キャラクター&開発コンセプト
トヨタとダイハツが共同開発
トヨタとダイハツは2004年6月7日、両社が共同開発したコンパクトカーをそれぞれ「パッソ」、「ブーン」として発売した。トヨタ・デュエットとダイハツ・ストーリアの後継車だが、デュエット/ストーリアはもともとダイハツが100%企画・開発したもの。今回は国内市場で初の両社共同開発だ(海外では、昨年インドネシアで生産・発売されたモデルがある)。名古屋で行われた6月7日の記者発表には、トヨタの岩月副社長(写真左)とダイハツの東副社長が同席し、単なるOEM供給ではなく共同開発である点がアピールされた。ちなみに記者発表会は東京会場が社長、名古屋会場が副社長の出席となるのがトヨタの慣例。ダイハツもそれに倣った模様だ。
トヨタの「最小」、ダイハツの「上級」
トヨタの車両企画力と、ダイハツの開発技術・生産ノウハウという、両者の強みを生かしたパッソ/ブーンだが、フルラインメーカーのトヨタにとっては「最小」、軽自動車主体のダイハツにとっては「上級」となり、「軽乗用車とコンパクト2BOXが交差する市場を狙う」と両社は説明する。クルマ自体は車名とバッジを除いて、まったく同じだ。いささかの差別化も行われてないのは、日本初の出来事。
デザインを含む商品企画はトヨタ主導だが、シャシーと1.0リッターエンジンはダイハツの新開発。94万5000円からという、軽自動車並みの(そしてヴィッツを下回る)価格もポイント。月間販売目標はトヨタ:7000台、ダイハツ:1500台と、ヴィッツやイスト並みを目指す。生産はダイハツ本社の池田工場で100%行う。また、同モデルはダイハツブランドで欧州でも販売する予定だ。この低価格・低コストは、日本以上に現地で大きな武器となるはず。
価格帯&グレード展開
5ドア・ATならトヨタ車で最も安い
パッソもブーンもグレード体系・価格は基本的に同じ。1.0リッター(4WD含む)が94万5000円~130万2000円、1.3リッター(2WDのみ)は111万3000円~117万6000円。5ドア・4ATの条件ならヴィッツ(98万1750円~)より4万円弱安いから、「トヨタ最小」ならぬ「最安」と言えないことはない。
販売メインは、1.0リッターの“Fパッケージ”(109万2000円)だ。カードキーなどを装備して、お買い得感が高い。1.3リッターの“Fパッケージ”(117万6000円)には運転席の高さ調節と電動格納式ドアミラーが付くが、まあ、無くても済むものだ。
パッケージング&スタイル
「イカツかわいい」
ボディサイズは全長3595mm×全幅1665mm×全高1535mmとヴィッツより45mm短い。にもかかわらずホイールベースは、ヴィッツより70mm長い2440mmで、室内長+35mm、室内幅+20mm、室内高+15mmとわずかだが室内空間も広い。
このシャシーはダイハツによる新開発で、「小さいクルマなら任せとき!」という心意気が感じられる。
「イカツかわいい」をキーワードに開発したという外観は、ダイハツの意見を交えながらトヨタ主導で行ったようだ。トヨタ・オーパやWiLLサイファ風であり、ダイハツの軽自動車風でもある。いずれにしても、ヴィッツやフィットよりアクがないスタイルだ。とはいえ、大きく張り出したホイールアーチがなかなかカッコいい。
コラムシフト&ステアリング一体型メーター
奇抜なヴィッツと異なり、「シンプル&クリーン」がキーワードの手堅いインテリア。フロアシフトのヴィッツに対して、こちらはコラムシフトを採用。やろうと思えば前後ウォークスルーも可能だ。大きめのシートは座り心地が良く、ヴィッツより良いかもしれない。
センターの大型トレイ、助手席正面のラック、座面がガバッと開くスズキ車風?の「助手席アンダーボックス」(“Fパッケージ”のみ)など、小物入れも豊富だ。
視点移動や焦点距離の差が少ないことを謳い文句にしたヴィッツのセンターメーターに対して、パッソはステアリングコラム一体型のメーターを採用。これがまさにヴィッツとは正反対で、視点移動が大きく、焦点距離も近すぎて、視認性が良いとは言いがたい。また、シフトモードを表示する液晶パネルは、ステアリングを回しながらだと、とても見にくい。タコメーターはオプションでダッシュの上に追加できる(“Fパッケージ”のみ)。
イオンパワーでリラックス
試乗車は「プラスイオンとマイナスイオンを車室内に放出することで、浮遊する雑菌やカビ菌の繁殖を防止するとともに乗員のストレスを緩和」するというプラズマクラスターを装備。運転すればするほど癒される…のであれば良いのだが、効果は? ま、気持ちの問題ではある。
ロングクッションモードなど新提案
後席は室内幅、足元スペースなど、いずれもヴィッツを僅差ながら上回り、シートの座り心地も悪くない。街中なら十分静かで、乗り心地もまずまず。
足下まで座面クッションを伸ばす「ロングクッションモード」や座面組み込み型の「ジュニアシート」が新しい。ロングクッションモードは「おむつ替え」や子供が遊ぶスペース、ペットとの外出に便利というもの。クッションの下の部分は固く、座るのはつらい。ジュニアシートはボルボのような凝ったものではなく、クッションをひっくり返すだけのお手軽なものだが、着座位置が68mm上がり子供でもシートベルトをより正しい位置で装着できるという。
便利なキーフリーシステム
“Fパッケージ”は携帯するだけでドアのロック/アンロックやエンジン始動ができるカードキー(キーフリーシステム)を標準装備。ドアの鍵を操作する時は、ドアノブの黒いボタンを押す。ドアノブをつかむと作動するタイプより、確実で使いやすい。ただし、助手席側はボタンがないので通常のキーレスのようにリモコン操作が必要。ポケットに入れたまま忘れてしまうのも欠点?だが、便利なのは間違いない。
荷室は224リッターとこのクラスの平均で、普段の買い物には十分な容量だ。後席の畳み方は上のロングクッションモードから背もたれを倒す、変則ダブルフォールディング。ほぼ平らな床面ができあがる。
基本性能&ドライブフィール
ヴィッツよりトルク感あり
試乗したのは1.0リッター。1.3リッターと違ってこちらはシート高が調整できないが、弊害はあまりない。目線の高さはヴィッツに似るが、シートにちょこんと座る感じは薄まり、より自然だ。
走り出しの印象は、誤解を恐れず言えば「軽自動車の理想」で、パワーも操縦性も、軽自動車に足りない部分を全て補うとこうなるという感じ。エンジン音自体は3気筒の軽自動車的なものだから、そういう意味でも軽の延長にある。しかし、1.0リッター3気筒エンジン(71ps、9.6kgm、車重は900kg)は660ccターボより明らかに自然なトルク感があり、3気筒特有の振動もほとんど気にならない(アイドリングで気にすれば気づく程度)。
確かに、ヴィッツの1.0リッター4気筒(70ps、9.5kgm、車重890kg)に比べると、全ての回転域でわずかに振動は大きい。しかし、トルク感はパッソに分がある。出足こそ、わずかにもたつくが(これはヴィッツも同じ)、スピードが乗った後のアクセルのツキの良さが気持ちいい。中間加速はヴィッツより体感的には速い。この3気筒はVVT-i(連続可変バルブタイミング機構)の採用やインテークポートの最適化、摩擦抵抗の低減を図った、アルミブロック/アルミオイルパンの新開発エンジンだ。低価格車では珍しく、イリジウムプラグを採用し、エンジンルームに貼ってあるメンテナンス指示のプラグ項目にも「点検不要」とある。
リッターカーが手放せない理由
乗り心地はたいへん良く、このボディサイズにしてヒョコヒョコした動きも、低価格のクルマによくある足まわりのゴトゴト感もまったくない。ヴィッツの最新モデルの熟成ぶりもすごいが、パッソもそれに引けをとらない。
最小回転半径4.3メートルと、取り回しの良さもヴィッツレベル。ヴィッツに乗ったことがある人なら分かる通り、こうした「どこでも一発Uターン」的な小回り性能はリッターカーが手放せなくなる大きな理由の一つだ。
街乗りに絞った足まわり
街中ではキビキビ走り、欠点が見あたらないパッソ。そこでいつものワインディングも走ってみたが、良い点は毎回同じ話で申し訳ないが、電動パワステのフィーリングが良いこと。つい数年前まで、リッターカーや軽自動車はこの電動パワステで大きく損をしていたから、ここは無視できないポイントだ。
ただ、限界域の操縦性はそれなりで、山道でプッシュすると155/80R13の細いタイヤがすぐに音を上げる。アンダーステアが強いのは予想できたが、極端なことをするとリアの落ち着きも少し頼りない。高速走行時の緊急回避性能を求める人には、14インチくらいのタイヤとそれに合わせたセッティングがベターだが、街乗りレベルには過剰な性能という判断か(コスト的にも)。
高速性能はヴィッツの1.0リッターに遜色ない。100km/h巡航程度なら十分に静かで、直進安定性はまったく問題ない。加速時のエンジン音はそれなりだが、巡航時に一番目立つ音源はヴィッツ同様ロードノイズだ。最高速も、アクセルベタ踏みでメーター読み150km/h程度は可能だ。
ここがイイ
ヴィッツより小さくてもヴィッツ並みの性能、居住空間を持つこと。後席はアイポイントが高く、十分実用に耐える。簡単に折りたためることや組み込み式ジュニアシートも、ヴィッツより良くできている部分。
排ガス規制がプリウスに次いで★4つであること、「平成22年度燃費基準+5%以上」の燃費性能などハードウェアとしての新しさと、それに伴う登録時の経済性。パッソ1リッターFF車では、取得税と初年度税額が合わせて3万円OFF。実質的な値引き販売に等しい。
ヴィッツほどの個性はないものの、アイデンティティのあるスタイリングは男女問わず乗れそう。ヴィッツは当初男女問わず乗れるクルマだったのだが、やはり次第に女性向けとなってしまった。パッソはもう少し道具っぽいので、男性でも乗れるというユニセックス路線を強調し続けて欲しい。
ついつい口ずさんでしまうCMソングとCF。クルマというよりグッズ的な訴求が新しい。脱力系のCMでもクルマが売れるという点で画期的。
豊富な荷物置き場。インパネセンター下の物入れは奥行きがあって使いやすいし、フロントシート間にある平らなバッグ置き場は秀逸。バッグ置き場をどうして考えないのかと常々思っていたが、ついに不満のないものが登場した。
カードキー(キーフリーシステム)のサイズ。カードサイズながら相当厚い(1cm弱)が、それがかえって使いやすい。薄っぺらいカードキーはどうにも所在無げ。これくらい存在感があると無くさないだろう。ポケットのどこへ入れたか探さなくていいのだ。もっともこの厚さは通常のリモコンロックを組み込んだ結果でもあるのだが、これもあると便利。
ここがダメ
メーター位置も見にくいが、何よりインパネに色気がない。質感はそう期待しない(現に高からず低からず)のだが、黒一色では味気ないし、デザイン的にも古くさい。21世紀の大衆車としての提案が欲しかった。
ダイハツの方のCM。男性には絶対買わせないという意志が見える!? あのCMを見たらブーンを買いたいと思う男性はいなくなるでしょう。販売的にトヨタとの差別化を計るため、意図的にやっているとは思うが、あまりにもベタだ。
新車時は申し分ないが、耐久性は何年か乗ってみないと分からない。デイズでは初期ヴィッツ(多分にダイハツ製)に乗っているが、3年3万kmでタイミングベルトからの異音とオイル漏れを経験。今時のクルマで信じられないトラブル。もちろんクレームで無償修理。
1.0リッターなら、やっぱり4気筒が欲しい。トルクなどいろいろ理由付けはされているが、3気筒の方が1シリンダー少ない分、コストが安いというのが本音だろう。
キーフリーシステムがFパッケージには標準となるが、半分の車種に搭載される意義は大きい。ただ時々反応せず、困ったことがあった。携帯電話と同じポケットに入れているとそういうことが起きたように思うのだが?
総合評価
軽自動車に特典を与えてビンボーな国民が皆クルマに乗れるようにしよう、という国民車構想が、軽自動車をこれまで成長させてきた。しかしクルマとしての無理はどこかにあって、例えば現在の軽に800ccくらいのエンジンを乗せれば理想的な小型車になるのでは、といつも考えてきたのだが、軽をベースとしたパッソはほぼそれ。軽以上・小型車未満で、もはやなにも不満はない。
軽より全長200mm・全幅190mm拡大したものの、取り回し的にも価格的にも大差ないし、グリーン税制の恩恵で特に初年度は維持費の差もグッと抑えられるゆえ、中流意識のある家庭であればセカンドカーが軽でなくては、という呪縛から逃れられるだろう。しかし不況日本は所得格差を生んでおり、軽の絶対的な優位性が失われたわけではないが。
ということで、発売一ヶ月の受注状況がトヨタ2万5000台、ダイハツ4000台。これが納品されれば、ワゴンRを抑えてダントツ月販数日本一へ躍り出る。いよいよ小型車が軽自動車を超える日がやってきたのだ。実際は結構大きくて名ばかりの小型車であるフィットを抑えて、真の小型車が日本一の量販車となることで、いよいよ「クルマはこれで十分」という時代がやってきた。実際、足として使うとこんな便利なクルマはない。しかもその気になれば4人乗ったり、荷物を積んだりもできるわけで、単なるシティコミューターでもない。排ガスもきれいだし、普通の人が走る速度での高速巡航も十分な性能。日本人の多数を占める「クルマに興味はないが、必要なので乗る」という人は全員これを買うべき。はっきり言ってこれ以上の性能のクルマは、そういう人には必要がないし、資源のムダ(ちょっと過激ですが)。
とはいえ、クルマは機能性だけで売られるもの、買うものでもない。パッソは新しい道具としてたいへん良くできているが、ヴィッツのようなクラスレス感がなく、あくまで安い小型車だ。ヴィッツには小型車の良さに加えてオシャレ感や欧州車のような個性が強く感じられたのだが、パッソにはそれがない。ヴィッツは都会(及び都会風)のオシャレな奥さん、お嬢さんから、欧州車らしさが気に入った男性までが乗れる懐の深さやクラスレス感があったが、パッソはあくまで「プチ・トヨタ」、いわゆる軽と同様の実用車として買われていくのだろう。クラスレスでブランド品となったヴィッツ、クラスそのものの実用品であるパッソ。これがヴィッツとパッソの大きな違いであり、それを象徴しているのが4気筒と3気筒の差と言える。
とにかく、これで日本のフォルクスワーゲン=理想の国民車ができた。本来日本の国民車である軽をベースに理想的な小型車を作ったわけで、これは軽主力のメーカーではやりたくてもできなかったこと。ダイハツを完全子会社化したトヨタだからこそできたことだ。そしてこれは世界の国民車になり得るわけで、世界の自動車業界トップの座を獲得するための先鋭として送り込んできた最新兵器!? がパッソだろう(海外でもかなり売れそうだ)。前述のようにクルマを趣味的、ステイタス的に考えない人なら、これに乗って誰も不満はないはず。こうなると例えば三菱コルトなどは、販売的にとどめを刺されたといってもいい。三菱は体質うんぬん以前に、商品力が弱いことが一番の辛さ。ますますトヨタ(グループ)が強くなって(シェアが上がって)いく……。
試乗車スペック
トヨタ パッソ X Fパッケージ
(1.0リッター・4AT・109万2000円)
●形式:DBA-KGC10-AHSAK●全長3595mm×全幅1665mm×全高1535mm●ホイールベース:2440mm●車重(車検証記載値):900kg(F:550+R:350)●乗車定員:5名●エンジン型式:1KR-FE●996cc・DOHC・4バルブ直列3気筒・横置●71ps(52kW)/6000rpm、9.6kgm (94Nm)/3600rpm●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/40L●10・15モード燃費:21.0km/L●駆動方式:前輪駆動(FF)●タイヤ:155/80R13(FALKEN SINCERA SN-535)●価格:109万2000円(試乗車:125万3700円 ※オプション:ナビ&CD/チューナー 9万7650円、サイド&カーテンエアバッグ 6万3000円、パール塗装 2万1000円、ラジオレス -1万9950円)●試乗距離:約130km
公式サイトhttp://www.toyota.co.jp/Showroom/All_toyota_lineup/passo/index.html

