キャラクター&開発コンセプト
フィットベースの3列シート・7人乗りミニバン
フィットに初採用された「グローバル・スモールプラットフォーム」と新世代「i シリーズ」エンジンを核にしたSMALL MAXシリーズの第2弾がモビリオ。フィットは燃料タンクを前席下に押し込み、低床&フラットフロア化を極限まで追求したセンタータンクレイアウトが特徴だが、モビリオはその空間をさらに目一杯拡大。サードシートと両側リアスライドドアを与えることで、3列シート1BOX型ミニバンの便利さをわずか4mほどのコンパクトボディで実現している。
開発テーマは3つ。スマートパッケージ、アーバンスタイル、ユースフル・ファンクション。それらの頭文字を並べると「s.u.u」。昨年の東京モーターショーで出展されていた「s.u.u」の市販モデルというワケだ。エンジンは新開発1.5リッターで、ミッションはホンダ独自の無段変速機ホンダマルチマチックSとなる。
価格帯&グレード展開
グレードは3つ。価格の低い順に「Y(138.9万円)」「A(148.9万円)」「W(159.9万円)」とほぼ10万円ずつのステップ比。全てのグレードに4WD(18万円高)を設定する。
最も装備の充実した「W」でのウリは、リアの両側スライドドアに付くイージードアクローザー機構とオートエアコンだ。インテリアの意匠も凝っており、「主力グレードにプラス11万円でこれなら」と食指が動く。
その主力グレード「A」の外観はほとんど最上級グレードと変わらず、内装の質感も高い。オートエアコンは装着不可だが、イージードアクローザーは運転席アームレストやマイクロアンテナと一緒にパッケージオプションで装着可能。ホンダがこのグレードを販売主力と考えているのは明らかだ。
「W」「A」ともCDプレーヤー付きオーディオ&4スピーカーやハーフシェイド・フロントウインドウなどが標準装備される。
一番安い「Y」は率直に言って「ベース車」。見栄えのための装備はことごとく削られる。電動格納式ドアミラーはいいとして、インテリア・パーツの地味な仕上げやホイールキャップ無しのスティールホイールなど、見た目の寂しさは否めない。オーディオ&スピーカーもなし。ガラスエリアが一際広いモビリオだけに、このグレードだとプライバシーガラスじゃないのもつらい。この質素さで「A」と10万円しか違わない。いくら「ぱっと見、安く見せるためのアドバルーンモデル」とは言え、いつもながらこういったホンダの最廉価グレードの設定はムダに思える。ちなみにキーレスエントリーだけはしっかり標準装備。ますますわからん。
全長約4mのコンパクトボディに1.5リッターエンジンを搭載し、7人乗れるという直接のライバルと言えば、トヨタ・スパシオとマツダ・プレマシーだろう。しかし両車ともリアドアが一般的なヒンジ式で、その点ではモビリオのスライドドアが大きなセールスポイントとなる。また、両側スライドドアといえばトヨタ・ラウムもそうだが、こちらは5人乗り。隠れたライバル?のアトレー7にしても、軽自動車の発展型という作りといい、1.3リッターエンジンといい、走りのゆとりではやはりモビリオのほうが上だ。
パッケージング&スタイル
脱クルマ的発想!のモダンなエクステリア
ボディサイズは全長4055×全幅1685×全高1705~1760mm。ホイールベースは2740mm。ベースはフィットのグローバルスモールプラットフォーム。サードシート用のキャビンを稼ぎ出すために、ホイールベースはフィットより290mm延長されている。その分、全長も長くなるが、リオーバーハングを切り詰めたことで、こちらは+225mmに止まる。スパシオ、プレマシーと比べてもっとも短い。また180mm高い全高もフィットとの大きな違いで、ルーフ後端のアンテナは可倒式となっているものの、立体駐車場の入庫は困難だ。
外観のデザインモチーフはクルマではなく、ヨーロッパの路面電車「ユーロトラム」。それが最も表現されているのが大面積のサイドウインドウだ。しかもウインドウ下部のパネルまで黒色に塗装されており、開放的なサイドウインドウの存在をより際立たせている。ウエストラインが極端なまでに低く、ウインドウだけががやたらデカく見えるのはそのせいだ。
顔つきは、吊り目のフィットとは対照的にとぼけた感じ。“ダサかっこい”というか愛嬌たっぷりで、よくデザインされていると思う。ホンダはヒット作の2代目を作るとキープコンセプトのデザインに終始してしまいがちだが、ブランニューのクルマではしっかり斬新なデザインで勝負してくる。モビリオもその例に漏れず、遊び心が感じられるデザインだ。細かいところで気になったのはドアミラーのデザイン。非塗装でサイドウインドウに同化させているのが、路面電車をモチーフとしているのなら、カタチのほうもしっかりデザインして欲しいところ。
「車窓」から眺めを楽しむ
インパネは最近のミニコンポを意識したようなシルバーのメタリック調(一部に木目調も)のセンタークラスターが配置されている。各種操作系のスイッチは極力シンプルにまとめてあり、数は少なく、サイズはビッグ。3連ダイヤル式のエアコンスイッチは、ステアリングの動きにあわせて、左手で弧を描くように配置されているので操作性は抜群だ。インパネシフトは本来フロアにあった操作部をそのままセンタークラスターに移設した、というデザインを採用している。
着座位置は1ボックス型ミニバンとしては低く、フットよりやや高い程度。セカンド、サードシートのサイズは大人がしっかり実用とできる大きさ(さすがにサードシートにゆったり感はないが)。室内にも車窓からの眺めを楽しむ「ユーロトラム」のイメージを採り入れたとあって、大きなガラスは開放感。ガラスの下端が低いから、“中が見られて恥ずかしい”という人も出てくると思うが(中間グレード以上は、ガラスがスモーク処理されているので、外からはあまり見えないからご安心を)、どの席からでも小さな子供が景色を楽しむことができるというのは親にとっても嬉しいことだろう。
フロントドアのヒンジを8度前傾させて使いやすさをアップ
フロントドアのヒンジは8度の前傾で取り付けられており、頭まわりの開口スペースを拡大。普段の乗降性はもちろんのこと、傘をさしながらの乗り降りにはたいへん有り難い。ドアの開く角度を3段階に設定したのも、使って初めて便利だと思える機能だ。また、自慢のスライドドアも、特にチャイルドシートに小さな子供を乗せるときには重宝する。ただし、リアウインドウの開閉は昇降式ではなくチルト式。まぁ、ウインドウがこれだけデカイと、昇降式にしたところでとてもドアに収まらないと思うが。また、バックドアがこれまたデカイので、狭い場所での開けにくいのも気になるところ。ガラスハッチが欲しくなる。
けっこう使えるサードシート
フィットがベースということで、例のセンタータンクレイアウトが採用されているという点にも注目したい。それまでサードシート足元に位置していた燃料タンクが前席真下に移ったことで、セカンドからサードシートの足元にかけてのフロアは実に低く、しかもフラット。サードシートの膝元こそ必要最低限だが、足がきっちりフロアに伸ばした自然な着座姿勢がとれるため、膝元スペースからイメージするような窮屈感はほとんどない。このサードシートは、セカンドシート下にスッポリ納めることも可能。作業は簡単で、ファンカーゴの“床下ガッチャン”よりスペース効率がいい。
基本的にサードシートは“ちょっとそこまで…”という緊急用の扱いにはなるが、それでもライバルのスパシオのように、「本当に緊急用」ではなく、けっこう使えるのがいい。
基本性能&ドライブフィール
パワートレーンは1.5リッターエンジン+CVTのみ
メカニズムはプラットフォームと同じく基本的にフィットと共通だが、1.5リッターエンジンは新開発。モビリオはフィットより250kg以上も増加しており、乗車定員も2人増しの7人。そのため、よりパワーを得るべくフィット用の1339ccエンジンをベースにストロークを延ばし、1496ccにスケールアップ。スペックは4ps、1.3kgm増しの90ps、13.4kgm。10・15モード燃費は18.2km/Lと、同クラスの7人乗りミニバンとしてはトップレベルを誇る。排ガスレベルも★3つと文句のない性能だ。
足回りはフィットを継承した前ストラット、後H型トーションビームという組み合わせで、走行安定性を高めるためにモビリオには前後にスタビライザーが装着されている。パワーステアリングは電動タイプ。4WDシステムは、ホンダ独自のスタンバイ方式。最小回転半径は5.3mと大きめだ。
必要十分な走りは、クルマというよりやはり電車の雰囲気
試乗したのは「W(FF)」。90ps、13.4kgmというスペックはスパシオの1.5リッターと比べても20ps、1.2kgm劣っており、車重に関しては逆に80kgほどモビリオが重い。実際の加速も「余裕しゃくしゃく」とは言えないレベルで、特に急勾配の坂道ではパワー不足を少々感じる。単独試乗でこれだから、フル乗車だとますます先行き不安。けれども、では日常シーンの中で不満を覚えるのかといえば、そうでもない。スタイリングから抱く「まぁこんなものだろう」という期待値から大きくはずれることもなく、まずは思い通りに走ってくれる。
また、セダンと比べても、コーナリング時の違和感がほとんどないという点で、やはりこの種のモノスペースカーとしては低重心であることが効いている。ゼロ発進時のみに、かすかにブルッというCVTの悪癖が残っているものの、一旦走り出せば、回転数がむやみに上がることはなく、エンジン音も比較的平穏。一般的なトルコンATにあるシフトショックがないのも嬉しいところだ。
乗り心地でも大きな不満はない。なにしろホイールベースがストリームより20mm長いため、コンパクトカーにありがちな前後方向の揺れがないのだ。反面、足回り自体の安っぽい固さが少々気になる。クラス相応なのかもしれないが、快適な空間を提供するクルマの性格を考えるともう少ししなやかさが欲しいところ。それと最小回転半径も、あと0.2mは小さくして欲しい(ちなみにスパシオは4.9m)
この出来なら1.8リッタークラスの排気量が欲しい、などなど、欲を言えばキリがないが、それならストリームがあるわけで、現状の4mのボディと1.5リッターエンジンという制約の中で仕上げたことにモビリオの存在意義がある。小さいけど使い勝手は1BOXミニバン感覚というのが、このクルマの大きな売りなのだ。高速走行でも1人乗りなら150km/h巡航が快適にできる。風切り音もそう大きくないし、直進性も悪くない。
ここがイイ
両側スライドドアを採用したことでシティコミューターとして理想的になった。子供を乗せるなら絶対スライドがいい。隣のクルマにドアをぶつけることもないから。ドアが傾いて開き、上部の開口部が大きいのも本当に素晴らしいアイデアだ。
パッケージングの絶妙さもいい。毎日使いやすいサイズで、7人がそれなりに乗れてしまうのは、日本では絶対的なメリット。チャイルドシートを常時固定しておく必要がある家族の場合、4人家族でも7人乗りは絶対的な必要条件。でないと家族以外は誰も乗せられないのだから。これ、いずれ欧州やアジアでもあたりまえになるはず。今は日本専用のモビリオだが、いずれ必ず輸出されるだろう。
フロントウィンドウの左右下端がギリギリまで下げられ、三角窓(四角だが)も広く、相対的にピラーの太さが気にならないため、角の死角が少ない。これは運転しやすかった。インパネのパネルが、家庭用オーディオの表面材ような金属調なのも斬新。
ここがダメ
両側スライドドアがやっぱりそう広く開かないことと、電動の設定ないこと。スライドドアの絶対的メリットは電動にできること。電動であれば片側でもいいくらいだ。
ダメなところとはいえないが、サードシートの足下が頭で想像したより深くくぼんでいるため、初めて乗り込むときにスゴく違和感があった。床の低さが、想像以上で、足が落ちる感じがしてしまう。それだけ、設計が常識を上回っているわけだが。
ウォークスルーは、できないことはないがあまり得意ではない。リアに子供を乗せている雨の日には、ウォークスルーできるとけっこうありがたい。素晴らしい工夫が多いモビリオだが、唯一工夫がたりないのが助手席で、これにスライドや折りたたみなどの機能を加えて、ウォークスルーを楽にし、テーブルにできるようにしてもらいたい。必ずファミリーには喜ばれるはずだ。もちろん取り外せるとさらにいいのだが。
総合評価
モーターショーで見たときは、とてもいいとはいえないスタイルだったが、乗って、眺めているうちにこれはもしかするとスゴいデザインなのではないか、と思い始め、今では大絶賛へと変わってしまった。クルマというより電車をイメージしたというデザインは、確かに従来のクルマっぽくなく、その意味では21世紀的新型乗り物といえそう。昔のSFマンガに出てくる未来のクルマは、流線型のクーペを除けば、確かに皆こんなカタチだったように思う。このクルマのデザインをとりまとめたのは45歳くらいの人だが、それくらいの年の人達がイメージする未来のクルマというものが、ミニバンのブームによって実現されたといえるのではないだろうか。クルマのデザインはデッドエンドに達した、という意見もあったが、モビリオはそれを打ち崩す革新的なクルマといえるだろう。ホンダのデザイン力を高く評価したい。
まあそれゆえ広く大衆には受け入れられにくいか、とも思ったが、東京オートサロンにはモビリオのカスタムカーが大量に並んでおり、それを見る限り、一般ウケしそうなカッコよさに仕上げることも十分できる。なによりベースが安いのでカスタムしやすいのは大きなメリット。これならステップワゴン同様、ファミリーだけでなく広い世代に売れそうだ。
走りに関しては、必要十分程度ゆえ、今後さらにパワーアップしたバージョンの登場は考えられる。しかしそれより、ホンダのクルマながら低回転がテーマとなっていることが重要なポイントだろう。低速トルク型エンジンとCVTの組み合わせは、モーター駆動に近い感覚だ。これも電車的。しかし最近のホンダ車にはエンジンを回してナンボというホンダの旧イメージは、もはやない。いよいよクルマは21世紀的になってきた。
公式サイト http://www.honda.co.jp/MOBILIO/




