キャラクター&開発コンセプト
オメガとアストラの間で、オペルの中核を担う
2002年7月27日より日本発売となった新型ベクトラは、オペルのミッドサイズセダン。88年デビュー(89 年日本導入)の初代、95年発売の2代目に続く3代目となる。ちなみにベクトラは日本では馴染みのないアスコナ(70~88年。累計生産台数440万台以上))の後継モデルにあたる。
初代(ベクトラA)、2代目(ベクトラB)合わせて、日本では13年間で4万台と、そこそこの数が出ているが、実質的にはマイナーな存在のベクトラ。しかしヨーロッパでは同クラスでベストセラー(96~98年)となるたいへんポピュラーな存在だ。
欠陥ゼロ」を目指し、品質管理には力が入った
新型ベクトラは、オペルの新しい企業目標“フレッシュ・シンキング(Fresh Thinking)-ベター・カーズ(Better Cars)”「自由な発想-より良いクルマのために」を謳った最初のモデルだ。
スローガンを実現すべく、オペル本拠地であるリュッセルスハイムに最新鋭工場を建設。品質管理に神経を使ったこの工場のウリは「アンドン・システム」だ。アンドンとは行灯のこと。問題が生じると生産ラインに沿って引かれた「アンドン・ライン」を引っ張ってすぐに解決に当たるという、「カンバン」方式と並ぶトヨタの生産システムの一つだ。こうした努力のおかげで2001年度のクレーム数は98年度の約40%に減少したという。当たり前だがクルマは壊れない方がいい。「機械だから壊れるのが当たり前というのが欧州車の考え方」だと学んできた欧州車フリークは、そろそろ考えを改める時期に来ている。
価格帯&グレード展開
エンジンは2.2リッター1種類。グレードは2つ
新型ベクトラは「2.2」と「2.2 プレミアム」の2グレード構成。基本性能はほぼ同じ。価格は「2.2」が335万円。シートヒーター付き本革シート、17インチアルミ、コーナーセンサー、リア電動サンシェードが付く「2.2 プレミアム」は362万円。
ちなみに、ヨーロッパで販売される新型ベクトラには2.2以外に、1.8と3.2リッターV6ガソリン、2.0と2.2リッターの直噴ターボディーゼルがある。3.2リッターV6(5ドアハッチのスポーツモデルであるGTSに搭載)は年内にも日本に導入されそうだ。
パッケージング&スタイル
ディテールは個性的だが、全体としてはかなり地味
新型ベクトラのデザインは1999年のフランクフルト・ショーで発表されたコンセプトカー「G90」の流れを組むもの。丸くてフレンドリーなデザインを向こうに回し、エッジを強調して個性をアピール。バンパーからバンパーまで伸びるショルダーラインや前後ライトユニットなどディテールはかなり凝っている。
つまり、よく見るとなかなか個性的な形をしているのだが、一見はセダンとして標準的なシルエットに見えてしまい、街の雑踏の中では埋没してしまうというのが惜しい。日本市場においては、このクラスでは存在感が販売面の大きな要因を占めるだけに、もう少し色香が欲しいところだ。
「空力の権化」と言われたオペルらしくCd値(空気抵抗係数)は先代と同じ0.28に抑えた。日産スカイラインの0.26には及ばないが(いずれもメーカー発表値)、クラストップの空力性能と言っていいだろう。
大「幅」サイズアップ
ボディ外寸は全長4610×全幅1800×全高1465mm。ホイールベースは2700mm。先代は 4495×1710×1425mm、WB:2635mmだから、かなりのサイズアップだ。特に全幅の90mmアップが大きく、ほとんどメルセデス・ベンツEクラス並みだ。全長はコンパクトセダンと言えるが、中に座ると横方向の余裕をかなり感じる。
一方で取り回し性は微妙。自転車一台あっても気を使う都市部の裏道の場合、小型車のようにいかないのは仕方ないところ。ドアミラーの出っ張りが大きいのも気になった。東京・明治通りの渋滞では、同じGM製であるコルベットのドアミラーがこちらのベクトラのミラーの下をくぐって通り過ぎる、などというシーンも。とはいえ全長はマツダ・アテンザより短いくらいなので、普段3ナンバー車に乗りなれている人には気にならないだろう。
格段に洗練された室内
インパネ・デザインは激変。外観同様シャープさを強調し、チリ合わせも高水準だ。メタル調やウッド調の樹脂パーツが、やっぱり樹脂に見えるのは課題だが、デザインや質感に統一感があり、ドイツ製らしい説得力がある。
装備も充実。運転席・助手席の電動シート。オートエアコンは最近多い左右独立温度調整タイプ。珍しいところでは、冷蔵機能付き!グラブボックス(中にエアコン吹き出し口がある)、バッテリーの電圧低下を検知して消費電力の大きいものを自動的にオフにする機能などなど。ただし、ナビゲーション・システムがオプションとしても用意されないのはこのクラスとしてはツライところだ。
後席、トランクともに余裕のスペース
後席の居住性も充分。特に後席足元は広くなった。オペルらしくシートサイズは座面・背面それぞれ20mmアップ。造りもしっかりしており、座面高、足元スペースも充分。中央席はフロアトンネルとエアコン吹き出し口の付いたセンターコンソールに足元が蹴られるが、2名乗車であれば間違いなく快適だ。後席サイドウインドウ下端に収納される引き出し式サンシェード、シート中央座面に内蔵したカップホルダーなども、なかなか便利だ。
トランクの広さは特筆モノ。VDA方式で先代の20リットルアップの500リッター。これは全長4818mmのEクラスとほぼ同じ容量だ。6:4分割可倒に加え、アームレスト部だけのトランクスルーや助手席背もたれの前倒し機能もあり、長尺ものの収納もOK。ドイツ車らしく、実用性の追求は徹底している。
基本性能&ドライブフィール
穏やかな動力性能、高い遮音性
試乗し始めて、最初に戸惑ったのが電子制御式のウインカーレバー。ベクトラの場合、軽く操作した時には3秒ほど点滅した後、自動的に作動を終了する。便利なのか便利じゃないのか、よくわからない機能で、これを知らずにキャンセルしようとすると、今度は逆側が点滅し始める。
走り出すと遮音のよく効いた室内が印象的。エンジンはお馴染み2.2リッター・エコテック(147ps/5,600rpm、20.7kgm/4,000rpm)。2本のバランサーで「6気筒エンジンに匹敵するスムーズな動作」(オペル資料)を実現したという。
しかし1440kgのボディとの組み合わせだと、加速はかなりマイルド。ここ一発のダッシュは効かない。ドライブ・バイ・ワイヤーの設定もあってか、こちらの意志が直接エンジンに伝わらないモドカシサがある。逆に言えば、乱暴に運転しようがなく、高回転まで回してもノイズが高まらないので、快適性は高い。助手席で「2.0リッターの6気筒だ」と言われたら、とりあえず「ふぅーん」と納得してしまいそうだ。
新開発の5速ATにはシーケンシャルモードが付くが、エンジンの性格上、積極的にシフトしてもあまり意味はない。5速トップの100km/h巡行は約2100rpm。パワーの割にハイギアリングだが、そこからの加速は穏やかながらスムーズだ。高速でも静粛性は高く、むろん 150km/h以上の巡航も何ら問題ない。
オニのように安定したシャーシ
それにしてもシャシーは徹頭徹尾安定している。パワーがないことは確かだが、とにかく相当無理してもまったく破綻しそうになく、すごく安心感がある。どんな状況でも顔色を変えないクールで頼れる人、という感じだ。「無表情過ぎてつまらん」と言えばつまらんが。「さりげないセンスを求めるモダンなカスタマー」とオペルが想定するユーザーのビジネス・クルーザーとしては、まさに打ってつけだ。
新型に付き物のボディ剛性アップだが、ベクトラはねじり74%、曲げ62%と劇的にアップしている。実際、剛性感はかなりのものだ。路面の段差や振動の遮断もほとんど完璧で、首都高速の舗装ですらベクトラだと文句をつける必要を感じない? タイヤは215/55R16(ブリヂストンのTURANZA)で、ゴツゴツ感はほとんど感じなかった(2.2プレミアムはさらに50扁平の17インチとなる)。
ここがイイ
オペルというと、インテリアの質感にいかにもチープな感があったが、いずれフラッグシップになろうというこのベクトラにその印象はない。といって、ありがちな木目やメッキを多用した「いかにも」な演出もなく、この点で好感が持てる。アウディあたりの異様なまでの質感はないが、これなら文句はないだろう。
前述した後席サイドウインドウのサンシェードもきれいに収まっており、使い勝手がいい。このタイプのサンシェードは記憶にある限り、量販車で初めての装備だと思う。電車みたいなこのサンシェードが早めに各車に普及していたら、昨今のスモークガラス全盛時代はやってこなかっただろう。
ここがダメ
インパネセンターにあるディスプレイは、本国では簡易カーナビ機能があるようだが、日本仕様は単なる情報ディスプレイ(モノクロ)。輸入車もカーナビを標準装備することが当たり前になってきている中、これはいただけない。本国発表から日本導入までのスパンが短かかったベクトラだが、ここだけは時間をかけてでも改善して欲しかった部分だ。おそらく1年以内に日本製カーナビ装着バージョンが出るだろう。オーディオもDINサイズではないし、カーナビ装着は絶望的なダッシュボード形状だ。
徹底的に安定志向のシャシーはすばらしいが、エンジンには物足りなさを感じずにはいられない。普通に走るには何ら申し分ないが、それ以上でも以下でもない。空気のような走り、存在感のない走りとでも言おうか。この部分の印象が変われば、ベクトラに対する評価は大きく変わると思われるだけに、ちょっと残念だ。
総合評価
「アダム・オペルの2001年12月期決算は、営業赤字が前年の5億ユーロから、約6億8000万ユーロ(約6億 0820万ドル)に膨らみ、同社としては過去最高額の赤字に」と伝えられているが、もちろんその要因はいろいろあるだろう。われわれとしては、製品であるクルマに乗ってみてその要因を推し量るしかないのだが、確かにオペル社のクルマは、他のドイツ車(欧州フォードを除く)と比べて、かなりアメリカンなおおらかさがあった。要はクォリティがイマイチだったのだ。特にプラスチック類の質感などは、一様にクォリティアップしてきたVWあたりと比べると、2ランク近く違う感じが否めなかった。そのことと赤字を即、結びつけることは強引と思うが、印象としては腑に落ちるものがある。
新型ベクトラの、オペルにおける位置づけがワンランク上がっていることは間違いないが、それを差し引いても、質感がずいぶんよくなっている。アンドンやらカイゼンやらといった日本的生産効率と高質化の導入、世界的なクォリティ志向への対応など、他の自動車メーカーが進んでいる方向へオペルも積極的に向かい、その第一弾として出てきたのが新型ベクトラだろう。品質面では不満がなく、おそらく故障も少ないはず。今後、他のオペル車もクォリティアップしていくことは間違いない。
全方位エアバッグ、全方位プロテクションボディ、IDS(ABSなどを含めた電子制御スタビリティプログラム)、そして超安定志向のハンドリングなど、安全性の高さはこのクルマの価値を高めている部分だ。走りの物足りなさも安全性に寄与していると考えれば、納得できるだろう。ガシガシとばす気にならないというこのクルマの性格は、最も安全な装備といえなくもないのだ。
ルックスでは、フロントグリルのオペルマークなど基本的には昔と同じなのだが、ぐっとシャープさを増している。スタイルもじっくり見れば個性的なので、派手な外車を好まないガイシャ好き(そんな人々は確かに存在している)にはけっこういい選択肢になりそうだ。ただ10・ 15モードで11km/Lの燃費は、計器が示すところでは5km/L程度(ガソリンはプレミアム指定)だった。都内の相当な渋滞を走ったことは確かなのだが・・・。
公式サイト http://www.opel.co.jp/
