キャラクター&開発コンセプト
初代の功罪
イプサムは3列シートの6/7人乗りミニバン。リアドアがスライド式ではなく、ヒンジ式であるのが特徴。5ナンバーの初代は96年に登場。CMキャラクター「イプー」の愛称で一躍人気車に。 2001年5月に登場した2代目はボディを3ナンバー化して、排気量も2.4リッターにアップ。すっかり立派になったが、引き続き「イプ~」と呼ばれるとまでは、さすがのトヨタも予測できなかった。ファミリーイメージが強すぎて、意外に苦戦したのは否めないところ。
オデッセイに一矢を
2003年10月2日のマイナーチェンジでは、17インチホイール&ローダウン仕様を追加するなど、スポーティなイメージを強化した。奇しくも同月、3代目オデッセイが登場。ファミリー臭を一掃する硬派路線で、1万台以上/月の好調な販売を記録している(計画は5000台/月)。ミニバン全体で圧倒的な国内シェアを持つトヨタとしては、イプサムの健闘を期待したいところ。目標台数は3,000台/月だ。 ちなみに、先代イプサムの欧州版は「ピクニック」という、これまたアットホームな名前で販売されていた。現行型は「アベンシス・ヴァーソ(Verso)」と名を変えている。いずれにしても、そのコンセプトやサイズには欧州市場の要請がある。
価格帯&グレード展開
オデッセイとほぼ同価格帯
マイナーチェンジと共に廉価版「240e」が落とされ、グレードは5つに。標準の「240i」(225万7500円)、スポーティな「240s」(245万7000円)、中核の「240u」(261万4500円)、豪華版「240u“Gセレクション”」(277万2000円)。
快適性重視の240uは足まわりにTEMS(電子制御による減衰力可変システム)を持つが、今回試乗した240sは代わりにローダウンサスペンションと17インチタイヤを備える。240u“Gセレクション”と240sに、キャプテンシートの6人乗りを用意。4WDは25万2000円高。
一方、オデッセイは231~288万7500円(4WD除く)とほぼ同価格帯。しかし「240s」のライバル?となるアブソルートは、5速ATや200psの専用エンジンを積み、273万円と高価。値引きを考えると、実際にはさらに差が付くだろう。
パッケージング&スタイル
フロント部をデザイン変更
ボディサイズは全長4690mm×全幅1760mm×全高1645mm。バンパーの変更で全長が少し伸びた。現行モデルで大型化したイプサムだが、新型オデッセイより短く(-75mm)、幅も狭い(-40mm)。もちろん、背はイプサムの方が高い(+90mm)。
フロントで他に変わったパーツは、ボンネット、グリル、ヘッドランプなど。一見して分かるのは、ヘッドライトがメルセデスのSクラス風?になったのと、バンパー先端が伸びた点。240sは専用フロントグリルやフロントバンパー、そしてローダウンと17インチタイヤによってスポーティさを強めた。 ボディカラーも3分の2が入れ替わり、ソリッドの赤やブラック、そして試乗車のような金色、ではなく「イエローマイカメタリック」など、はっきりしたカラーが増えた。
ステアシフトマチックを廃止
ステアリングホイールやメーターなどがデザイン変更されたインパネ。機能面で大きな違いは、使いにくかった「ステアシフトマチック」(ステアリングの表裏にシフトボタンを配置)を廃止して、代わりにオーディオ操作用スイッチを付けたこと。真ん中の空調パネルが半透明の樹脂パネルになったほか、ナビはGーBOOK対応に進化。
試乗車は後席用に9インチワイドディスプレイを持つ「イプサム・シアターシステム」(ブラインドコーナーモニター機能付き)を装備。後方のバックモニター画像を利用して白線や黄線を読みとり、ふらつきを検知してブザーで警告する「レーンモニタリングシステム」も付いてくる。一般の道路でも車線をまたぐような走りだとピーピー鳴って、「どうしてこんなところでESC(=VSC)が?」と最初はつい思ってしまった。もちろん、居眠り運転防止には役立つはず。そのVSCは、全車8万円のオプション。
キャプテンシートが選べる
初代に乗る人の「もう少し広かったら」という希望をばっちり叶える2代目イプサム。開放感という点でも、車高の低い新型オデッセイより有利だ。今回のマイチェンでは、7人乗り仕様の2列目中央にヘッドレストが備わった。
キャプテンシート(6人乗り)が選べるのも、オデッセイに対するアドバンテージ。セカンドシートの居住性に加えて、サードシートの見晴らしや乗り降りに優れるキャプテンシートの魅力は捨てがたい。ホンダは新型オデッセイで6人乗りを廃止したが、これは需要がもともと少なかったのと、5月に発売する大型ミニバン「エリシオン」があるからだ。
3列目は、ヘッドルームだけは大人の男性が乗るとギリギリだが、実用に耐える。畳むのは簡単で、ストラップを引くだけで座面が沈み、シートバックが倒れる。オデッセイの電動床下収納のような感動はないが、シンプルで使いやすくはある。2列目は座面を前に上げてから背もたれを倒すダブルファンクション。操作は軽いが、少し面倒。こういったところに、欧州向けをそこはかとなく感じる。
床下にゴルフバッグ
マイチェン前と同じく、荷室で驚くのは床下のアンダーボックス。普通ならスペアタイヤが収まるスペースで、容量は132リッター。ゴルフバッグやベビーカーが収まるとカタログは謳うが、確かに広い。で、そのスペアタイヤはどこかというと、助手席の床下。使用時は助手席の下のボルトを緩めて…、と面倒だが、荷室の荷物を全部出して取り出す通常の方法と、選ぶところはないだろう。
基本性能&ドライブフィール
実用域で不満なし
エンジンはおなじみ2.4リッター直列4気筒の「2AZ-FE型」(160ps、22.5kgm)。トヨタ車共通の滑らかな出足にいつもながら感心する。自然なトルク感や「V6じゃなくても、ま、いいか」と思わせる高い静粛性など、街中を走る分には文句が出ない。今やこのクラスは3ナンバーサイズが当たり前なので、取り回しや見切りも相対的に悪くないと言える。
ミニバンにもオートマの多段化(もしくは無段変速)の波が押し寄せそうだが、イプサムの4速ATに特に不満は無かった。トルキーなエンジンと優れた変速マナーで、ギアのつながりがいい。100km/h巡航は2400回転ほどで、エンジン音も気にならない。
バランスで勝負
240sは15mmダウンのサスペンションと215/50R17の偏平タイヤを持つが、知らなければそれと気付かないくらい乗り心地は良好。段差を踏んで「バンッ」とちょっと強めの突き上げがあって、初めてスポーツ仕様を思い出す。細かく言えば、ストロークが短くなかった足まわりと剛性が上がったタイヤに、少しボディは負けている感じがある。
ミニバンの枠内で走りを突き詰めたオデッセイに比べると、ポテンシャルの差はあるだろう。が、イプサムも全体にバランスがとれており、法定速度での差はけっこう微妙。ホンダに言わせれば、そこが大きな差ということになるのだろう。
トガってない
その差を明らかにするべく、山道も走ってみた。簡単に言えば、オデッセイ・アブソルートはリアタイヤを絶妙に流す走りも可能。それに比べると、この240sは前輪が外に逃げるのが早く、そこで限界が決まってしまう。しかし、そこへ行くまでは215/50R17タイヤもあってそれなりにスポーティ。トーションビームのリアサスも予想以上によく踏ん張る。全体にオデッセイのちょっとトガった感じ、シャープな感じが、良くも悪くもない。肩の力を抜いて走ることが出来るのは、イプサムの(そしてトヨタ車の)良い点と言えるのでは。
ここがイイ
明らかにオデッセイを意識した足回りだが、固さは感じられないこと。2代目が出た当初は、ミニバンがこんなに固くていいの? というほどの足で、相当違和感が残ったものだ。今思えば「アベンシス・ヴァーソ」そのもので、相当欧州車ライクだったのだ。その分、国内では苦戦したということになる。
しかし、マイチェン後のこのモデルでは、走りのSグレードでも実にしなやか。しかも楽しめるほどの懐の深さもあるから、オデッセイに負けていない。モーターデイズで使いにくさを指摘したステアシフトマチックがなくなったのもいい。4速なんだから無しで結構だ。
床下の巨大トランクスペースも、トノカバーが要らないという点で便利。盗難が多い昨今、外から見えないところに物が入れられるのは、やはりありがたいものだ。
ここがダメ
ボディカラーやエアロパーツは派手だが、カッコいいと言えるところまで行っていないこと。この点では圧倒的にオデッセイに先行されている。ローダウンしてもタイヤがツライチじゃないし、若者(や元若者)はピンとこないだろう。価格の割に、購入意欲を沸き立たせる付加価値に乏しいと思うのだ。
総合評価
トヨタらしく乗りやすくて、しかも今回は速い。ワインディングを相当なペースで駆け回れる。そしてそれなりに楽しい。こうなるとすべてにおいて特に不満感も、逆に満足感もない出来になっているのだが、それゆえ「誰が買うのか」というあたりが希薄になってしまう。顧客が上のクラス、下のクラス、別のタイプ、とどこへも行けてしまうラインナップを持つトヨタゆえ、一層苦しいスタンスになってしまう。
そこで思うのは、このクルマ、イプサムでなくアベンシス・ヴァーソとして国内でも売ったらどうだろう。アベンシスセダン、ワゴンはなかなか好調で、トヨタユーザーの中に欧州車好きがいることを証明した。そういう人のためのミニバン、つまりアベンシスの欧州風味が色濃いミニバン、とすれば、かなり買う人は増えるだろう。イプサムを買ったというとファミリー的に思われるが、アベンシス・ヴァーソを買ったというと、なんかカッコいい(と思いませんか?)。イプサムはそういった、完成度が高いゆえに、あとはイメージで売るという商品になっている。
オデッセイが「低く、速い」というコンセプトでミニバンの王道を外しかけている現在、アベンシス・ヴァーソの王道を行く姿は「主張」に値するものだろう。いずれにしても、オデッセイもイプサムも、走りに関してはもうミニバンと呼べないほどの極みへ上り詰めている。いずれ次期イプサムも登場するはずだが、そこではもう走りの戦いは終わってもいいだろう。使いやすさや広さ、そして何より対環境、燃費など、クルマとして本来求めるべき方向へミニバンは向かって欲しいと思う。走りを極めたいなら中古スポーツカーをもう一台買いましょう、と先回のイプサムのレポートと同じ感想で締めたい。
試乗車スペック
トヨタ イプサム 240s
(2.4リッター・4AT・245.7万円)
●形式:UA-ACM21W-ARSSK●全長4690mm×全幅1760mm×全高1645mm●ホイールベース:2825mm●車重(車検証記載値):1500kg(F:ー+R:ー)●エンジン型式:2AZ-FE●2362cc・直列4気筒DOHC・横置●●160ps(118kW)/5700rpm●22.5kgm(221Nm)/4000rpm●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/60L●10・15モード燃費:12.0km/L●駆動方式:前輪駆動(FF)●タイヤ:215/50R17(TOYO TRANPATH J48)●乗車定員:7名●価格:245万7000円(試乗車:320万4600円※オプション:イプサムシアターシステム 56万3850円、ツインムーンルーフ 11万250円、サイド&カーテンエアバッグ 7万3500円)●試乗距離:約100km
公式サイト http://toyota.jp/