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新車試乗記 第391回 トヨタ ラクティス GS パッケージ Toyota Ractis G "S Package"

(1.5リッター・CVT・172万2000円)



日時: 2005年11月12日

 

キャラクター&開発コンセプト

高速大容量の万能コンパクトカー

2005年10月3日に発売されたラクティスは、ラインナップから言えばファンカーゴの後継だが、コンセプト的には異なったモデル。「携帯空間」ファンカーゴはその名の通りカーゴ(貨物)重視だったが、ラクティスは大人4人が快適に乗れる万能コンパクトカーを目指している。開発テーマはブロードバンド時代を連想させる「高速大容量スタイリング」、キャッチコピーは「Update! Your Life」となっている。

ベースはヴィッツ

シャシーはヴィッツのホイールベース延長版で、エンジンもヴィッツの1.3と1.5の改良版を採用。さらに7速パドルシフトやクルーズコントロール、1.6平方メートルの巨大なガラス製ルーフ(パノラマルーフ)を設定し、ホンダフィットや日産ノートを牽制する。一方で、天井高や低床フロアを生かして、クルマ椅子で直接乗り込める「車いす仕様車」(ベース車両と同じラインで生産)などのウエルキャブにも力を入れている。

ラクティスは国内専用

車名のRactisは、“Runner with ACTIvity & Space”からの造語。開発・評価は関東自動車と共同だが、生産はトヨタ自動車の高岡工場が行う。販売目標は月間7000台で、立ち上がり1カ月目はその3倍の約2万1000台を受注した。欧州でヤリスバーソの名で販売したファンカーゴと異なり、国内専用モデルとなる。

価格帯&グレード展開

価格は138万6000円~186万9000円。

グレードは大きく分けてベーシックな「X」(138万6000円~)と上級の「G」(151万2000円~)の2種類。さらに「Lパッケージ」(スマートエントリー&スタートシステム、オーディオ、オートエアコンなど。12万6000円)、パノラマルーフ(14万7000円)、「Sパッケージ」(専用外装やアルミホイール、リアディスクブレーキなど。21万円)、4WDの設定がある。150万円あたりが販売の中心となりそうだ。

パッケージング&スタイル

全長4メートル以下で背が高い

ボディサイズ(カッコ内はファンカーゴ比)は全長3955mm(+75)×全幅1695mm(+30)×全高1640mm(-60)、ホイールベースは2550mm(+50)。現行ヴィッツ比では、245mm長く、120mm背が高く、90mm胴長。ファンカーゴよりこぶし1つ分低いものの、やはり背が高いのが特徴だ。律儀に4メートルを切った全長は、1メートル単位で料金が異なるカーフェリー利用時に嬉しい。

外観デザインはファンカーゴ風でもあり、フィットやノートのようでもあり、要するに既視感はあるが、16インチホイールに助けられて背が高いわりにうまくまとまっている。尖ったフロントや尾ひれ状に「く」の字になったテール部分のせいか、小沢コージ氏が某媒体で「“おサカナ"っぽい」と書いていたのに思わず納得。

ドライバー中心のインパネ

グルッとかたつむりの殻のように円を描くインパネ。メーターはドライバー正面だが、ステアリングの上から視るタイプ。シフトレバーは操作しやすいインパネシフトになっている。インパネに収納スペースを設けたのは現行ヴィッツと同じ。運転席と助手席の間には便利な折畳式センターコンソールが付く。前後ウォークスルーもやろうと思えば可能だ。

スタートボタンは左側に

今回の試乗車は違うが、スマートキー仕様だとスタートボタンはレクサスと同じステアリング左側。プリウスやゼロクラウンなど従来のトヨタブランド車は右側だが、これからは順次左側に切り替えてゆくという。「まだ過渡的な状況ですが、慣れてしまえばシフトレバーを操作する左手が自然ですから」というのが開発スタッフの説明だ。

2人掛けを重視した後席

アームレストや座面部分を180度回転させて使うセンターテーブルを備えて、大人2人掛けを優先した後席。このあたりは日本で影が薄いオペル・メリーバと似たコンセプトだが、あそこまで凝った仕組みや本格的なリムジンモードは持たない。座面と背もたれはやや短めだが、薄さを感じさせないクッションで座り心地に配慮している。後席の乗り心地が不評だったファンカーゴから改善された点だ。

普段は1~2名乗車で、さらにレジャー用の道具を積みたいところ。5人乗車時でもスーツケースが3つ積めるし、後席を足もとにダイブインさせれば、片手で簡単にフラットな荷室スペースが出来上がる(4WDは一般的なダブルフォールディング式となる)。この時の荷室長は1540mm、荷室高1055mm。ファンカーゴほど徹底して機能的ではないが、自転車を立てた状態で2台積めるようだ。

基本性能&ドライブフィール

1.5リッター+CVTで自然な走り

試乗車は1.5リッターの2WD。エンジンはおなじみ「1NZ-FE」(110ps、14.4kg-m)で、変速機は7速マニュアルモード付きCVT。このクラスのCVTに消極的だったトヨタもここに来て開発改良ぶりは著しく、この1.5リッター+CVTはすこぶる完成度が高い。燃費の良さでトルコン4ATに上回るだけでなく、変速制御の自然さではもはや5ATに並びそうな出来だ。電子制御スロットルの緻密なプログラムも理由の一つのようだ。

トヨタブランド初のパドルシフトによる7速マニュアルモードも、低回転から力があるエンジンと相性が良く、使いやすい。このパドルは仕上げがメッキか黒塗装かだけでパーツ自体はレクサスISと同じという。惜しむらくは、いつも書くようにパドル操作だけではマニュアルモードに移行してくれない点だ。また、高回転でのベルトノイズもまだ皆無とは言えない。

全車標準の175/60R16タイヤ

ボディの剛性感をはじめ、走りのしっかり感には感心した。背の高さを感じさせないフットワークで、ワインディングから高速道路までしなやかに走ってくれる。それを可能としたのが、最初から全車標準と決まっていた大径175/60R16タイヤと、それに合わせて開発されたシャシーだ。

採用の動機はデザイン、つまり大きなホイールとタイヤのカッコ良さであると開発スタッフも明言していたが、オーバースペック感はまったくない。現行ヴィッツRSの195/50R16はブリヂストンのレグノで当然これも悪くないが、コストや走行抵抗、ステアリング切れ角、操縦性、空力などの点で、175/60サイズが良いのは当然だ。そういえばヴィッツRSの最小回転半径が5.5メートルなのに対して、ラクティスは4.9メートルしかない。今のところリプレイス用タイヤは少ないが(2005年11月現在ではブリヂストンのPlayzがある)、これからどんどんポピュラーになるだろう。さすがにスタッドレスはすでに各種揃っているので、この冬は大丈夫だ。試乗車の工場装着タイヤはダンロップのSPスポーツ2030で、発表会では他にBSのB250があった。

CVTとクルーズコントロールの相乗効果

「高速大容量」を謳うだけに、高速走行も得意だ。100km時のエンジン回転数は2000回転ほど。このクラスでは珍しいクルーズコントロール(Gグレードの2WD全車)とCVTとの組み合わせで、ゆるゆる低回転で巡航できる。燃費がいいだけでなく、静かだし、運転していてストレスもたまらない。これで低価格のレーダークルーズになれば理想的だ。

ここがイイ

ウィッシュ同様、フィットやノートといった小型車潰しとも言える後出しジャンケン。あえてイイというのは、フツーの消費者にとって、それらライバルより明らかにお買い得感が高いからだ。どのライバル車より明らかにちょっとだけイイ。小型車、ワゴン、ミニバンそれらの良さげなエッセンスをとりまとめてあるわけで、もはや死角らしい死角なし。最近のトレンドである巨大なパノラマルーフまでちゃんと用意されているのだから。

その上、スポーティな走りもそこそこ楽しめてしまう。背の高さから考えるとこの安定感は驚異的。マニュアルモードで7速モードを使って走ると、これこそ21世紀の走りだと思えてくる。もちろんそうとう玩具っぽいが、スタイル、走り共に実寸大チョロQという感じで、これぞ新しい「クルマの楽しさ」なのだろう。

ウェルキャブっぽくないスタイルで、本格的なウェルキャブ仕様が選べ、今までより安い。特に助手席タンブルシート仕様で運転席の横まで車いすが引き込めるタイプは、今までにないもの。運転手が介護しやすいだけでなく、助手席位置に乗れることは、障害のある人にとって、すごくうれしいはず。ここまで見晴らしのいい乗車はなかなか出来ないはずだから。

ここがダメ

いかにもカーゴだったファンカーゴと比較すれば確かに乗用車っぽいことは間違いないが、それでもスタイリングに関しては最後までカッコ良さは感じられなかった。いや、カッコよくなくてもいいが、それなりの個性とか、主義主張の強さがどこかに欲しい。誰が見てもスタイリングは没個性に映るだろう。昨今のクルマはスタイリングが最重要ポイントといってもいい。ラクティスはパッケージングや走りは出来過ぎなほどよく出来ているが、肝心のスタイリングに関してはやがて販売にボディブローのように効いてくるのではないか。

センターメーターをそのまま運転席前に置いたようなパノラマビューメーターのインパネは、通常のメーター位置が物入れだ。センターメーターが初めてヴィッツについたとき、これでカーナビモニターがメーター位置につくことになる、と喜んだものだが、それはかなわぬまま、ラクティスではデザイン性重視の奇抜なメーター位置となったようだ。シンプルにセンターメーターをキープし、ナビモニターをドライバーの正面に置くのが理想だと思う。

総合評価

前述したように、おおよそ全てのことがこの一台でまかなえる。ファンカーゴはヴィッツに対する別バージョンというスタンスだったが、後席の居住性が高まったラクティスでは、ヴィッツ同様に4人乗りが快適。もはやヴィッツが要らないんじゃないか、とすら思う。さらにパドルシフトに象徴されるスポーツ性を持たせたことも、このクルマのマルチ感を高めている。折り畳み機能のため後席の背もたれが低いのはさすがに気になるが、カーテンシールドエアバッグもあるし、セルシオとたくさんぶつけてテストしたという全方位コンパティビリティ・ボディの衝突安全性も、さすが最新車というレベルで、一昔前のクルマより相当安全だろう。

さらにこのクルマの重要なポイントは、クルーズコントロールだ。上級グレードに限るとはいえ、このクラスに初めて標準装備されたことは、今までこの装置を知らなかった人が使い始めるということ。これはやがてレーダークルーズに発展するはずで、そのための下地作りということだ。何年先になるかはわからないが、やがて来る自動運転を身近なものとするための布石、といえる。特にこのクルマの場合、クルーズコントロールにまかせておくと、CVTの特性をうまく利用して上り下りの高速でもたいへんエコなエンジンの使い方をしてくれる。燃費は下手な人の運転よりきっといいだろう。高速巡航では1.5リッター車とは思えない静粛性がある。

クルーズコントロールだけでなく、スマートキーとスイッチ始動、30GBのもちろんG-BOOKアルファ対応のHDDナビも用意されている。ETCやイモビももちろんある。走りの面では最上級のSパッケージだけだが、6万3000円でVSCとTRCもつけられる。これらがこのクラスに用意されたことはたいへん重要だと思う。今のところこのクルマが一番小さなハイテクカーだ。

しかしこうなるとスタイルが残念。同時にTVCFなどSP(セールスプロモーション)が妙に若者向けに振ってあるのも不満だ。開発コンセプトとしては若者だけでなく全年齢を対象にしているというし、事実、熟年層向けのオンリーワンクルマにもぴったり。しかしながら、スタイルと若者向け風の記号性が強調されるゆえ、それは難しいのではないだろうか。アリオンをやめてラクティスにしようという気持ちに熟年をさせてくれない。もちろんアリオンを売れなくするわけにはいかないから、現在の展開なのだろう。それはわかっているが、このクルマをもっと広い層に知らしめることができれば、と思う。

ヴィッツやフィットがヒットしたとき、それらはクラスを感じさせなかった。小さいのに誇りを持てるという記号性があった。それはスタイリングだけじゃないと思う。ラクティスはハード面ではすでに全てを備えた。今回欧州へ輸出されない最大の理由は、出せばヤリスをくってしまうということではないか。それくらいよくできている。不足は「好んで小さいクルマに乗っているという誇り」が持ちづらいことだ。

試乗車スペック
トヨタラクティス G“S パッケージ”
(1.5L・CVT・172万2000円)

●形式:DBA-NCP100-CHXGK(S)●全長3955mm×全幅1695mm×全高1640mm●ホイールベース:2550mm●車重(車検証記載値):1150kg(F:710+R:440)●乗車定員:5名 ●エンジン型式:1NZ-FE●1496cc・DOHC・4バルブ・直列4気筒・横置●110ps(81kW)/6000rpm、14.4kgm (141Nm)/3500rpm●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/42L●10・15モード燃費:18.0km/L●駆動方式:前輪駆動●タイヤ:175/60R16(DUNLOP SP SPORT 2030)●試乗車価格:218万2950円(含むオプション:HDDナビ 32万250円、VSC&TRC 6万3000円、サイドエアバッグ 6万3000円、ETCユニット 1万4700円)●試乗距離:200km

公式サイトhttp://toyota.jp/ractis/index.html

 
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