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新車試乗記 第221回 トヨタ イスト Toyota Ist

 

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日時: 2002年05月24日

 

キャラクター&開発コンセプト

ヴィッツやbB、ファンカーゴではカバーできないニッチを狙う

ヴィッツベースの新コンパクトカーとして2002年5月8日に発売されたのが、この「ist(イスト)」。“ist”は「for your 1st」すなわち「あなたの一番」。転じて「最上のコンパクト車」を意味するという。

ユニセックスながらややフェミニンなデザインのヴィッツ。対して大ぶりなフェンダーラインや黒系インテリアなど、イストのデザインはかなり男性的。ただしターゲットは20~30代の「男女」、特に「ワーキングウーマン」に設定されたという。1.3と1.5リッターのエンジンを搭載し、やや固めの足回りを採用。トランスミッションは全車AT。7000台/月を販売目標として、ヴィッツとともに打倒フィットおよびマーチ牽制を図る。フォルクスワーゲン・ポロなど小型輸入車もライバルだ。ちなみにヴィッツと違い、イストは国内専用である。

5月23日のトヨタの発表によると、5月8日の発売から2週間で、早くも26,000台を受注したとのこと。ニッチはニッチでもトヨタが狙った場所にはそうとう大きな「隙き間」があったようだ。

価格帯&グレード展開

ヴィッツの上級車種より少し高めの価格

グレードは大きく分けて2つ。ベーシックな「F」と、充実した装備&1.5リッターエンジンを持つ「S」。それぞれ4WD仕様がある(その場合は「F」でも1.5リッターエンジン)。ただし全車4速AT。マニュアルが選べないのは、マーケティング上は正しくとも、クルマ好きにとっては残念だ。価格は118~165万円。ヴィッツの1.3/1.5リッター(AT)より10万円弱高い。また、パッケージオプションとしてオートエアコンなどを含む「Lエディション」(5万円アップ)がある。

「F」と「S」の価格差は、17万円(2WD同士の場合)。中身は、200ccの排気量とリアディスクブレーキ、ディスチャージド・ヘッドランプ、革巻きステアリングなど。

パッケージング&スタイル

基本骨格・パッケージングはヴィッツそのもの

サイズは全長×全幅×全高:3855×1695×1530mm。ヴィッツの3640×1660×1500mmに比べて、245mm長く、35mm幅広で、30mm高い。2370mmのホイールベースはヴィッツと同じ。よってパッケージング面でヴィッツと変わるところはほとんどなく、サイズアップの理由は主にデザイン。つまりパッケージングをトコトンまで極めた実直なヴィッツを素材に、ちょっとデザインで遊んだのがイストということになるだろう。

デザイン別モノながら、ヴィッツのシルエットを引きずる外観

イストのデザインは2001年の東京モーターショーで発表されたものとほぼ同じ。違うのはショーモデルで17インチだったホイールが15インチになったことくらい。

まず大きく膨らんだ前後ホイールアーチが迫力。SUVっぽいワイルド感はこのおかげだ。そしてBピラーから後ろをブラックアウトしたウインドウ周り。同じような手法はちょっと古いところでアルファ145、新しいところで新型MINIで見られる。ヘッドランプとリアランプを相似形にするアイディアは最近では珍しくないが、形状自体は新しい。また185/65R15という大径タイヤも目を引く。17インチまでアップしてもまったく問題ないサイズだ。

クラスを越えた押し出しとスポーティなデザインを持ったイスト。ただ、実際に見た感じはホイールベースもトレッドも人間の座らせ方も同じとあってヴィッツっぽいのが残念。出来ればスペーサーを入れてでも(そんな邪道はトヨタにはできないとは思うが)トレッドは広げて欲しかった。フェンダーが張り出したせいもあり、ホイールがかなり内側に入り込んだ感じになってしまった。

スタイリッシュな仕上げのインテリア

インテリアも骨格はヴィッツそのものながら、スポーティで遊び心のあるものとなっている。乗り込んでまず目が行くのが、ドアの開閉に連動して照明が灯くセンターコンソールの「イルミネーテッドマルチボックス」だ。オレンジの光が透明なカバーから透けて見える。

またフォルクスワーゲンがポロなどで採用するディンプル処理の施されたダッシュボードも良い仕上がり。また、ヴィッツではただの丸形だったメーターパネルのシュラウドがダッシュ一体型の有機的なデザインに代えられ、柔らかさを出している。ヴィッツの内装は機能的ながら見た目の収まりが今ひとつで、またいかにもプラスチック然としたものだったが、イストは黒の内装にアクセントのシルバーが効いておりシックだ。ヴィッツ同様、ソフトパッドは一切使われていないが、内装に関しては質感・デザインとも同クラスの国産車で随一だろう。

しかし輸入車の中でも飛び抜けてデザイン・クオリティの高い新型ミニとあえて比べてると、その差は大きい。黒とシルバーのカラーコーディネイトは新型ミニが先だが(デザイナーは意識したはずだ)、あちらの方が造形に立体感があり、ディテールや素材感にもこだわりがある。トヨタならば少なくとも技術的な問題は(コストコントロールも含めて)クリアできるハズであり、もう少し上でも目指せたはずだ。

シートは大ぶりのサイドサポートを持ったスポーティなもの。ワインディングレベルの走りなら問題なく体を支える。運転席に座った感じはほぼヴィッツと同じ。ヒップポイントはヴィッツよりさらに30mm上げられ、610mmとなっている。

「共存性」概念を採用した高い衝突安全性

高いパッシブ・セーフティもセールスポイントの一つ。メルセデス・ベンツがAクラス導入あたりから提唱していた「コンパティビリティ」(異なる重量の乗用車同士の衝突時の共存性)の概念を採用、セルシオとのオフセット・クラッシュや、サイドクラッシュなど、全方位における試験で社内目標値をクリアしたという。

基本性能&ドライブフィール

重めのフットワーク。重量が災いしたか

試乗したのは1.5S。1.5リッターエンジンに“Lエディション”なるセットオプションを装着したモデル。早い話が、イストの2駆で「一番高いヤツ」。試乗車はこれに、21.3万円のDVDナビ、4.7万円のバックガイドモニター、6.0万円のアルミ、3.5万円のサイドエアバッグが付いていた。車両本体の147万円と合わせて、合計182.5万円の豪華版である。

走り出した時の第一印象は「意外に出足が良くない」というもの。ヴィッツの主力である1.0リッターに比べて、排気量1.5倍の走りはさぞや力強いだろうと期待していたから、これは少々肩すかし。エンジン自体はトヨタ車でおなじみの1.5VVT-i(1NZ-FE。109ps/6000rpm、14.4kgm/4200rpm)。車重はオプション追加もあって1040kg。何とこれは1.0リッターのヴィッツより200kg近く重く、1.5リッターの「RS」と比べても50kg以上重い! パワー・ウエイト・レシオは9.5kg/psと悪くないが、おそらくこの車重が災いしたに違いない。

そのようなわけで、基本的にはフラットトルク型のエンジンだが、素速い加速を要求すると3,000rpm以上は回さなくてはならない。ただし回してもパワーは盛り上がらず、音も騒々しい。ちなみにドライブモードで全開加速すれば、ほぼ6,000rpmでシフトアップ。1速ないし2速を選んで6,500rpmのレッドゾーンまで回せば、リミッターが作動する。

一方、気分を切り替えて交通の流れに乗って走る場合は、一転して好印象。こういった状況では回してもせいぜい3500rpm程度で、静粛性も高い。乗り心地も普通のヴィッツと遜色なし。おそらく、イストに乗ると次第に飛ばすことはなくなるであろう。そういう意味では、ルックスとのギャップが感じられる。

ワーキングウーマンは峠には行かない?

以上のような特性もあって、ワインディングでも特に光るものはない。問題は185/65R15という、ヴィッツに比べてふた回り大径のタイヤを履き、前後をスタビライザーで固めた足回りだ。当然、ロール/ピッチはヴィッツより少なく、アンダーステアも軽い。重めのステアリングもあって安心感もある。しかしタイヤ(試乗車はミシュランのMXEグリーン)のせいかグリップレベルは高くない。特にリアタイヤは思わず「テールハッピー」という言葉を使いたくなるほど。決して唐突ではないが、ここまであっけなくリアが流れるのも珍しい。荒れた路面や段差のあるコーナーは要注意だ。ステアリングを切りながらブレーキ、という状況も同様。やはりヴィッツと同型式のサスペンション&重いボディ&大径タイヤ(重心が上がる)の組み合わせでどこかに無理が生じたのだろうか。いずれにしても、非常にキビキビしたハンドリングを持つ新型MINIでさえ、リアの接地性はもっと高かったように思う。

ワインディングでの点数は辛目になったが、高速巡航は得意だ。4速での100km/h巡航は2500rpm。風切り音、ロードノイズ、エンジン音のいずれも大きくなく、静粛性は満足できる。直進安定性も高く、ここでも重めのステアリングが功を奏して安心して飛ばせる。こうした状況では重量の重さがプラスに働くのだろう。160km/hオーバーでの巡航すら可能なのは、このクラスとしては他に類を見ない。

ここがイイ

最近、フィットにも乗る機会があったのでそれと比較してみよう。まず重厚感ある音にチューニングされたドア開閉音、室内の高い質感などは明らかにフィットより上、というか、もはやこのクラスではダントツ。ホールド性の高いシートのしっかり感もたいしたものだ。最上級仕様ということもあって、チープさは微塵もない。高速巡航もフィットより重厚感がある。ボディデザインも個性的だし、総じて一クラス上の感覚だ。さらに衝突安全性では2クラス以上、上ということになり、クラスレスなクルマである事は間違いない。

ここがダメ

走りの面では完全にフィットの後塵を拝する。軽快感のあまりない(逆に重厚感のある)走行フィーリング、よく回るとは言いがたいエンジンなど、走りを基準とするならフィットだろう。積載性の面でも完全にフィットが上。というよりイストは積載性よりスタイリング重視なので、比較すること自体間違っているが。リアシートの足元が補強財のため盛り上がっているのも気になったところで、安全性のしわ寄せがこういうところに現れてしまったのは残念。乗り心地はどっこいどっこい。というのもフィットは初期物の異様な硬さが見事に解消されていたからだ。国産車もマイチェンをうたわず、どんどん変更が加えられていることがよくわかった。

総合評価

モーターショーで「カッコいい」と一目ぼれしたイストだっただけに、期待いっぱいで乗ったのだが、まずルックスがショーモデルと比べていまいち。これはまさにタイヤの問題。トレッドが狭いため「ツライチ」になっておらず、サイズも小さいためホイールハウスの隙間が大きい。ここさえ埋めれば、抜群のかっこよさだ。本社のデザインとのことだが、トヨタのデザイン力はすごいことになってきていると思う。

走ってみたら重量増加が影響してか、1リッターヴィッツ並とは言わないまでも、1.5リッターとしては不足を感じてしまうことは確か。高速は快適なので実用上の不満はないものの、ルックスからイメージする「ファン・トゥ・ドライブ」な感じがないのは残念。5速MTのイストRSが欲しい。

ともあれ今回辛口になっているのは、ヴィッツベースで派生車種を作ることに不満を言いたいのではなく、ヴィッツベースでこんなクルマを作ったらいいのに、という夢を実現してくれたイストなのに、その夢と実物の間のギャップが結構大きかったためだ。このルックスなら、17インチを履いて、ヴィッツRSのように軽快で、高いスポーツ性を持っている、ということを当然、期待してしまう。もちろん現在の高級感や安全性を維持した上でと、要求はどんどんエスカレートしてしまうのだが。

そんな要求をも実現してしまう凄さがトヨタにはあるはずなのだが、イストの場合はちょっとお手軽に作られた感が気になる。そうは言っても普通に乗る分には高級感たっぷりの小型車ということで、初期の売れ行きが示しているとおりのヒット作となるだろう。ちょっとひねくれたクルマ好きの言うことは、往々にしてマーケットとは一致しないものなのだ。

 

公式サイトhttp://toyota.jp

 
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