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ホンダ S660 α新車試乗記(第762回)

Honda S660 α

(660cc 直3ターボ・6MT・218万円)

ミッドシップ・アミューズメント再び?
ホンダ “S”の末裔は
一体どんなクルマだった?

2015年06月26日

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キャラクター&開発コンセプト

ミッドシップのオープン軽スポーツ


ホンダ S660
(photo:Honda)

2015年3月30日に発表、4月2日に発売された「S660(エスロクロクマル)」は、軽自動車の新型2シーター・オープンスポーツ。660ccの直3ターボエンジンを、専用オープンボディのミッドシップ(乗員より後ろの車体中央)に搭載したもので、ホンダによれば「見て楽しい、乗って楽しい、あらゆる場面でいつでもワクワクする、心が昂ぶる本格スポーツカー」だ。

 

ホンダ ビート (1991年)
(photo:Honda)

ホンダにとっては「S2000」(1999~2009年)以来の本格オープンスポーツだが、むしろ同じ軽自動車のミッドシップ・オープンスポーツだった「ビート」(1991~1996年)の後継車と言うべきだろう。

ちなみに「S」で始まる車名は、ホンダ初の4輪乗用車として登場したFRオープンスポーツのS500/600/800シリーズ、そしてS2000に続くもの。

八千代工業が半手作りで生産


ホンダ EV-Ster(2011年 東京モーターショー)
(photo:Honda)

開発はホンダの社内公募で1位になった企画からスタート。その企画案を出した、1988年生まれでモデラー出身の椋本陵(むくもと りょう)氏が開発責任者(LPL)に抜擢され、平均年齢38歳のチームで行われた。

生産はビートと同じ八千代工業に委託。同社は現在、四日市製作所(三重県)でアクティやバモスを生産しており(いずれも軽のミッドシップ車)、S660も同工場で生産される。ただしS660の生産は、日産40台の専用組立ラインで、「人の手と機械を融合させた」少量生産技術によって行われる。

販売計画台数は月800台


ホンダ S660 Concept(2013年 東京モーターショー)

販売計画台数は、生産能力に応じて月800台。つまり年間約1万台だが、すでに2015年内の納車分は完売で、6月下旬現在は来年1~3月納車分(約2400台)をオーダー受付中。なお、ホンダによればS660は国内専用車で、海外への輸出は考えていないという。

ちなみにビートの販売計画台数は月間3000台。累計販売台数は5年間で約3万4000台だった。

【参考記事】 【外部リンク】
 

価格帯&グレード展開

198万円からスタート。上級グレード「α」は218万円


S660 β。ボディカラーは全6色で、写真はプレミアムミスティックナイト・パール(ブラック)
(photo:Honda)

ベースグレード「β」(6MT、CVT)は198万円。このβでも素の状態で、VSA(ABS+TCS+横滑り抑制)、サイドエアバッグを含む4エアバッグ、オーディオ(iPod対応USBプレーヤー/AM・FMチューナー)、スマートキー、フルオートエアコン、前15/後16インチアルミホイール、LEDヘッドライト(ロービーム)が標準装備になる。

 

S660 α
(photo:Honda)

上級グレード「α」(6MT、CVT)は218万円。こちらには本革×ラックススエードのスポーツレザーシート、本革巻ステアリング、インテリア各部へのメッキ加飾、ステンレス製スポーツペダル、クルーズコントロール、クリアサイドターンランプ等が標準装備され、アルミホイールがシルバー/ブラックの2トーン塗装になる。

 

S660 CONCEPT EDITION
(photo:Honda)

そしてすでに完売したが、S660発売記念の660台限定車「S660 CONCEPT EDITION」が238万円。これはボディカラーを白(プレミアムスターホワイト・パール)とし、ボルドーレッドのロールトップ(幌)、センターディスプレイ、シティブレーキアクティブシステム等を標準装備したもの。

ちなみに1991年当時、ビートの新車価格は138万8000円で、今風に消費税8%込にすれば約150万円。マニュアルエアコンは標準標準だったが、リモコンキーや集中ドアロックはなく、ステアリングはノンパワー(重ステ)で、運転席エアバッグ、専用オーディオ、13/14インチアルミホイール、ABS(最終モデルで追加設定)はオプションだった。

低速自動ブレーキやセンターディスプレイはオプション


ホンダアクセスの純正アクセサリー装着車。アクティブスポイラー(約70km/hでリアスポイラーが上昇)も販売店オプションで用意する

メーカーオプションとしては、30km/h以下で自動ブレーキを作動させる「シティブレーキアクティブシステム」(低速域衝突軽減ブレーキ+誤発進抑制機能)が3万7800円で、Gメーターやブースト計などを表示できる6.1インチの「センターディスプレイ」(インターナビ ポケット連携対応)が4万8600円で用意される。

販売店オプションは多彩で、各種エアロパーツ、アルミホイール、ドリンクホルダー、チタン製シフトノブ、ハーフボディカバー等が用意される。また、約70km/hでポップアップし、約35km/hで格納される電動の「アクティブスポイラー」(16万2000円)もディーラーで“後付け”できる。

 

MUGEN S660
(photo:M-TEC)

さらに「無限」からは各種エアロパーツ、スポーツサイレンサー、クイックシフター等が用意されるほか、今夏にはハードトップ(23万5440円)が発売される予定。

 

パッケージング&スタイル

ミッドシップ、タルガトップの2シーターオープン

S660のスタイリングは、いかにもミッドシップといったウエッジシェイプ。低くて短いノーズ、低い全高、キャビン後方のエンジンフード、シャープな造形のライト類やドアミラー、エンジンルームへのエアインテークを兼ねたロールオーバーバー、センターマフラーなど全てがパーフェクトに、カッコよくデザインされている。

 

ボディ形状としては、いわゆるタルガトップのオープンボディで、この点ではフェラーリやランボルギーニといったスーパースポーツのオープンモデルをスケールダウンしたような感じ。ただしライトウェイトスポーツという点では、同じようなタルガトップのロータス エリーゼに近い。

ビートより少しロング&ワイド。ただし低さは同等


ホイールベースはビートより5mm長い2285mm

1998年の軽規格改訂に伴い、S660の全長は旧規格のビートより100mm長い3395mm、全幅は80mm大きい1475mmになり、プロポーションにはずいぶん余裕が生まれた。一方で、全高は1180mmとビート(1175mm)並み。現行の衝突安全基準や保安基準(燈火類の高さなど)を満たしながら、近年の量産車としては群を抜く低全高を実現している。

 

ホンダ S660
(photo:Honda)

ホンダ ビート
(photo:Honda)
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転
半径(m)
ホンダ ビート (1991~1996) 3295 1395 1175 2280 4.6
ホンダ S800 (1966~1970) 3335 1400 1200 2000
ホンダ S660 (2015~) 3395 1475 1180 2285 4.8
ロータス エリーゼ シリーズ2(2001~) 3800 1720 1130 2300
4代目(ND型)マツダ ロードスター (2015~) 3915 1735 1235 2310 4.7
ホンダ S2000(1999~2009) 4135 1750 1285 2400 5.4
 

インテリア&ラゲッジスペース

フル2シーターと言える空間

着座位置や視点はエリーゼほど低くないが、ビート並みには低く、つまり今どきの量産車としては抜群に低い。この点はフロントにエンジンのないミッドシップ車ゆえ。衝突時や横転時に乗員を守る極太Aピラーのせいで右斜め前は死角になるが、前方視界は悪くない。回転計を中心据えたメーターなど、専用部品が多数奢られたインパネは、機能的かつ質感高くデザインされている。

ステアリングホイールはホンダ市販車で最小径のφ350mm。ステアリングの調整機構はチルト(上下)のみで、テレスコ(前後)はなく、シートリフターもないが、平均的な体格(身長160~175cmくらい)なら不満のないポジションがとれる。ただし身長が180cmを超える場合は、頭がロールバーに当たりやすいようだ。また、MTの場合は、ソールの薄いドライビングシューズの方がヒール&トウはやりやすい。

 

シートは厚めのクッションで座り心地がよく、バックレストのサポート性も良好

室内空間はミニマムだが、助手席側の幅が運転席より狭かったビートと比べると、2名乗車時の快適性は明らかに上。ビートは大げさに言えば1+1的だったが、S660はフル2シーターと言える。

とはいえ、室内スペースに余裕はなく、ドリンクホルダーはセンターコンソール後方に一つあるだけ(手が届きにくい)。1DINサイズのスペースを確保できなかったので、CDプレーヤーはなく、オーディオはAM/FMラジオとUSB・iPod対応端子のみ。またエアコンのブロアユニットやエバポレーターも常識破りの専用品になっている。

なお、ヘッドレストの後方には、小さな電動昇降式リアガラスがある。これは風の巻き込みやエンジン音の聞こえ具合を調整するためのもの。走行中にここを開けると、風がエンジン側から室内に向かって吹きこみ、エンジン音もダイレクトに聞こえるようになる。詳しくは試乗インプレッションにて。

 

停止中、シフトレバーは5速、6速には入らないようで、右手前に引けば確実にリバースに入る

ペダルレイアウトは良好だが、ヒール&トウには、ソールの薄いスニーカーやドライビングシューズがベター
 

幌は脱着式の「ロールトップ」を採用


「ロールトップ」の脱着は慣れれば簡単だが、面倒でもあり、そこそこ重さもある
(photo:Honda)

正式発表まで秘密だったルーフ構造は、ロータス エリーゼのように折り畳んでトランク内に収納する幌「ロールトップ」になった。

オープンにする際の手順は、以下の通り。慣れれば1~2分といったところか。

1、ボンネットを開け、さらにロールトップ収納ボックスのカバーを開けておく。
2、ロールトップの左右にあるレバーを反転して、ロックを解除する。中央のフックも外す。
2、左右から、巻き寿司のようにトップを巻いて畳む。
3、ロールトップ(約8kg)を外し、落とさないように気をつけながら、収納ボックスに収納して、ストラップで止める。
4、収納ボックスのフタをしめて、ボンネットを閉める。

脱着は簡単と言えば簡単だが、ロールトップがけっこう重いので(骨はアルミ製だが)、手を滑らせて落とすのは避けたいところ。

 

オープン時にはボンネットの下に脱着式の「ロールトップ」を収納。クローズド時は小物入れになる

なお、乗ったままロールトップを外してオープンにすることは可能だが(実際にやってみた)、その場合はロールトップを助手席に置くことになり、もちろんお勧めはしない。

また、このロールトップ、構造的に走行中の雨漏りや気密性、遮音性に疑問が残る。その点についても次ページ以降で触れる。

 

積載スペースは事実上ゼロ


ボンネットはビートの逆で、後ろヒンジ。贅沢にも2本のガスストラットで開く

二人乗り時の積載スペースは、幌を収納するためのボンネット下の収納スペースのみ。ここに幌が入っていない時(クローズド時)には「折り畳み傘やスケートボード」が入るとのことだが、積載スペースは事実上ゼロと言っていいだろう。うーむ。

 

エンジンルームはエンジンのみ。マフラーの上に何もないのが少々もったいない感じ

室内にも、シート背後にはブリーフケースといったごく薄いものしか入らないし、小物入れも最小限。要するに手荷物は、実質的に助手席シートの上か、その足下に置くしかない。2名乗車時の積載性は、きっぱり割り切られている。

基本性能&ドライブフィール

ビートとは真逆のトルク型


車両協力:Honda Cars 愛知

今回試乗したのは上級グレード「α」の6MT。

低いシートに腰を落とし、クラッチを踏み込んでスタートボタンを押すと少し長めのクランキングの後、「軽自動車です」と自己紹介するように、3気筒ターボエンジンのアイドリング音が聞こえてくる。ちなみにアイドリングストップ機能はCVT車にはあるが、6MT車にはない。

街を走りだすと、目線の低さ、ボンネットの低さ、軽快なノーズの動き、3気筒エンジンの音・振動などがビートを思い出させる。一方、S660ならではの演出は、アクセルオフ時に頭の後ろから飛び込んでくるブローオフバルブの「プシュー」という音。新型ステップワゴンの1.5Lターボでは完全に消されているが、S660ではむしろよく聞こえるようにサウンドチューニングしたという。

ボディの剛性感は当然高いが、それ以上に印象的なのが乗り心地の良さ。軽自動車とは思えないほど重厚で滑らかに走る。

 

Nシリーズ譲りのターボエンジン「S07A」型。6MT車のレブリミットはCVT車より700rpm高い7700rpm
(photo:Honda)

S660のエンジンは、現行のホンダ軽でおなじみの直3・DOHCターボ「S07A」がベース。昨年Nシリーズ全体でツインインジェクターやナトリウム封入バルブが新採用されていて、S660では専用ターボチャージャーが採用されている。スペック的にはベースエンジンと同じで、最高出力は軽の自主規制いっぱいの64ps/6000rpm、最大トルクは104Nm/2600rpmを発揮する。

ビートの場合は、アクティ用の直3・SOHC・4バルブ自然吸気エンジン「E07A型」をベースに、3連スロットルバタフライやアルミ鋳物製インテークなどによって、64ps/8100rpm、60Nm(6.1kgm)/7000rpmを、オートバイ並みの高回転化で達成していたが、S660のエンジンはそれとは真逆のトルク型。2500rpmくらいからトルクが盛り上がり、パワーバンドはおおむね3000~7000rpmと幅広い。要するにエンジンをある程度回しておけば、アクセルを踏み込むだけで加速してくれる。車重は試乗した6MTで830kg。ビートより70kgほど重いが、トルクはその1.7倍以上もある。

自主規制がなければ80psくらい出そう


街中での注目度はボディカラーのせいもあって高かった

一方で、何となく拍子抜けするのは、アクセルペダルにダイレクトにリンクする感じが薄いこと。踏み込めば加速はするが、レスポンスがマイルドで、エンジンサウンドもいまいち変化しない。その点はアクセルを踏み込むや否や、耳元で叩きつけるような吸気音やメカニカルノイズが大合唱しはじめるビートとまったく異なる。ビートよりはるかに乗りやすいが、音やレスポンスはNシリーズそのものという印象。

特に6000rpmから上はただ回るだけとも言えるが、構わず引っ張り続けると、レッドゾーンが始まる7700rpmまでスムーズに回ってしまう。自主規制がなければ軽く80psくらい出そう、と思わせる意味深な余力がある。

 

MT車の場合、レッドゾーンは7700rpmから。写真はスポーツモード表示

なお、メーターの左にある「SELECT」ボタンを押すと、CVT車では変速プラグラムやスロットル特性がスポーツモードに変化するが、実はMT車の場合はメーター照明が赤になるだけとのこと。なるほど、道理で変わった気がしないはずだ。

そして、頭の後ろにある昇降式リアセンターガラスを開けて走っていると、エンジンからの熱風が吹き込んでくるのが面白い。実は車体底にはNACAダクトがあり、そこから走行風を引き込んでターボチャージャーを冷やしているため、その熱気がキャビンに入ってくる。夏はかなり熱くなりそうなので、閉めましょう。

軽初の6MTで、100km/h巡航を3000rpmで実現

AT免許でも乗れる7速パドルシフト付CVTも、それはそれでイージードライブで悪くないと思うが、S660の走りを「ナマ」で味わうなら6MTか。軽自動車で初の「6速」MTであり、S660のために新開発されたものだが、たぶん他のホンダ軽にも展開は可能だろう(ホンダから特にアナウンスはないが)。

リンケージはワイヤー式だが、S2000並みの操作感を実現したとのことで、ストロークは短く、シフトはすこすこ決まる。マツダ ロードスターのようなダイレクト感はないが、軽くて小気味のいいシフトフィーリングはビートにそっくり。クラッチの、ちょっとジャダーが出やすいつながり感もビートに似ている。

そして2速で引っ張れば約80km/h、3速では計算上120km/h以上に到達。100km/h時のエンジン回転数は、4速で5000rpm、5速で3800rpm、6速で3000rpm。回してもエンジンが静かなので、高速道路でもうっかり5速のまま走ってしまう。また、トルクがあるので、6速トップのままでも追越や登坂ができる。αに装備されるクルーズコントロール(115km/hまで設定可能)も有効だった。

オープンでは風切り音、クローズドではすきま風が…

オープンで高速走行した時に一番うるさいのは、風切り音。100km/hくらいでも不安になるほど風がゴーゴービュービュー言いだし、ラジオの音が聞こえなくなる。オープン時の風の巻き込み、そして風切り音は、ビートより激しいかも。

ただ、試乗した夜は、オープン走行には少々寒すぎる気温だったが、例のリアウインドウから吹き込んでくる熱風がヒーターよりも暖かく、しかも肩や上半身を温めてくれるため、とても助かった。

クローズドの場合でも、風切り音はやはり大きめだが、エンジン音は静かで、割と快適。乗り心地も抜群にいい。しかし、頭の上がなんかスースーすると思ったら、フロントガラス枠とロールトップの間、ちょうどルームミラーの上あたりから、すきま風が入ってくる。この部分は、プラスチック製の簡単なフックで軽く止まっているだけで、雨の日がちょっと心配。

【ハンドリング】アンダーステア感なし。ミッドシップらしさを味わえる


タイヤはSS60専用開発のヨコハマ アドバン ネオバ AD08R。フロントは165/55R15、リアは新型ロードスターの195/50R16より少し外径が小さいだけの195/45R16

お次は気になるハンドリング。ワインディングを走りだして最初に感じるのは、ミッドシップならではのフロントの軽さ。やはりエンジンという重量物がフロントにないのは大きい。

その分、前輪荷重は望めないので、フロントのグリップが抜けやすいのがミッドシップの難しいところ。そこで、S660では前輪にハイグリップのアドバン ネオバを履き、また前後重量配分を45:55と、ビート(43:57)よりフロント寄りにすることで、ミッドシップのネガを消している。例えば、ビートではリア後端の上部にあったバッテリーが、S660ではフロントの一番下に移設されている。

 

サスペンションは4輪ともマクファーソンストラット。特にリアは凝った設計のデュアルリンクストラット式で、アルミ製サブフレームを備える
(photo:Honda)

さらにS660では、VSAのブレーキ制御を利用した「アジャイルハンドリングアシスト」を採用。これはコーナー進入時のアンダーステアや、脱出時の揺り戻しを軽減するためにブレーキ制御を行ってくれるもの。

結果としてS660ではビートでは特にタイトコーナーで感じられた頑固なアンダーステア感、つまり「曲がらない」感がほぼ一掃され、ステアリングを切れば切った方向に曲がるというか、ミッドシップという言葉から期待されるニュートラルな操縦性を味わえるようになった。

ただ、195/45R16のリアタイヤが最後まで踏ん張る分、最終的にはアンダーステアになる気配はあるし、高速域では、やはりミッドシップ独特の緊張感…フロントが軽くなる感じ…が出てくる。

 

ブレーキは非常によく効く。ビートも(フロントをロックさせなければ)ブレーキが効くクルマだったが、S660は条件抜きによく効くし、ブレーキング時にクルマ全体が沈み込むような姿勢もいい。このあたりもミッドシップ車ならでは。

試乗燃費は12.6~18.6km/L。JC08モードは6MTで21.2km/L

今回はトータルで約340kmを試乗。参考ながら試乗燃費は、いつものように一般道と高速道路を走った区間(約100km)が14.1km/L。一般道を元気に走った区間(約30km)が12.6km/L。そして主に高速道路を走った区間(約100km)が18.6km/Lで、うち80~90km/Lで流した区間(約30km)は22.6km/Lだった。高速道路を法定速度内で走れば、20km/Lを割ることはありえない。オープンよりも空気抵抗がおそらく少ないクローズドの方が、高速燃費はいいはず。

JC08モード燃費は、6MTが21.2km/Lで、CVTが24.2km/L。一見CVTの方が良さそうだが、高速巡航ではオーバードライブ的な6速トップがあるMTの方が実用燃費は有利なはず。一般道での燃費はビート(だいたい13km/L台と思う)よりいいと思う。

指定燃料はレギュラーガソリンで、燃料タンク容量はビートより1L多い25L。航続距離はおおむね300km+αだろう。

 

ここがイイ

ビートより飛躍的に高まった諸性能。身にまとうような感覚。軽量&高剛性の専用ボディ

24年前に発売されたビートと比べると、S660はトルクが1.7倍になり、ボデイ剛性は大幅に増し、アンダーステアは激減し、乗り心地は抜群に良くなった。また、安全装備についてもABSはもちろん、4エアバッグやVSAが標準装備になり、自動ブレーキまで採用された。そして内外装の質感は飛躍的に高まり、助手席も広くなった。男二人で乗っても暑苦しくない余裕がある。

身にまとうような感覚が味わえること。今やライトウェイトスポーツと言えど、大きく重くなるのは避けられないが、S660は軽ということで、幸い全長3.4m、全幅1.48mの枠内に収まっている。これは古典的ライトウエイトスポーツのサイズに近く、最新量産スポーツでこのコンパクトさを味わえるのは貴重。

動力性能はまったく大したことはないが、パワーはこれくらいでいいとも言えるし、トルクは十二分。6MTを駆使して思い切り走らせても、いい意味で出るスピードはたかがしれている。そして高速道路では快適。急き立てられるような感覚があるビートより、S660の方がのんびり走れる。

 

ホワイトボディの60%以上に高張力鋼板が採用した専用オープンボディ
(photo:Honda)

高剛性と軽量化を両立した専用ボディ。これだけの快適・安全装備、ボディ剛性や衝突安全性、そしてオープン&ミッドシップというボディ構造など、軽量化する上での二重苦、三重苦を考えると、よくもまぁ830~850kgという車重で収まったと思う。エンジンはNシリーズからの流用だが、ボディ・シャシーにはホンダの技術が惜しみなく投入され、恐ろしいほど手間暇が掛かっている。生産に関しては、職人的で何かと小回りや無理が効く八千代工業抜きでは考えられなかっただろう。

ゆえに販売目標の年間約1万台を持続し、ビート並みに全部で3万台以上を販売したとしても、利益はほとんど生まれないだろう。しかし逆に言えば国内専用車であり、たかだか年間1万台のクルマゆえに、そんなに売れなくても痛手はない。「走る実験室」ならぬ「走る広告塔」として考えれば、ホンダとしても悪くないのでは、と考えてしまうほど採算度外視という印象を受ける。

ここがダメ

魅力に欠けるエンジン。脱着が面倒で、気密性にも疑問が残る幌。絶望的な積載性

トルクは十分あるし、燃費もいいが、やはりNシリーズ譲りのユニットは、スポーツカーエンジンとしては明らかに魅力不足。ビートにあったオートバイのようなサウンド/ノイズはS660にはなく、良くも悪くも「非日常感」は薄まった。エンジンをぶん回して非力さをカバーするという行為は、S660では要求されない。ただ、これらは「ここがイイ」のポイントでもあるが。

ロールトップの脱着はやはり面倒で、これでは気楽にオープンにできない。新型マツダ ロードスターのように手動でもシートに座ったまま、ほぼワンタッチで開け閉めできるものがある今、ちょっと厳しいと言わざるを得ない。この点は、クルマから降りずに幌の開け閉めが出来たビートより退化した部分。

しかもこのロールトップ、走行中にフロントウインドウ枠とトップの間から、すきま風が入ってくる。ちなみに、今回S660にちょい乗りした弊社ポルシェ専門誌「911DAYS」の編集長からは、「このすきま風は930スピードスターと同じ!」とポジティブ評価をもらったが、雨の日は大丈夫なのだろうか。

 

ビートのパッケージングは、フロントにスペアタイヤと寝かせたラジエイター、エンジンは前傾させて左にオフセット、その右上に燃料タンク、マフラーの上にトランクとバッテリーなど、パズルのように緻密だった
(photo:Honda)

そして、やはり積載性の低さ、いや無さはいかんともしがたい。ビートの場合は、シートの後ろにカバンを押し込めるスペースがあり、幌の収納部にはオープン時も含めてスポーツバッグも載せられた。また、リアには狭いながら鍵付トランクがあった(テニスラケットやCDチェンジャーくらいしか入らなかったが)。そしてトランクリッドには純正アクセサリーでパイプ製のキャリアも装着できた。S660では、そういったニッチなスペースや工夫がまったくない。はっきり言って積載性はエリーゼどころか、ケータハム セブンやモーターサイクルにすら及ばない。

乗降性に関しては、乗る時は問題ないが、降りる時は足抜けが悪いため、シートを後端にスライドさせないとスムーズに降りられないのが不便。

エアコンのオン/オフで、パワー感に大きな差が出るのは辛いところ。エアコンの効きはとてもいいので不満はないが、オフにしてオープンで走ると、クルマが本当に生き生きとする。このあたりは660ccエンジンの限界だろう。

総合評価

もったいない気がして仕方ない

軽自動車の枠内で日本のメーカーは素晴らしいクルマづくりを続けてきた。枠があるからこそ、それをなんとかしようと技術の粋(すい)を詰め込んで、さらなる高みを目指してきたわけだ。このクルマもそんな枠への挑戦だったのだろう。

そして軽の枠でスーパーカーを作るという命題は、みごと達成されたと思う。スポーティに走るという点では、軽でよくぞここまで、と技術者を称えたい。むろん、これを作ることを許した、あるいは指示をした会社の姿勢もすばらしい。イメージアップ広告効果という計算があったにせよ。若い人を中心に開発が進んだとか、手作りに近い生産だとか、一種の神話に彩られた日本のスーパーカーが出来上がったのだ。

 

とはいえ、さすがに軽の枠ゆえ達成できなかったこともある。その最たるものがやはり荷物を載せるスペースだ。これがないことで、完全に走りに特化したモデルになってしまった。かつてアウディ TTなど2シーターオープンに乗っていた経験から言えるのは、二人乗って、さらに手荷物を載せられるスペースがないと日常的にはかなり困るということ。TTには小さいながらトランクがあったから、なんとか使えたが、S660は走る・移動するという目的以外にはほぼ使えない。その意味では世のスーパースポーツと同様だ。いや、手荷物がトランクに載る分、スーパースポーツの方がまだ実用的かも。

ショーモデルが発表されてから、ボディサイズは軽の枠を越えるのではとか、64psの自主規制を越えるのではとか、いろいろな噂が出たものだが、結局登場したのは、軽そのものだった。軽の枠ギチギチにスポーツカーとしての全てをぶち込んだという点では、まさに究極の軽だが、それゆえ逆に軽の枠がなければ、もっと違ったスポーツカーが作れたのでは、という気持ちにもなってくる。様々な要素を無理やり軽の枠に押し込んだのではなく、その一歩手前に留まって、枠の中にきっちり無理なく、破綻なく収まっているのは本当にスゴイのだが、軽の枠を徹底的に使い尽くして理想のスポーツモデルを求めたゆえか、遊びの余地というか、余裕というか、緩さというか、そうした部分は感じられない。

 

写真はプロトタイプに終わったホンダ S360を本田技研の有志が2013年にワンオフ復刻したもの。エンジンはホンダ初の4輪車となった軽トラック「T360」と同じ360cc直4・DOHC。東京モーターショー2013にて

つまりはまさに究極の軽ピュアスポーツだが、全幅にしてもエンジンにしても、軽の枠を考慮しなければ、コンパクトカーのピュアスポーツという方向へもっと持っていけそうだった気がする。昔、S500/600/800は、プロトタイプで終わったS360では難しかった性能を実現したことで名車となった。S660がもしかしてS1000だったら、余裕をもって世界で通用するスポーツカーになれるのかも。そんな意味で、ホンダは惜しいことをしている気がしてくる。これだけのクルマを作った開発リソースを、ガラ軽にしてしまわず、S2000の後継とも言えるクルマに注いだら、世界に問えるコンパクトスポーツカーが出来たのではないか。軽という経済的にはもったいなくないクルマに乗ってるのに、なんだかもったいない気がして仕方なかった。

「経済的な」スポーツカーだったビート


ホンダ ビート Version C(1992年)
(photo:Honda)

個人的な話だが、昔、ビートが登場したころは子供達がまだ小さくて、ミニバンがどうしても必要な時代だった。子供にお金がかかるその頃、ファミリーミニバン(というか当時はワンボックス)とスポーツカーの二台を維持することは諦めざるを得なかったもの。しかし「経済的な」軽のスポーツカーならそれができるかも…などと思っていたら、登場したのがビートだった。すかさず購入を申し込むつもりだったが、時すでに遅し、納車は1年近くかかるということで、そのうちに初期衝動は萎え、結局購入には至らなかった。

自動車税は2Lミニバンが年3万9800円。これに軽のビートを所有しても7200円の増加で済むのだからと、当時、安月給のサラリーマンでもなんとか妻を説得できた(もちろん保険なども高くなるのだが、そこはウヤムヤにして)。車両は150万円未満だから長期ローンを組めば月の支払い額を抑えられ、なんとか買えそうな価格だったし(当時は消費税もなかったし)。

何より良かったのはビートがオープンカーだったこと。走りにはまったく興味のない妻も、オープンカーであることには魅力を感じたようで、たまには子供抜きで夫婦二人で乗るとか、自分で運転して一人で気晴らしに行くとか、という用途を考えると、まあ買ってもいいか、と考えたらしい。女性でもMT免許を普通に持っていた時代だったから、ビートは女性も乗ることができるクルマだった。

あらぬ妄想が広がる

さて、そこでS660だ。世のミニバン乗りのお父さんたちは、今も同じ発想をするだろうか。目標台数はビートの約4分の1とはいえ、今のところビートのデビュー時と同様に、納車は半年以上の待ちのようだ。初期の人気は上々。ただ、どうもビートの時ほど熱くなっている人は世間に少ないように思える。スポーツカー好きが減ってしまったことは間違いないが、200万円を超える車両価格の2台持ちはきつい、という人も多くなっているのかも。若い人の目にもかなり高価なクルマに映るようだ。「S660、とうとう出たねえ」という声はよく聞くものの、欲しいという熱い声より、「どうなんだろう」という冷静な声を聞くことのほうが多いように感じる。

S660はまさに走りのためのクルマとして登場した。オープンにはなるが、タルガトップだから、見た目でも乗った感じでも開放感は少ない。いかにも速そうには見えるが、ミーハーに楽しそうなオープンカーだなあという感じはなく、ストイックな男のマシンという印象が強い。その意味で、女子はほとんど関心がないのでは。奥さんに「グッと我慢してCVTを買うことにするから、あなたも乗れるよ」と言っても、たぶん答えはNGだろう。

ミニバン持ちがセカンドカーにするなら、もうちょっと日常性があって、このクルマのある楽しい暮らしというイメージが湧かないと辛いところ。例えば、販売上ではライバルにカテゴライズされるコペンは、日常性という点で楽しそうなクルマだ。むろんピュアスポーツではないから、比較対象にならないのだが。

 

S660の場合は、奥さんの理解を得るためにもAT免許で乗れることが必須とすれば、やはりCVTではなく、出来ればDCTが欲しい。このサイズのDCTはホンダにはない? いやバイクならある。この素晴らしいシャシーを使って、かつてのS500/600/800のように、2輪の技術が入ったエンジンや駆動系にしたらなどと、あらぬ妄想が広がってしまう。

ホンダ自身が「ミッドシップ・アミューズメント」だと主張したように、かつてのビートはピュアスポーツではなく、誤解を恐れず言えばプアスポーツだった。スーパーカーではなく、軽ゆえに庶民がセカンドカーとして楽しめるクルマだった。軽でスポーツカーを作る意味は、そこにあるのではないか。世の中の人がもう一度クルマ好きになるためには、150万円くらいで手が届く軽のプアスポーツカーが欲しいなあと思う。いつも無理難題ばかり言ってスミマセン。

 

■外部リンク
・ホンダ>FACT BOOK>BEAT(1991.5)>コンセプト

試乗車スペック
ホンダ S660 α
(660cc 直3ターボ・6MT・218万円)

●初年度登録:2015年4月 ●形式:DBA-JW5
●全長3395mm×全幅1475mm×全高1180mm
●ホイールベース:2285mm
●最低地上高:125mm ●最小回転半径:4.8m
●車重(車検証記載値):830kg(380+450) ※CVT車は850kg
●乗車定員:2名

●エンジン型式:S07A
●排気量・エンジン種類:658cc・直列3気筒DOHC・4バルブ・ターボ・ミッドシップ横置
●ボア×ストローク:64.0×68.2mm
●圧縮比:9.2
●カムシャフト駆動:タイミングチェーン
●最高出力:47kW(64ps)/6000rpm
●最大トルク:104Nm (10.6kgm)/2600rpm
●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/25L

●トランスミッション:6MT
●JC08モード燃費:21.2km/L(6MT)※24.2km/L(CVT)

●駆動方式:MR(ミッドシップ・後輪駆動)
●サスペンション形式(前):マクファーソンストラット+コイルスプリング
●サスペンション型式(後):マクファーソンストラット+コイルスプリング
●タイヤ:前 165/55R15、後 195/45R16(Yokohama Advan Neova AD08R)

●試乗車価格(概算):-円 ※オプション:- -円
●ボディカラー:プレミアムビーチブルー・パール

●試乗距離:約340km ●試乗日:2015年6月
●車両協力:Honda Cars 愛知

 
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