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スズキ MR ワゴン X新車試乗記(第626回)

Suzuki MR Wagon X

(0.66リッター直3・CVT・121万5900円)

「クルマはもうこれでいい・・・・・・」
新型「R06A」エンジンを搭載した
スズキのブランニュー軽は
究極のダウンサイザーだった!

2011年03月11日

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キャラクター&開発コンセプト

3代目は若者がターゲット

2011年1月20日に発売された3代目「MRワゴン」は、プレスリリースによれば「これから新しくクルマを持とうとしている若年ユーザーを想定」した「新感覚軽ワゴン」だ。


今回試乗した新型MRワゴン(ノンターボの「X」)

過去を振り返れば、2001年に登場した初代MRワゴンは、未来的なモノフォルムスタイルで新しい軽の形を提案。2006年に登場した2代目は一転して、子育て中のママがターゲットの生活密着型となった。そして今回の3代目は、再びコンセプトを変更。「気軽に付き合えて、ファッション感覚で乗りたくなるような新感覚のクルマ」に生まれ変わった。メインターゲットは「20代の男女」だ。

プラットフォームとエンジンは新開発

テレビCMでは純正のタッチパネルオーディオをアピールする新型MRワゴンだが、実のところハードウエア面のニュースは盛りだくさん。プラットフォームは新開発で、ホイールベースを先代より65mm、既存車より25mm長く、スズキのFF軽自動車では最長の2425mmとしたもの。エンジンも16年ぶりの新開発「R06A」型となり、従来のショートストローク型とは真逆のロングストローク型となっている。

変速機は2009年から順次、スズキの各軽自動車に搭載を進めているジヤトコ製の副変速機付CVT(今回はその改良型)を採用。またボディの軽量化にも注力され、ベース車でクラス最軽量の790kgを達成(先代比-30kg)。これらの結果、10・15モード燃費はスズキの軽で最高の25.5km/L(NAのFF車)となった。

さらに3月10日には、中間グレードの「X」にアイドリングストップシステムを搭載。純ガソリン車でトップレベルの、と言うよりは、「TNP」(低燃費)でおなじみの新型ダイハツ・ムーヴに並ぶと言った方が早い27.0km/Lを達成している。

販売目標は月間平均3000台+日産分の4000台


日産の3代目モコ
(photo:日産自動車)

販売目標台数は年間3万6000台、つまり月間3000台。これは月間1万8000台のワゴンRはもちろん、同8000台のパレット、7000台のアルト、そして4000台のラパンよりも少ない。ただし初代MRワゴンの時からOEM車を供給している日産からは、3代目「モコ」が2月15日に発売されており、その目標台数の4000台を足せば、月間7000台となる。なお、日産は発売後20日足らずの3月6日時点で、受注が1万台を突破(累計1万1354台)と発表。好調な立ち上がりをアピールしている。

 

外部リンク
■スズキ>プレスリリース>新型「MRワゴン」にアイドリングストップシステム搭載車を追加 (2011年3月)
■日産自動車>プレスリリース>新型「モコ」の受注が1万台を突破 (2011年3月)
■日産自動車>プレスリリース>新型「モコ」を発売 (2011年2月)
■スズキ>プレスリリース>新型「MRワゴン」を発売 (2011年1月)

過去の新車試乗記
■モーターデイズ>新車試乗記>スズキ (2代目)MRワゴン (2006年2月更新)
■モーターデイズ>新車試乗記>スズキ (初代)MRワゴン (2001年12月更新)

価格帯&グレード展開

オーディオは全車標準。売れ筋は中間の「X」(121万5900円)


こちらはターボの「T」。ボディカラーは全6色で、写真のパールホワイト塗装車は2万1000円高、

アイドリングストップ付が追加されたことで、グレードは4種類になった。ベース車の「G」。オートエアコン、チルトステアリング、シートリフター、キーレスプッシュスタート、後席シートアレンジ機能などを装備する「X」。それにアイドリングストップシステムとESP(ヒルホルダー付)を追加した「X アイドリングストップ」、そしてターボエンジンで14インチタイヤ&アルミホイール付の「T」だ。

変速機は全車CVTで、「X アイドリングストップ」以外ではビスカスカップリング式の4WDも選べる。アイドリングストップ付は約10万円高いので、当面の売れ筋は中間グレードの「X」あたりだろう。

例のタッチパネルオーディオ(バックモニター付)は全車標準だが、オーディオレスなら5万2500円安くなる。前席サイド&カーテンエアバッグとESPのセットオプションはターボの「T」のみで、11万0250円高だ。

 

「X」以上はキーレスプッシュスタートを標準装備。アクセサリーで携帯リモコンカバー(3360円)もある

【658cc 3気筒(最高出力:54ps、最大トルク:6.4kgm)】+CVT
■10・15モード燃費:25.5km/L(FF)/23.0km/L(4WD)/27.0km/L(X アイドリングストップ)
■JC08モード燃費:23.0km/L(FF)/21.0-22.0km/L(4WD)/24.2km/L(X アイドリングストップ)
・「G」     113万1900円(FF)/124万9500円(4WD)
・「X」     121万5900円(FF)/133万3500円(4WD) ★今回の試乗車
・「X アイドリングストップ」     131万0400円(FF)

■【658cc 3気筒ターボ(最高出力:64ps、最大トルク:9.7kgm)】+CVT
■10・15モード燃費:22.5km/L(FF)/21.5km/L(4WD)
■JC08モード燃費:22.0km/L(FF)/20.4km/L(4WD)
・「T」     139万3350円(FF)/151万0950円(4WD)  ★今回の試乗車

パッケージング&スタイル

中性的なデザイン、「ロングルーフ・ロングキャビン」スタイル


全長3395mm×全幅1475mm×全高1625mm

ちょっと睨みを効かした半円ヘッドライト、そしてグリルレス風マスクが印象的な新型MRワゴン。可愛い&レトロ系のラパンとも、グローバルカーっぽいアルトとも異なり、中性的な雰囲気となっている。今までのスズキ軽ラインナップにはありそうで無かったものだ。ちなみにターゲットは20代男女ゆえ、デザイナーチームも20代を中心に結成したという。

 

こちらはターボ「T」。155/65R14タイヤ&アルミホイールがほぼ唯一の目印

サイドから見たスタイルは、まさにプレスリリースにあるように「ロングルーフ・ロングキャビン」。一見、背はそれほど高そうではないが、実際にはラパン(1510mm) より115mmも高く、ワゴンR(1660mm)より35mm低いだけの1625mmもある。つまり立体駐車場によっては入らない可能性のある高さだ。単なるハイトワゴンに見えないのは、天地の狭いサイドウインドや後ろ上がりのウエストラインのおかげだろうか。

 

ホイールベースは先代比+65mm、現行のスズキ軽+25mmの2425mm

インテリア&ラゲッジスペース

モダンな内装デザイン。ガラスとAピラーが遠い眺め


タッチパネルオーディオに合わせてメーターは自発光式を採用

インパネは白と黒のコントラストがスタイリッシュ。前席を取り囲むアイボリーの樹脂パネルの中で、ブラックアウトされたメーターとオーディオパネルが、場を引き締めている。ラパンのようなモダンレトロではなく、モダンに徹したデザインだ。

 

面白いのは、Aピラーを前方に追いやり、フロントウインドウを立たせた空間。ダッシュボードの奧にガラスがあることで、他車にない独特の広々感がある。またAピラーがジャマしないので左右の視界もいい。この点ではラパンにも近いが、MRワゴンの方が現代的な眺めで、広々感も強い。また側方や後方視界も良い。

室内装備・ユーティリティも充実


茶色のシート地は触感も見た目も和める

進化著しい軽自動車ゆえ、例えばシートの座り心地は、今や普通車に遜色なく(10年、20年前の軽とは雲泥だ)、足もとの広さは新型ヴィッツを上回りそう。シートリフターの装備は、中間の「X」以上になるが、その調整幅は大きく、同じく「X」以上にはステアリングのチルトも付く。インパネシフトも操作しやすい。空調スイッチはやや遠めだが、助手席からは操作しやすいので、これはこれでありだろう。

 

小物入れやドリンクホルダーも多数用意。インパネシフト上部のすき間には、携帯電話やオーディオプレーヤーが置けるトレーがあるほか、エンジン始動ボタンの横にはリモコンキーが入る小さな凹みもある。もちろん助手席の座面には、スズキ車でおなじみの“バケツ”も装備。生活感を抑えつつ、便利さも確保した室内デザインには、ホトホト感心する。

標準オーディオの売りは「スマホ風デザイン」


操作方法は「タップ」のほか、「スライド」で音量や選曲・選局などが可能(やりにくいが)

スマホ風のタッチパネルオーディオは、全車標準。オーディオレス仕様との価格差から言えば、5万2500円相当の装備だ。機能としては、AM/FMラジオ、CDプレーヤー、iPodダイレクト再生、USBメモリーファイル再生、そしてバックビューモニターといったところで、目新しいものはない。あくまで「若者がよりクルマを身近に感じられる新感覚のデザイン」(プレスリリース)を狙ったものだ。

 

リバース時にはバックモニターに早変わり

確かに静電容量式のタッチパネルを使ったインターフェイス、ボタンのデザイン、操作時の「ボォン」という音などは、まさにスマホ風。しかし、いわゆる「タップ」時のレスポンスはiPhoneに比べると、やや遅く、アンドロイド2.1くらい?か。そもそも現状では、ナビやワンセグもなく、当然ネットに接続もしない。スマホユーザーからすると、かなり物足りない内容。

後席はやたらと広い。前後スライドやリクライニングも可能


リアシートを一番後ろに引いた状態。試乗車のフロアマットは毛足の長い「シャギー」タイプ

今どきの軽自動車は、みんなそうだが、後席はやたらに広い。「こんな広くなくても・・・・・」と思うくらいに広いが、そういう場合、MRワゴンでは160mmある前後スライド機能(XとTのみ)でリアシートを前に出し、代わりに荷室を拡げることも出来る。また背もたれの角度も、6段階で調整可能だ(固定シートの「G」は15段)。

容量可変の荷室スペース


写真は助手席背もたれまで前に倒した状態

後席の背もたれを倒せば、ワゴンR同様に座面が沈み込み、床がフラットな荷室を形成する(「ワンタッチダブルフォールディングシート」)。つまりワゴンRなどと同様、乗員スペースと荷室スペースの割合を自由に変えることで、積載能力を調整できる作りだ。

 

ラゲッジボードを取り外した状態

床下にはちょっとした収納スペース、そしてジャッキとパンク修理キットがある。MRワゴンは全車スペアレスだ。

基本性能&ドライブフィール

16年ぶりのオールニュー「R06A」型エンジンを採用

今回はターボエンジンの「T」(139万3350円)と自然吸気エンジンの「X」(121万5900円)に試乗した。新型MRワゴンのエンジンは、軽用では16年ぶりの新型となる「R06A」型。典型的なショートストローク(68.0×60.4mm)だった前身のK6A型とは真逆の、64.0×68.2mmのロングストロークが最大の特徴だ。ダイハツの軽用3気筒(63.0×70.4mm)と同じように、燃焼効率の高さや低速トルクの増強を狙っている。

さらにR06Aでは、軽で初の吸・排気VVT=可変バルブタイミング機構を採用(ターボは吸気側のみ)。またエンジン単体重量をクラス最軽量としたほか、シリンダーブロックやベアリングキャップ、オイルパンの高剛性化で静粛性をアップ。ヘッドまわりの冷却通路を確保するため、M10型のロングリーチプラグも新採用した。久々の新作ゆえ、やるべきことは全部やった、という感じの欲張ったエンジンだ。

最初に浜松周辺で半日ほど試乗したのは、「T」の方。最高出力は64ps、最大トルクは9.7kgmで、車重は830kg(FF)だから、もちろんパワーは十二分。従来型ターボに比べて「激変」とまでは言い切れないが、心なしか低回転を主とした常用域で「ドコドコドコッ」という力強さが感じられる。直噴化こそしていないが、これもVW・アウディ言うところの過給器による「ダウンサイジング」なわけで、低速からの力強さは、いわゆるリッターカーを上回るかも、と思えた。

乗れば乗るほど癒される

しかし本当にタマゲタのは、この後に乗った自然吸気の「X」だった。ターボに乗った後だったので、最初は一瞬、物足りなさを覚えたが、それもつかの間。乗れば乗るほど、じんわりと良さが伝わってくる。

 

このエンジン、確かにパワーは知れているし、トルクがモリモリあるわけではないが、アクセルを気負いなく踏んだ時の柔らかなトルク感、そしてボディを前に押し出す力が、かなりしっかりとある。ターボよりも控えめに、しかし「トコトコトコッ」とスピードを乗せてゆく感じだ。乗れば乗るほど癒され、「パワーはこれで十分だなあ」と思えてくる。

しかもこのノンターボ、意外なことにターボより静か。ターボは確かにパワフルだが、その分エンジンのノイズや振動も大きい印象。それに比べると、ノンターボはアイドリングから静かで、振動もない。新型で採用されたペンデュラム(振り子)式エンジンマウントも効いている感じがする。

そして、ここ1年くらいのスズキ車に搭載され始めた例のジヤトコ製・副変速機付CVTが、実にイイ仕事をしてくれる。低速では低めのギア比で力強く、巡航では徹底的に低回転を維持。その上、CVTのベルトノイズが静か。これはライバル車にとって、かなりの脅威だろう。

かつてのフランス車を思わせる乗り心地


「X」の場合、タイヤは145/80R13の極細サイズだが、非常によく粘る

乗り心地も素晴らしくいい。10年以上前の軽で記憶が止まっている方は、にわかに信じられないかもしれないが、これは本当にそう。すでに現行ラパンあたりでも文句なしと思ったが、MRワゴンはそれ以上かも。路面への当たりは徹底的にソフトで、ハーシュネスとはほぼ無縁。フラット感も高いし、ロールもよくチェックされている。

パワートレインが癒し系なので、ワインディングで飛ばす気には全然ならないのだが、それでもあえて負荷をかけると、ストローク感のあるサスペンションが、昔のフランス車みたいに路面を捉え続ける。パワーそこそこ、車重は800kgちょっと、という条件は有利に働いているのだが、とにかくシャシー全体に余裕があり、不安感がまったくない。マニアックな話をすると、ステアリングの剛性感、しっとり感にも感心した。

高速道路では、かつてない低回転で巡航

こんなわけで、高速巡航もまったくもって楽勝。法定速度で走る限り、エンジン音など今やほとんど聞こえない。実はおなじみの副変速機付CVTも正確には改良型で、リダクションギアを従来よりハイギアード化したもの。カタログを見ると、確かにNAの最終減速比が従来型の5.225から、何とターボと同じ!4.572になっていた(当然CVTのギア比も同じ)。普通ならノンターボの方の出足がトロくなりそうだが、そうなっていないのは低速トルクの厚いエンジンと軽量ボディの賜物だろう。100km/h巡航時のエンジン回転数は、回転計がないので不明だが、副変速機「なし」の頃のCVTでも約3000回転だったので、おそらく2600回転くらいか、それ以下だろう。

強風吹き荒れる浜名バイパスを走っても、直進安定性はまったく問題なし。あそこを走ったことがある人なら分かるはずだが、これは実にスゴイことだ。風切り音だけはかなり気になったが、内陸部の東名高速では特に気にならなかった。最高速はNAモデルでメーター読み125km/hだったが、多少の下りならメーターを振り切り(サービスマニュアルによると131km/hで電スロ制御が始まり、137km/hで燃料噴射をカットする)、ターボなら平地でも余裕で振り切る(NAと同制御に加えて、過給圧制御でも速度を抑制)。正直、これなら名古屋-東京の日帰り出張も余裕だと思えた。

試乗燃費は驚きの14.3km/L~20.2km/L


燃費計は全車標準。これはターボで試乗した時の結果で、短時間なのでやや悪め

今回はノンターボの「X」で、1週間かけて約500kmを試乗。あくまで参考値だが、試乗燃費はいつもの一般道・高速をまじえた区間(約90km)で14.3km/Lだった。

さらに、浜松→名古屋を主に東名高速で移動した区間(約110km)が17.9km/L。郊外の一般道で、無駄な加速を控えて走った区間(約30km)が20.0km/L。さらにデイズスタッフが往復96kmの長距離通勤で使った時の燃費が20.1km/L(ちなみにいつもの足であるフィアット 500 1.4 16Vでは14.5km/Lくらいとのこと)。最後に名古屋から浜松まで東名を走った区間(約130km)が20.2km/Lだった(高速だけなら21.0km/L)。つまり飛ばさず走った後半は、軒並み20km/L前後を叩き出し続けた。

もちろん燃費に頓着せずに、アクセルベタ踏みで走れば14~15km/L台まで落ち込むが、上手に走れば初代プリウス(デイズ営業車で活躍)やフィット・ハイブリッド並みの燃費が出る、というのが実感だ。

なお10・15モード燃費は自然吸気・FF車の場合、25.5km/L(ターボ・FF車は22.5km/L)。ワゴンRに続いて追加されたアイドリングストップ付なら27.0km/Lになり、ダイハツ・ムーヴに並ぶ。タンク容量は30リッターで、今回はほぼ空になるまでに約400kmを無給油で走破した。

ここがイイ

走り、静粛性、乗り心地、燃費、パッケージング、デザイン

軽の自然吸気エンジンにして、まったく不満のない走り、そして乗り心地、静粛性。燃費も文句なしで、「軽は燃費が悪い」という話は、過去のものとしたい。そして言うまでもなく、パッケージングも素晴らしく、デザインもよくまとまっている。ここに至って、ついに軽自動車はコンパクトカーの頂点に登り詰めた。つまり究極のダウンサイジングカー。国内市場では、将来的にプラグインHVと軽の二極化を予感させる。

OEMによって日産ブランドで大量に売ること。おかげでスズキ販売分は、かなり尖ったデザインにできた。

ここがダメ

売り物のタッチパネルオーディオ

ナビ機能もないのだから、見た目以外にタッチパネルである必然性がなく、むしろオーディオの操作性は悪くなっている。言うまでもなく、クルマの操作系はブラインドタッチが基本。トヨタの「リモートタッチ」など、非タッチパネル式のインターフェイスが進化する中で、新しい物を作ろうとする挑戦は評価するが、出来上がりとしてはちょっと評価できない。

今のところノンターボの良さが目立っており、現状でターボを積極的に選ぶ理由はあまりないこと。

総合評価

660ccであることを全く不満に思わせない

ずっと軽自動車が好きだった。親父は初めての自家用車としてスズライトバンを買い、その後、愛知機械のコニーバン、そしてスバル360と乗り継いだ。スズキ浜松本社の横には歴史館があって、懐かしいスズキの軽自動車が並んでいる。リアに空冷の3気筒2ストを載せた“コークボトル”フロンテは、叔父さんのクルマだった。きつい坂道を白煙を吹きながら、やっと60km/hで登ったものだ。そんなリア3気筒エンジンもどんどん高性能化し、やがて作られたのが若い頃にあこがれた「フロンテクーペ」。いま見ても見事なスタイリングで欲しくなってしまう。やがて初代アルトが登場し、革新的な軽自動車「ワゴンR」が出現する。みなスズキの軽だ。70年代、80年代、庶民のクルマは軽だった。そして今も日本では、庶民のクルマは軽である。

そんな軽の排気量を800ccくらいにしたら、世界に通用するすばらしいコンパクトカーになると、これまでくどいほど書いてきたが、今回ついにそれを撤回する。MRワゴンの新型エンジンと副変速機付CVTは、660cc「ノンターボ」であることを全く不満に思わせない走りをついに実現した。ちょっとした長距離移動を含めた普段乗りでは、もはやこの660ccエンジンで何一つ文句はない。4人乗りで高速道路の急坂に至って初めて、MRワゴンが軽であることを意識するかもしれないが、それ以外ではクルマとしてなんら不満はないだろう。本文中に書いたように、乗り心地、操安、静粛性なども、まったくもって不満はない。しかもすばらしい実燃費。

 

スタイルもいい。日産モコと比べると顔つきも中性的で、これなら男性も乗れる。初代フイアット500、あるいはその後継であるフィアット126風のグリルレスな顔つきは、空冷の軽を愛用していたオジサンにはたまらなく愛おしく見える。ボンネットを上からかぶせたようなデザインは、まさにフィアット風だ。そして前後左右どこから眺めても、そのボディラインはデザイン的に破綻していない。フェンダーもきちんと描かれ、窓は小さく、タイヤはごく細いが、外径が大きく、ホイールハウスの隙間も狭めだ。ホイールキャップのデザインセンスもいい。試乗車はソリッドのパステル色が心地良かった。

フロントスクリーンが前の方にあることで、室内空間の広々感はすごい。しかしタントなどのような、やり過ぎ感はない。運転席の頭上にフロントガラスが迫っていないから、天井をキャンバストップにできたら、かなりオープン感が得られるはず。現代のフィアット 500Cと同様の手法で、ぜひやって欲しいものだ。剛性上、キャンバストップが無理ならガラスルーフでもいい。リアシートも広大だが、やはり背が高すぎない分、パレットやタントのような無駄に広い感じがない。軽の規格から考えると、パッケージとしてはもうこれは究極のものだろう。インパネのデザインもまとまっているし、何しろ最近のスズキ車は質感がすごく高い。ヴィッツより完全に上だ。

足りないのはIT系とハイテク安全装備くらい

走り、デザイン、パッケージング全てにおいて、これまで40年近く乗ってきた軽の中で最高のもの。「ついにここまで来たか」と乗っていて思わず目頭が熱くなる軽だ。もはや日本のクルマはこれでいい。当方、「スマート」のオーナーだが、オーナーとしてはコンセプトだけは今も日本の軽に勝っていると言っておきたい。しかし1000ccなのに動力性能はそう変わらないし、二人しか乗れず、直進性は悪く、うるさくて、燃費が悪くて、価格も高いし、税金も高い。総合的に評価したら、完全にMRワゴンの勝ち。ただ今のスマートにはアイドリングストップがある。そこだけは優っているところか。

と書いていたら、なんと3月10日にアイドリングストップ車が出てしまった。となるとMRワゴンにあと足りないことといったら、ナビとかのいわゆるIT系の装備だろう。タッチ式のオーディオは、IT的なものを取り込むという点ではコンセプトとして正しいと思うが、やるならスマホ組み込みくらいまで行かないと、我々としては評価しづらい。そんな尖ったことを軽ではやれないと思うから、今回のコンセプトだけは評価しておきたいところだ(使い勝手は本文にあるようにあまり評価できないが)。

まあこのダッシュ形状なら、すぐ上にPNDを置くことは簡単そうだから、実用面で不便はないだろう。下手な組み込み式ナビより、その方が将来的に発展性がある。いや、10年後にはナビ自体、すっかり今とは違ったものになっているだろうから。いよいよ来年からは、ESCの装着も義務付けられるが(軽は2014年から)、MRワゴンのアイドリングストップ車にはこれも装備されている。こうなると、もはやガソリン車としては究極なので、今後はスバルのアイサイトのようなハイテク安全装備を装着する方向へ進んでもらいたいものだ。

中小企業スピリットが今後も日本のモノづくりを支える

ここまで完成してしまうと、いよいよクルマは「次のもの」にならざるを得ないだろう。スズキは燃料電池スクーターを2011年中にリース開始、2015年には一般市販を目指すと発表した。燃料電池車の開発は着実に進んでいるようだ。燃料電池がMRワゴンに乗る日もやがて来るだろう。そしてそれ以前に、先週紹介したスイフト レンジ・エクステンダーのユニットを軽用に改良して搭載したMRワゴン レンジ・エクステンダーが登場するかもしれない。ガソリン車が頂点に達した今、次はそうなるしかない。

スズキは中小企業の親父を自認する鈴木修会長が牽引している。本田宗一郎氏が生きていたら、豊田英二氏が現役だったらと考えると、ホンダもトヨタもずいぶん今とは違った会社であるように思える。しかしスズキは修会長が現役だ。日本のモノづくりの生き証人ともいえる人が、今も現役で引っ張っている会社、それがスズキ。昨年10月、鈴木の地元、静岡県浜松地域の産学官による連携組織「はままつ次世代環境車社会実験協議会」の走行実験開始式で、鈴木会長は「電気自動車の時代になると地元部品メーカーは困るかもしれないが、高度な加工技術などはきっと役に立つ。どう事業展開ができるか、新たな産業革命のつもりでチャレンジして欲しい」という内容の挨拶をした。中小企業スピリットこそが、今後も日本のモノづくりを支えるはずだ。

 

MRワゴンも若手が中心となって、ある意味好きに作られている。それを許しているのは、鈴木会長がモノづくりが何たるかを分かっているからだろう。先代MRワゴンは主婦向けとしてマーケティング主導で作られたと思う。しかし今回は本当にいいものをつくろうとして作られたように思う。大手メーカーは、マーケティング主導で様々な意見の折衷案のようなクルマが多いが、中小企業スズキが作ったMRワゴンはモノづくりの良心ともいえる商品となっている。もちろんそこには日産へOEMで供給すれば、数は確保できるという、したたかな商売計算も潜んでいるのだが。修会長、いつまでもお元気で頑張ってください。

試乗車スペック
スズキ MR ワゴン X
(0.66リッター直3・CVT・121万5900円)

●初年度登録:2011年1月●形式:DBA-MF33S ●全長3395mm×全幅1475mm×全高1625mm ●ホイールベース:2425mm ●最小回転半径:4.2m ●車重(車検証記載値):810kg(500+310) ●乗車定員:4名

●エンジン型式:R06A ● 658cc・直列3気筒DOHC・4バルブ・横置 ●ボア×ストローク:64.0×68.2mm ●圧縮比:11.0 ● 54ps(40kW)/6500rpm、6.4kgm (63Nm)/4000rpm ●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/30L ●10・15モード燃費:25.5km/L ●JC08モード燃費:23.0km/L

●駆動方式:前輪駆動(FF) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット(+コイル)/後 I.T.L.(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)(+コイル) ●タイヤ:145/80R13( Dunlop SP10 )●試乗車価格:123万8843円 (オプション:フロアマット<シャギータイプ> 1万9583円、携帯リモコンカバー 3360円) ●ボディカラー:アロマティックアクアメタリック ●試乗距離:約500km ●試乗日:2011年2月 ●車両協力:スズキ株式会社

 
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