キャラクター&開発コンセプト
部品メーカーから電気自動車メーカーへ
株式会社ゼロスポーツ(本社:岐阜県各務ヶ原市)は、1994年設立の自動車部品メーカー。スバル車などの高性能オフィシャルチューニングパーツの開発・販売で一躍有名に。98年に新規事業として電気自動車(EV)の開発をスタート。「遅い」「格好よくない」という電気自動車のイメージを払拭すべく、00年12月に電動シングルシーター「ゼロEVフォーミュラ」で当時の電気自動車・国内最高速度記録(276.6km/h)を樹立。次に、一気に実用性に振った軽トラック(スバル・サンバー)ベースの電気4WD軽トラック「ゼロEVセラビュー」を01年に発売。唯一の軽トラックEVとして、地方公共団体やレジャー施設、工場、動物園などに導入され、好評という。
1人乗り電気スポーツカー
03年9月8日発売の「ゼロEVエレクシードRS」は、スポーツタイプの1人乗り電気自動車。国土交通省の型式認定を取得したことで、ゼロスポーツは国内17番目の自動車メーカーとなった。「本物を知るオトナのためのスポーツカー」をコンセプトに、数億円の開発費を投じて独自開発。あくまでもドライビングの楽しさを追求した同社らしいクルマだ。
第一種原動機付自転車の4輪、いわゆるミニカー扱いのため、車検や車庫証明、自動車重量税、自動車取得税は不要。一方、道路交通法上は自動車扱いなので、運転には普通自動車免許が必要で、ヘルメットは不要。自動車専用道路は走れない。8時間の充電で最大70km走行が可能で、最高速度は60km/h(リミッター作動)。充電は家庭用電源(AC100V)につなぐだけだ。
「非日常的な走行感覚を味わって欲しい」(ゼロスポーツ中島社長)と、主に観光地やレジャー施設でのレンタル用を想定して売り出したが、経済的に余裕ある層のファンカーとしても売れているという。販売目標は600台/年。全体パーツの半分以上がハンドメイドであるため、注文から納車まで約2ヶ月かかるという。
パッケージング&スタイル
極めて短く、低い
サイズは全長2480mm×全幅1295mm×全高970mm。屋根を持たないので、とにかく全高が低い。着座位置も低く、足を前に投げ出して座るフォーミュラカー(タイヤが剥き出しの一人乗りレーシングカー)のようなポジションだ。
全長はスズキの二人乗り軽自動車ツインより255mm、スマートより60mm短い。ホイールベースが1600mmとこれまたスマートより210mmも短い。全幅がミニカー枠で規制され、軽自動車より180mmも狭い。
一人乗りスポーツカーは他にあまり例がないが、最近では90年代前半にF1デザイナーのゴードン・マーレーが設計した「ロケット」があった。ヤマハの1000ccバイクの4気筒エンジンをミッドに積んだタンデム1+1カーだったが、サイズは全長3.6m×全幅1.6mと、意外に大きい。
古今レーシングカー風の外観
ゼロクラフト社内による外観デザインは、ルマン24時間を走るレース専用車両「ルマンプロトタイプ」(一人乗りオープンカー)風、あるいは往年のグループCカーをスケールダウンした感じ。一人乗りということで90年代初期にヤマハが市販直前までいったV12搭載のスーパースポーツ「OX99-11」もちょっと思い出す。レーシングカー好き、クルマ好きの想像力を刺激するデザインだ。人によっては「真っ赤に塗ると70年代のアルファロメオのレーシングカーみたい」「いやポルシェ962だ」などとエンスーな話題が盛り上がる。
屋根もドアもない
乗り降りはドアがないため、ボディカウルを跨ぐ。あらかじめシート座面を跳ね上げて、いったん足を下ろす場所を作り、両足を滑り込ませた後、お尻で座面を倒して座る。降りる時は、F1ドライバーのように両手をボディカウルについて体を持ち上げる。
形状も仕上げも文句ないフルバケットシートで、居心地はいい。スーパーセブンに感じは近いが、囲まれ感はもう少し強い。法規上はシートベルトをする必要はないが、2点式のものが用意されている。
アルミラダーフレーム+FRPカウル
アウターパネルは3層のFRP製。骨格はアルミ押し出し材をハシゴ状に溶接したもの。エリーゼと違って、室内にアルミフレームは露出しない。フロントサスペンションはそのアルミフレームからアームが伸びたダブルウイッシュボーン(リアはリジッド)。この辺の作りは、現代のF1やレーシングカー・パーツを製作するイギリスの小ファクトリーを思わせる。バックヤードビルダーというレベルでは、まったくない。
専用開発のDCモーターはリアに搭載するため、いわゆるRR(リアモーター・後輪駆動)。モーター以上の重量物となるバッテリー(12V鉛電池×計6個)はドライバーの両脇だから、実質的な重量配分はミッドシップだ。車重は430kg。前後の軸重はほぼ50:50。
安全への配慮
ステアリングの向こうに計器類はほとんどない。速度計、モーター回転計、オドメーター、電流計、「極めて正確」という14段階のバッテリー残量計などは左下の方にあり、走行中は見にくい。これらメーター類は、LCD液晶モニターを採用した未来的なデザインで、昼間は白色、夜間はブルーに光るが、直射日光が差し込むと視認性も厳しい。ただし、バッテリーが減った場合は「バッテリーが少なくなりました」と音声で警告、重要なインフォメーションをドライバーに伝える。計器の後ろにあるのはサイドブレーキ。運転席右側にはDC12V(120W)電源のソケットが備わる。
ショルダーバッグが入るトランク
完全シングルシーターなので、室内に荷物スペースはほとんどない。とはいえポーチ程度であればシートの左右のカウル部分、薄いブリーフケースや小さなカバンなら、シート背後に置ける。それより大きいものはVDA方式で16リットルのトランクへ。高さが限られるので、カメラバッグのような立方体は難しい。しかし、これがあると無いとでは大違いだ。
基本性能&ドライブフィール
簡単な説明でスタート
試乗はゼロスポーツ本社の周辺で行った。ここでは試乗車を常備しており、ゼロスポーツのアンテナショップ「ゼロマックス」(岐阜県岐南町)では、500円でチョイ乗り、5000円/1日でレンタルを行うなど、気軽に走りを試すことができる。今回の試乗も乗り降りの仕方や操作について1、2分の説明があっただけですぐ走れた。
乗り降りは、上にも書いたようにドアを跨ぐ必要はあるが、幌を付けた状態のロータスエリーゼより間違いなく簡単。座った瞬間は囲まれ感が強いが、屋根がないのですぐに慣れる。シートのスライドができ、フットスペースも余裕があるから、かなり足が長くても大丈夫だろう。逆に女性にはペダルが遠すぎるかもしれない。
パワーは十分
イグニッションをオンにして、ギアをドライブに。シフトレバーはステアリング左のレバー(国産車ならワイパーレバーの位置)。下げてドライブ、上げてバック。「D」に入れると「Now ready to run!」と音声ガイダンスが流れる。走行中にバックに入れても安全装置が働き、壊れないようになっているという。
バイ・ワイヤー=電子制御式のアクセルを踏むと、スルスルとスタート。電気モーターらしいリニアなトルクで一気に速度を上げる。リミッターが効く57km/hにはすぐに到達。ギアは1速しかないから、ギアチェンジもない。目線が低いのと、風を直接顔に受けるせいで、スピード感はそうとう。50km/h出せば、もう十分という感じ。「パワーはこれでもだいぶ抑えました」と開発スタッフ。電気自動車でキモとなるコントーラーは自社開発の高規格品で、設定も自由に変更出来るという。チューニングが可能ということだ。
走行音はかすかなモーターの駆動音とタイヤの転がる音、そして耳元の風切り音のみ。感覚はオートバイに近いが、エンジン音がしない点で自転車にも近い。交通の流れに乗るなら、涙目防止に眼鏡かゴーグルは必需品だ。エアコンはもちろん、ヒーターもないから防寒もそれなりにしたい。サスペンションストロークは短いが、車重の割に乗り心地はいい。荒れた路面でもポンポンはねるような感じは少ない。
カートのような鋭い走り
ハンドリングは超クイック。ロックtoロックは1回転ちょっとと、これはタイヤ切れ角が少ないせいもあるが、ここまでクイックな現代のクルマはちょっとない。50~60km/hで走る時は、不用意なステアリング操作は禁物。サーキットで熱くなるとスピンは必至だろう。逆にコーナーではわずかに切るだけで、カートのようにスパッと向きを変える。
しかし、優れた重量配分や低重心、前:ダブルウイッシュボーン、後:リジッドというサスペンションが効いて、コントロール性は高い。モーターのパワーとバランスをとった絶妙のセッティングと感じた。普通の(クルマ好きじゃない)感覚だと、もっとダルな操縦性で手を打ったはずだが、スバルのお墨付きチューニングパーツで定評ある同社だけに微妙なサジ加減は得意とするところだろう。ロータスの草創期の軽量スポーツカー(例えばロータス・セブン)ってこういうノリだったのでは、とちょっと思った。
ステアリング機構は自社製のラック&ピニオン。最小回転半径は4.5メートルと軽自動車なみで、Uターンには困らない。ボディサイズを考えるともう少し小回りが効くと良いと思った。例えば、スズキ・ツイン並み(最小回転半径3.6メートル)ならコンビニへ行くのもより気軽だが、開発時にそういう利便性はほとんど意識しなかったという。
コンセントがあればどこでも
ブレーキは4輪ディスクで、しかも冷却用に穴の開いたドリルドタイプ。ゼロクラフト自製で、仕上げはすごくいい。もちろんノンサーボ(倍力装置なし)だが、サーボ付きブレーキしか知らない人でも違和感はないはず。軽い踏力で制動力が立ち上がる。足の裏でディスクを踏むようなダイレクトなタッチは本物だ。
30km/h低地走行で航続距離は70km/h、実際に加減速を繰り返しながら走っても、30~40km程度は走るという。バッテリー残量の警告は音声でも段階的に行われるため、それを無視しない限り、路上で止まるとことはない。もしバッテリーが無くなったとしても、コンセントがあればどこでも充電できる(どこのコンセントを使うか、という問題はあるが)。この際の電気代はせいぜい数十円と微々たるものだ。
ここがイイ
試乗を終えた人は皆、一様にニコニコしている。乗って楽しいと誰でも感じるはずだ。低い視線、スポーティなポジション、ダイレクトな走行風、クイックかつリニアな「分かっている」ハンドリングなど、乗り物としてプリミティヴな魅力にあふれているからだ。バイクにも通じるこの楽しさを、EVという退屈だった乗り物に与えたことは、高く評価できるところ。タカラのチョロQもおもしろかったが、ハンドリングは別次元。EVカートにも試乗したことがあるが、ほぼそれに近い楽しさを公道で味わえるのだからいうことはない。
198万円は安いと感じる、高度な仕上げ。実車を前にすると、よくぞここまで作ったと感じるこだわりがビシビシ伝わってくる。メーカーによればモーターやシステム、シャシーコンポーネントの供給体制があるそうで、ボディ(というかカウル)は自由に作ることも可能だという。自分好みのボディデザインを描き、オリジナルカーを作ることもできそうだ。EV趣味人のためのベーシックパーツとしての存在意義もある。
バッテリー残量を明確に表示するメーター、残量に応じて音声でガイドされる警告、さらには「コンセントが抜けていません」といった警告音声など、コントローラー=プログラムに関してのノウハウがこのクルマのよくできたところ。航続距離の短いEVが実用性を持つための重要なポイントをきちんと押さえてある。
ここがダメ
枠で規制されたサイズと動力性能によりもう一歩、真のクルマへ近づけないこと。現在はクルマに限りなく近づいた玩具という存在だ。最高速などの規制さえなければ、少なくともイギリスあたりで大受けする軽量スポーツカーがほとんど同じ労力で出来そう。ダメなのはクルマのシステムじゃなく、お上のシステム。エリーゼなんか、ついにトヨタエンジンを載せて米国に輸出するし。
総合評価
数年前の一時期、電気自動車がもてはやされたことがある。電力会社や役所などが購入し、行政の肝いりで電気充電スタンドまでが作られた。デイズの事務所の近所にもあったが、使われるのを見たことがないまま、いつの間にか取り壊された。トヨタRAV4の電気自動車にも試乗したことがあるが、十分な公道走行性能を持っていたものの、航続距離の短さやそれに伴う充電施設の不足からやはり消えていった。このRAV4と比べると、ゼロEVエレクシードRSは残量表示や警告面で優れており、家庭用100V電源で充電できることで、その気になればどこへでも行ける(ガソリンスタンドで電気を売ってもらうことだってできるから)。EVに重要なインフラはすでに整備されているともいえるのだ。
とはいえ、やはりゼロEVエレクシードRSは実用車ではなく、遊びのクルマだ。ゼロスポーツはEVの実用車としてスバル・サンバートラックの改造EVをすでに販売しており、これは毎日の航続距離が短い農家などの使用を想定している。一日使い、納屋で一晩充電、また一日使うというサイクルだ。これがあったからエレクシードは遊びクルマに特化でき、結果として高い完成度となった。
198万円のゼロEVエレクシードRSは、余裕のある個人から遊びで買われ、法人からは宣伝・販促用のツール、あるいは社員の福利厚生グッズ(!)として買われているという。また、月額3万9800円のリースもあり、ラッピングして後部のアンテナ(実はアンテナでなく安全確保のための目印)に旗でもつければ人目をかなり引くので、宣伝費と考えればそう悪くはないだろう。しかしこのことはつまり、これだけのおもしろいクルマながら、個人で手に入れることはなかなか難しい、ということを示唆している。
高い志でメーカーの地位を獲得したゼロスポーツも、その点は苦慮しているようだ。あまり知られていないがチョロQは、トヨタの関連メーカーであるアラコの電気自動車にボディを架装したお手軽なもの。それに比べてエレクシードRSは完全オリジナルの完成車。その完成への行程には、NHKのプロジェクトXにもなりそうな苦労があったはず。整備工場のネットワークも全国59カ所に作ったという。クルマ好きなローカル会社がここまでやったことに敬意を表し、お金がある人は是非お求めいただきたい。それに見合う「バイクにノーヘルで乗る」ような楽しさが十分味わえるはずだ。
試乗車スペック
ゼロスポーツ ゼロEVエレクシードRS
(0.59kW・一人乗り・198万円)
●形式:ー●全長2480mm×全幅1295mm×全高970mm●ホイールベース:1600mm●車重(車検証記載値):430kg(F:ー+R:ー)●モーター:直流直巻●制御方式:MOS-FETチョッパーPWM方式●ーps(0.59kW)/ーrpm、ーkgm (ーNm)/ーrpm●主電池:シール型鉛電池・60Ah. 12V×6個=72V●充電電源:AC100V●標準充電時間:8時間●駆動方式:後輪駆動(RR)●タイヤ:145/70R12(YOKOHAMA DNA ECOS)●価格:198万円(試乗車:198万円)●試乗距離:約20km
公式サイトhttp://www.zero-ev.com/ev-ele/frame.asp