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メルセデス・ベンツ S320新車試乗記(第88回)

Mercedes Benz S320

 

 

1999年08月27日

 
 
 

キャラクター&開発コンセプト

小さく軽くが基本姿勢、非難を浴びた先代W140から社会環境に合致した新型W220へ

高級車の世界的スタンダードを考えたとき、多くの人がまず頭に浮かべる名前は、メルセデス・ベンツだろう。それも最大級の「Sクラス」。7年ぶりにフルチェンジとなったニューSクラスの正式デビューは昨年9月のパリサロン。クライスラーとの合併直前に投入され、ダイムラー・ベンツとしては最後のモデルとなる。その2ヶ月後の11月に早くも日本導入が始まった。

「大きすぎる」と批判の多かった先代(コードネームW140。新型はW220)の反省から、一回り小型化されニューSクラスは、その点を徹底的に洗い直した仕上がりとなっている。ところでベンツが近々市販化すると宣言した「マイバッハ」をご存じだろうか。Sクラスよりも上をいく、ショーファードリブン用の超豪華サルーンだ。このマイバッハの存在がニューSクラスに多大な影響を及ぼしているようだ。もはやSクラスは最高級ショーファードリブン的な要望は必要とされておらず、完全な最高級パーソナルカーとして生まれ変わっているのだ。

価格帯&グレード展開

価格帯は888~1330万円、1000ccあたり200万円ナリ!

ラインナップは3.2リッターV6搭載の「S320」(888.0万円)、4.3リッターV8搭載の「S430」(1090.0万円)、5.0リッターV8搭載の「S500」(1240.0万円)とそのロングホイール版「S500L」(1330.0万円)の4タイプ。価格は先代より約50万円ほど値上げ。1000ccあたり約200万円の価格差という計算となる。なお、先代搭載の6リッターV12エンジン搭載モデルは今のところ、本国でも設定されていない。

S320以外は本革シートが標準装備。キセノンヘッドランプとサンルーフはS320&430がオプションでS500&500Lが標準。リアシートベンチレーター&ヒーターはS500&500Lの専用装備だ。どうせ買うなら最高の1台を、というユーザーが多いベンツだけに売れ筋はS500か? 旧S600オーナーはマイバッハを待つ?

ライバルはBMW7シリーズ、続いてアウディA8。3番手はやはりベンツ自身がこれをみて勉強したというレクサスLS400(セルシオ)だ。

パッケージング&スタイル

ベンツが怖いというのはもう過去のハナシ、カタギの人が乗れるニューS

ニューSクラスのボディサイズはショート版で全長5045mm×全幅1855mm×全高1445mm、ホイールベースは2965mm。ロング版が全長5165mm、ホイールベース3085mmとなっている。先代よりもショートで、全長75mmが縮小されているが、それでも5m越えのビッグボディ。サイズ的にはそれほど大きく変わっていない。小さく見えるのはやはり、リアエンドからボディサイドにかけての大胆に絞り込んだデザインワークによるものが大きい。これ、BMW5&7シリーズと同じ手法だが、ニューSは単に小さく見せるだけでなく空気抵抗の減少にも大きく貢献している。Cd値は0.27という量産サルーンとしては世界最高水準なのだから驚きだ。また、全車平均で200kgの軽量化に成功していることも注目するに値する。よって燃費は向上しているわけだ。

小さくなったのはボディだけでなくグリルも小さくなった。威圧感は薄れ、何となく世間体、協調性を追求したかのよう。かつてのベンツには似つかわしくなかった”スタイリッシュ”という言葉が、ホントよく似合う。乗る者、見る者に無言の圧力をかけていた先代をこよなく愛していたユーザーにとってはかなり寂しいかもしれないが、後に世に送り出されるマイバッハとの棲み分けを考えれば、これも致し方ない処置だろう。ちなみに前後のボディは脱着式、つまりモジュール構造となっている。軽度の衝突事故では修理代が安く済むのがメリット。

Aクラスにつぐ新しいベンツの姿勢が伺える、ラウンディッシュのインテリア

和み系になったエクステリアもさることながら、Aクラスに通じるラウンド基調のインテリアも、ベンツの変貌が伺えるもの。乗りこんだ瞬時にブカブカと違和感大アリだった先代とは打って変わって、サラリと和める雰囲気だ。ただ、試乗したS320の場合、質感は先代より劣っている感じが強く、革の質感ときたら合皮なのでは?、革巻きステアリングはウレタン製なのでは、と疑ってしまうほど。これをズラリと羅列したスイッチの多さで誤魔化している、かのよう。

ズラリと並ぶスイッチ群は複雑怪奇、これを身につけるのがオーナーの愉しみ?

快適装備は全てオート任せで、シートは前後スライド量のみを決めE(エルゴノミック)ボタンを押せば、あとは機械が自動的にシート高&傾斜角、ヘッドレスト高、ルームミラー調整をドライバーの最適な位置してくれるという凝りよう。さらにシートには湿気抜きの小型換気扇(←サーブにあったなぁ)が内蔵され、バイブレーション機能(センチュリーにあったなぁ)まで付いている。ただ、そのスイッチがどこにあるのか? このスイッチは何の機能なのか? と大いに迷うことも事実(少なくとも2日間の試乗では理解できなかった)。至れり尽くせりの配慮もいいが、スイッチの数がいくらなんでも多すぎるのは考え物。ナビモニター(全車標準)も小さい。どちらも運転中に操作するのはちょっと危ない。特にウインドウスイッチには異論あり。これまでベンツは、もっともらしい理論の元、どの車種にもセンターコンソールに配置するっていう一貫したポリシーがあったのに、ここにきてそれが一気に崩れ去り、ウインドウスイッチはドアパネル下部に。自発光式の扇形メーターも含め、伝統のようなこだわりは、少なくともインテリアからは消え去った。

ボディは縮小されたが、室内空間はほぼ変わっていないという。事実、室内長は20mmほど拡大されている。それでも格好良くなったスタイルと引き替えに、頭上空間は犠牲にされている。とりあえず後席は背もたれがやや寝かし気味で、足元スペースはあるのでルーズに座るには最適だ。トランク容量はVDA方式で500リッター。このクラスとしては平均レベル。

なお、「ディストロニック」という賢いクルーズコントロールが近頃、オプション設定として導入されたこも話題。バンパーに内蔵されたセンサーにより、前行車との距離を一定に保って巡航するというもの。設定距離よりも近づくと減速し、再び放れると任意速度に戻るという仕組みだ。ただし、最終的には人間の操作が必要。最終的には衝突を回避する装置に発展するのだろう。ちなみにこのディストロニックと同類の装置はセルシオやプログレにも(メカ的にはかなり違うようだが)備わっている。とにかく快適装備、走りのメカともども、最新電子デバイスは枚挙にいとまがない。

基本性能&ドライブフィール

AIRマチックをはじめ数々の新機構を採用

現在ラインナップされているニューSのエンジンは全3タイプ。5リッターV8(最高出力306PS/5600rpm、最大トルク46.9PS/2700~4250rpm)、4.3lV8(最高出力279PS/5750rpm、最大トルク40.8PS/3000~4400rpm)、3.2リッターV6(最高出力224PS/5600rpm、最大トルク32.1PS/3000~4800rpm)。全て1気筒あたり吸気2、排気1の3バルブテクノロジーが採用される。ギアボックスは全車5速ATで、Aクラスでお馴染みとなった「ティップシフト」(←Dポジションの左右に+/-マニュアルモードを持つ)が採用される。ちなみに燃費は上の機種から順に10・15モードで7.3km/l、7.6km/l、8.7km/l。

足回りは前が4リンク式ダブルウィッシュボーン、後がマルチリンク。スプリングとダンパーは従来のコイル&ガスに代わってエアサスとアダプティブダンピングシステムを統合した「AIRマチック」が採用される。このシステムは路面状況に応じてダンピングを制御し、併せて車高の調整(任意も可能)もしてくれるというもの。他にも世界初と主張する新機構が数々と装備されているようだ。

後席よりも運転席に乗りたくなる、これすなわちドライバーズカー

試乗したS320の搭載エンジンはE320からの流用であり、スペックも全く同じ。1.7トンに220馬力というのは、いささか不安があったが、これが乗ってビックリ! とまではいわないが、非常に軽快な走りをもたらしてくれる。トルク不足も感じない。これまでベンツといったら全ての操作系にズッシリと重みを感じたのだが、ニューSは国産高級車より若干重い程度。特別な違和感は全くない。マニュアルモードにしてギアを固定すれば、エンジンはひゅんひゅんとレッドゾーンの6000回転近くまで回り、ドライバーズカーそのものという趣だ。

もっと感心させられたのはエアサスを感じさせない高次元の操縦安定性と乗り心地。これまでのエアサスといったらどうもフニャフニャした違和感が付き物だったが、ニューSはこれを見事に克服している。路面からの突き上げをきっちりと吸収し、高速でハンドルを切ってもオンザレールでこなしてくれる。少なくとも最近乗ったグロリアより運転が楽しめた。

静粛性は高級サルーン相応のもの。V6に限っていえば、エンジンを3000回転以上も回せば、ドライバーズカーらしいそれなりのエンジン音が耳に伝わってくる。恐らく初めてSクラスに乗る人は「世界の高級車って、こんなもん?」と腑に落ちない部分が出てくるだろう。しかし、この静粛性のレベルが街乗りから超高速域まで、ほぼ同じということを知れば、その評価は変わるはず。試乗は160km/hまでしか出さなかったが、この域でも若干風切り音がするくらいで、後席の人と普段の声の大きさで会話ができる静けさなのだ。恐らく200km/hの超高速域でもこの静けさは変わらないのでは? と思えるほど。軽快感もさることながらタイヤがしっかりと地に着いている重厚さも兼ね備えているあたりも付記しておきたい。このあたりは国産車と大きく違う印象だ。ただ、操舵系の重みが薄れた分、高速巡航の際の疲労度は先代に劣るかもしれないが。

ここがイイ

滑らかな走り、十分なパワー、ショックもなく見事にしつけられたマニュアルATなど、なんだかすごくイイクルマに出会った気がした。ベンツのSという先入観なしに乗れば、パーソナルセダンとしての出来は100%に近い。E(エルゴノミック)ボタンを押したあとに設定されるシートポジションも、欧州車的な腰をグッと落ち着かせたもので、大変好ましい。やや高すぎたので少し下げたが、こうしたポジションでベンツ乗りが皆運転するようになると、いわゆる「ベンツ走り」は減少するのでは。でもムリかな。なお、リモコンキーのロックボタンを押し続けると、すべての窓が下りたり上がったりするのは、夏の換気に大変便利。

ここがダメ

小さなナビモニターやわかりにくいスイッチ類など、電子デバイスは日本車に一日の長がある感じだ。セドリックの先進的なメーターまわりと比べると、二世代も前のインパネに感じてしまう。標準装備で選択の余地がないだけに、ちょっと苦しい。またサンルーフがあるとヘッドクリアランスがかなり少なくなる。タバコを吸わないのなら、サンルーフなど別になくても何ら不満はないのだが。

総合評価

どうやら先代と新型は全く別のクルマと考えた方が良さそう。実際、開発の方向性は全く違うし、走りの質だって全く違う。威圧感や存在感でも、ヘタをするとEクラスの方があるほど。そして先代や先々代に乗るとまったく落ち着かなかった運転席が、小柄な日本人にでもしっくりなじむのは驚き。ガタイはでかいが、その運転席のしっくり感が人馬(車)一体感を生み出しており、ちょっとそこまで、といった乗り方もできるほどだ。先代は「やる」といわれてもいらなかったが、このクルマなら「ぜひください」といいたくなる。パーソナルセダンとして十分使えるクルマになった。

反面、ベンツらしい超品質感はすっかり薄らいでしまった。特に320は良くある高級車程度の内装にすぎない。クルマに詳しくない人を乗せても「さすがベンツですね」とはいわれないと思う。Sクラスは数を売るクルマになったのだ。

 

公式サイトhttp://www.mercedes-benz.co.jp/

 
 
 
 
 

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