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新車試乗記 第99回 ホンダ インサイト Honda Insight



日時: 1999年11月19日

 

キャラクター&開発コンセプト

10・15モード燃費35km/lを誇るホンダ初のハイブリッドカー、インサイト。市販ハイブリッドカーはトヨタ・プリウスに、3リッターカー(3lの燃料で100km走行可能、つまり33.3km/l以上の低燃費車)はVW・ルポに先行され、惜しくも「世界初」はとれなかったものの、この「世界一」の低燃費だけでも歴史に残る名車になる資格を得たといっていいだろう。

2シータークーペボディを持つインサイトのポイントは、「パワーユニットの高効率化」「空力性能の追求」「車体の軽量化」という3本の柱で成り立っている点だ。プリウスは4ドアセダンという実用性を考慮しているので「ユニットの高効率化」の追求でしかなかったが、インサイトは1リッター+電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステム”IMA”を搭載し、ボディはアルミ製、空力特性係数はCd値0.25という量販車世界最高峰の数値を実現させるなど、残りの2つの要素も追求している。燃費性能で世界一を目指すという意志のみで作られたクルマといっても過言ではないだろう。

なお、燃費向上につながった技術を100とすると、そのうちエンジン自体の低燃費化が35、モーターアシストが30、超軽量と高い空力性能を可能とした車体技術が35といわれている。

価格帯&グレード展開

モノグレード構成で価格はプリウスより5万円安い210万円(5MT)と218万円(CVT)。2シーターということで価格相応の実用性は期待できないが、技術を考えれば赤字覚悟の出血大サービスプライスといえるだろう。ただ、月販目標はプリウスが今後の普及も見据えた1000台としたのに対し、インサイトは売る気がない? みたいな300台。技術力のデモ版みたいなものという感は否めない。

パッケージング&スタイル

ボディサイズは全長3940mm×全幅1695mm×全高1355mmで、ホイールベースは2400mm。きつい傾斜を持つガラスハッチも含めてかなり個性的で、特にリアタイヤを覆うスパッツが最大の特徴だ。前輪よりも後輪のトレッドが110mmも狭いという、なんともヘンテコリンなデザインになったのは、空力性能を徹底して煮詰めた結果であり、空力特性係数は量産車では限界といわれる0.25を達成している。凄い!

さらにボディはNSX譲りのアルミ製。贅沢! 車重は5MTで820kgと軽自動車並。プリウスよりも約400kg軽い。この圧倒的な空力の良さと軽さで、最高速は180km/hに限りなく近い速度をマークする。このデータを知ってしまうと、不格好というのは失礼であり、世界で最も優れたデザインと訂正したくなる。じっと見ているとだんだん良くなってくるというデザインだ。

こうした軽量化、低燃費化を徹底した結果、2シーターとなってしまったのは、唯一にして最大の弱点であり、実用価値を低めてしまっているのは確かだ。「どんなに良くても2シータークーペでは買えない」という先入観がこのクルマを人々から遠ざけてしまう。レイアウトを見る限り難しいのは分かるが、せめてリアに「1マイルシート」が欲しかった。

2シーターゆえ居住性自体は良好だ。シートからでも手が届く荷室は、高さの余裕こそミニマムだが2人分と割り切れば十分といえる。インパネは中央まで伸びたナセルの下に、エアコンなどの操作スイッチを集中配置して、ドライバーとの一体感を与えながらも、助手席の開放感を高めた作りとなる。ステアリングがS2000と見た目が同じというのも心憎い。内装のテーマ「パーソナルフィット」を率直に感じられるデザインだ。

ただ、カップホルダーの使い勝手と、ナビモニターの視認性は良くない。メーターはスピードメーターがデジタルで、他はバーグラフを採用する。バッテリー残量計、モーターアシストと回生ブレーキを表示するIMAモニター、オートアイドリングストップ表示灯など、橙、赤、緑と華やかな照明は一昔前のデジタルメーターのようで、どこかオモチャっぽく、かといってプリウスのようなエンターテイメント性も感じられないのが残念。

シート位置は極端に低く、頭上高は拳2個以上の余裕がある。ステアリング、位置は高く、メーターもドライバーの目の前にそびえ立ち、シートのチルト機構も装備されていないから、つい背を伸ばして、顔を上げてしまうほど。もう少し座面が高くないとシートポジションが変で、「これも低燃費達成のため? 」とちょっと疑問を抱いてしまう。また、ハッチガラスが思いっきり傾斜(わずか12度しかない)しているため、後方視界は最悪。

小さなところで気になったのは「A/C(エアコン)」スイッチがないこと。「AUTO」任せにすれば、エアコンのON/OFFの切換を自動的になってくれるらしいが、曇りの除去などにはやはり別個の「A/C」スイッチが欲しくなる。

基本性能&ドライブフィール

インサイトのハイブリッドシステムは「IMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)」と呼ばれるもの。新開発の直列3気筒1リッターSOHCリーンバーンVTEC(最高出力70PS/5700rpm、最大トルク9.4Kgm/4800rpm)に薄型のDCモーター(最高出力10.0KW/3000rpm、最大トルク49.0Kgm/1000rpm、PS/Kgmに直すと出力が約13馬力、トルクが約5Kgmとなる)を組み込んでいる。加速時などトルクを必要とする場面でモーターがエンジンをアシストし、1.5リッターエンジン並の低速トルクを発揮する。プリウスはモーターのみで走行する領域があるが、インサイトのモーターはあくまでアシストのみで単独に駆動することはない。大きな電力を必要としないわけだから、バッテリー自体は小型&軽量(約20kg)が可能となり、燃費に有利な設計となる。言い換えれば、「電気ターボ」みたいなものだ。なお、減速時にはプリウス同様回生ブレーキとして作用し、電気を貯蓄する。

具体的には下のようになる

1. 加速時:エンジン+モーターで最大のパワーとトルクを発生
2. 巡航時:エンジンのみの低燃費走行
3. 減速時:減速エネルギーをモーターが回生してバッテリーに充電
4. 停止時:アイドリングストップ。ただし情況に応じてエンジンは始動したままとなる。

ギアボックスは5MTもしくはCVTが組み合わせられる。プリウスはATとかCVTというトランスミッションはなくハイブリッドに遊星ギアを一体化させているために汎用性に欠けるが、インサイトは別個になっているので多種種へ流用も簡単に行えるというのがメリットだ。また、通常のドライブモードの他にスポーツモードが付いているのが、いかにもホンダらしい。

また、低燃費(10・15モード燃費は5MTが35km/l、CVTが32.0km/l)なのにLEV対応という快挙もやり遂げた点も注目すべきところ。リーンバーン、つまり希薄燃焼で排出されるガスは酸素濃度が高いために、従来の3元触媒ではクリーン化(特に窒素酸化物)することは非常に難しいとされてきたが、インサイトは窒素酸化物吸収型触媒の採用で、優れたクリーン化を実現しているのだ。

足回りは軽量なアルミ製を採用し、前がストラット、後ろがH型トーションビームとなる。さらにペダルアームにもアルミ製を採用し、燃料タンクも軽量の樹脂とするなど軽量化を徹底している。タイヤは転がり抵抗を40%低減させた低燃費タイプでサイズは165/65R14、でクルマのサイズを考えれば立派なもの。アルミも40%軽量化されており、空力を考慮したディッシュタイプが採用される。

photo_3.jpg試乗したのはCVT車で、キーをひねるとごくフツーのクルマと同じようにエンジンがかかり、アクセルを踏めば、フツーに加速する。そしてブレーキを踏んで停車するとエンジンが止まる。アイドリングストップ時にブレーキを放すとすぐにエンジンは始動し、セルのキュルルーンという音はない。発進時にコツンという振動がわずかに気になるレベルだ。しかし、アイドルストップはロングドライブ中ほとんどしなかった。どうしてかは不明。

3気筒エンジンはそれを感じさせないほど静かで振動も少ない。ハイブリッドらしく加速中もエンジンそのものはさほど唸らないから、軽量化のため遮音性が低い割に静かな室内だ。モーターのアシストは意識すれば体感できるが、普段は全く気にならない。走りは体感的にはガソリンエンジン車と全く違わないので、ちょっと残念な気もするほど。

ハンドリングもプリウスのような頼りないものではなく、シャープで身のこなしも軽快。高速域でのレーンチェンジなどではさすがに後輪が付いてこない感じがあるが、コーナリングでのロールも少な目だし、リアトレッドが狭くなっている割には十分スポーティな走りといえる。

ちょっと深くアクセルを踏むとターボが効くようにモーターがアシストするのだが、その段つき感もなく、極めてスムーズな加速をみせる。その加速フィールはターボのようなグッと盛り上がる力強さではなく、スーパーチャージャー的なフラット感のあるもの。1.5l並のトルクを確保しているというが、軽量化の恩恵でそれ以上の力強さがある。確かにその滑らかさはエンジンというよりモーターに近いものだ。

スピードを上げるに連れて、今度は空力を実感することになる。高速巡航時のフィーリングは感動もの。どんなクルマでも150km/hも出すと、空気の壁をパワーでぶち破っていく感じがあるが、インサイトの場合、壁にぶち当たるというより吸い込まれていく感じで「ヒュイーン」と突き抜けていけるのだ。パワーは確かにないのだが、川の急流に流されているような感じで、ズムーズに加速していく独自のフィーリングは病みつきになりそう。しかも直進性がよく、安定しており、最高速度近くでもリラックスできるのは驚き。ただし、ボディが軽いので横風や、トラックによる気流の乱れは相当顕著に影響を受ける。ただ、クルマから降りたとき、タイヤを覆うスパッツが風圧によって? 外れかけていたのにはちょっとビビッた。

ここがイイ

乗るまでは実はあまりインパクトがなかったのだが、乗ってみたらものすごく気になるクルマになってしまった。特に空力の良さ、ボディの軽さがここまでクルマに味を与えるというのは新発見。力で走るのでなく、空気の筒の中を流されるという感じの高速クルージングは、燃費の良さを体感できる。正確な満タン測定はしなかったが、250km以上走った燃費は燃費計を見る限り17km/l前後。このボディを持ってすれば、別にハイブリッドでなく普通のエンジンでもかなり走るのでは、と思える。

ここがダメ

インパネの演出はプリウスの方が上手い。世界で2番目の市販ハイブリッドなんだから、もう少し未来っぽい方が楽しいだろう。せっかくエクステリアが昔よく考えられた「未来のクルマ」みたいなんだから。

それと後方視界は本当に悪いが、それは空力のためと割り切るとして、問題はバックミラーの見える範囲。ハッチの下側がかつてのCR-Xのように透明なのだが、ハッチとそこが一度に見えないのでより見にくい。上下方向のワイドミラーが欲しかった。

総合評価

photo_2.jpgハイブリッドということでプリウスがどうしても比較対象となるが、電気とモーターが融合してどっちで走っているのかわからないという点でハイブリッドらしいのはプリウス。インサイトはハイブリッドというより電動アシスト付き自転車(ホンダラクーン)ならぬ、電動アシスト付自動車という感じだ。普段は非力な人力で走る自転車をモーターがアシストするみたいに、普段は非力なエンジンで走っている自動車を必要に応じてモーターがアシストするわけで、エンジンのホンダらしいところ。

また実用的なプリウスに対し、エコレースの競技車両のようなインサイトは、相当なエンスー車両。どちらが優れているかは問題ではなく、目指す方向性が全く異なっている。プリウスは一般人に分かりやすい知的ゲームのようなエンターテイメント性を備えて「エコ」を演出しているが、インサイトは燃費にストイックになり、一般には分かりにくい空力だの、軽量化だのといった目に見えない部分を真面目に追求している。その結果、スタイリングも世の中の主流から見事に外れたものになってしまっている。コレがかっこいいという人はかなりの変人だろう(昔のシトロエンが出してもおかしくないスタイルだ)。

しかしエンスーがこだわれる要素が大量に盛り込まれていて、未来へつながるクルマの面白さという点では、インサイトはプリウスに負けていない。未来のスポーツカーはこんな感じだと思われるので、未来車エンスーという人々がこのクルマによって出現することを望む。インサイトは旧車エンスーの人にもぜひ乗ってもらいたい、未来型の趣味のクルマだ。

公式サイト http://www.honda.co.jp/INSIGHT/2006/index.html

 
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