)、8年ぶりに軽自動車販売台数で首位に返り咲いた。修会長もひとまずはご満足だろう。個人的にも現行MRワゴンを身内(ターボ車)にも知人(NA車)にも薦めて、どちらからも大満足という評価を頂いている。ハスラーは特に薦めたわけではないが、ちゃんと知り合いが買った。いいクルマが評価されるのはうれしいもの。今や軽自動車こそが日本のクルマだ。二極化する社会の中で、大衆の味方として地位を確立している。

 

そんな中、登場した8代目アルトは、発売前に漏れた外観写真を見て「これは!?」と良い意味でも、悪い意味でも驚いた。実にカッコよく見えたからだが、我々がいいと思ったクルマは、一般にはウケが良くない。これは!?と思ったのは、そういうわけだ。MRワゴンでもハスラーでも、スズキはなぜかグリルレスぽいデザインを採用することが多いが、アルトまでそうするとは思わなかった。というか、今回のアルトのデザインが一番強烈だ。グリルレス路線を支持してきた我々としては溜飲が下がるが、一般の目にはそうとう奇異に映るのでは。全体のプロポーションも素晴らしいと思うが、これも賛否両論ありそうだし。しかもスペシャリティカーではなく、商用バンもあるアルトなのだから、かなりの冒険だと思う。

AGSもそうだ。スズキはジヤトコ製の副変速機付CVTという、このクラスでは頭ひとつ抜けたミッションを早くから採用してきたが、今回、誰もが日本市場では厳しいと考えそうなセミAT(MTがベースで、CVTよりコストは安い)に果敢に挑戦してきた。乗ってみると本文で書いたとおり、これまで乗った中では最高のセミATだと思った。ちょっと前まで所有していた2代目スマートはもちろん、先日乗る機会のあったup!のそれよりずいぶん良かった。CVTの方は、まあいつもの感覚なのだが、AGSの方はもう一段上へ登った感じ。ただ、さすがにAGSは初モノに近いし、変速時に作動音が聞こえるなど、安心感はやや心もとないし、何よりその運転感覚は、やはり一般の人にとっては普通のATやCVTとはちょっと異なるものだろうと思う。

 

スバルなどはその昔、クラッチ操作を自動化した「オートクラッチ」(2ペダル式MT)をやっていたが、1980年代という早い時期にCVTへと移行した。今回はある意味、その逆をスズキがやるわけで、これは興味深い展開だ。まあ、かつてのオートクラッチは、MTのようにシフトレバーを操作する必要があったのに対して、今回のものはフルATに近い。CVTが登場してきた頃、大衆は果たしてこれを受け入れるだろうか、などと思ったが、今やそんなことは少なくとも日本の市場では杞憂だったと分かっている。チャレンジングなクルマは面白い。がんばれスズキとエールを送りたいところ。

そして軽量化だ。1部品1グラム軽量という運動は、ずいぶん前にスズキで聞いた話だが、プラットフォームを全面的に変更して、この超軽量化を果たしたことは、そうしたスズキ伝統のモノ作りの賜物だろう。10年前は、これでもうちょっと排気量の大きいエンジンが載ればと思ったものだが、スズキはパワートレインの進化以上に、ボディの方を軽量化してしまった。動力性能は52psのNAでもう全然OK。おそるべき軽自動車の進化。

軽自動車が世界を目指す時

こうして見ると、新型アルトはもはや日本の軽というより、世界のスモールカーになることを視野に入れて作られたようにも思える。ワゴンRのようなトールタイプのボディは、世界市場では馴染まないが、アルトの低いスタイルとパッケージングなら、欧州でも受け入れられるだろう。

そしてこのオリジナリティあふれるスタイリング。グリルレスの個性を含めて、up!に十分対抗できるデザインだと思う。リアタイヤの張り出し方なんて、どう見ても日本車らしくない。フェンダーがタイヤを覆いつくせてないので、リアにはフェンダーリップがついてるくらいだ。新型アルトのタイヤサイズは上級グレードで15インチだが、もうちょっと大径にしたら一層カッコよくなるだろう。

世界で、となれば、むろんCVTでは難しい。世界の主流がCVTではないことは衆知のとおりで、日本ではチャレンジングなセミATも、世界(欧州など)なら普通だ。また、日本のモード燃費ではCVTがいい数字を出すが、今回のように実際に走らせると状況によってはセミATが逆転してしまう。今回のトランスミッションにおけるチャレンジの狙いはそこにあるのではないか。

 

日本のクルマで世界に誇れるアイデンティティを持つのは、いかにも日本的な軽自動車だ、といつも書いてきた。こう書くと、最近流行りの「日本凄い、日本人エライ、ニッポン万歳」と同じ論調に見えてしまうが、そうではない。日本製品の特徴は、あえて言えば、かつてのトランジスタラジオが象徴する、小さくて緻密で高性能であることだろう。トランジスタラジオから50年、軽自動車がここまで来た。二極化しつつある日本市場の、片方を支える軽自動車が、世界的なダウンサイジングの流れに後押しされ、日本以上に二極化した世界市場を目指す時、その尖兵が今回のアルト(のようなクルマ)になるのかもしれない。その場合は、クルマを持つことによる生活の豊かさを、世界へあまねく広めていける「平和のツール」となることを望みたい。世界市場での成功が「あるといいなあ」なんて。

 

試乗車スペック
スズキ アルト F (レーダーブレーキサポート仕様車)
(660cc 直3・5速セミAT・86万9400円)

●初年度登録:2014年12月 ●形式:DBA-HA36S ●全長3395mm×全幅1475mm×全高1500mm
●ホイールベース:2460mm ●最低地上高:155mm ●最小回転半径:4.2m
●車重(車検証記載値):620kg(390+230) ●乗車定員:4名

●エンジン型式:R06A ●排気量・エンジン種類:658cc・直列3気筒DOHC・4バルブ・横置
●ボア×ストローク:64.0×68.2mm ●圧縮比:11.5
●最高出力:38kW(52ps)/6500rpm ●最大トルク:63Nm (6.4kgm)/4000rpm
●カムシャフト駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/27L
●トランスミッション:5AGS(5速セミAT)
●JC08モード燃費:29.6km/L

●駆動方式:FF(前輪駆動) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット+コイルスプリング/後 トーションビーム+コイルスプリング ●タイヤ:145/80R13(Dunlop Enasave EC300)

●試乗車価格:-円 ※オプション:- -円 ●ボディカラー:シフォンアイボリーメタリック

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試乗車スペック
スズキ アルト X (ミディアムグレー2トーンバックドア仕様車)
(660cc 直3・CVT・115万0200円)

●初年度登録:2014年12月 ●形式:DBA-HA36S ●全長3395mm×全幅1475mm×全高1500mm
●ホイールベース:2460mm ●最低地上高:155mm ●最小回転半径:4.6m
●車重(車検証記載値):650kg(420+230) ●乗車定員:4名

●エンジン型式:R06A ●排気量・エンジン種類:658cc・直列3気筒DOHC・4バルブ・横置
●ボア×ストローク:64.0×68.2mm ●圧縮比:11.5
●最高出力:38kW(52ps)/6500rpm ●最大トルク:63Nm (6.4kgm)/4000rpm
●カムシャフト駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/27L
●トランスミッション:CVT(無段変速機)
●JC08モード燃費:37.0km/L

●駆動方式:FF(前輪駆動) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット+コイルスプリング/後 トーションビーム+コイルスプリング ●タイヤ:165/55R15(Bridgestone Ecopia EP150)

●試乗車価格:-円 ※オプション:- -円 ●ボディカラー:シルキーシルバーメタリック/ミディアムグレー 2トーンバックドア

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●試乗距離:-km ●試乗日:2015年2月 ●車両協力:スズキ株式会社

 
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