キャラクター&開発コンセプト
「WiLL for men」、モチーフはカボチャの馬車からステルス戦闘機へ
業種の垣根を超えた異業種合同プロジェクト“WiLL”。その中心メンバーであるトヨタが第1弾商品として市場に投入したのが「WiLL Vi」。今さら言うまでもないが、若い女性に的を絞り、「なごみ」をモチーフとしたヴィッツベースのコンパクトカーである。それに続くWiLL第2弾が「WiLL VS」だ。ウリはVi同様、既存のクルマの常識にとらわれない大胆なデザイン。しかしコンセプトはViと対照的で、「クール」。しかも今度のターゲットは20、30代の男性だ。
ベースとなったのはカローラ系(ランクス/アレックスが一番近い)。つまりVSはカローラのスペシャリティ的な存在となるわけだが、30代男性のニーズを満たすには、使い勝手の良さも第2の要素として入れなければならないため、カッコはかつてのレビン/トレノの2ドアクーペ路線とはとは全く違うスタイリッシュな5ドアハッチバックが基本パッケージとなっている。
パワートレーンはすでにセリカなどに搭載されるスポーティー指向と実用指向の2種類の1.8リッター直4エンジン+4速AT。これもまた、30代独身男性の第3のニーズに対応するためだ。なお、乗車定員は5名で、駆動方式はFFのほか、実用重視のエンジンには4WDも併設される。
価格帯&グレード展開
価格は175~205万円。Vi同様、瞬発的な話題性だけで終わるか?
グレードは搭載エンジンの違いにより2つ用意される。実用エンジンの1ZZ-FE搭載モデルを「標準仕様」とし、190馬力の2ZZ-FE型搭載モデルが「スポーツ」となる。また標準仕様には4WDも併設される。このなかで最もイメージリーダー的な存在となるのは「スポーツ」で、価格は205万円。これは同じパワートレーンを搭載するセリカよりも1.6万円高。またカローラランクス/アレックスと比較するとおよそ10万円高という設定。走行性能は基本的に同等でも、使い勝手の良さはもちろんのこと、希少性、旬という意味ではかなりお買い得な設定といえるだろう。なお、「標準仕様」は175万円、その4WDモデルが190万円という設定だ。
グレードによる装備の違いは少なく、最も高価な「スポーツ」には「標準仕様」ではオプション設定となっているCD付きの2DINオーディオ、本革巻きステアリングが標準装備となり、ステアシフトマチックが専用装備される。実質的な「標準仕様」との価格差は20万円ほどといえる。
目標販売台数は月1500台。大量に売ることはあまり考えていない実験的なマーケティング開発商品の割には、かなり欲張った数字と挙げている。WiLL Vi同様、瞬発的な人気だけに終わらなければ良いが。
ライバルはトヨタ・オーパ、アルファスポーツワゴンあたりが濃厚か?
パッケージング&スタイル
工業デザインの基本を半分無視した大胆なデザイン
スペシャリティクーペと5ドアハッチとワゴンを足して3で割ったようなパッケージングを超前衛的なデザインで包み込んだボディのサイズは、全長4385mm×全幅1720mm×全高1430mm、ホイールベース2600mm。ベースはカローラだが豊かな造形を表現するために、5ナンバー枠から20mmオーバーのワイドボディとなっている。なお、前作Viはトヨタ独自の衝突安全ボディGOAではなかったが、このVSではGOA基準を満たしている。
フロントはクーペのようなスペシャリティ感あふれるもの。サイドは後方までスラリと伸びたルーフラインによるワゴン的なイメージ。で、リアは後方視界や室内の開放感をスポイルするのを承知の上で、あえて狭いウインドウグラフィックを採用。このあたりはWiLLならではの大胆さが伺える。また、テールゲートとリアバンパーに、ハッキリとしたプレスラインによる中折れ処理を施したのも奇抜な発想だ。聞くところによると、VSのスケッチイメージは、見えない戦闘爆撃機こと米軍ステルス戦闘機(ちなみに1人乗りで54億円)なのだとか。
なるほど、ターゲット世代の少年時代の夢を、現実のものにしようとしたわけだ。女性もそんな男性が密かに好きだったりするから、そこをウマ~く突いてきたのかも。ただし、空力特性はCd値0.34。カローラ(Cd値0.30)よりもずっと悪い。デザインがすべてなのである。
これであなたもトップガン?!
デザインに対するこだわりは外観だけにとどまらない。黒基調の内装にも航空機や戦闘機のイメージが踏襲される。左右を貫くセンターコンソールはドライバー側に傾斜し、シフトレバーは航空機のスロットルレバー風のL字型。しかも素材はアルミダイキャストという懲りようだ。
メーターの演出もかなりイケテル。真っ赤のオプティトロンになっており、キーONで指針→目盛りという順で暗闇から浮かび上がる仕組み。垂直指針でもあり、無駄な線が多いこともあって、速度を確かめる時は読みづらい。が、まあデザイン重視とはこういうことでしょう。最近トヨタはデザインの追求において精力的な姿勢をとっているが、それでもVSには「これがトヨタ車?」と思わせるだけの過激さがある。
気になったのは質感の低さ。こちらも「これがトヨタ車?」レベル。バスケットボールの表皮のような柄のシボを採用しており、いかにもペキペキとしたハード樹脂そのもの。オドメーター1000kmほどの試乗車には、すでに爪でのひっかいたようなキズがそこらじゅうに付いていた。
非左右対称デザインのフロントシートは、真ん中が途切れているもののベンチシートのイメージ
室内のもうひとつのウリがシートだ。男性向けのスポーティーカーということで黒色生地、クッション硬め、というのはありきたりでも、デザインは新発想。運転席側の左ショルダー部と助手席の右ショルダー部が大きく張り出した、左右非対称のデザインとなっている。理由はベンチシートに近い感覚を求めたから。カップルで乗れば、さぞ親近感も高まるだろう(下心ミエミエか)。なお、今回は虚しくも単独での試乗だったため、前席から後席の荷物に手が届かない、ショルダー部に肘が当たってコンソールボックスが開けにくい、といった使い勝手の悪さばかりが目立った。
カローラベースというのが好材料、後席を倒せば2シーターワゴンに変身
VSに課せられた使命はまず“カッコ”であるが、実は「使えるクルマ」というのも第2の使命として課せられている。そもそもベースがカローラ。ホイールベースが2600mm、全高が1430mmもあるため、他のスペシャリティモデルにくらべてパッケージングでは大きく優位に立つだけに、一見、効率の悪そうなスタイルも中身は想像以上の実用性の高さを確保している。後席の膝元空間は十分な余裕があり、頭上空間も拳1個ちょっとと合格レベル。平均的な成人男性なら無理なく座ることができる。一方で、目の前に鎮座する巨大な前席の背もたれ、顔がようやくのぞける天地の狭いリアウインドウ(それもプライバシーガラス)のせいで視覚的な閉鎖感をかなり受けるのも確か。狭くないのに、狭く感じる、という不思議な空間だ。前席のイメージが戦闘機というなら、後席は戦車といったところか。
荷室はフロアが高く、容量は250リッターに甘んじるものの、使い勝手は意外に悪くない。後席は6対4の分割可倒式となっており、ワンアクションで長尺物が収納できるフラットフロアかつ容量450リッターの荷室を作ることができる。またフロアの両脇に施されたストライプ(フロントシートセンター部から続いている)に、さりげないデザインセンスが光る。
基本性能&ドライブフィール
独身男性を引きつける第3の使命は「走り」、エンジンはセリカ
搭載エンジンは、すべて1.8リッター直4で、高回転・高出力型の「2ZZ-GE型」と、実用性に優れた「1ZZ-FE型」の2種。どちらもセリカなどに搭載されるトヨタの新世代ユニットだ。トヨタで言うところのスポーツツインカムである「2ZZ-GE型」は、「1ZZ-FE型」に対して連続可変バルブタイミング&リフト機構VVTL-iが採用されているのが特徴で、最高出力190馬力/7600rpm、最大トルク18.4kgm/6800rpmというハイスペックを誇る。
一方「1ZZ-FE型」は、軽量というのが特徴で、低回転から素直にトルクが立ち上がる柔軟性に優れた特性をもつ。スペックは2WDモデルが136馬力/6000rpm、17.4kgm/4200rpm、車重の重い4WDはさらに低回転重視になっており、125馬力/6000rpm、16.4kgm/4200rpmとなっている。なお、両エンジンとも排ガス規制値「★1つ」を取得する。
ミッションは全モデルとも4速AT。5MTないし6MTの設定がないのは残念だが、「2ZZ-GE型」にはステアリング上のボタンで、マニュアル的なシフトチェンジが行えるシフトステアマチックが備わる。
足回りは前ストラット、後トーションビームで、ランクス/アレックス用をベースに専用チューンしたものだ。タイヤはランクス/アレックスよりも1サイズ上の205/55R16サイズ+アルミホイールを標準装備する。
パワー感はそこそこだが、かたい足回りで十分スポーティーに楽しめる
試乗したのは190馬力の「2ZZ-GE型」エンジン搭載モデル。車重は1190kgと1160kgのセリカよりもわずかに分が悪いが、アルテッツァ(もっともこちらは2リッターであるが)と較べれば200kgも軽い。スペック的には十分ライトウェイトなスポーティーカーの部類に入る。実際、走っても、力強さ、乗り心地、ハンドリング、静粛性、全てにおいてカローラとは別の次元で個性的かつスポーティーな仕上がりとなっている。
吹け上がりは軽く、加速のパンチ力も申し分ない。1.8リッターNAとしては十分に速いレベルにある。パワステも他のカローラ系よりかなり重く、ズッシリと手応えあるもの。走り出した瞬間、見かけ倒しでなく、スポーティーな雰囲気が十分に伝わってくる。乗り心地もスポーティーカーらしく固い味付け。ただしセリカのようなしなやかさはなく、段差が上手く吸収しきれていないゴツゴツ感が目立つ。我慢できるレベルとはいえ、デートカーとして使うとなると、ちょっとウザくなりそうだ。これは「ボーボー」と低音だけが大きく鳴り響くエンジン音にも言えること。演出重視ならエンジン音にもこだわってもらいたいもの。「カッキィィーン」とか「クォォーン」といった音なら、かなり好感度がアップするはず。
最も印象に残ったのはアクセルに対するダイレクト感。アクセルを踏んだ瞬間、間髪入れずにシフトがダウンされ、マニュアルに近い直結感ある仕上がりとなっている。シフトアップに関してもズズズッという滑る感じがない。このため全体にキビキビとした走りが可能となる。シフトショックもなく感覚的にはスポーティーだ。むろんステアシフトでもこのシフトフィーリングは生きる。
コーナーではステアシフトを使ってエンジンをフルに使えば、スポーティーに楽しめる。アンダーはあまり出ず、あくまでオンザレール感覚。速いというより、安全に気分良く走れるクルマだ。高速でも同様でさすがに安定感は高い。騒音はやや高め、騒音の音質もあまりよくはないから、120~30km/hあたりの巡航が快適だ。
ユニークな装備としては、AT(Dレンジの時でも)が今何速に入っているかを表示するメーター内のインジケーター。すでに三菱車ではお馴染みの機能となっているが、シフトチェンジの度に黄色い照明がピコピコと点灯、点滅するのは、走りを積極的に楽しみたい人なら演出効果大のギミックといえるだろう。もしこれが5速、つまりランプの数が5つにもなるときっと目障りになるところだが、VSは4速なのでそれほど気にはならない。
ただ、60~80km/hの巡航でも無意識的に3速と4速の間で頻繁にシフトチェンジを繰り返すのは気になる。これはアクセルペダルが軽すぎ、足を置いている程度の気持ちでもシフトチェンジしてしまうところに原因がある。ペダルにもう少し重みを付けると、いい方向に改善されると思う。
ここがイイ
デザインワークは素晴らしい。自動車としては無駄の塊であることは誰の目にも明らかだが、これこそすなわちアートといっていいだろう。機能に差が少なくなってきたクルマという商品に、デザインワークで色を付けることは、業界にとって今後重要な課題なのだから、これはこれで正解だ。古今東西、アートは余裕から生まれることが多い。国内でここまでの冒険ができるのは、トヨタの余裕であり、シェアゆえの余裕だろう(輸出予定なし)。こうした遊び心に眉をひそめる輩は多いはずだが、そうはなりたくないもの。クルマから遊び心がなくなったらクルマは終わりだ。
大ぶりで固いシートは快適だった。荷室も大きくはないが、シートバックを倒すだけで簡単にフルフラットになり、使い勝手はいい。小物は荷室下に入るし、荷室床が高いため、ちょっとした荷物(メーカーはパソコンの入った段ボール等を想定)が出し入れしやすい。
ここがダメ
スタイリング的にはリアのトレッドが狭いのがマズイ。スペーサーでもかませてフェンダーとツライチにしないと、どうにもカッコ悪いと思う。スタイリングの過激さに、タイヤとホイールまわりがついていっていないのだ。もし購入したらインチアップなどでタイヤ部分の貧弱さをカバーしたいところ。価格とのバランスもあるが、ここまでのスタイルを提案するなら、足回りも徹底してやって欲しかった。
総合評価
奥田会長が社長時代に直属部署として作られた、トヨタ社内のバーチャル会社VVC(バーチャル・ベンチャー・カンパニー)だが、今の張社長になってからはやや影が薄いようで、大企業はトップによってずいぶん変わることを実感。その意味では、VSはトヨタ車としては貴重な一台(アダ花?)として後生に伝えられるかもしれない。セラのように。
でそのVVCが言うところの「ニュー・ジェネレーション層」はこのクルマをどうとらえるか。ほとんどがカッコイイとは言わないだろう。月1500台程度の好き者はいると思うので、失敗はないと思うが、ヒットとまではいかないはずだ。そんな一般の価値観から乖離したクルマを提案型商品として出したことは高く評価したい。もちろん、トヨタ嫌いをも取り込んでシェアアップをねらう戦略であることは間違いないのだが。
また消臭剤などを含むWiLL商品には高いブランド価値が見いだされていない。WiLL展開そのものは思ったようにはいっていない、といえるだろう。という意味でトヨタは、そろそろ日本でもレクサスのような別のブランドを生み出してもいいのではないだろうか。ソアラやセリカ、アルテッツァ、MR-SやこのVSあたりに新しいブランドをつけたら、かなり印象が変わると思う。例えばVSがトヨタでなくイタリアのメーカーのクルマだったら、ものすごく評価されるのではないか。
ハードウェアとしては、一連のカローラシリーズで、走りも目新しいところはなく、やはりデザインがいいということがすべてだろう。関東自動車工業の29才のデザイナーによって生み出されたデザインワークらしいが、余裕のトヨタには、これで終わりにせず、さらに過激なクルマを作り出してもらいたい。
公式サイトhttp://toyota.jp
