キャラクター&開発コンセプト
発電用エンジン付EVの実証実験車
「スイフト レンジ・エクステンダー」は、発電用エンジンを搭載したEV(電気自動車)、いわゆるシリーズ式プラグインハイブリッドの実証実験車。昨年まで「スイフト プラグインハイブリッド」と名乗っていたモデルだ。
基本的には先代スイフト(2004~2010年)ベースのEVであり、リチウムイオン電池の電力で約15km走行ができる。さらにスズキの軽自動車用エンジン(660cc 直列3気筒の「K6A」型がベース)を発電用に搭載。バッテリー残量が少なくなると、エンジンを稼動し、航続距離(レンジ)を延長(エクステンド)する、というものだ。
特徴は言うまでもなく、EV最大の弱点である航続距離の心配がないこと。また駆動用バッテリーを大量に積む必要がないので低コストで軽量。またバッテリー容量が小さいので外部充電による充電時間が短く、急速充電器も不要となる。バッテリー容量はi-MiEVの6分の1程度で、家庭用の100V電源(約1.5時間)や200V電源(約1時間)で充電できる。
2010年秋から実証実験
開発プロジェクトは2008年秋にスタートし、2009年10月の東京モーターショーで一般に公開された。当時のプレスリリースには「日常の必要最小限の距離を電気自動車として走ることを基本コンセプト」とした「生活密着型のシリーズ式ハイブリッド車」とある。
2010年5月には国土交通省の型式指定を取得。一般の市販車と同じ手続きでナンバープレートの交付が可能になった。この頃から名称を「レンジ・エクステンダー」に変更。スズキでは同モデルを約60台生産し、2010年秋から地元の「はままつ次世代環境車社会実験協議会」(スズキ、ヤマハ、VWなどの企業、地元自治体、大学などが参加)をはじめ、日本各地のスズキ販売店に貸与し、各地の交通事情に沿った走行データを収集している。
昨今“シリーズ・ハイブリッド”事情
■GM シボレー ボルト
2011年現在、シリーズ式プラグインハイブリッドで話題のクルマと言えば、GMの「シボレー・ボルト」だ。米国では2010年12月から段階的に販売が始まった。
ボルトは111kW(150ps)のメインモーターと54kW(73ps)のサブモーター(主な役割は発電だが、駆動も行う)を搭載。リチウムイオン電池の容量はi-MiEV並みの16kWhで、電気だけで64km走行可能だ。発電には1.4リッター直4エンジンを使用する。なおGMが明言していないため混乱を招いているが、走行モードによってはエンジンも駆動に関与するため、この点ではプリウスと同じシリーズ・パラレル式ハイブリッドだ。
■アウディ A1 eトロン
スイフト レンジ・エクステンダーと同じ実証実験車としては、アウディの「A1 eトロン(e-tron)」がある。これはA1ベースのEVで、75kW(102ps)のモーターで前輪を駆動し、0-100km/h加速:10.2秒、最高速:約130km/h、航続距離:約50kmを確保。さらに車体後部に発電用のロータリーエンジン(排気量254ccの1ローター)を搭載し、12リッターのガソリンで航続距離をさらに200km伸ばす(計250kmになる)。実証実験はドイツで2011年から始まる。
■三菱ふそうの路線バス
身近な例では、三菱ふそう製の路線バスに、ディーゼルエンジンを発電機とするシリーズ式HV車がある。名古屋近辺では、2005年の愛知万博の頃から導入され、市内の「基幹バス」路線を走る名鉄バスでは、かなりポピュラーな存在。発電用エンジンは通常のバス同様、車両後部に搭載されるが、リチウムイオン電池は低床化を優先して天井に積む、というバスながらのユニークなレイアウトとなっている。大人初乗りは市バスと同じ200円。
※外部リンク
■スズキ株式会社>プレスリリース>スイフト プラグインハイブリッド」、型式指定を取得 (2010年5月)
■スズキ株式会社>プレスリリース>東京モーターショー2009への出品概要 (2009年10月)
価格帯&グレード展開
とりあえずは実験車。市販するならベースは新型スイフトか?
現状は完全に実験車両で、少なくともこのままで市販されることはないが、可能性はかなり高い。
もし市販となれば、ベース車は現行の新型スイフトだろう。「発電用エンジンが軽なので、軽ベースでも可能では?」と開発スタッフに聞いたところ、「エンジンルームにスペースがないので、このままでは無理です」とのこと。実際、エンジンルームはエンジンやインバーターなどでギチギチで、とても軽には転用できそうにない。
パッケージング&スタイル
グラフィックを除けば、外観はほぼ同じ
ベースは前述のように先代スイフトで、モデルチェンジ直前に生産されたもの。ボディサイズはベース車とまったく同じで、全長3755mm×全幅1690mm×全高1510mm。外観もリアバンパー左側にフューエルリッドならぬ充電リッドが追加されたくらいで、他はベース車とほぼ同じだ。
ただ今回60台ほど生産されたというレンジ・エクステンダーの多くには、ご覧のようなグラフィックが施されており、一目でそれと分かる。浜松以外の地域でも運が良ければ、実証実験中の車両に出会えるはず。
インテリア&ラゲッジスペース
冷房は電動インバーター式、暖房はPTC+通常ヒーター
内装もベース車に近いが、メーターまわりは専用品。タコメーターはパワーメーター(チャージ、エコ、パワーの3領域を表示)に、水温計は駆動用バッテリー残量計に変更されている。文字盤もブルー基調の専用意匠で、速度計も140km/hまで。最高速は120km/hなので、これで十分というわけだ。
EVの場合、意外にやっかいなのが空調関係だ。レンジ・エクステンダーの場合、暖房に関しては二通りを併用。EV走行中は、EV車で一般的な電気式ヒーター、すなわちPTC(Positive Temperature Coefficient)ヒーターを使う。ただし当然ながらこれは電気を消耗するので、EVによる航続距離は大幅に減ってしまう。
そこでエンジンが稼動すれば、エンジン冷却水による通常のヒーターを使う。この場合は当然ながら廃熱を使うので、燃費は悪化しない(暖房のためだけにエンジンを動かす場合を除く)。この点が「寒冷地には内燃機関が今後も有利」と言われる所以だ。
冷房には、インバーター制御の電動コンプレッサーを採用。プリウスでも先代(2代目)から使っているものだ。
シート地もさりげなく専用
シート地は黄色のパイピングが入ったスポーティなもので、よく見ると背もたれのところには「SWIFT Range Extender」と刺繍が入る。ドアパネルのガーニッシュにも同じように車名が入っていた。開発陣の意気込みと遊び心が感じられて、ちょっと嬉しい。
荷室スペースは現状では皆無
リアゲートを開けて、オッと息をのんだのは、荷室全体がリチウムイオン電池で埋まっていたから。しかしバッテリー容量はリーフの10分の1、i-MiEVの6分の1しかないので、将来的にはもっとコンパクトに出来るはず。また形式認定を取得している以上、被追突時の強度や漏電対策も入念に行ったと思われる。
なお、リチウムイオン電池は三洋電機製で、容量は2.66kWh。ちなみにプリウス PHVはその2倍の5.2kWh(今のところパナソニック製)、シボレー ボルトは約6倍の16.0kWhを搭載する(GMとLGケムの共同開発)。またピュアEVのi-MiEVも16.0kWhで(三菱とGSユアサの共同開発)、リーフは実に10倍の24.0kWhを積む(日産とNECの共同開発)。
