キャラクター&開発コンセプト
会心のヒット作
2002年5月に発売されたイストはヴィッツの派生モデルだが、販売的には本家に劣らず大成功作となった。99年発売のヴィッツが徐々に実績を落とす中、2002年:4位(ヴィッツ5位)、2003年:6位(ヴィッツ11位)、2004年:8位(ヴィッツ16位)と年間ベスト10をキープ。目標の月間7000台の倍近いペースで当初は売れまくり、2代目ヴィッツが出るまで目標をクリアし続けた。好調トヨタの中でも会心と言えるヒット作だ。
またの名を「サイオンxA」
3年目の2005年5月にようやくマイナーチェンジを受けたイスト。といっても主な変更点はスポーティな外観の「A」、足回りにも手を入れた「A-S」グレードの追加ぐらい。内外装の変更も微細で、メカ部分にもほとんど変更はない。目標は月間5500台に下方修正された。
ところで、当初は国内専用と思われたイストも、今や北米ではサイオン(Scion)ブランドの「xA」と名を変え、「xB」(bBの米国版)や「tC」と一緒に販売されている。tCは米国専用の2ドアクーペで、事実上セリカの後継モデルだ。こちらは若者がターゲットという、レクサスの対極となるブランドだ。
Scionhttp://www.scion.com/index.html
価格帯&グレード展開
主力は140万~160万円あたり
今回のマイナーチェンジでグレードは2種類から4種類に増えた。ベーシックな「F」(132万3000円~)、装備充実の「S」(149万1000円~)、スポーティルックの「A」(149万1000円~)、スポーツサス仕様の「A-S」(161万7000円~)となる。相変わらず5MTもCVTもなく、4ATのみ。サイオンxAでは5MTが標準なのだが(4ATはオプション)。米国では車両価格が安くて燃費も良いという理由で、今でも小型車のマニュアル比率は高い。
パッケージング&スタイル
サイオンxA風のスタイル
「A-S」のボディサイズは全長3925×全幅1695×全高1530mm。「A-S」および「A」は大型フロントバンパーで標準車より70mm長いが、他グレードは従来と同じだ。お好みに合わせてどうぞ、ということらしい。デザインはよくまとまっているが、トレッドの狭さは相変わらず。
イストのi、ネッツのN、サイオンのS
北米の安全基準が求めるサイドマーカー(反射板)がフロントバンパー側面にあり、いかにもサイオンxA風だ。しかし写真で見比べるとバンパー形状は異なっており、どうやら国内専用パーツのようだ。ちょっと大きめで無骨。ノーマルの方がすっきりしていて好ましい。マイナーチェンジ前のフロントバッジはイストの「i」だったが、今回からネッツの「N」に変更。なお、サイオンでは「S」となる。
メーター盤面やシート地を変更
インテリアもほぼ従来通り。改良はメーター盤面やシート地の意匠だけで、上質感も従来のレベルだ。後続の日産ティーダ、マツダベリーサと比べると素っ気ないが、普通に乗る分にはまったく気にならないレベル。初代ヴィッツの安っぽさ(それが魅力でもあったが)と比べれば十分上質といえる。
容量より使い勝手の荷室
リアシートの折り畳みは背もたれをパタンと倒すだけ。荷室が2重フロアなので段差は残らない。家具などの大物を運ぶのには狭いが、日常的には使いやすいサイズだ。床下ボックスは写真のようにフロアボードで仕切ることができる。バックドアにちゃんとドアノブがあるのも便利。
基本性能&ドライブフィール
印象は3年前と同じ
試乗車はA-Sの2WDモデル。1.5リッター「1NZ」(109ps、14.4kg-m)で、1040kgのボディを引っ張る…というスペックは3年前のデビュー時と全く同じで、運転した印象も見事に同じ。トルキーだが軽快感のない加速、ノイジーなエンジン音などが劇的に改善された様子はなく、かと言って特に困るわけでもない。その日はたまたまアルファード(マイナーチェンジ版)やプジョー407にも試乗したが、意外にもイストのパワステが最も重めだった。この重めのパワステが、しっかり感というか、スポーティさを演出しているといってもいい。
最大の違いは足回り
実際、A-Sが他のイストと違うのは足回りだ。専用のスポーツチューニングサスは明らかに硬めで、舗装が良くないと小刻みな上下動が続く。3年前は「乗り心地も普通のヴィッツと遜色なし」と書いたが、このA-Sには当てはまらない。いわゆる硬めの乗り味だ。ただローダウンサスではない(車高変わらず)ので、段差で跳ねたり底付きしたり、ということはない。
操縦安定性は確かに高まっている。以前乗ったイストはシャシーと足回りのマッチングのせいか腰高感があり、コーナリングで割と簡単にリアタイヤが流れる傾向があった。このA-Sではロールを抑えたおかげか、そうした動きはかなり出にくくなっている。しかし、足回りの基本は同じなので、腰高感はやはり相変わらずと感じた。
ここがイイ
3年前とこれほど印象が変わらないクルマもなく、そこがいいところだろう。要は最初から完成度が高かったわけだ。3年前に買った人でも、マイチェンしたからといって引け目を感じる必要はない。ヴィッツはフルチェンジしたが、この出来なら当面フルチェンジしなくてもいいのでは、なんて考えてしまう。
で、それをちゃっかり北米にも投入してしまうところ。全米への投入時期は04年6月(カリフォルニアではその前年から)。bBの北米投入はまだ分からないでもないが、イストというクルマ、日本人的にはとてもアメリカ向きには思えないのだが。仕様はまったく同じでマニュアルの設定があるくらい。売れるというマーケティングの根拠は素人目にはわからない。そこがすごい!?
ここがダメ
今回も「イストRS」は登場せず。A-Sの場合、ヴィッツRSと値段もエンジンもほぼ同じなのに、装備、シャシー性能、燃費の点で、大負けしてるところ。例えばスマートキーが選べないし(一部グレードで可能)、10・15モード燃費は16.4km/Lに対して18.6km/Lと、ヴィッツRSに1割以上の大差を付けられている(主に4ATとCVTによる差だろう)。
サイオンバージョンは車高が低くてカッコいい。アルミホイールもカッコいい。ということでやっぱり足回りの見てくれがどうにも。男性にも売ろうという走りのグレードなら、ここは重要だと思うのだが。
総合評価
イストには直接関係ないが、いよいよレクサスがオープンする。トヨタは嫌だけどレクサスなら欲しい、という業界人は多いから、レクサスを日本で展開したらきっとトヨタは躍進できると書いたのは、もうずいぶん前のことだが、ついにそれが現実になる。トヨタブランドではないトヨタ車。トヨタより上のトヨタ車。レクサスは、質実剛健なトヨタが苦手としていた「ブランド商売」を可能にする。その成否は「価格の付け方」が決めると思う。同クラスのメルセデスより高いか安いか。同じ価格であればレクサスは成功するだろう。安くすれば、あるいは値引きをすればレクサスは失敗する。そう予測する。
が、もしかすると、輸入しない(輸入経費がかからない)分だけメルセデスより安いという微妙な値付けになるかもしれない。その場合は成功するのかどうか、まったく分からない。人によって値段の価値はいろいろ考えられるから。ベンツと同じプレミアム価格とも言えるし、現実には割安とも言えるし。何かはっきりしないが、はっきりしないものを成功させるのがトヨタのうまいところだ。
はっきりしないものを成功させた代表がイストだろう。3年前の試乗記では、あまりどこがいいとも思えないが、きっとヒット作になるだろうと書いた。ノア/ヴォクシーも同様の印象だ。
イストは北米ではサイオンになる。イストの新しいNマーク(ネッツ店のクルマには今後これが付くようだ)はサイオンのSマークに何だか似ている(ちなみにこのSマークは手裏剣をモチーフにしているように見える)。サイオンは黒人、ヒスパニックやアジア系などカラードの若年層をターゲットにしている。映画「ワイルドスピード」の世界で、車高も日本仕様よりわずかに低い。ちょっと悪っぽいライスロケット(スポーティーでコンパクトな日本車のあだ名)風の仕立てだ。安くてオヤジ臭いトヨタではなく、スポーティーな若者向け「サイオン」のカッコいいクルマなのだ。
そんなスポコンなイストを、今回試乗したA-Sは日本でも実現しているわけだが、乗り味に欧州風の深みはない。つまり日本のクルマ好きが喜ぶ味付けではない。ただし、足はしっかりしているし、回頭性もいいし、けっこう気持ちよく走れる。うんちくは語れないが、日本でも一応しっかり楽しく走れる足だと思う。
つまりイストA-Sはアメリカで通用するスポーティカーの味付けだ。欧州のそれ、あるいはヴィッツRSのそれではない。そこに日本のクルマ好きはきっと不満を感じると思うのだが、難しいこと言わずカッコよけりゃいいじゃん、という普通の若い人は日本でも多いはず。もはや欧州車好きの「クラシカルなクルマ好き」は30代以上の世代に偏っている。20代はクルマが嫌い、あるいはアメリカンなクルマ好きなのだ。音楽もヒップホップの類が好まれるように。ジャズを聴きながらうんちくをたれるクルマ好きには、イストは似合わないし、理解できないだろう。
こうなると、トヨタのイストは嫌だけど、サイオンのxAなら欲しいというレクサス現象がこのクラスでも起きるかも。若い人だって、トヨタより格好いいブランドの方がいいにきまっているから。ちなみに3車種あるサイオンの北米での合計販売数は今年に入って月1万2000台平均と好調だ。今年の米国販売台数見通しは当初の12万台以上から14万台に上方修正されている。ただ生産能力の問題のために、15万台には届かないという。作ればもっと売れるのだ!
こうしてサイオンが北米で成功すれば、5年後には日本のネッツ店はサイオンになっているかもしれない。
試乗車スペック
トヨタ イスト 1.5A-S
(1.5リッター・4AT・161万7000円)
●形式:CBA-NCP61-HHPVK●全長3925mm×全幅1695mm×全高1530mm●ホイールベース:2370mm●車重(車検証記載値):1040kg(F:650+R:390)●乗車定員:5名 ●エンジン型式:1NZ-FE●1496cc・直列4気筒DOHC・4バルブ・横置●109ps(80kW)/6000rpm、14.4kgm(141Nm)/4200rpm●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/45L●10・15モード燃費:16.4km/L●駆動方式:前輪駆動●タイヤ:185/65R15(Goodyear GT3) ●価格:161万7000円(試乗車 204万6450円 ※オプション:VSC&TRC+イモビライザー 7万8750円、SRSサイド&カーテンエアバッグ6万3000円、G-BOOK対応ボイスナビ&オーディオ+バックガイドモニター 28万7700円)●試乗距離:約150km
公式サイトhttp://toyota.jp/ist/index.html
