キャラクター&開発コンセプト
3代目は2気筒ターボで登場
「イプシロン」はフィアット傘下の高級車ブランド、ランチアの最小コンパクトカー。その前身であるアウトビアンキ Y10を除けば、初代(1996-2003年)、2代目(2003-2011年)と続き、今回の3代目は2011年3月のジュネーブモーターショーでデビュー。新型もこれまでのように、デザインや仕上げにこだわった「小さな高級車」であるのが特徴だ。
1906年創業のランチアは、戦前から戦後にかけて多くの高級車を送り出した名門だが、1969年以降はフィアットグループ傘下で主に高級車を手がけている。今回の新型イプシロンは、フィアット 500のプラットフォームをベースに開発されているが、ホイールベースは500より延長され、イプシロン初の5ドアボディも与えられるなど、ランチア独自のモデルとなっている。
また技術面ではフィアット 500で話題の875cc・2気筒ターボエンジン「ツインエア」の搭載もニュース。生産はフィアット500と同じポーランドのティヒ(Tychy)工場で行われている。
なお、ランチアの正規輸入販売は1990年代半ばに途絶えているが、それ以降はかつてランチア、マセラティ、ランボルギーニ、デ・トマソなどの正規輸入元だったガレーヂ伊太利屋が輸入販売を行っており、新型イプシロンも同社が輸入販売を行う。日本での予約注文受付は2011年7月に始まっている。
※過去の参考記事
■モーターデイズ>新車試乗記>フィアット 500 ツインエア (2011年6月更新)
■モーターデイズ>新車試乗記>ランチア イプシロン 1.4 16V (2004年6月更新)
価格帯&グレード展開
日本ではツインエアのみ。まずは5MT(252万円)、遅れてD.F.N.(5速セミAT)を導入
イタリア本国には1.2リッター直4「ファイア」エンジンや1.3リッター直4ターボディーゼルの「マルチジェット」もあるが、ガレーヂ伊太利屋が販売するのは、0.9リッター直2ターボ「ツインエア」のみ。まずは左ハンドル・5MT、さらに年末か2012年頭には5速セミATの「D.F.N.」を追加する予定。D.F.N.はフィアット言うところのデュアロジックだが、ランチアはDolce Far Niente=無為の甘美、何もしないことの歓び、と呼ぶ。価格は5MTが252万円、5速セミATが262万円で、15インチアルミホイールやパーキングセンサーは標準装備だ。
なお、日本で正規販売されている500のツインエアは、今のところ右ハンドル・5速セミATのデュアロジックのみ。こちらは215万~245万円(500Cは279万円)。
■イプシロン 0.9 ターボ ツインエア 252万円(5MT)/262万円(D.F.N. ) ※今回の試乗車
受注オプションはオートエアコン(6万2000円)、キセノンヘッドライト(7万円)、16インチホイール(9万3000円)、ガラスルーフの「スカイドーム」(11万円)、HI-FI オーディオシステム(6万2000円)、レザー内装(6万円)など。また売りの一つであるボディカラーは、オプションのメタリックペイント(5万5000円)、パールペイント(12万円)、2トーンの「Bカラー」(11万円)など全部で16色が用意されている。
販売は東京都港区麻布十番にあるガレーヂ伊太利屋のほか、全国に約30店舗ある販売協力店で行われる。新車保証は2年間もしくは走行距離4万kmまで。
パッケージング&スタイル
見どころたっぷり
イプシロンと言えばユニークなデザインで定評のあるモデル。特にエンリコ・フミアがデザインした初代は極めつけで、続く2代目も個性的だったが、新型もその伝統をちゃんと受け継いでいる。何より印象的なのは、サイドウインドウの上下ラインがCピラーで交錯し、リアウインドウのラインにつながるところ。またヘラで軽く削ったようなドア下部の浅い凹面は、今でも石膏でモデリングしてるみたいだ。
3ドアに見えて、実は5ドア
3ドアに見えて、実は5ドアというトリックに、まんまと一本取られてしまう人も少なくないはず。ドアノブを窓枠に溶け込ませる手法はイタリア車の十八番だが、そう言えば初代イプシロンのドアノブもこうなっていたっけ。
またカブトムシを思わせる後ろ姿は、下端が庇のようなリアウインドウも含めて、現行のデルタに通じるもの。ただし精悍で大人っぽいデルタに対して、こちらは可愛らしくまとまっている。
日本市場に最適のサイズ
ボディサイズは全長3840mm×全幅1670mm×全高1510mmとコンパクトで、スズキ スイフトあたりと変わらない大きさ。先代(後期型)と比べても、全長で+30mm、全幅で-50mm、全高で-20mmという具合に、ほとんど大きくなっていない。全幅が今どき珍しく狭まったのは、プラットフォームがフィアット500ベースだからだ。結果として全幅は5ナンバー枠内に収まり、全高も立体駐車場でOKと、日本に最適なサイズになっている。ま、イタリア人はそんな極東の事情など、これっぽっちも気にしていないと思うが。
インテリア&ラゲッジスペース
センターメーターとクラスレスな品質感を継承
前述の通り、全幅は先代イプシロンより50mm小さいが、各ウインドウの位置や大きさが異なるので、室内は500より広く感じられる。クルマって5ナンバーサイズで十分とあらためて思える空間だ。
イプシロン伝統のセンターメーターは、先代では旧い懐中時計みたいにクラシカルな意匠だったが、新型ではブラック&ホワイトのシックなものに宗旨替え。インパネ全体もピアノブラックにシルバーのアクセントを配したクールなデザインに一変した。特に夜間は、ほとんどのスイッチが白い透過照明で浮かび上がり、プラネタリウム状態になる。クルマに詳しくない人がここだけ見たら、かなりの高級車だと思うだろう。
もちろん、スイッチ類にはフィアット傘下の他ブランド車からの流用品が散見されるし、細かいところでは「ここをレザーにしたら」とか「アシストグリップにダンパーを付けたら」と思う部分もあるが、この価格帯でこれだけのクオリティ感ということを考えれば、文句を付ける道理はない。
なおFMラジオの周波数はイタリア本国仕様の名残で、表示される周波数がまったく異なるが、プリセットしてしまえば別に支障はない。グラブボックスには取扱説明書と一緒に日本の各地域に合わせた周波数の早見表が入っていた。
着座感はフィアット500似。豊富な内装バリエーションが魅力
ヒップポイントはフィアット500のように高めで、シート骨格も基本的には500ベースだろう。試乗車の標準シートは独特のパターンが入ったスエード調ファブリックだったが、オプションのレザー仕様などを選べば雰囲気は大きく変わるはず。豊富な内装バリエーションを用意するのは、初代イプシロン以来の伝統だ。
後席の乗降性は良好。背もたれ角度は立ち気味
5ドアだけに後席の乗降性は良好で、ここも500をリードする部分。リアドアの開口面積が意外に大きくて足運びに無理がないし、頭がルーフにつかえることもない。
座り心地に関しては、背もたれの角度が立ち気味なのと(調整は不可)、座面の短さが惜しいところで、大人男性だと長時間は辛いかも。実は500と比べればホイールベースが約9センチ伸びた分、足もとには余裕があるし、ヘッドルームも横方向に広くなっているのだが(500は左右Cピラーが側頭部に迫り、少々圧迫感がある)、それが逆に「もう少しこうなっていたら」という欲を出させる。
荷室容量はBセグメントの平均
荷室容量はフィアット500(185リッター)より奥行きが増えて、約3割増の245リッター。現行ヴィッツやデミオあたりと同等で、VWポロ(280リッター)には及ばずだが、日常の買い物には十分だろう。ただ、横幅は不足気味なので、ゴルフバッグのような長物を積む際には、5:5分割の後席背もたれを畳むことになる。


