キャラクター&開発コンセプト
想定ユーザーは子育て中の家族
2003年9月29日にトヨタが発売したシエンタは、7人乗りのコンパクトミニバン。シエンタ(Sienta)はスペイン語の「7」(sieste)と英語の「楽しませる」(entertain)を合わせた造語という。その名の通り7人乗りのシャシーは、ボディ前半部がラウム(ヴィッツ系)、リアサスがスパシオ(カローラ系)、そして床部分はほとんど新設計という凝ったものだ。
「赤ちゃんを抱えるママ」を想定した「片手でポン!」のキーワードのもと、後席への乗降性やシートアレンジを容易にした。デザインも丸みのあるボディやパステル系のボディカラーなども女性ユーザーを意識している。徹底したマーケット調査から生まれたクルマだ。
「瞬間・楽ノリ・3列」
販売目標は月間7000台。立ち上がり1ヶ月は「1万5000台を目標にしたい」(トヨタ自動車)という。ライバルはもちろんホンダ・モビリオ、そして日産キューブキュービックだ。輸出する予定はないという。
ちなみにTVコマーシャルの音楽はイタリアンポップス「月影のナポリ」(1959年)の替え歌。日本では当時、森山加代子やザ・ピーナッツがカバー。傘を持って踊る図は、ミュージカル映画「シェルブールの雨傘」(1964年)を、陽気にした感じか。そう言えば、主役の女性もちょっとカトリーヌ・ドヌーブ似? キャッチコピーは「瞬間・楽ノリ・3列」だ。
価格帯&グレード展開
主力グレードは「G」と「X」
エンジンは1.5リッターの1種類。グレードは上級「G」(165万円)と「X」(149万円)、そして「X」の廉価版“E パッケージ”(137万円)の3種類だ。4WDがプラス19万円で用意される(“E パッケージ”除く)。
“E パッケージ”はホイールキャップ等が省かれるほか、ボディカラーの選択肢が全9色のうち3色しかない。販売主力はやはり「G」および「X」だ。スマートキーや電動スライドドアといった装備はぜひ欲しいところだが、そうなると自動的に「G」となる。
パッケージング&スタイル
奇をてらわない外観
「あっさリラックス」をキーワードにした外観は、アクのない常識的なデザイン。欧州の路面電車(ユーロトラム)をモチーフにしたという奇想天外なモビリオとは正反対の路線だ。丸いヘッドライトとフェンダーの峰は、フォルクスワーゲンのルポ、ポロを思い出させるが、開発途上で似ないように工夫はしたという。Cd値(空気抵抗係数)は驚きの0.30。普通この手のクルマだとCd値は発表されないことが多いが、これだけ良ければ胸が張れるというところだ。
「カフェでのくつろぎ」をテーマにしたボディカラーもウリの一つ。花の香りがイメージのラベンダーマイカメタリック(写真)、ミントの香りのアクアマイカ、バニラのライトイエローなど9色が用意される。
2700mmのロングホイールベース
ボディサイズは全長4100mm×全幅1695mm×全高1670mm。ホイールベースは2700mmとかなり長いが、ホンダ・モビリオは4055mmに対して2740mmもある。3列シートを無理なく収めて、スムーズな乗降性を得るにはこれぐらい必要ということだろう。2700mmというと、カローラシリーズより100mm長く、アリオン/プレミオやカルディナ、新型プリウスと全く同じ。「2700という数字は偶然です」とは開発スタッフの弁。
ライバルのモビリオと比べて目立つ違いは、70mm以上も低い全高、小さめのガラス面積、高いベルトライン(サイドウインドウの下縁)など。逆に言えば、奇才モビリオは異様に窓が大きく、ベルトラインが極端に低い。
シャシーは前述の通り、ボディ前半部がラウム、リアサスがカローラ・スパシオの改良版だが、2列目床下に収納可能な3列目を設置するため、「おそらく世界で一番薄い」(開発スタッフ)と言う燃料タンクを床下に配置。前席下に燃料タンクを持っていったホンダのセンタータンクレイアウトへの対抗策だ。
ファミリーな雰囲気
温かみある「くつろぎ空間」を目指したという室内は、丸みのある樹脂パーツで統一され、かなりファミリーな感じ。特に暖色系ボディカラーに組み合わされるベージュ内装はその印象が強い。クールな感じが好きな人は、ちょっと二の足を踏む雰囲気だ。操作系はジグザグゲートのインパネシフトや視認性の良いメーターなど、トヨタお得意のユニバーサルデザイン。ラウムやプリウスで採用された楕円ステアリングでないのがちょっと残念だ。
センターコンソール下部の取り外し式ゴミ箱、ふんだんに設けた床下収納(靴入れらしい)など、ユーティリティには念が入る。細かい穴の開いたシースルー型のサンバイザーは、ダイムラー・クライスラーのスマートからもらったアイディアか。
軽く開閉できるスライドドア
リアドアはモビリオで好評の両側スライドドアを採用。スライドドアの操作はたいへん軽く、力のない子供でも開閉可能だろう。子供が操作するとなるとぜひ欲しいイージークローザー(ドアが完全に閉まり切らないことを防止する引き込み装置)も、中間グレード以上に標準装備する。
上級版「G」は左側が電動。運転席側も電動だと便利だが、これ以上価格アップしては意味がないということで見送られたようだ。ただし追加できる余地は構造的に残してあるという。
ファンカーゴのシートが3列目に
3列目へのアクセス性確保するためには、「片手でポン!」をキーワードに2列目シートを簡単にスライド可能としてある。謳い文句どおり、これは本当に片手で軽く操作できるものだ。ただ、シエンタの引きながらスライドさせるより、握ってスライドさせる方式の方が感覚的には違和感がない。特に押し戻すときには操作がしづらい感覚もあった。
3列目は2アクションで2列目下に収納できる優れもので、「どこかで見た覚えが…」と思ったら、ファンカーゴの2列目の改良版だった。確かに3列目の座り心地はこのクラスのミニバンらしからぬ優れたもの。足元、座面高、頭上空間など、窮屈なところがなく、大人でも「ちょっとそこまで」なら不快感なく移動できる。
基本性能&ドライブフィール
ベストCVT
エンジンは既存の1.5リッター「1NZ-FE」ながら、フリクション低減と1.5リッター車としてはトヨタ初のCVT(2WD車)の採用などにより、クラス最高の10・15モード燃費:19.0km/Lを達成。プラグにはデンソー製の電極が細いタイプのイリジウムプラグを採用。この手のイリジウムプラグは耐久性に問題があったが、それを解決しているという。
トヨタのCVT車はハイブリッド車を除けば2.0リッター(ウィッシュ、プレミオ/アリオンなど)と1.3リッター(ヴィッツなど)にあるが、1.5リッター車では初。ライバルのモビリオも1.5リッター(90ps)+CVTで、10・15モード燃費は17.0~18.2km/L。キューブキュービックは1.4リッター(98ps)にCVTもしくは4ATで、16.8km/L (CVT)。対するシエンタは110ps、19.0km/L とライバルを軽くうっちゃるスペックを持つ。このあたりは後発ならでは。
実際に運転した感じはCVTの欠点がまったくない自然なもの。「CVTもここまで来たか」感あり。今までのCVT車でベストの一つだと思う。ここまで乗りやすく、燃費良く、コストも大して変わらないのなら、4速ATにとって代わる日は近い。2.0リッター以上のクルマでは5速、6速の多段化に入っているが、それ以下の排気量ならCVTが今後の主流だろう。とにかく初期のCVTに馴染めなかった人も、シエンタのものなら文句ないはずだ。
100km/h巡航は約2000rpm!
ギアリングが自在に設定できるCVTということで、100km/h巡航は約2000回転とそうとう低い。この回転数だとエンジン音はほとんど聞こえない。その点では資料の「7人乗車でも会話が楽しめる静粛性」はあると言えるが、ロードノイズの音量はそれほど低くなく、ちょっと惜しい気がした。
そこからアクセルを踏み込んでもCVTにありがちな回転だけ先に上がる感じはなく、自然に加速する。シフトレバーを右に倒してスポーツモードにすれば、かなり高めの回転数を維持する。しかしエンジンがトルキーで低回転から加速するので、その必要はほとんど感じなかった。
乗り心地は基本的にトヨタの小型車に共通のソフトなもの。操縦性は安定しているが、ステアリングを切った時の反応はそうとうオットリ型なので、飛ばす気にはまったくならない。試乗車はオプションの15インチタイヤだったが、ハンドリングへの影響は良くも悪くも特になかった。
ここがイイ
スライドドアはかなり外側へ(出っ張って)開く。このため、左右600㎜の開口部も乗り込むときには(外へ開いているため)ずいぶん広く感じられる。サードシートへの出入りはずいぶん楽だった。そのサードシートも小柄な大人ならそこそこくつろげてしまえるほどの快適性がある。後輪車軸上にあるが、突き上げもきつくない。サードシートをたたんで落とし込むため、セカンドシート下の空間が広く、サードシートに座るとつま先がぐっと奥まで入るから、足下の不快感もない。窓から外も見える。大人の男6人で乗ったが、サイズからはとても想像できない快適さだった。
インパネセンター下部にあるマルチボックスは取り外し可能なゴミ箱。もうちょっと大きいとなお良いが、ゴミ箱がついたことは評価したい。ティッシュボックスがセンターフロアトレイやアッパーボックスに置けたり、オプションのオーバーヘッドコンソール(2.3万円)では、ひっくり返して天井から直接ティッシュが取り出せたりするのも便利。ゴミ箱とかティッシュとかは女性のクルマならずとも必需品のはず。置き場所を室内に作り込むのは今後のクルマでは当然のことだ。
CVTの完成度が高く、フィーリング的にも違和感がない。試乗した数人のメンバーは、誰も大きな不満を漏らさなかった。6人乗って結構なスピードで高速を走っても燃費計は10㎞/L前後を示していた。
ここがダメ
「クルマ好きが好む高剛性感」のないシャシー。そのせいかロードノイズは結構うるさい。クルマの性格から考えるとどうでもいいことかもしれないが。
オプションでいいから両側電動スライドドアが欲しい。そしてスマートキー連動にしてほしい。運転席側から後席へのアプローチは格段に向上するはず。また助手席側にスマートキーのアンテナが無いのも不満。子供連れの人が左右どちらから乗り込むかはケースバイケースのはずだ。
女性向けのクルマということならブラインドコーナーモニターのオプション設定が欲しい(音声ガイド付きバックガイドモニターは用意されているが)。また助手席の工夫が足りない。ラウムのようなタンブルシートがあればさらに便利。無理ならせめてヴィッツのような座面の荷物が転がらない買い物アシストシートくらいは欲しい。
小物入れは多いが、コンビニフック、濡れた傘立て、大型分別ゴミ箱といった奥さんが必ず必要とするものがない。こういうユーティリティの工夫は第一義に考えるべきだと思うが、他のクルマでもそれを中心に考えられたモデルがないのはなぜ。便利なオーバーヘッドコンソールも標準装備化した方がいい。
総合評価
ヴィッツベースの3列シートミニバンをbBロングで出さなかったのはさすが。CVT、エンジン、2車種合体型プラットフォーム、薄型燃料タンクなど、アリネタをどんどん改良しまくって新しいクルマを作ってしまうワザは、トヨタの独壇場だ。結果として使いやすい、小型車としては最良の使い勝手を持つクルマができてしまった。
直接のライバルはキューブキュービックとモビリオだが、実際にはスパシオやラウムといったトヨタ車では。カローラベースということで車格が上とされるスパシオは、確かにボディ剛性が高く上質な走りをするが、3列目シートはエマージェンシー用。ミニバンという範疇でなく、カローラの乗員数プラス2人だ。ラウムはシエンタより使い勝手のいい室内空間だが、残念ながら実質4人乗り。ということで、一番お得感の高いのがシエンタということになる。モデルイヤー終盤のスパシオはまだしも、出たばかりのラウムにとって、シエンタの登場は厳しいところ。「社内で戦ってどうする」と言いたくなるが、結果として、トヨタのシェアはどんどん伸びると言うことか。
こうなると、現在存在する便利装備をすべて装備した究極のファミリーカーが欲しくなる。シエンタは収納スペースが多いが、ここがダメでふれたとおり、まだまだ工夫が可能。しかしそこまでやると、さすがに他のクルマ(トヨタ車)が売れなくなってしまうかも。いずれにしてもこの手のクルマは今後、ユーティリティ装備の競争(とその価格競争)になっていくだろう。もちろんその前提として、ボディデザインの好みがある。私的にはライバルのモビリオやキュービックよりシエンタのデザインには魅力を感じないのだが、世の奥さん方の反応や如何。
試乗車スペック
トヨタ シエンタ G
(1.5リッター・CVT・165万円)
●形式:UA-NCP81G-KWXGK●全長4100mm×全幅1695mm×全高1670mm●ホイールベース:2700mm●車重(車検証記載値):1230kg(F:ー+R:ー)●エンジン型式:1NZ-FE●1496cc・DOHC・4バルブ・直列4気筒・横置●110ps(81kW)/6000rpm、14.4kgm (141Nm)/4400rpm●使用燃料:レギュラーガソリン●10・15モード燃費:19.0km/L●駆動方式:前輪駆動●タイヤ:185/60R15(TOYO製 TRANPATH R25)●価格:165万円(試乗車:204.1万円 ※オプション:15インチアルミ&タイヤ 6万円、HIDヘッドランプ 4.5万円、G-BOOK対応DVDナビ 28.6万円)
公式サイトhttp://www.toyota.co.jp/Showroom/All_toyota_lineup/sienta/index.html

