Published by DAYS since 1997 from Nagoya, Japan. 名古屋から全国に発信する新車試乗記や不定期コラム、クルマ情報サイト

ホーム > 新車試乗記 > メルセデス・ベンツ S350

メルセデス・ベンツ S350新車試乗記(第434回)

Mercedes-Benz S350

(3.5L・7AT・987万円)

バブル期を象徴したW140、
そして先代W220を経て、
登場した新型W221の
゛ベーシックモデル"に試乗!

2006年10月07日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加 
  • mixiチェック
 
 
 

キャラクター&開発コンセプト

新しい旗艦「W221」

2005年10月4日に日本で発売されたメルセデスの旗艦、新型Sクラス「W221」。その特徴は端的に言って先代「W220」(1998年)で課題となった高級感や存在感を取り戻すこと。結果としてサイズとコンセプトは重厚長大だった「W140」(1991年)と小型・軽量化を進めた「W220」の中道を行くものになった。

Sクラスらしく新機軸の採用にも積極的で、電子制御シフトレバー「ダイレクトセレクト」や快適装備を集中制御する「コマンドシステム」などの新しい操作系をはじめ、赤外線映像を液晶パネルに映し出す「ナイトビューアシスト」など、先端系のトピックも多い。

価格帯&グレード展開

987万円から、2782万5000円!まで

2005年10月当初に日本へ導入されたのは「S350」、「S500」 「S500ロング」の3モデル。さらに06年5月に「S65AMGロング」を、同年6月に「S600ロング」を加えて、06年10月現在(限定車を除く)は以下の5モデル。上級モデルのパワーとトルクは圧巻だ。

S350・・・・・・・・・・・・・・3.5・V6(7AT)(272ps・35.7kg-m) 987万円
S500・・・・・・・・・・・・・・5.5・V8(7AT)(387ps・54.0kg-m) 1260万円
S500ロング・・・・・・・・5.5・V8(7AT)(387ps・54.0kg-m) 1396万5000円
S600ロング・・・・・・・・5.5・V12ツインターボ(5AT)(517ps・84.6kg-m) 1900万5000円
S65AMGロング・・・6.0・V12ツインターボ(5AT)(612ps・102.0kg-m) 2782万5000円

パッケージング&スタイル

保守反動? W140時代に回帰

試乗車はベーシックモデル(と呼ぶのは不適当か)のS350。ボディサイズ(カッコ内は先代W210比)は全長5075mm(+30)×全幅1870mm(+15)×全高1485mm(+40)、ホイールベース:3035mm(+70)。巨大だが、アウディA8やジャガーXJ、新型レクサスLSといったライバル車も似たようなもので、ベンツだけが大きいわけではない。ロングモデルの全長とホイールベースは、さらに130mm長い。

面白いのはこの新型でさえホワイトエレファントと呼ばれた先々代「W140」より小さいことだ(全長-45mm、全幅-15mm、全高-5mm)。しかし、あの小山のような迫力を取り戻したのは確かで、車重もS350で1900kg、S600ロングに至っては2190kg(いずれも標準仕様)と、先代W210より200kg以上重く、ちょうどW140レベルに戻っている。

S350からS600ロングまで装着タイヤは18インチで、外観もほとんど差がないから、バッジを外すと素人がグレードを判断するのは困難。価格は倍、パワーも倍、なのだが。

評価を左右しそうな操作系

操作系とデザインを一新したインパネの眺めこそ、新型の見所であり、評価を左右するポイントだ。シフトレバーはBMW・7シリーズのような電子制御レバー「ダイレクトセレクト(DIRECT SELECT)」に進化。「P-R-N-D」の配列もソックリで、現行7シリーズを運転した経験があれば戸惑いは少ない。・・・かもしれないが、やはり通常の操作とまったく違うので、慣れが必要だ。ボタン式の駐車ブレーキは「押してオン」、手戻し式駐車ブレーキ風に「指を掛けて引くとオフ」となる。

賛否両論ありそうな操作系とは反対に、インテリアの高級感は申し分ない。かつての野暮ったい雰囲気は消えて、マットシルバー仕上げのスイッチ類、品のいいウッドパネル、センターのアナログ時計(分針が1分刻みでカチッと動く)など、1000万~2000万円台の高級車らしい気遣いがある。S65AMGの場合、時計はIWCの「インヂュニア」デザインに変更。まあ、2800万円も払う身になれば、これぐらいのサービスは当然か。

iDrive風のコマンドシステム

20GBのHDDナビやオーディオ(6連DVDチェンジャー付)は、センターコンソール上のダイヤル式コントローラー「コマンドシステム」で操作する。これも見た目同様、BMWのiDrive風にメニューで項目を選んで決定、というパソコン的な操作を強いられる。慣れるまで少々ストレスを感じるが、少なくとも初期のiDriveより分かりやすい。

絵のように奥行き感のない速度計は、8インチ高精細ワイドディスプレイに映し出したもの。これは赤外線カメラを使った「ナイトビューアシスト」の映像を映すモニターともなる(S350はオプション)。このあたりはハイテク日本車にもない斬新な機構ではある。

ボディの切断ポイントも一目で分かる

写真で後席が広く見えないのは、シート自体が大きいせい。試乗車はS350の標準ボディで、電動調節やマッサージ機能もないが、実用としては十分だろう。折り畳み式のヘッドレストが3個備わるが、センタートンネルで足の置き場がないので、実質2人掛けだ。

安全性能にも多くのトピックがあるが、中でも面白いのは「ボディ切断ポイントのマーキング」だ。事故の際、乗員救出のためにレスキューがボディの切断を素早く行えるよう、ボディに切断ポイントがマーキングしてあるのだ。エアバッグのないAピラーとCピラーの左右、4ヵ所がそうで、いかにもドイツ車らしいアイディアと言える。

特別大きくはないが、十分なトランク

トランク容量は524リッターと「並み」。VWジェッタ(527リッター)と同レベルだが、セダンのトランクとしてはこれで十分だろう。トランクスルーは(最高級車ゆえ)もちろん無い。トランクリッドはBMWやレクサスのような電動ではなく、手動。しかし、当然の装備とはいえ、電磁クロージャー(軽く閉めてもロックするまで引き込む)があるのはありがたい。

基本性能&ドライブフィール

パワー感そこそこの知的な走り

試乗したのは車両価格が1000万円を切るS350。EクラスやCLSでおなじみの3.5リッターV6(272ps、35.7kg-m)+7ATで引っ張るボディは1920kg(試乗車)。ミディアムクラスなら期待以上の速さを発揮するこのユニットも、さすがに200kg増は足かせのようで、高回転まで回すことが多くなる。しかし、低めのギアからカバーする7ATのおかげで、ある意味スポーティといえばスポーティで、大きなボディを小さなエンジンで動かす感じは知的にも思える。とっつきにくい操作系も、いったん走り出せば戸惑うことはない。

気になったのは様々なメカニカルノイズだ。ロードノイズは静かなクルマだが、それゆえパワートレインから聞こえる「ウィーーン」というスーパーチャージャーのような音や、加速中スロットルを戻した時にエンジン側からたまに聞こえる「カシャッ」という何かの作動音?は耳慣れないものだけに少々気になった。

可変ダンパーとパワートレインを統合制御

S500に比べて車重が軽いせいか乗り心地は固めだが、やはり同クラスの欧州車もおしなべて固めだから、おおまかに言えば大差ない。もちろん、走行モードの切り換えによって、可変ダンパー「ADS」(アダプティブ・ダンピング・システム)の制御マップはスポーツからコンフォートまで性格を変える。全車標準の「AIRマティックサスペンション」によって、低速では車高を上げることも可能だ。

爽快感と重厚感

「S」モードで飛ばした時の走りはなかなか爽快だ。「コォーーン」とSクラスらしからぬ快音と2トンの車重を忘れさせる素直さで、コーナーもまずまず思った通りにクリアしてくれる。パワーもほどほどなので、ワインディングでそれなりに楽しめる。アルミボディのジャガーのような軽快感こそないが、フラッグシップらしからぬ走りの楽しさは、最新車らしいところだ。

今回はウェットでの試乗で、トラクションコントロールを主にESPの作動は頻繁だったが、介入は一瞬で、しかもヤンワリと入るから水を差される感じはない。直進安定性は想像した通り、最高レベルだろう。とはいえ、もはやこのクラスのFR車なら、オーバー200㎞/hの世界でしか差は出ない。100㎞/h台のクルージングではゼロクラウンの方がむしろ速度感のない走りをする。Sクラスはより疾走感があり、それがメルセデスの味付けといえそうだ。

ここがイイ

先代より威厳を取り戻したこと。コマンドシステムなど斬新な操作系と様々なハイテク装備。ディストロニック(レーダークルーズコントロール、全車オプション)、パークトロニック(バンパー下センサー)、パーキング・アシスト・リアビューカメラ、タイヤ空気圧警告システム、アクティブライト(ステアリング連動ライト、角度最大12度)、コーナリングライト、ナイトビューアシスト(赤外線カメラとメーター上のディスプレイ、S500まではオプション)など、どれも目新しさこそないが、きちんと用意されていることは評価できる。ETCももちろん標準装備だ。

安全装備、というより、安全性確保への取り組み。助手席の目立つところに救急バッグを置くことくらいは想定内だが、さらにレスキュー用にボディの切断ポイントを明記するという発想に至っては、あらためて国民性の差を感じさせる。「事故を無くそう」ではなく、「事故は起きる」という現実認識の差がクルマ作りに現れている。

ここがダメ

難解な操作系。走行中の様々なメカニカルノイズ。また組み込まれた標準装備カーナビは地デジ非対応。2011年以降も必ず生き残るロングライフなクルマなだけに、オプション対応への道がないとすれば厳しい。また後席用ディスプレイの用意もなく、ショーファードリブンカーとしては後席エンターテイメント性が弱い。

試乗車の電動・革張りシートは、調整ポイントが多く、作りも豪華だが、身長160cm台から180cm台のスタッフまで、いずれも感想は芳しくなかった。小柄だと何となくシート全体が大き過ぎて体にぴったり来ないし、逆に身長が高いとヘッドクリアランスに余裕がない。S350ではシートベンチレーターがオプションにもないというのは残念。

総合評価

ソフトウェアのクルマ、というのがこのSクラスだと思う。どういうことかというと、まずハードウェアとしての走りだとか、パッケージングだとかは、まあ総じて不満がない。試乗したのがS350だったので、パワー感・トルク感はやや不満が残ったが、それもS500に乗れば問題ではなくなるはずだ。巨体ながらそこそこスポーティだし、快適性の面でむろん不満はない。このクラスのクルマに今さらハードウェアの不満を言っても仕方あるまい。

となるとソフト面での勝負。まずは見てくれ。デザインには高級感と同時に、他を寄せ付けない威圧感は確かにある。先々代より軽く見え、先代より大きく重厚に見えるというエクステリアは、まあまあ成功か。ただ、無理矢理大きく張り出させたような印象のリアフェンダーは、相対的にタイヤが小さく見えてしまい、素直にカッコ良さを感じることができない。

フロントグリルの主張はいつものとおりで、ブランド力と相まっていつもながらの威圧感を醸し出しているが、アウディのシングルフレームグリルやフォルクスワーゲンのワッペングリルあたりの方が「エグさ」ではすでに上。ボディサイズがでかいゆえに存在感はあるのだが、意外に強さや怖さは感じさせない。

そうはいってもボンネットフードのスリーポインテッドスターはメルセデスだけのもの。ジャガーだってオプションでしか「ジャガーマスコット」はなく、これがメルセデスのプレミアム感を高めていることは間違いないのだが、世界各国の高級車は何故これをやらないのだろう。そうしたクルマを中国あたりでは見かけるように、つまり「ステイタス感」と「お下劣」のギリギリとなる冒険は犯したくないということだと思うが、それゆえ高級車のアイデンティティではメルセデスの独走を許しているわけだ。

ソフト面といえば、独自の操作系も本来なら大きなメリットとなるはずだろう。ただハイテク日本車でもプリウスくらいしかやっていない操作系の革新は、ことこういった高級車を好む日本のユーザーにとってはメリットにならない。先進的すぎてついて行けない熟年ドライバー続出ということになるはずだ。コマンドコントローラーもよく考えられていて、パッドに手の平ひらを置いて指先で回すという動作はパソコンのトラックボールのようで、相当使いやすくなっているが、使いこなすにはかなりの学習が必要になる。ハイテクが目の前に整備されていながら使いこなせないデジタルデバイドが問題になっている昨今、こうした先進装備を最高級車に載せるというチャレンジができるのは、マーケット追従の発想がないドイツ車ゆえのことだろう。レクサスLSがこと操作系に関しては、かなり保守的なクルマであるのと正反対だ。

面白いのはナビの地図を広域にしていくと、グーグルアースみたいな衛星写真風の表示になること。もちろんズームアップしていくと建物が3D表示されるわけで、このあたりもグーグルアースっぽい。パソコン地図ソフトの世界はグーグルマップなどのweb地図によってすでに凌駕されてしまったが、通信に弱点があるクルマではHDDのデータに頼らざるを得ず、その意味ではweb2.0の世界はまだまだ。そしてこの通信に関してはメルセデスにはまだ何も提案がなされていない。携帯電話でオペレータに目的地設定をしてもらうなどという、熟年ドライバーが喜ぶベタな仕掛けすらもないわけで、トヨタ・日産・ホンダの先進性が光ってしまう。かなりハイテクなクルマなのだが、その実は伴っていないことに今後の販売的な厳しさが見えてしまう。

おそらくこの手のクルマを求める人は、ベーシックな使い方しかしないだろう。となると様々なハイテクは宝の持ち腐れにもなりかねない。北米や欧州ではこのハイテクさがステータス感にもつながるはずだが、こと日本ではそれが逆効果になる。つまりSクラスはクルマの基本的なハード面よりソフト面にこそ価値があるクルマだが、それがなかなか理解されにくいクルマになってしまっている。そしてハイテクを用いて、世界中で売れる仕様のクルマを作ることの難しさを痛感させる。全盛期より日本国内でのシェアを落としているのは、景気のためだけではないと思う。また、「BMWに負けを認めた初めてのメルセデス」とまでは言えないが、この分野でBMWを追ってしまったことも確かだ。

それでも今の売れ行きを支えているのは最強のソフト「ベンツというブランド」だ。例えばこのS350とレクサスLSはほぼ同じ価格帯だが、冷静に比較するとどちらを買うかはなかなか微妙だろう。LSの方がおそらく使用満足度は高い。しかしブランド品を買うという点では、圧倒的にS350が優位になる。特にこのクラスはそう冷静に比較される商品ではないから、当分Sの優位は守られるだろう。ただ、でかくて快適で、必要な装備だけが用意されたコンサバな高級車(先々代はまさにそれだった)には今さらもう戻れない。いよいよメルセデス・ベンツも、高級車市場で多くのライバルと同じ土俵で戦わざるを得なくなったわけだ。

試乗車スペック
メルセデス・ベンツ S350
(3.5L・7AT・987万円)

●形式:DBA-221056●全長5075mm×全幅1870mm×全高1485mm●ホイールベース:3035mm●車重(車検証記載値):1920kg(F:1020+R:900)●乗車定員:5名●エンジン型式:272●3497cc・V型6気筒・DOHC・4バルブ・縦置●272ps(200kW)/6000rpm、35.7kg-m (350Nm)/2400-5000rpm●カム駆動:チェーン●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/90L●10・15モード燃費:8.4 km/L●駆動方式:後輪駆動(FR)●タイヤ:255/45R18(MICHELIN PILOT PRIMACY)●試乗車価格:1058万4000円(含むオプション:ガラス・スライディングルーフ 17万8500円、ラグジュアリーパッケージ<本革シート、前席シートヒーター&メモリー付パワーシート、運転席側イージーエントリー、助手席側リパースポジション機能付ドアミラー、パークトロニック> 53万5500円)●試乗距離:約120km●試乗日:2006年10月

公式サイト http://www.mercedes-benz.co.jp/passenger/car_lineup/s-class/index.html

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加 
  • mixiチェック
 
 
 
 

最近の試乗記一覧