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フィアット ムルティプラ ELX新車試乗記(第266回)

Fiat Multipla ELX

(5MT・249万円)

 

2003年04月25日

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キャラクター&開発コンセプト

前に3人+後に3人

新型ムルティプラは、フィアットが生み出した、まったく新しいコンセプトの小型MPV(マルチパーパスビークル)。強烈なデザインもさることながら、前3席+後ろ3席、計6人乗りのシートレイアウトがユニークだ。座席は全て独立式で、どの席も同等の快適性を持つという。

日本での発売は2003年4月5日。本国では1998年に発売されていたので、すでに約5年近くが経過している。今になって輸入に踏み切ったのは、やはり関係者の熱意だろうか。すでに本国で発表された時から日本のメーカーに与えたインパクトは大きく、ホンダ・モビリオの開発者も影響を受けたことを認めている。日本国内の販売目標(初年度)は300台。5速マニュアルのみとなるのが、販売上の難点だ。

ムルティプラ温故知新

ムルティプラと言えば、旧くは「600 ムルティプラ」(1955~69年)が有名だ。フィアット600(有名な500“チンクエチェント”より一回り大きいモデル)をベースに、現在の軽自動車とほぼ同じサイズに2+2+2の計6名の乗車を可能にした、いわばMPVの元祖と言えるモデルだ。高い実用性と経済性、どっちが前で後ろだか分からない愛らしいスタイルで大ヒットした。

ちなみに「multipla」とは、英語でいうマルティプライ(multiply、繁殖させる、増やす、掛け算する)が由来だ。

価格帯&グレード展開

1.6リッター・5速MT(249万円)のみ

欧州では1.9リッター・ディーゼル「1.9JTD」が主流だが、日本仕様は1.6リッター・ガソリンの豪華版「ELX」の5速MTのみ。装備は豊富で、オートエアコン、オーディオ(ラジオ、CDプレーヤー)、前後パワーウインドウ、6エアバッグ(フロント×2、サイド×2、ウインドウ×2)、後退時バックセンサーが標準。アルミホイールはオプションとなる。

パッケージング&スタイル

Sクラス並みの幅

ボディサイズそのものが、これほど個性的なクルマもそうそうない。全長4005mm×全幅1875mm×全高1670mmという寸法は、トヨタ・ラウムやホンダ・モビリオより短く、一方で幅はメルセデスの旧SクラスかVクラス並みにワイドだ。

デザインも超個性的だ。フロントのライトは上・中・下と3段に配置(上からハイビーム、ロービーム、フォグランプ)。サイドウインドウはバスみたいに地面に対して直立となっているし、上下2面のサイドミラーはさしずめアールヌーボー調? さらにドアエッジプロテクター付きのヘンな形のドアノブ、ハート型リアコンビランプなどなど、見れば見るほど面白い。

ガウディも驚く

内装はさらに面白い。ギョッとするのが、アントニオ・ガウディもビックリの有機的デザインだ。センターメーター周辺は割と理性的だが、中央の空調吹き出し口は、よく見ると人間の顔のカタチ。同じイタリアン・デザインのALESSIみたいだ。

空気抵抗対策でフロントガラスの傾斜は強いが、圧迫感はない。ウェストライン(窓枠の下縁)の低いところなども、モビリオとそっくりだ(もちろん、モビリオの方が後で登場しているが)。サイドウインドウは巨大で、視界は360度といっていいほど効く。

納車時はしっかり説明を聞こう

小物入れは豊富で、よく考えられている。インパネから突き出るシフトレバーも操作感、位置ともに秀逸だ。ただしサイドブレーキは運転席右側(旧エスティマと同じ)で、乗降時に足に当たることがある。

スイッチ類の操作は、取扱説明書か事前のレクチャーが必要なくらい分かりにくい。例えば、ドアミラーのリモコン&収納ボタンはなぜか天井にあるし、オーディオやドライブコンピューターの操作も難解だ。後席パワーウインドウスイッチは後ドアにしかないし、開けても下まで降り切らない。

ティーノとは異なる

何と言ってもユニークなのが、独立式の6席シートだ。約1.9メートルの全幅は、大人が横に3人座るためのもの。同じレイアウトの日産ティーノ(同じく1998年にデビュー)は1760mmしかなく、3人掛けにはかなり無理があったため、結局途中から普通の5人乗りになったが、とりあえずムルティプラにその心配はなさそうだ。

ムルティプラのシートは6席ともやや小振りで、クッションも固め。前列中央は左右席より少し後方にズレてセットされ、肩が当たったり、圧迫感が生じるのを防いでいる。フロアは完全にフラットで、足元も6人平等に広々している。

折り畳んだり、取り外したり

後席はスライドしないが、取り付け位置は前後に変更可能。折り畳むことも出来る。取り外せば、まっ平らな床で1900リッター(カタログ値)の立方体の荷室が出現。後席使用時も430リッターと、ちゃんと使える容量を確保。リアゲートは意外にも?電磁式で、エンジンフードはダンパーストラット付き。便利だ。

余談だが、エンジンルームにある、透明なリザーバータンクは、色のついた冷却水がブクブクいいながら循環する様子が見えるもので驚いた。こういう小さな発見も、イタ車の楽しみの一つか。

基本性能&ドライブフィール

マニュアルでキビキビ

スポーツカー以外で、今や存亡の危機を迎えるマニュアル車。現行国産車と違い、クラッチを踏み込まなくてもエンジンは掛かる。重量1360kgに対して1.6リッターエンジンは103psで、パワー・ウェイト・レシオは13.2kg/psと軽自動車並みの数字だが、さすがマニュアル車だけあって実際にはかなりキビキビ走る。ちなみにホンダ・モビリオ(CVT)も1270kg/90ps=14.1kg/psで意外によく走ってくれるが、ホンダが回転でパワーを稼ぐのに対して、ムルティプラはもっとトルクフルだ。

なんとなくイタリアン

クラッチ操作やエンジンに神経質なところはないので、運転はかなりイージー。おそらく「ペーパーマニュアルドライバー」(マニュアル免許だけど、ATしか乗れない人)でも、思い切って乗れば「意外と簡単!」と、自信が取り戻せるはずだ。ほとんど教習車レベルの運転しやすさと言える。

ステアリング横の、昔の1ボックス車のコラムMTのようなインパネシフトをカチカチ操作して、ちょっと懐かしい感じのエンジンを回して走るのは、なかなか楽しい。2000回転以下で線の細さを感じる一瞬はあるが、基本的には低速からよく粘る。5000回転から6000回転では、気のせいか? イタリアンな吹けあがり。回してもうるさくないし、振動も小さい。レッドゾーンはなく、メーター上限の7000回転手前でリミッターが作動する。

ドイツ車に負けない

見た目と違い、ハンドリングもイイ。固めのサスペンションやスーパーカー並みの広いトレッドもあって、ロール感が小さく、重心の高さが気にならない。ファニーな外見から、マジメなクルマではないように見えるが、シャシー性能はドイツ系ミニバンに決して負けないレベルだ。15インチのピレリP6000(クルマによってはファイアストーンのようだ)を使い切る走りは難しいが、この手のクルマとしては十分な性能だろう。乗り心地もけっこういい。固めの足まわりに固めのシートではあるが、家族から不満が出ることはまずないだろう。

100km/h巡航は、約3200回転。ロードノイズや風切り音も含めて静粛性はなかなか高く、全くうるさくない。国産の1.5リッタークラスのAT車より静かかも。フィアットの発表によれば最高速度は170km/h。実際それくらいは出そうで、150km/h くらいの巡航は難しくない。

今回はおよそ200kmを試乗し、約25リッターを消費。試乗燃費はドライブコンピューターの表示通り、約8km/Lとなった。1.6リッターのMT車と考えると物足りないが、重量と走りっぷりを考えれば悪くない。ただし使用燃料はハイオクである。ちなみに鍵式の給油口の開け方がまた風変わりで、ちょっと戸惑った。こういうのも新鮮な体験か。

ここがイイ

乗ってみると分かる「まとも」さ。強烈なインパクトのある外観はパイクカーを思わせるが、居住性、操作性、ユーティリティなど、実にまともな、まじめなクルマだ。走らせてみても、これが驚くほどまとも。腰高感も少ないし、コーナリングではスポーティでさえある。

上下2段に分かれたサイドミラーは、ボディ下部がよく見えて便利だった。こういうカタチのクルマでないとデザイン的には採用しにくそうだが、なかなか気が利いている。

ここがダメ

一人で運転していると、広い部屋の隅っこの方にポツンと座っている感じで、「広い空間をムダに運んでいるだけ」という空しさにおそわれる。昔のワンボックスカーみたいだ。均等サイズのシートだけに運転席は小さく、軽自動車とは言わないが、昔の小型車くらいの感覚だ。メルセデスのSクラス並の幅があると思うとさらに空しくなる。

そして国産車はもちろん、他の欧州車と比べてもやっぱり信頼性に若干の不安が。いまだフィアットは2年保証(アルファは3年)。P.A.S.S.という3年間・365日・24時間ロードサービスがあるものの、さてさて・・・・・・。

総合評価

日産ティーノが失敗したのは、幅が狭すぎたからかも。大人3人乗りなら、ムルティプラくらいの幅が正解だろう。取り回しが悪いかというと、実際には全長の短さが幸いして、小型車気分でとりまわせる。幅の狭い駐車場に入れるときにはさすがに気を遣うが、路上では2メートルを越えでもしない限り、そんなに幅は気にならないものだ。

というものの、横に3人乗るという発想は、洋の東西を問わず受け入れられないようで、ムルティプラも本国ではけして成功作とはいえなかったようだ。リアシートに3人掛けするときを想像してみて欲しい。狭さはもとより出入りの面倒さは誰もが経験すること。クルマは左右から出入りすることでプライベート性や使いやすさを確保している、ということだろう。

またクルマはやはり一人で乗ることが多い。そうなると、3列シートの端に座っているのは本当に空しい。このレイアウトならステアリングをセンターに持ってくるとゆったり空間がとれ、意味があると思う。3列シートこそセンターステアリングが理想。ルックスやコンセプトなどは実にチャレンジングだが、さすがにセンターステアリングまでは挑戦できなかったということか。

走りに関しては、おそらく誰からも不満は出ないはず。本国仕様の1.9リッター・ディーゼルには乗ったことがないが、日本で乗るならガソリン車がいい。1.6リッターエンジンはこのクルマにはベストマッチで、十分な動力性能だ。インパネにあるシフトレバーは感触も操作性も抜群で、マニュアルであることがほとんど苦痛にならなかった。トルクもあるから、1段とばしのイージーシフト(怠慢シフト?)も可能。なお、どうしてもオートマが欲しいなら、身障者用のオートクラッチにするといい。負圧式と電気式の2種類オがあり、カタログにもちゃんと記載されている正規の改造だ。

いずれにしても最大の問題、いやメリットはこのルックスだろう。あまりに人目を引くことは確かな事実。もし自宅のガレージに収まれば、近所の視線を集めることはまちがいなし。同じガレージにアルファかフェラーリが入っているような人なら「またあの人が変なクルマを買ったよ」で済むが、まともな国産車からの乗り換えだと、町内で浮く?可能性がある。

年間300台の販売目標だが、全国に300人くらいはこういうクルマが似合う、あるいは欲しがる人がいるだろう。そういう人のためのクルマ以外の何ものでもなく、またそういう人ならこの出来の良さには満足できるはずだ。ぜひ赤とか黄色の派手なボディカラーで乗って欲しい。街を和んだムードにしてくれるクルマだ。

試乗車スペック
フィアット ムルティプラ ELX
(5MT・249万円)

●形式:GH-186B6●全長4005mm×全幅1875mm×全高1670mm●ホイールベース:2665mm●乗車定員:6名●車重(車検証記載値):1360kg(F:830+R:530)●エンジン型式:182B6●1596cc・DOHC・4バルブ・直列4気筒・横置●103ps(76kW)/5750rpm、14.8kgm(145Nm)/4000rpm●10・15モード燃費:-km/L●駆動方式:前輪駆動●使用燃料:ハイオク●タイヤ:185/65R15(Pirelli P6000)●価格:249万円(試乗車:同じ) ●車両協力:アルファロメオ 西名古屋

公式サイトhttp://www.fiat-auto.co.jp/showroom_multipla_index.html

 
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