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日産 マーチ 12G新車試乗記(第606回)

Nissan March 12G

(1.2リッター直3・CVT・146万8950円)

3気筒エンジンを携えて、
日本を旅立った4代目は
世界のためのマーチになった!

2010年08月20日

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キャラクター&開発コンセプト

新型3気筒エンジン、新世代CVT、アイドリングストップを備えた「エコマーチ」


新型日産 マーチ(K13型)

2010年7月13日、4代目となる新型マーチ(K13型)が発売された。日産の普通車としては最小モデルとなるマーチは、過去3世代・28年間にわたって世界で565万台を販売してきたグローバルカーだ。

8年ぶりとなる新型は、従来モデルをはるかに上回る超グローバルカーを目指し、ハードウエアの全てを一新。車体関係では新開発の「Vプラットフォーム」を採用したのが大きなニュースだが、パワートレインも完全にリニューアル。日本仕様のエンジンは全て日産初の3気筒となる1.2リッターエンジン「HR12DE」となり、変速機にはジュークで先行した副変速機付の新世代エクストロニックCVT(無段変速機)を採用。またFFの主力グレードには、アイドリングストップ機構も搭載。結果、10・15モード燃費は1.2リッタークラスで最高となる26.0km/Lを達成している。

なお、日産と言えばEVの「リーフ」も話題だが、新型マーチは燃費性能を磨いたエンジン進化型エコカーである「ピュア・ドライブ(Pure Drive)」の第1弾に位置づけられている。広告キャッチコピーは、そのままストレートに「エコマーチ」だ。

タイ、インド、メキシコ、中国で生産。日本仕様はタイ製


3代目マーチ
(K12型、2002-2010年)
(photo:日産自動車)

先代マーチは日本と英国で生産していたが、新型はタイ、インド、メキシコ、中国で生産を行う。まず2010年3月に日産の子会社であるタイ日産自動車会社(NMT : Nissan Motor Thailand)で生産が始まっており、日本で販売されるマーチもタイからの“輸入車”となる。

タイ日産では2010年度に年間9万台のマーチを生産予定で、タイ国内(販売目標は年間2万台)や日本向けだけでなく、アジア(中国やインドネシアを除く)、オセアニア地域へも輸出する予定。現地での部品供給率は約90%だという。

 

2代目マーチ
(K11型、1991-2002年)。
欧州カー・オブ・ザ・イヤーを日本車として初めて受賞。日産UKでも生産開始
(photo:日産自動車)

もちろん生産品質のコントロールは重要なポイントであり、タイ工場には最終検査を行う、その名も「念入り」ラインを設置。さらに日本では上陸先の追浜(おっぱま)工場(神奈川県横須賀市、先代マーチを生産)に納車前検査工程を配し、いわゆるPDIを実施している。

また7月にはインド(チェンナイ工場)でも生産を開始し、そこから欧州、中東、アフリカ地域など100ヶ国以上に輸出する予定だ。さらにメキシコと中国での生産も予定されており、最終的には生産拠点4ヶ所、販売地域は世界160ヶ国で行われるという超ビッグプロジェクトになる。なお、欧州仕様などは今まで通り「マイクラ(Micra)」を名乗る。

 

初代マーチ
(K10型、1982年-1991年)。
デザインはジウジアーロで、ターボ車も人気に。通称「マッチ(近藤真彦)のマーチ」
(photo:日産自動車)

日本国内の販売目標は、モデルライフ平均で月間4000台(年間4万8000台)。日産によると発売後2週間(7月25日)までの受注は累計1万2147台で、さらに販売現場の話によると8月中旬時点では、グレードによって4ヵ月ほどのバックオーダーになっているという。

■新車試乗記>日産 マーチ 12c (2002年3月)

価格帯&グレード展開

99万9600円~。看板グレードは「12X」(122万9550円)~


ボディカラーは計9色で、試乗車は「ナイトベールパープル」
車両協力:日産プリンス名古屋販売株式会社

パワーユニットは、新開発の1.2リッター直3(79ps、10.8kgm)と新世代の副変速機付CVTの1種類のみ。駆動方式はFFと電動4WD(後輪をモーターのみで駆動するタイプ、17万5350円高)から選べる。

グレードは最も安い「12S」(99万9600円、FFのみ)、それにアイドリングストップ機構、インテリジェントキー、メッキ加飾などを追加した中間グレードの「12X」(FFで122万9550円)、さらにオートエアコン、オートライト、タコメーター、運転席アームレスト等を備えた上級グレード「12G」(FFで146万8950円、今回の試乗車)。そして株式会社オーテックジャパンが「12X」をベースに架装したカスタムモデル「ボレロ」(FFで146万5800円)がある。オーディオは全車、販売店オプションだ。

看板グレードはアイドリングストップ機能付の「12X」もしくは「12G」となる。発売から2週間までの初期受注では「12X」が69%、「12G」が25%で、この2つで9割以上を占める。


【FF】 10・15モード燃費:24.0km/L(12S)/26.0km/L(12S以外)
■12S     99万9600円

■12X     122万9550円

■12G     146万8950円   ★今回の試乗車

■ボレロ    146万5800円

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新型マーチ「ボレロ」
(photo:日産自動車)

【電動4WD(モーターアシスト方式)】 10・15モード燃費:20.0km/L
■12X Four  140万4900円

■12G Four  164万4300円

■ボレロ 4WD  164万1150円

パッケージング&スタイル

従来サイズをほぼキープ

ボディサイズ(先代比)は全長3780mm(+85)×全幅1665mm(+5)×全高1515mm(+10)。ホイールベースは2450mm(+20)。一見、大きくなったように見えるが、実際にはほとんどサイズアップしていない。ただしシャシーの土台はこれまでのBプラットフォームではなく、新開発の「Vプラットフォーム」。Bプラットフォームの直接の後継ではなく、グローバル生産などを見据えた軽量・シンプルな設計が売りのようだ。

グローバルカーらしく?個性は控えめ

可愛らしくもあるが、少々エキセントリックでもあった先代に対して、新型のデザインは最近の日産車にしては珍しく個性を抑えたもの。グリルやヘッドライトのあたりには、少々既視感もある。

横から見たルーフラインは、後方に向かってややキックアップしたスポーティなものだが、サイドウインドウの形状が先代譲りの半円であるため、結果としてあまり目立っていないのが惜しいところ。ただし全長が短い割に、Cd値(空気抵抗係数)を先代の0.33から0.32に向上できたのは、このスポイラー形状が効いているはずだ。ちなみにルーフパネルを真上から見ると、室内のこもり音を抑制するためにパネルの剛性をアップするブーメラン型のビードが入っている。

 

下縁が垂れ下がったラウンド形状のリアウインドウも先代に似ているが、ショルダーラインから続くリアコンビライトが出っ張っているため、丸みを強調していた先代とは、後ろ姿がまったく違う。何となく、欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した先々代(K11型)風でもある。

インテリア&ラゲッジスペース

先代より視界が良くなった


試乗した「12G」には回転計が備わる。ナビはオプションの純正HDDタイプ

一部にキューブ等で見覚えのあるパーツを使い、最小コンパクトカーとして納得できる質感になっているインテリア。これといった特徴はないが、デザインも手堅くまとまっている。タイ製ではあるが、同価格帯の“日本製"コンパクトカーと比較して、これといった差は感じられない。

あいにくモーターデイズ試乗記のメイン担当者が先代マーチに試乗したのは、発売時の8年前まで溯ってしまうが、たまたま最近、先代マーチに乗る機会のあったデイズスタッフによると、新型は明らかに運転時の視界が良くなっている、とのこと。実は日産の資料にも「先代に比べてフロントウインドウの上下・左右の見開き角を拡大し、良好な視界を確保」とある。

「12G」には「タイヤアングルインジケーター」を装備

面白いのは最上級グレードの「12G」に装備される「タイヤアングルインジケーター」。シフトレバーをリバースに入れると、速度計内のインフォメーションディスプレイに前輪を向きを表示するものだ。切り返し中にタイヤの向きが分からなくなってしまう初心者向けのものだが、便利だと思う人は意外に多いのでは。

 

「12G」の運転席にはアームレストが付く

一つ気になったのはステアリングをチルトする時に操作するロックレバーの解除がしにくいこと。レバーを押し下げる時の力の入れ方にコツが要るのだが、最初はどうしても下がらず、思わず取扱説明書で操作方法を確認してしまったほどだ。この点は、また後で触れる。

後席:乗車姿勢は良く、足もとも広い

後席のクッションはやや平板で硬めだが、乗車姿勢はしっかり取れるし、足もとの広さも十分。ただし、頭の斜め上あたりにはサイドウインドウ上部からの圧迫感が若干あり、また室内幅にも余裕がないので、大人の3人掛けは厳しい。3点式シートベルトはいちおう3人分が装備されているが、乗り心地を含めた居住性をトータルで見ると、やや割り切りが感じられる。

 

後席のヘッドレストは収納式で、乗車する際には上に引き出さないと背中に当たってしまう。それ自体は構わないが、気になったのはそれを「普通に」引き出そうとすると、二昔前のドイツ車並みに重くて、固いこと。実はヘッドレストの後ろ側に指をかけて引き上げるとスッと上がるのだが、女性の場合「私の力じゃ無理」と思って、すぐに諦めてしまうのでは。こういう“仕様"なのか、こうなってしまったのかは不明だが、不親切ではないかと思う。

荷室はごくごくオーソドクス

トランク容量は先代マーチと同等の251リッターだが、形状を工夫して大きな物が入るようになったようだ。作り自体はまったくもってオーソドックスで、機能と言えば背もたれを60:40でパタンと倒して拡大できることくらい。拡大時に床はフラットにならず、背もたれと荷室床の間には左右に太いバーが横切る。このあたりはちょっとルノー車風だ。

 

床下にも収納スペースは特になく、スペアタイヤと車載工具が収納されているのみ。もちろん、“上げ底" になっていないという意味でも、これで別に問題はない。

基本性能&ドライブフィール

3気筒でもブルブルしない


HR12DEエンジン
(photo:日産自動車)

新型マーチに試乗する上で、最も気になっていたのは日産初となる3気筒エンジンの感触。3気筒と言えば、どうしても独特の振動やノイズが出てしまうのが通例で、これをどこまで抑えているかがポイントになる。

さっそく始動ボタンを押してエンジンを掛けると・・・・・・、おおっ、振動がない。いやまったく無いわけではないが、言われなければ3気筒だと分からないくらいにはなっている。アイドリング中でもステアリング等の操作系に震えはなく、エンジン音にしても「ま、確かに4気筒というよりは、3気筒のそれだなあ」と思う程度。実際、エンジンルームを覗き込むと、エンジン自体は小刻みに揺れているが、その揺れは3気筒としては小さめで、もちろん大容量マウントがその振動をほぼ遮断している。

ちなみにこのエンジン、形式名「HR12DE」が物語るように、実は現行HR16DEエンジンから1気筒を省いて、一種のバランサーの役目を果たす「アンバランスマス」をクランクプーリーやドライブプレートに追加したものだ。4気筒に比べると熱損失が減るほか、単純に言って主な可動部品も4分の3に減り、フリクションロスは従来の同排気量4気筒より約20%減ったという。

エコ運転する限り、エンジンに不満はなし

振動面で不安がなくなったところで、さっそくスタート。排気量1198cc、ボア×ストロークが78.0×83.6mmとややロングストローク型の3発は、79ps/6000rpm、10.8kgm/4400rpmと排気量相応のパワーを発揮。車重はかなり軽く、今どき珍しく1トンを切る960kgだ。

そこに3気筒ならではの、というか、1シリンダーあたり約400ccのトルク感が加わるため、意外にも力強さはけっこうある。排気量1リッターで同じ3気筒の2代目スマートほど元気一杯ではないが(スマートは5速セミATで、ギア比も全体に低い)、少なくともパッソやiQの1リッター3気筒より明らかに力強い。もちろんマーチの方が排気量が大きいからそれも当然なのだが、要因としてはおそらくCVTのギアリングや変速プログラムも関係しているはず。街中では終始1200回転あたりを維持し、2000~3000回転も回せばすべて用が足せそうな気がしてくる。

もちろん、巡航時には徹底的に低回転を維持。このあたりは超ワイドレシオを誇るジヤトコ製・副変速機付CVTの得意とするところで、100km/h巡航は2000回転で平気にこなす。法定速度でエコ運転する限り、エンジンに関しては不満なし、という印象だ。

頻繁に作動するアイドリングストップ。慣れれば違和感なし


もちろんアイドリングストップシステムをオフにすることも可能

ある意味、エンジンやCVT以上の「飛び道具」と言えるのが、主力グレードに搭載されたアイドリングストップシステムだ。これによって、10・15モード燃費は2.0km/L向上しているという。

ハイブリッド車以外でアイドリングストップと言えば、今やマツダの「i-stop」を連想してしまうが(実際には現行ヴィッツなどにもある)、極めて凝った仕組みのマツダ版に対して、マーチのそれは割と単純な仕組みだ。

基本的には停車後、しばらくするとエンジンを停止。ブレーキペダルの踏力を緩めると始動、というものだが、これがけっこうポンポンと頻繁にアイドルストップしてくれる。それは炎天下でエアコンをガンガン効かせている状態でも躊躇ないほどで、そもそも作動ロジックにエアコンへの配慮などはない。エアコン(冷房)はプリウスのような電動ではなく、今まで通りのメカ式だが、送風は止まらないので、それまでの余熱ならぬ余冷え?で冷気をしばらく送り続ける。おかげで信号待ち程度なら、この炎天下(試乗当時の気温は37度)でも十分に涼しい。「これなら電動インバーター、要らないじゃん」と思えるくらいだ。

日産方式のポイントは、これに加えて電動パワステにちょっと力を与えるだけでも始動する、というロジックを加えたところ。何でも日産の研究によると、ドライバーは発進する前にステアリングに力を加えるものらしい。実際、これを意図的に使って簡単に再始動できるのは、なかなか便利だ。なお、エンジンが止まっているかどうか確認するためには、「12G」に装備される回転計が便利。

AT車(CVTを含む)でやっかいないのは、エンジンを止めると自動変速機を動かすための油圧ポンプも止まってしまうこと。そのためマーチのアイドリングストップ車には電動油圧ポンプが装備され、それでエンジン停止中のCVT(発進用のトルコンも備える)を制御する。またエンジン停止中はクリープも効かないため、そのままでは坂道でエンジンが掛かるまでの瞬間に、少しだけ車両が下がってしまう。事実、新型マーチでも坂道では一瞬下がってしまうのだが、いちおうマーチにはCVTの副変速機に内部ロック機能も持たせ、坂道(勾配6%程度以下)でもクルマが下がらないようにしてあるらしい。要するに下がるとしても一瞬だけ、ということのようだ。なお、一度エンジンが再始動すると、しばらく再停止はしないので駐車時や渋滞時などに頻繁に止まることはない。

それ以外にも、エンジン停止時のクランクシャフト位置を計測して、エンジン再始動時間の短縮に努める、みたいなこともしているが、逆に言えばやってあることはその程度。スターターも強化型ながら、通常のタイプなので、エンジン始動時にはしっかり「ククククク」とスターターが回ってから「ブオン」と掛かる。しかしこれも1日か2日乗っていると、だんだん気にならなくなり、極端に言えば意識にすら上らなくなってくる。

タイヤを換えれば、印象も変わりそう

乗り心地に関しては、良路であれば特に不満はない。ただ舗装が荒れたところでは、ロードノイズのザラザラとした音がけっこう大きく、車内騒音のほとんどはこれが占める。軽量化のため制震材や遮音材を省いていることもあるだろうが、単純なところでは165/70R14サイズの省燃費タイヤ(試乗車の場合はファルケン・シンセラ)が発生源かな、と思われた。シンセラは国産コンパクトカーの工場装着タイヤとして割とポピュラーだが、試乗車の場合はタイ製だった。銘柄は他にもいろいろあるようだ。

また細かな凹凸や起伏があるような道だと、路面に応じた上下動も大きくなる。車重の軽さにも起因するだろうが、しっとり感やフラット感は薄めだ。

このクラスの場合、ワインディングでは強弱こそあれ徹底的にアンダーステアなものだが、新型マーチは早い段階で強いアンダーステアに入る。絶対的にはアンダーパワーなのでそれ以上はどうにもならないのが普通だが、マーチの場合はさらに頑張るとリアも一緒に流れ出し、ライントレース性も覚束なくなる。標準タイヤのグリップ不足は明らかで、それはコーナーの立ち上がりでアクセルを踏み込むと、この非力にして内輪が空転することでもうかがえる。もうちょっとタイヤがグリップすれば、ずいぶん違ってくると思うのだが・・・・・・。VDCはジューク同様、オプションでも用意されない。

試乗燃費は12~17km/L

最後に燃費だが、新型マーチはブランニューの3気筒エンジン、副変速機付CVT、アイドリングストップ、そしてオルタネーターを使った減速エネルギー回生システムなどを採用した結果、10・15モード燃費は26.0km/L、JC08モード燃費は22.6km/Lとなっている。これは文句なしにクラストップだ。

そして今回の試乗燃費は、例によっていつもの一般道と高速の混じった区間(約90km)が12.0km/L。空いた一般道で無駄なアクセル操作を控えて区間(約30km)が約17km/L。さらに短時間だが、参考までに高速道路を100km/h巡航で計測した区間(約15km)が20~21km/Lだった。

なお、「12G」だと1ドライブごとのアイドリングストップ時間とそれによって省かれた燃料消費量をチェックできるが、それを見る限りは渋滞がかなり激しくないと恩恵は少ないような印象を受けた。もちろん停止中に静かなのはハイブリッド車みたいで嬉しいところ。

ここがイイ

エンジン、エントリーグレードの価格

出色の3気筒エンジン。単純なアイドリングストップによる大きな効果。とりあえずスポーティな「走り」などを求めなければ、最新のクルマとして何の不満もない。燃費も、もう十分でしょう。気になる海外生産による弊害も特には感じられなかった。もはやどこで作っても「管理さえちゃんと出来れば」大丈夫ということだろう。

エントリーグレードの「12S」がカタログモデルとして100万円を切っていること。「12X」と比べて装備で無いものは、アイドリングストップ、インテリジェントキー、UVカットガラス、ドアロック連動ドアミラー、内外装のメッキパーツ、イモビ、運転席バニティーミラー、アシストグリップ程度。チルトステアリングやシートリフターはちゃんとあるから、ポジション決めにも不足はないし、外観も大きく見劣りしない。内装が黒しかないのは残念だが、「12X」より2割近く(約23万円)安い。エントリークラスの値段を安くすることは、日本のメーカーにとって最重要課題。今の時点でこの価格なら、今後、特装車などを設定した時にはもっと安く(お買い得に)できそうな気もする。

ここがダメ

標準タイヤ、ステアリングのチルトのしにくさ

とりあえずタイヤだけはもう少しハイグレードだと、操安性や静粛性はぐっと良くなるのでは。これによって10・15モード燃費が2km/L下がったとしても、購入者の印象は良いはずと思ってしまうのは、我々がいわゆるクルマ好きゆえか?

ステアリングをチルトする場合、コラム真下にあるロックレバーの解除がしにくいこと。力を入れる方向が良くないと、樹脂製レバーが折れるかも?と思うくらい力を入れても解除できないし、操作力そのものも大きい。また、ロック解除時にコラムを支えるダンパーやバネがないので、解除するとステアリングが一番下まで落ちてしまう。女性ユーザーをターゲットとするなら、もう少し簡単に操作できるものがいい。また本文でも触れた通り、後席ヘッドレストの引き上げにコツを要する点も気になった。

世界中を相手にする商品ゆえ、デザイナーの苦労は相当だったと思うが、少なくとも日本のカスタマーが喜ぶ、最近の日産車らしいカッコ良さはスタイリングに感じられない。キューブ、ジューク、それにティーダやノートもある日産には、これくらいある意味、没個性派のモデルもあった方がバランスがとれるのかもしれないが・・・・・・。ただ、年配の人には先代の「カッコいい」マーチよりも、新型の方が好まれそうだと、フォローしておきたい。

総合評価

大ヒット狙いというより、ロングセラー狙い

さすがに「クルマ」としてはよくできているので、やはり気になるのはそのスタイリング、というかカッコ良さだろう。新型マーチは全世界で売られるということで、特に新興国といわれる国々への販売比率がたいへん大きい。となると、このカタチはそれらの地域でのベスト、いやマストということになるのかもしれない。あまりに斬新なスタイルは(先代などは、かなり斬新なスタイルだったと思う)、やはり広くは受け入れられない、ということなのだろう。それより、こういったスタンダードなカタチこそが売りやすい、ということになる。となると、一応は先進国である日本で、ライバルひしめく日本ではどうなのだろう。まあ、オーソドクスなクルマを求める人は確かにいるわけで、大ヒットはしなくてもこれが案外売れるのかもしれない。

先代マーチの販売実績を振り返ってみると、2002年に登場してからの3年間は、車種別販売ランキングで3位、6位、5位とたいへん売れている。この時はまさに日産のエントリーカー=マーチだったわけだ。ところが2005年にはいきなり19位に沈んでいる。その原因はノートの登場だ。ノートはこの年5位になり、その後は今年上半期まで、だいたい10位前後で安定している。それに対して先代マーチはノートの出現以来、20位台前半が定位置。日産のエントリーカーは今やノートなのだ。さらに日産のコンパクトカーとしては、マーチより常に売れているキューブの存在もある。つまり日本市場においては、この2台があるため、日本でマーチの役割は大ヒット狙いというより、今のランキングを少しでも上げて、ロングセラーで売れるクルマを目指すことだと言えそうだ。

高い品を買うのが馬鹿らしくなる

また、マーチは世界市場向けのクルマの一部を日本でも売るという、最近よくあるパターンでもある。マーチに乗ってみると、その見事に左右対称のインパネは、左右どちら側にも簡単にハンドルをもってこれそうだし(実際にはそう単純でもないだろうが)、樹脂の質感、シート生地の肌触りなどには、日本車として考えると一昔前のクルマ感がある。しかしそれは世界市場的には文句のないものだ。エントリーグレードの「12S」なら日本でも100万円を切るのだから、価格相応、これでいいのではないか、と思う。というか、最近の過剰品質とも言えるクルマと比べれば、かえって潔い。このクラスのクルマに高級感を求める人はいないと思うし、10年、20年乗り続けようという人も少ないだろう。タイで作られた安くて便利な道具としては、まったく及第点だ。

誤解を恐れずにいえば、今やかなり品質の高いものも並ぶ100円ショップの品々に近い。海外で相当安く作られている100円ショップの商品も、普通に使うだけなら何ら不足はない。というか、もうこれで十分でしょう、という感じ。高い品を買うのが馬鹿らしくなる。最近はちょっとファッション性やら、ブランド力やらが過剰についてきてしまった感のあるユニクロも、15年以上前はそんな感じだった。そんな頃から愛用しているが、2シーズン着て捨てればいい服だった。品質が高くて10年着られる高価な服も、流行が変わって、しょせんそんなに着られるものではないのなら、かえって無駄。どうせ消費するのだから、チープで、そこそこの品質のもので十分。その方が資源や環境のためになるとさえ思える。

マーチはユニクロのプレーンなドレスシャツみたいなものだと思う。こだわればシャツだって一枚1万円はするが、1980円のものと比べて、一見では5倍の差はないし、もちろん着ても5倍もの差があるとは思えない。ブランドとか、自己満足(心の豊かさ?)によって1万円のシャツを買う人はいるだろうが、毎日着るには1980円で十分。で、くたびれてきたら迷わず捨てる。もちろん海外で作られているから安いわけで、円高日本ではより安くなる。マーチはこの図式がまさにそのまま当てはまる商品なのではないか。

今後の課題は「安くてもいかに安全か」

日本車もいよいよグローバル化してきたなあ、と感慨深い。これからはだんだんと日本で作られた過剰品質車と海外で安く作られた普通品質車という二極化になるだろう。ちなみにノートパソコンはパナソニックを愛用しているのだが、「メイド・イン・神戸」のパナソニックPCと海外で作られている某社PCは、同等程度の性能でも、数倍の価格差がある。それでもムダに高いパナソニックを買うのは、高品質感と妙なこだわりを支持するからだ。今後は日本車も、こだわりの日本製と価格勝負の海外製、そういうことになっていくのではないか。もちろん、そうなると国内生産の空洞化、そして日本社会の国際地位没落という副産物を伴うとは思うが。

クルマを云々いう人は、もはや少数派だ。クルマは丈夫で動けばいい、という人が日本でも今や多数を占めている。そこで今後求められていくのは「安さ」ともうひとつ、「安全性」ではないか。日常のクルマに、走りとか高品質感など誰も求めてはいないが、安全性(歩行者保護なども含む)だけは今後、より強く求められるようになると思う。海外生産で実現しているマーチの安さや出来の良さは高く評価したいが、これからのクルマ作りは、価格をいかに下げるかと並行して、「安くてもいかに安全か」ということを盛り込むことだと思う。新興国に売るクルマでは、なかなか安全性にコストをかけられないかもしれない。しかし設計時には織り込んでおき、日本仕様だけにでも十分な安全装備を用意すべきだろう。ノーマル状態でも燃費はいいのだから、アイドリングストップでさらに僅かな燃費を稼ぐより、そのコストをVDCなどに転化したらどうかと思う。燃費ヒステリー(環境ヒステリー)ともいえる今の状況が苛烈な燃費競争を強いているのだけど、こういうスタンダードなクルマこそ、今後は安全性を強調する方向に向いてもらいたいと思う。

試乗車スペック
日産 マーチ 12G
(1.2リッター直3・CVT・146万8950円)

●初年度登録:2010年7月●形式:DBA-K13 ●全長3780mm×全幅1665mm×全高1515mm ●ホイールベース:2450mm ●最小回転半径:4.5m ●車重(車検証記載値):960kg( 610+350 ) ●乗車定員:5名 ●エンジン型式:HR12DE ● 1198cc・直列3気筒DOHC・4バルブ・横置 ●ボア×ストローク:78.0×83.6mm ●圧縮比:10.2 ● 79ps(58kW)/6000rpm、10.8kgm (106Nm)/4400rpm ●カム駆動:チェーン ●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/41L ● 10・15モード燃費:26.0km/L ●JC08モード燃費:22.6km/L ●駆動方式:前輪駆動(FF) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット/後 トーションビーム ●タイヤ:165/70R14( Falken Sincera ) ●試乗車価格:-万円 ( 含むオプション:日産オリジナル HDDナビ HS310-W +4スピーカー 21万8300円 )●試乗距離:190km ●試乗日:2010年8月 ●車両協力:日産プリンス名古屋販売株式会社

 
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