キャラクター&開発コンセプト
半世紀の歴史を持つ小メーカー
TVRの本拠地ブラックプールは、ビートルズで有名なリバプールにほど近い小都市で、映画「Shall we ダンス?」で知名度を上げたソーシャル・ダンスの聖地でもある。TVRの社名は創立者のトレバー(TreVoR)・ウイルキンソンの名が由来だ。1950年代の創業当時から始まった鋼管フレーム&FRPボディのFRスポーツカーという基本は現在も変わっていない。1950~60年代はグランチュラ、初代グリフィス、70年代にはヴィクセンといったマニアックなスポーツカーを小規模ながら生産して地元のマニアに支持されていた。
転機は'90年代の新型グリフィスから
1980年代に入って現在のTVRのオーナー兼代表であるピーター・ウィーラー(Wheeler)が就任し、92年に発売されたグリフィスが大ヒット。その後はキミーラ、サーブラウなどを矢継ぎ早に発表して、この10年で生産台数は1,000台/年から倍の2,000台以上になったという。最近では自社製エンジン開発するなど、そのオリジナリティに拍車がかかっている。
TVRの中では随一の個性派俳優
タスカン・スピード・シックスは、TVRらしい奇想天外なデザインを持つFRスポーツカーであり、ルーフとリア・ウインドウが脱着可能なタルガトップ・モデルでもある。「スピード・シックス」とはフロントに納まる自社製4リッター・DOHC直列6気筒エンジンのこと。
映画「ソードフィッシュ(Swordfish)」(2001年)でジョン・トラボルタが派手にカー・アクションを見せる一方、サッカーのベッカムの愛車として紹介されるなど、この手のクルマとしては珍しくメディアウケしている話題のクルマでもある。
価格帯&グレード展開
2002年2月から日本におけるTVR正規代理店となったオートトレーディング(本社:愛知県)が扱うTVRは、サーブラウ、タモーラ、タスカンの3車種。
タスカンは標準モデルたるタスカン・スピード・シックス(760万円)と、そのハイパワー版(+40psの390ps)であるタスカン S(980万円)の2グレード構成。インポーターがオートトレーディングに代わったことで、ベースモデルで200万円近く安くなった。いずれもエアコン、集中ドアロック、パワーウインドウ、パワステ、CDステレオが標準装備。全車右ハンドル、5速MTだ。
オプションは18インチホイール(18万円。「S」は標準)、カメレオンペイント(いわゆるマジョーラ。43万円)、フルレザー内装(46万円)など。内外装色については豊富な色見本からオーダー可能。
ライバルは価格的にポルシェ・ボクスター、BMW・Mクーペ/ロードスター。そしてユーズドを含めばポルシェ911、フェラーリといったところか。
パッケージング&スタイル
実物は思ったより小さく、低い
写真で見るタスカンは、八目鰻のようなライトや昆虫みたいなラジエターグリル、大きくうねったフロントフードが強調される。しかし実物を目にした時の印象はまず「小さい」と「低い」だ。全長4235×全幅1720×全高1200mm。ホイールベース:2361mm。サイズとしてはホンダ・S2000(4135×1750×1285mm。ホイールベース:2400mm)に近い。が、実際の印象はずっとコンパクト。そしてはるかに低い。どちらかと言うと、屋根をチョップして思い切りシャコタンにしたマツダ・ロードスターという感じだ。
奇抜さと古典的な美しさが混在
オーソドクスなパッケージングと前衛的かつ未来的かつ有機的ディテールが合体したタスカンのエクステリアは、これはもうカッコイイとしか言いようがない。写真で見るよりも実物はずっと魅力的だ。コンピューターを使わず、文字通り手でこね上げて開発したというデザインは、たいへん人間的で暖かみがある。最近のスポーツカーで主流となっているクールなデザインとは正反対だ。
一方、真横は、紛れもなくイギリス出身の古典的ライトウェイト・スポーツ。TVRが半世紀前から継承するロングノーズ、ショートデッキの基本造形を守る。フロントフェンダーとドアの間に隙間を設けるのは、TVRでお馴染みの手法だ。また、ボンネットは前後2分割となり、その隙間からは電動ファンでラジエターから吸い出された熱風が排出される。ちなみにボンネットの前側はオイル・冷却水のメンテ用に前ヒンジで開くが、エンジン真上にあるボンネット後ろ側はボルト止めだ。
21世紀の英国車は脱ウッドパネル
圧巻はインテリアだ。新型グリフィスの頃からすでに内装はアバンギャルドだったが、タスカンのインテリア、特にインパネは市販車としては自動車史上、最も過激なものの一つだろう。インテリアはパイオニア製オーディオを除き、全てオリジナル・パーツ。その話だけでも常識外れだ。
ステアリング・コラムには、もみじ饅頭(まんじゅう)のような不思議な形に打ち抜かれたアルミニウム製パネル(TVRはこれを「ポッド(pod : エンドウ豆などのサヤ)」と呼ぶ)。そこにドーンと埋め込まれるのが金色の扇形スピードメーターだ。そしてライト、空調、パワーウインドウのスイッチは全て真鍮製。ペーパーナイフのような鋭利なタッチのウインカーレバーも、無垢のアルミ製だ。シフトノブ、パーキングブレーキ・ハンドルもアルミ。ヘアライン処理なんかではなく、全てピカピカのバフ仕上げになっている。
タコメーターは引きずり降ろされた
タコメーターは液晶パネルにデジタル表示(!)するのみ。数字が猛烈な勢いで変わるので、はっきり言って巡航時を除き、走行中は判読不可能だ。
「現在の運転席ではもはやタコメーターがもっとも重要な計器ではありません」とは開発エンジニアの言葉だ。確かに、路上において一番使用頻度が高いのは速度計である。タコメーターは現在でもスポーツカーに必要不可欠のように思われているが、F1などレーシングカーの世界ではすでにその役割を単純な警告灯(シフトアップインジケーター)に譲っており、タスカンも同様のものを装備する。
基本性能&ドライブフィール
エンジンを掛けるのにも、たコツが必要
試乗したのは7月末。最高気温36度を記録した日の、しかも真っ昼間。イギリス生まれのハイパワー・スポーツカーにとってはもちろん、試乗する側にとっても過酷な状況だ。そんな中、火のようなオレンジ色のタスカン・スピード・シックスが夏の太陽の下で文字通り燃えるように輝いていた。
まずはコックピット・ドリル。タスカンのドアの開け方は各雑誌で散々ネタになっているとおり、電気仕掛けの独自なもの。外からはサイドミラー下部のボタンを、中からはセンタコンソール上部のオーディオ脇の小さなボタンを押し続ける。すると「コトッ」という音とともにドアが開く。というわけで、レクチャーを受けない限り、普通はまずドアが開けられない。女性を乗せるときは便利? かも。
さて、難しいのがエンジンをかける方法。まずはキーに付属したプラスチック製スティック(イモビライザーの解除キー)をステアリング左奥の穴に差し込む。場所が奥まっていることに加え、方向性があり、しかも左手をひねりながら行うので、これが大変やりにくい。
さてスティックがうまくハマり、LEDの点滅が消えたら、おもむろにキーを差し込んで、回す。ククククク、バァーーーン! エンジンがかかってホッとするというのも、今どきのクルマでは貴重である。
ほぼ文句なしのドラポジ
まるでオートバイみたいな2本のステンレス/カーボン製マフラーから吐き出されるエンジン音は、バババババ……と野太い。まるでプロペラ戦闘機のような音。イギリスだからスピットファイアか。不思議と喧しくはない。
全高1200mmだから着座位置は低いが、スーパー7やロータス・エリーゼのように、フロアに直に座るかのような低さではない。未来的シェイプながら、本革のシートは座り心地がよく、サポート性もいい。AE86を思い出させるエアポンプ式ランバーサポートが付く。ステアリングはチルト付き。期待していなかったドラポジは、意外にもばっちり決まる(短足の日本人の場合は、足を合わせるとステアリングがやや近くなるが)。オルガンタイプのペダルもちゃんと足を伸ばしたところにある。これはそもそも、乗員自体がギアボックスを避けて左右にオフセットされて座らされるからだが。TVRが長年使ってきたV8ではなく、直6であることも有利に働く。開発エンジニアによれば、V8を載せると全幅を広げない限り、足の置き場がなくなるそうだ。
拍子抜けするほど発進は簡単
油圧ツインプレートのクラッチは国産ハイパワースポーツや空冷時代のポルシェ911と変わらない程度の重さ。GT-Rの方が重いかもしれない。TVR伝統の球形アルミ製シフトノブを握って1速に入れて、クラッチを離す。スタートはたいへんイージーで、アイドリング・スタートでもストールする気配はまったくない。「ボトムエンドは考えずに、中域でパワーが出るようにした」とカタログにはあるが、どうしてどうして、ボトムエンドも十分という印象だ。
凄まじいスペック以上に、柔軟性が印象的
サーブラウ用V8「AJP8」に続き、市販車用エンジンとしてTVR自製第2弾となるのがタスカン搭載の3605cc・DOHC直6エンジン「SP6」。TVR初のDOHCヘッドで、6連スロットルを装備。オイル循環はドライサンプ式だ。
そのスペックはかなり凄まじい。以下、350ps/7500rpm、393Nm/5750rpm。車重1100kg。最高速度280km/h(カタログ値)。パワー・ウェイト・レシオ : 3.14kg/ps。なにせ、数字的にはフェラーリ 360 モデナ(400ps、1430kg)の3.58kg/psを軽く上回るものだ。これが390psのタスカン Sだと2.82kg/ps。最高速は「312km/h以上」となる。これからすると、相当、凄まじいクルマだろうと想像してもおかしくはないし、各雑誌でのレポートもそんな印象を煽っていた。
しかし、実際に感心したのはパワーよりも「ゴムまりのような」柔軟性。低速でラフに踏み込んでも、駆動系はまったくギクシャクせず、スナッチ知らず。そこから一気にアクセルを踏み込むと、ほとんど回転域を選ばず「バァァーーーーーン」という、ちょっと古いビッグバイクみたいな排気音とともに、自然吸気らしくリニアに加速する。そのフィーリングはちょっとチューンドポルシェにも似ている。
加速自体は周囲の景色の飛び方からしてかなりのもの。しかし予想に反して高回転でのパワー爆発感はなく「凄まじい」と形容する加速感はない。感覚的には250psカーくらいか。逆に言えば、シフトアップを促すグリーンのランプが点くまで回さなくても、十分にこのエンジンの本領は味わえる。つまり、回さなくても十分に楽しい。ただし試乗は2名乗車であり、1名だけなら印象はもう少し違ったものになったかもしれない。なにしろ軽いクルマであるから、60kg程度でも影響は大きい。
どうやらこのタスカンの標準モデルは、'00年頃の初期モデルに比べてかなりマイルドに振られているらしく(パワーもカタログ値で10psダウン)、その辺りが当時の試乗レポートと印象が異なる理由だろう。過激なのが欲しければ「S」の方をどうぞ、ということか。
どうしてこんなに乗り心地がいいんだろう?
意外だったことは他にもある。それは乗り心地が素晴らしくよかったことだ。信じられないかもしれないが本当だ。サスペンションはソフトで路面の凹凸をほとんどボディに伝えず、それでいてピッチングは皆無。ボディ剛性も高く、試乗中ボディがシェイクするようなことは一度もなかった。イギリスのスポーツカーは伝統的に乗り心地が良いと言われるが、これだけ軽量・ハイパワーのクルマが普通の国産スポーティーカー並み。スポーティなら固くても仕方ないという発想はこのクルマにはない。
2000年9月にイギリス現地で試乗したレポートなどを読むと「深く掘られた轍にステアリングを取られるワンダリング」が気になったとされているが、今回の試乗車の場合、同じ18インチ仕様でもワンダリングは皆無だった。イギリスの自動車雑誌「CAR」によると、タスカンのこの2年間の細かな仕様変更や品質改善はかなり著しいらしいから、そのせいかもしれない。
タイヤには意外な銘柄が
ところでオプションのフロント225/35ZR18、リア255/35ZR18というタイヤは、意外なことに? 日本のトーヨー製「PROXES T1-S」。タイヤパターンからして日本で販売される「トランピオ ヴィモード」と同種のものだろう。ステアリングを大きく切った時の反応はソリッド。ただし超クイックというほどではない。速度感応式パワステはフィールは特に優れないが、これがあるおかげで乗り心地に加え「乗りやすさ」も追加されている。フロントの4ポッドブレーキはサーボ付きだが、ノンサーボのような剛性感が頼もしい。
それなりに不具合もあったが、暑さには強かった
もちろん、いくつか不具合もあったのでそれも報告しておきたい。まず、針が揺れて見にくかったスピードメーターだが、試乗中についに正確に指示しなくなった。ありゃ、と思っていたら、いつの間にか復活。
2つ目。タルガトップのタスカン。脱着式リアウインドウもアクリルなのは良いが、ボディとの隙間が大きく、雨漏りは予想できるところ。サイド・ウインドウのシール性も低そうだった。雨の日に乗らないのは鉄則だろう。
3つ目。実はこの炎天下の中、ACスイッチ(コンプレッサーON/OFF)が結局どうしても分からず、エアコンなしの試乗となった。室内は50度近くまで上がり、担当者2人はエアコンの無かった頃の話に花が咲いた。しかしタスカンは運転席/助手席の間に巨大なギアボックスがあるせいで、乗員2人の間には子供が一人座れるくらいの距離がある。よって男2人でもまったく暑苦しさがなかったというのは、やせ我慢ではない(暑いことは暑いが)。よってエアコンが効いたかどうか確認できなかったのはたいへん残念。
最後に。アツイと言えば、アルミ製シフトノブとアルミ製ハンドブレーキの火傷するような熱さには完全にまいった。周囲の温度が高い上に、駆動系の熱がもろに伝わるらしく、試乗終わり頃にはあまりにも熱くてハンドブレーキが引けなかった。夏場はグローブをして運転しましょう。
とまあ、熱的にはイギリスでは想像できそうもない過酷な状況であった。にも関わらず、最も心配していたオーバーヒートは、最後まで兆候すら見せなかった。液晶パネルに表示される水温は高速巡航時も渋滞下も94度~96度をキープ。電動ファンも時折回る程度。どちらかと言えば気候的には冷涼なはずのブラックプール生まれは、意外なことに日本の夏にも強いようだ。
ここがイイ
独自のスタイル。独自の内装。豪快で扱いやすいエンジン。街乗りでも使える快適な乗り心地。つまりこのクルマが気に入ってさえいれば、まさにすべてがイイといえる。特に、快適性の面においては、並みいるチューンドカーの常識を超える。楽しくも快適な走りが満喫できる。
TVRはオートトレーディングに輸入販売権が移ったが、とたんに販売店数が増え、即納も可能なクルマになった。メディアの露出も増え、認知度も急上昇している。知る人ぞ知るではせっかくのコンプリートメーカーTVRは成り立たない。販売体制の変更は実に「イイ」ことだ。
ここがダメ
手作りであることを見事に実証している、すばらしい「低品質感」。最近の大手メーカー製自動車という商品の完成度と比すると、30年は昔に戻った感じ。内装部品のバリは多いし、操作性もあいまい。ボディのチリもあっていないし、やっぱり雨漏りもしないで欲しい。お遊び用サードカーなら許せるところ。ただ、誤解のないように追記するが、これらは見方を変えればイイことにも転ずる。
総合評価
このマスプロ生産の時代に自社でエンジンまで作ってしまったという行為は、奇跡と言ってもいい。DMCのデロリアンもエンジンは既存のものだった。TVRこそまさにアドベンチャー。それでいて企業としては一応採算ベースに乗っているのだから賞賛に値する。お金に余裕のある人はこういう企業姿勢を支援する意味でも、TVRを買うべきだろう。
クルマ自体はプリミティブという一言に尽きる。走りは豪快そのもので、挙動はクイック。しかしエンジンは高回転型ではないし、メーター表示はいい加減だし、振動も凄い。とはいえ「走っている」という実感がこれほど感じられるクルマは久々だ。いったんエンジンを止めたら次に始動するか不安だし、ボタン式のドアも壊れたらどうやって閉めればいいのだろうと考えてしまう。そうした心理的不安感と戦いながら、豪快な走りを楽しむことこそ30年前の、あるいは現在における旧車ドライブの楽しみというものだ。つまりこのクルマは新車で買える旧車(ノスタルジックカー)なのではないか。
エアバッグだってないし、FRPボディーの衝突安全性もまったく未知数。ケツを振り出したら自分の運転技術で押さえ込むしかない。TVRにおいてはすべてが自己責任であることが、管理された工業製品である現代のクルマに慣れきった、軟弱ドライバーの野生に火をつける。
公式サイトhttp://www.autotrading.co.jp/1.0/TVR/