VW ザ・ビートルデザインレザーパッケージ新車試乗記(第668回)
Volkswagen The Beetle Design Leather Package
(1.2リッター直4ターボ・7速DCT・303万円)
2012年08月10日
ザ・ビートル キャラクター&開発コンセプト
第3世代は「The Beetle」を名乗る
新型ビートルは、初代ビートル(1938-2003年)、ニュービートル(1998-2010年)に続く第3世代のビートル。車名は新たに「ザ・ビートル」となった。ワールドプレミアは2011年4月。日本では2011年11月末に東京モーターショーで発表され、2012年4月20日から受注受付を開始。6月1日に発売された。
先代ニュービートルは4代目ゴルフ(ゴルフ4)がベースだったが、新型ビートルは現行の6代目ゴルフ/ジェッタ系のプラットフォームを採用。先代より長く、ワイドになり、全体としては低く見えるスタイリングが特徴だが、初代ビートルのイメージもしっかり投影されている。
キャッチコピーは「The 21st Century Beetle (21世紀のビートル)」。初代はドイツ本国をはじめ、1960年代には米国で爆発的に売れ、60年代カルチャーを象徴するクルマになったが、新型ビートルにもその精神は受け継がれており、プレスリリースには「クルマの楽しさを民主化することを目的に開発」と謳われている。生産は初代の一部や先代ニュービートル同様、フォルクスワーゲンのメキシコ工場で行われている。
初代ビートルは2150万台以上を生産
フォルクスワーゲン・グループ・ジャパンによると、初代ビートルの生産台数は2150万9464台で、4輪車の単一モデルとしては断トツで世界一。日本では1953年から1978年までに(この年にドイツ本国での生産が終了)、8万9810台が輸入されたとのこと。その後はメキシコ製の初代ビートルも多数日本に上陸している。なお初代の場合、シリーズを総称する正式名は特になく、「ビートル」という呼び名は愛称の一つ。英語圏では他に「バグ(Bug)」、ドイツ語圏では「ケイファー」(いずれも甲虫の意)、日本では「カブトムシ」などと呼ばれた。通称「タイプ1」とも呼ばれる。
2代目ニュービートルはRR(リアエンジン・後輪駆動)だった初代と異なり、前輪駆動で登場。1998年から2010年までの12年間に100万台以上を生産。日本では8万3097台(内カブリオレは4689台)が輸入されたとのこと。
価格帯&グレード展開
レザー内装の上級グレード(303万円)から発売。秋にはファブリック仕様(250万円)も
海外には1.4リッター直4ツインチャージャー、2リッター直4ターボ、主に北米向けの2.5リッター直5自然吸気、そして各種ディーゼルターボ等が用意されるが、日本にはゴルフやポロでお馴染みの1.2リッター直4ターボ(最高出力105ps、最大トルク17.8kgm)+7速DSG仕様が導入される。グレードはファブリックシート仕様の「デザイン」(250万円)と上級グレードの「デザイン レザーパッケージ」(303万円)の2種類。
ただし「デザイン」は2012年11月頃からデリバリーされる予定で、しばらくはレザーパッケージだけが販売される。こちらにはレザーシートの他、シートヒーター、バイキセノンヘッドライト、オートエアコン、パドルシフト、マルチファンクションステアリングホイール等を標準装備。タイヤ&アルミホイールはファブリック仕様が16インチ、レザーパッケージが17インチになる。JC08モード燃費はいずれも17.6km/Lで、共にエコカー減税(50%)の対象。
パッケージング&スタイル
初代ビートルのフォルムを再現
スタイリングは先代ニュービートルと同じように、初代タイプ1をモチーフとしたもの。ただしプレスリリースにも『デザイン性を前面に打ち出した「ニュービートル」と異なり、ロー&ワイドなプロポーションを強調』とあるように、ニュービートルの進化版ではなく、あくまでも初代ビートルを再解釈したものになっている。
最も象徴的なのがサイドビュー。先代ニュービートルは半円を3つ重ねて、前後対称にしたようなシルエットが特徴だったが、対して新型ビートルはボンネットがしっかり水平に長めに伸び、それに伴ってフロントウインドウの起点は後方に移動している。フロントオーバーハングも伸びている。
言ってみれば新型はファストバッククーペ風になったわけだが、このスタイリングは初代ビートルにも実によく似ている。この点では「ニュー」よりも「ザ」の方が、初代ビートルのスタイリングを忠実に受け継いでいる。結果としてニュービートルにあったファンシーな雰囲気がなくなり、国民車(フォルクスワーゲン)として登場した初代ビートルに回帰するように、より「自動車」らしく見えるようになった。また現代のポルシェ 911をチョロQ風にデフォルメしたようにも見える。
ロング&ワイド化。そして低く見える
ボディサイズは先代(後期型)より140mm長く、80mmワイドになった。パッと見は「低くなった」という印象が強いが、全高はほぼ同じで、もっと言えば初代と比べても、ほとんど変わっていない。だからチョップドルーフ風に見えるのは目の錯覚であり、デザインの妙でもある。
全長(mm) | 全幅(mm) | 全高(mm) | WB(mm) | 最小回転半径(m) | |
VW タイプ 1 | 4050~4140 | 1540~1585 | 1500 | 2400~2420 | 4.8~5.5 |
VW ニュービートル | 4090~4130 | 1730~1735 | 1500 | 2515 | 5.1 |
VW ゴルフ(現行モデル) | 4210 | 1790 | 1485 | 2575 | 5.0 |
VW ザ・ビートル | 4270 | 1815 | 1495 | 2535 | 5.0 |
インテリア&ラゲッジスペース
オシャレで上質。初代へのオマージュも
ボディ同色トリムが目に飛び込んでくるインテリア。先代はドアトリムだけがボディ同色だったが、新型はインパネやステアリングスポーク部も同色になった。試乗車の場合は、外装色が赤(トルネードレッド)なので余計に華やか。イタ車と違って、VWのインテリアは質実剛健で、素っ気ないデザインが多いだけに嬉しいところ。クラスの優等生に休日会ったら、とってもオシャレだった、みたいな感じ。先代に標準装備されていた透明プラスチック製の「一輪差し」は、販売店アクセサリーで用意されるようだ。
ゴルフなどとの共有パーツは多そうだが、目立つところにはメタル調塗装を、また手が触れるところにはしっとりした触感の表面処理を施すなど、質感は申し分なし。専用設計された細身のステアリングも、触り心地や操作感がとても気持ちいい。
クルマとの一体感が一気に増した
先代ニュービートルでは、ダッシュボードがやけに前方に長く、フロントウインドウやAピラーもやけに遠く、結果としてクルマとの一体感が希薄だったが、新型の着座感は、いい意味で「普通」。ダッシュボードが短くなり、フロントウインドウの位置は後退して、適度な一体感が出た。
ただ、ゴルフ用のスポーツシートをそのまま転用したようなレザーシートは、機能的だが、ちょっと可愛げがない。また、この季節はエアコンをかけてもシートの熱がなかなか冷めず、背中が暑かった。ファブリック仕様の導入が待たれるところ。
頭の周りが広くなった
後席の居住性も期待以上。フットルームこそ先代と大差ないが、ルーフが後方に伸びたことで、ヘッドルームは明らかに余裕が増した。またクーペ風のスタイリングなのに、直射日光に頭がさらされないのも嬉しいところ。
背もたれがやや立ち気味で、お尻を座面の奥にピタリとくっつける形で座ることになるのは、ちょっと不満が残るところだが、座り心地は悪くない。総じてゴルフの後席には負けるが、ポロとなら互角と言えるかも、という印象。
基本性能&ドライブフィール
パワートレインはポロやゴルフと同じ1.2 TSI+7速DSG
日本仕様の1.2 TSIエンジン(直噴ターボ)+7速DSGは、現行のポロやゴルフに2010年から搭載されているもの。ターボではあるが、1200ccという排気量は初期(1960年代か)の初代ビートルと同じで、その点でも伝統に忠実。ただし新型ビートルには今のところ、アイドリングストップ機能やブレーキエネルギー回生システムといったVWの最新エコ技術「ブルーモーションテクノロジー」は採用されていない。
質実剛健に?金属キーをひねってエンジンを始動。アイドリング音はめっぽう静かで、無いはずのアイドリングストップが作動したかと勘違いするほど。ブレーキを離せば、電子制御クラッチが動力を伝達してスムーズに発進。DSGは着実に改良されているようで、もはや違和感はほとんどない。坂道ではヒルホルダーが作動して、数秒間落ちるのを防いでくれる。
動き出しは2速発進時代のメルセデス・ベンツのように、のっそりと遅い。2500回転を超えたあたりから過給圧が高まって、ようやくグググッと力強く加速し始める。車重がポロより170kgも重く、ゴルフと同等の1280kgあるのも一因だろうが、それよりも電子制御スロットルが燃費重視になっている感じが強い。最高出力は105ps/7000rpmに過ぎないが、最大トルクは175Nm(17.8kgm)/1500-4100rpmと低いレンジから力強い。特に1500~2000回転くらいをキープしてユルユル走るのが得意。
パドルシフトやマニュアルモードでギアを固定してアクセルを踏み込めば、6000回転オーバーまでフラットトルクで淀みなく回る。エンジンサウンドが単調なので迫力はないが、ブン回してもエンジンは静かで、振動も高まらない、ポーカーフェイスなタイプ。トルク感だけで言えば、2.0リッター自然吸気エンジンのような余裕がある。
乗り心地からハンドリングまで文句なし
乗り心地に関しては、文句なしと言いたい。ちょっと固めと感じる場合もあると思うが、ボディ全体やフロアのガッシリ感、ワイドトレッドによる踏ん張り感、適度なコシがあるスプリング、それに適切なダンパー減衰力などなどが相まって、サスペンションがしなやかに動く様が実感できる。
実は(1.2 TSIの)リアサスペンションは、ゴルフのような4リンク(マルチリンク)ではなく、トーションビームになるのだが、ワイドトレッドなどがそれを相殺したのか、ほとんどまったくグレードダウン感はない。試乗車のタイヤは215/55R17(コンチネンタル プレミアムコンタクト2)と立派なサイズだったが、このまま18インチや19インチでも無理なく履けそう。ちなみに海外で販売されている2.0 TSIはゴルフと同じ4リンクになる。
ハンドリングも文句なし。何をやっても4輪は路面を「しっとり」捉えたまま、舗装の荒れたワインディンディングロードをスムーズに走り続ける。手触りのいいレザーステーアリングを切り込む操作自体がすでに気持ちよく、それに応じて穏やかにノーズが反応する様子がまた気持ちいい。これはゴルフあたりにも通じるものだが、とにかく「いいクルマ感」がすごい。
新型ビートルの場合は、エンジンが1.2 TSIのみということで、完全にシャシーがエンジンに勝っていたことも大きいと思うが、逆に言えばこの程度のパワーに、これだけ高いレベルのハンドリングを与えるところがVWのスゴイところ。タイヤも新型ビートルの場合は特にエコタイヤではなく、オールラウンドなコンチネンタルのプレミアムコンタクト2。ESP(全車標準)の介入もほとんどなかった。燃費が良ければ、走りや操縦安定性はそこそこでOK、みたいな作りの一部エコカーとは根本的に思想が違うと思い知らされる。
100km/h巡航は約2000回転。静粛性は高い
60km/hを越えると7速トップにシフトアップ。1.2 TSIエンジンjは1500回転という低回転でもノッキングせず、粛々と仕事をこなす。100km/h巡航は約2000回転で、ここからアクセルを踏み込めば、一気に4速までキックダウン(マニュアル操作なら3速まで落とせる)。際立って速くはないものの、エンジンは6000回転オーバーまでぜんぜん苦しい素振りを見せず吹け上がってゆくので、不満がない。とにかく150km/h出しても3000回転しか回らないわけだから、巡航は得意。
ちなみに1.2 TSI(105ps)+7速DSG仕の最高速(UK仕様のメーカー発表値)は111mph(179km/h)で、日本で乗るなら静粛性も含めて全く不満なしだと思う。ちなみに2.0 TSI(200ps)+6速DSGだと139mph(224km/h)とある。
試乗燃費は9.8~14.7km/L、JC08モードは17.6km/L
今回はトータルで約200kmを試乗。参考までに試乗燃費は、いつものように一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約90km)が9.8km/L。昼間、渋滞した一般道を無駄な加速を控えて走った区間(約20km)が12.0km/L。夜間、空いた一般道を無駄な加速を控えて走った区間(約30km)が14.7km/L。高速道路を80~100km/Lで巡航した区間(約20km)が18.0km/Lだった。
なお10・15モード燃費は17.2km/Lで、JC08モード燃費は17.6km/L(JC08の方がいい)。先代ニュービートルの1.6リッター(6AT)は10・15モード燃費が11.6km/L、2.0リッター(同じく6AT)に至っては10.6km/Lでしかなかったので、燃費向上率は実に約1.5倍(48~62%アップ)にもなる。
ちなみに同じエンジンにアイドリングストップ機能やブレーキエネルギー回生システムを装備した「ゴルフ TSI トレンドライン ブルーモーション テクノロジー」(264万円)は19.0km/Lだから、新型ビートルにも同様の燃費向上技術が投入されればモード燃費は1km/L程度向上するのでは。
燃料タンク容量は、現行ゴルフと同じ55リッター。指定燃料はもちろんハイオクになる。
最大出力(ps) | 最大トルク(kgm) | 車重(kg) | 10・15モード 燃費(km/L) |
JC08モード 燃費(km/L) |
|
---|---|---|---|---|---|
VW ポロ TSI コンフォートライン ブルーモーションテクノロジー(7速DCT) |
105 | 17.8 | 1100 | 21.5 | 21.2 |
VW ゴルフ TSI トレンドライン ブルーモーションテクノロジー(7速DCT) |
105 | 17.8 | 1270 | 18.4 | 19.0 |
VW ザ・ビートル(7速DCT) | 105 | 17.8 | 1280 | 17.2 | 17.8 |
MINI クーパー(6AT) | 122 | 16.3 | 1170 | 16.4 | 15.4 |
先代VW ニュービートル 1.6(6AT) | 102 | 15.1 | 1250 | 11.6 | - |
先代VW ニュービートル 2.0(6AT) | 116 | 17.5 | 1280 | 10.6 | - |
ここがイイ
ハードウエアとして完璧。精悍になったデザイン。全方位で高まった実用性
ルックスはお遊び的だが、作りはものすごく真面目であること。本気で「国民車(フォルクスワーゲン)」を作ろうとしたのでは、と思うほどハードウェアとして完璧。あるいは、ごく普通に作っても、これくらいのものができてしまうとしたら、フォルクスワーゲンは恐ろしい会社だ。ついにポルシェをも傘下に置き、資本主義ビジネスを成功させながらも、製品の質をまったく落とさないのは、いかにもドイツ気質というところか。ここに今、スズキが加わっていないことはある意味、残念に思う。
必要十分なパワー、パーフェクトと言いたくなる操縦安定性、とても良い乗り心地、高い静粛性、そして魅力あるデザインなど、4拍子も5拍子もそろった高い完成度。VWの現行モデルでは、特にポロをモーターデイズでは高く評価しているが、それと双璧をなすクルマだと思う。とくにスタイリングはチョップトップ風になって精悍さも出たことから、男性にもウケるだろう。
また実用性も文字通り全方位で高まっている。ついこの前まで売っていた先代ニュービートルに比べて、モード燃費で一気に1.5倍も良くなった燃費性能。先代の実用燃費は街乗りでおそらく7~8km/L程度だったと思うが、新型なら9~12km/L程度は走ると思われる。またトランク容量も先代比1.5倍となリ、後席も広くなった。また見切りが良くなって運転も格段にしやすくなっている。
ここがダメ
特になし。あえて言えば、後席の背もたれ角度、アイドリングストップの不備など
久々に「ここがダメ」は特になしとしたいが、あえて言えば後席の背もたれはもう少し寝かせられると、小柄な人ならリラックスした姿勢が取れると思う。また、それはそうと、このクルマには革シートはあまり似合わないと思う。ざっくりとした麻といった、個性的な素材の布シートが欲しいところ。秋にデリバリーが始まるファブリックシート仕様に期待したい。
開発の順番としては「とりあえずアイドリングストップ無しで」ということなのだろうが、今やゴルフやポロの売れ筋がアイドリングストップ付の「ブルーモーションテクノロジー」であることを考えると、出来れば最初から装備して欲しかったところ。ただ、エンジンが止まったり止まらなかったり、ということを煩わしく思う場合もあるだろうから、一概にそれが必須とも言い切れないが。
上級グレードにもオートライトがなかったのは残念。またリアパーキングセンサーは販売店オプションのようだが、リアが出っ張っている上に、後方視界がそれほど良くないのでバックする時はぶつけないかと少し気をつかった。
総合評価
ビートルとミニ
照りつける太陽、光る海。オールサマーロング、終わりなき夏の日。アメリカでは1950年代から、日本では1960年代の後半あたりから、「夏と海とクルマ」は若者にとって、青春と同義語だった。フォルクスワーゲン ビートルにサーフボードを「背負わせて」海へ出かけるというウェストコーストライフは。1970年代の日本でも大いなる憧れだった。そして現実に日本にいる多くの若者がポンコツビートルでその夢を叶えていたもの。もっとも、日本で乗れた波は、お世辞にも大きくはなかったが。
欧州ではいざしらず、北米でのビートルはその昔、若者の安価な足グルマだったはずだ。走りが際立っていいクルマではなかったし、小さくて狭くて古臭い。なにせ、もともとはヒトラー総統が作らせたクルマなのだから、米国の大人が好んで乗るはずもなかった。そのかわりに若者が乗り回したため、結果としてビートルに元々あった素性とはまったく畑違いの「夏の風物詩」となったのだから面白い。
これに対して当時日本で、走りやシックな内装を売りとして欧州車らしさを主張していたのがクラシックミニだ。1970年代初頭ごろ、ミニは日本では高級車だった。新車ではクラウン並みの価格。中古でも、もともと高価なクーパーが多かったので、かなり高かった(それでも70年代後半になるとクーパーではないグレードを中心に、かなり安くなってはいたが)。そしてオシャレであり、乗ってる人を含めて女子の憧れでもあった。
それに対してビートルはというと、むろんアメリカのように庶民的ではなかったものの、けして高級車という位置づけでなかった。1974年頃の資料を見ると、新車ではVW1200が85万円~、ミニ1000が119.5万円。中古では1970年のミニクーパーSが95万円、1971年のVW1302Sが68万円。鉄板むき出しのインパネ(ビートル)と、ウッドパネルに覆われたインパネ(ミニ)とでは、高級感の差は明らかだった。なお参考までに書いておくと、当時クラウンはスーパーサルーンで130万円、ポルシェ 911は465万円だった。
もともとはミニも大衆車だったが、高性能版であるクーパーがその地位を持ち上げた。当時はミニではなく誰もがミニクーパーとよんでいた。これに対してビートルは(当時はワーゲンと呼んでいた人が多かった)、大衆車のままだった。そして若者のクルマだった。実はこの頃のイメージを、両車は今も引きずっていると思う。BMWのMINIはそのイメージをうまく利用して現在のブランド戦略や量販体制を確立した。しかしビートルの方はちょっと弱い。特に先代のニュービートルはかなりファニーなデザインで、女性向けの印象が強くなってしまった。そのため今では、ビートルは若くて可愛い女性のクルマというイメージを持つ人が多いのではないか。
堅物のフォルクスワーゲンにできるなら
しかし新型ビートルは、スタイリングに精悍さが増し、サイズも大きくなってユニセックスな印象のクルマになったと思う。乗ってみると、その印象はさらに強まる。これはもう、まごうことなき最新フォルクスワーゲン車だ。ルックスから想像される軟弱さは微塵もなく、走りのしっかり感、正確な操舵感、素晴らしい乗り心地、1.2リッター直噴ターボの不足感もなく、過剰感もない動力性能、そして7速DSGなど、ハードウエア的にはもはや何一つ不満はない。それはそれは気持ちのよい走りが堪能できる、男のクルマだ。その上で、この魅力的なデザインを実現しているのだから、何をかいわんや。よく言う「60年代の名車が今の性能でよみがえったら」を、まさに実現しているのだから、VWには脱帽だ。
ちなみに、もうじき登場する新型ゴルフは想像するに素晴らしいクルマになるだろう。しかし、そのスタイルはどうだろうか。現行が今ひとつ魅力に欠けるだけに心配なところ。であればいっそ、バリエーションとして、フォルクスワーゲンのタイプ3を作ってみてはどうだろうか。それもバリアント(ステーションワゴン)で。すでにタイプ2 (ワンボックスタイプ)の現代版はコンセプトカーで登場しているし、MINIに対抗できるような新しいブランド展開ができるかもしれない。そんな楽しい妄想も湧いてくる。またビートル自体もモーターショーで見た(ギターの)フェンダーバージョンあたりにとどまらず、キャルルックとか、バハバグとか、バリエーションを増やして欲しいものだ。MINIは4ドアのクロスオーバーSUVにまで発展しているのだから。
スタンダードなグレードなら250万円とお手頃価格。アラカン世代は不良ジジイとなってワーゲン(この名前の方がしっくり来る)に乗ろう。そして若者にはビートルで「夏と海とクルマ」の日々を体験してもらいたい。共にファミリーカーになど乗る必要はないのだから、2ドアのビートルで不足はないはず。燃える夏の日をビートルで過ごすなら、屋根が開けたくなる。となればオプションで、ぜひキャンバストップが欲しいところだが、それが無理なら、まもなく出てくるカブリオレに期待したい。
ところで、14年前に書いたニュービートル試乗記を読みなおしてみたら、日本のメーカーもニュービートルのような(過去の名車をリスペクトした)商品を作れば、「真面目に作ったワゴン」なんかよりずっと売れるのではないか、といったことを書いていた。そして『ここにきて海外のメーカーの方が頭が柔らかくなってきているのではないだろうか。その象徴がこのビートルだろう』とも書いている。
この14年間、日本のクルマは楽しかったのか。ビートルはそんなに高いクルマではない。それでいて楽しいクルマ、文句なくいいクルマだ。堅物のフォルクスワーゲンにできて、なぜ日本でこういうことが出来ないのだろう。楽しいクルマが日本でもどんどん出れば、たとえ消費税が上がったとしてもクルマは売れると信じたい。
試乗車スペック
フォルクスワーゲン ザ ビートル デザイン レザーパッケージ
(1.2リッター直4ターボ・7速DCT・303万円)
●初年度登録:2012年6月●形式:DBA-16CBZ ●全長4270mm×全幅1815mm×全高1495mm ●ホイールベース:2535mm ●最小回転半径:5.0m ●車重(車検証記載値):1280kg(800+480) ●乗車定員:4名
●エンジン型式:CBZ ●排気量・エンジン種類:1197cc・直列4気筒SOHC・2バルブ・直噴・ターボ・横置 ●ボア×ストローク:71.0×75.6mm ●圧縮比:10.0 ●最高出力:77kW(105ps)/5000rpm ●最大トルク:175Nm (17.8kgm)/1500-4100rpm ●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/55L ●10・15モード燃費:17.2km/L ●JC08モード燃費:17.6km/L
●駆動方式:前輪駆動(FF) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット+コイル/後 トーションビーム付トレーリングアーム+コイル ●タイヤ:215/55R17(Continental PremiumContact2) ●試乗車価格(概算):-円 ※オプション:- -円 ●ボディカラー:トルネードレッド ●試乗距離:200km ●試乗日:2012年8月 ●車両協力:フォルクスワーゲン本山・小牧(ファーレン名古屋中央)