キャラクター&開発コンセプト
「ライフ」ベースの新しい軽モデル
2006年3月発売のゼストは、ライフ(2003年〜)をベースに新しく開発した軽自動車。ライフとの違いで目立つのは、女性的な雰囲気のライフに対して、男性的なデザインを与えたところだ。
機能面では、ベース車より全高を50mmほど高めた「トールワゴン」とした点が挙げられる。さらに、ホンダが得意とする低床技術によって、クラストップレベルの荷室容量やテールゲート開口部の低さを確保。一方、パワートレインやシャシーに関しては、評価の高いライフを踏襲した形だ。
車名は英語の「ZEST」(熱意、ピリッとした刺激、風味を添えるもの)が由来で、販売目標は月間5000台。私見だが、ホンダの軽で車名に「Z」がつくモデルはこれが3つ目で、Zの最上級(Z+est)という意味も含まれているのでは。
価格帯&グレード展開
NAとターボで103万9500円から
標準の「ゼスト」と、外観をエアロパーツでスポーティに仕立てた「ゼスト・スポーツ」の2本立てで、計7モデルの展開。エンジンはNA(自然吸気)とターボ(スポーツのみ)の2種類、変速機はすべて4AT。
価格は「ゼスト」が103万9500円〜、NAの「ゼスト・スポーツ」が118万6500円〜、「ゼスト・スポーツ・ターボ」が131万2500円〜。全モデルで4WD(12万6000円高)が選べるほか、室内高を生かして、車いす仕様など福祉車両も用意されている。
パッケージング&スタイル
マスキュリン、かつコンサバティブ
フェミニンなライフから一転して、マスキュリンな外観となったゼスト。全高はライフ(1580mm)より55mm高いが、そう見えないのはウインドウの天地が薄いのと、どっしりした「台形フォルム」のせいか。
スマートの影響大だったライフに比べて、ごく無難なデザインではある。ライフで面白かった「マルチアングル・アウタードアハンドル」も採用されず。
軽自動車としては長めのホイールベース(2420mm)は、もちろんライフと同じ。後ろ上がりのルーフ、ウエストライン、キャラクターラインの視覚効果で、かなりのクラウチングスタイルに見える。
天井の棚はオプション
骨格はライフそのものながら、表面のパネル類を一新したインテリア。一番大きな違いは、ウイッシュボーン状に3角窓を形成していたAピラーが、プレーンな形になったこと。これのおかげで運転中もかなり「普通」な感じがする。
気に入ったのは、ルノーカングーにあるような天井の棚だ。1万6800円のオプションだが、せめて上級グレードに標準装備とした方が面白かったのでは。ベンチ風シートにはドリンクホルダーがあるが、位置が下過ぎて飲み物を置く気にはならない。ドライバー用に使いやすいものがステアリング右側に備わる。
使える後席、室内高は最大1315mm
後席スペースは十分で、シートの大きさもまずまず。リアドアはダイハツのように90度とは言わないが、79度まで3段階で開く。後席を畳む時はホンダお得意のダイブダウン式で荷室とツライチになる。この点はライフと同じだ。
ヘッドレストはライフの着脱式から、格納式に改良されている。逆にフィット系シャシーのように座面のチップアップは出来ないが、とりあえず後席足元の最大室内高は1340mmあり、植木鉢のような背の高いものが載せられる。
自転車をそのまま積載可能
荷室の使いやすさもセールスポイントだ。ハッチゲートを開けてびっくりするのが地上高530mmという床面の低さ。この数値は驚異的に荷室の床が低いエアウェイブ(520mm)に匹敵する。おかげで荷物の出し入れはしやすく、腰掛けにもなる。
また、荷室高は1100mmを確保。開口部の高さも1020mmある。自転車のように高さが1メートル余りあるものでも、入り口で引っかからず、前輪を付けたまま載せることが可能だ。「アクティブパッケージ」付なら、荷室床は樹脂コートされたワイパブルマットになる。荷室容量は通常時203L〜最大 739L。
基本性能&ドライブフィール
平均的な印象のNAエンジン
試乗したのは「スポーツ」、ただし自然吸気エンジン(52ps、6.2kg-m)の方だ。以前試乗した現行ライフのターボはリッターカーを食うほど重厚な走りが衝撃的だったが、NAではやはりそれほどのインパクトはない。ツインプラグの2バルブ!で、圧縮比11.2の「パワード・バイ・ホンダ」といえど、 660cc・3気筒のスペックは隠しようもなく、サウンドはまさしく軽自動車的なもの。それでも4速ATでうまく低回転域をつないで走れば、快適性を保つことはできる。「リッターカー並み」を求めない限り、ターボ車の必要は感じないと思う。
固めの足で、高速走行もOK
165/55R14の扁平タイヤと、それに合わせた足回りのせいか、街乗りの乗り心地はやや固め。おかげで操縦安定性に不足はなく、電動パワステも意識に上らないほど自然だ。
一方、高速道路では、足回りの意図したところがよく分かる。80km/hを越えたあたりから、サスペンションの動きは良くなり、乗り心地はしっとり落ち着いたものに。直進安定性はもちろん、車線変更も余裕で、これなら山間の国道でも楽に走れるはずだ。ただ、NAエンジンと910kgの車重ゆえ当然ながら、速度リミッターが働くほどのパワーはない。
ここがイイ
そつのない運転感覚、そつのない広さ、そつのないユーティリティー。毎日使うクルマとして、そつのない完成度。しっかりした足回り、EBD付ABS全車標準装備、軽自動車初のサイドカーテンエアバッグ(オプション)といった安全性確保への姿勢。軽自動車としては完成型で、もはや小型車との差はほとんどない。
自転車が入る荷室や運転席頭上の大型ルーフコンソール。入会金や年会費が不要のインターナビ・プレミアムクラブ。特に、2年目に地図データを無料で書き換えてくれるのはうれしい。もちろん、ディスプレイはセンターコンソール上部というベストなポジションだ。
ここがダメ
ファミリー向けを前面に押し出したこと。ストレートに男性向け軽ミニバンという打ち出しにした方が、わかりやすかったのでは。特にテレビCMで家族連れを強調してしまった結果、男性客を失ったような気がする。このクラスはけっこう若い男性も買うのだが、ワゴンRのイメージ的カッコよさ(クラスレス感)と比較すると辛い。ワゴンRは、CMもカッコいい。
どこといって個性のないエクステリアデザイン。どこが悪いということはないのだが、どこがいいとも言いにくい。
総合評価
ホンダが撤退してしまった。いやこれはデイズのある名古屋の話。長年名古屋にはホンダの広報窓口があり、新車の発表会も開かれてきた。しかし昨年から、名古屋事務所の体制が変わり、そうした活動は一切が東京になってしまったのだ。理由としては、ホンダの営業体制の変更が大きいよう。ご存じのように、いよいよこの2006年夏から長年親しまれてきたベルノ、クリオ、プリモの販売3チャンネルの看板がホンダカーズに統一される。そこで今までのような販売店向けの営業体制が変わったため、名古屋の業務も変更されたということのようだ。
トヨタはまもなく広報などを除く大半の本社機能を東京から名古屋に移す。ホンダは逆に東京へ集中させる。一見すると名古屋のトヨタ、東京のホンダというふうにも見えるが、実はそうではない。共に世界のトヨタ・ホンダであり、国内のどこに本社があってもさほど問題はないということなのだろう。実際、ホンダにしても現在絶好調なのは北米市場。中国を含めた海外市場こそがこれからの主戦場であり、たいして伸びが期待できない日本市場は何となく見切られている感すらある。
そんな日本市場で2006年5月の軽自動車販売は、不調の小型車を横目に、またまた絶好調を記録(乗用車は108,288台で、前年同月比 1.8%増となり5ヵ月連続増)。ゼストは残念ながら絶好調とはいいがたいが、それでも軽自動車の底上げに貢献していることは間違いない。すごく出来のいいライフが、そのデザインゆえなのかあまり売れていないホンダにとって、ゼストはなんとしても売らねばならない商品。その意味では、刺激的な部分はほとんどないものの、徹底的に作り込まれ、誰が乗ってもほとんど不満のない軽自動車になっている。かわいらしすぎない外観で男性でも乗れるし、しかもこのゼストの発売と同時にホンダ3チャンネルが統合されたのだから数は出るはず。マーケティングから作られたクルマといってもいいだろう。
月間目標台数はライフ1万5000台、ゼスト5000台。ライフの実績は月間平均で2003年(9〜 12月)が1万6606台、2004年が1万3254台、2005年が1万0915台、2006年(1〜4月)では9791台と低下。ゼストは2006年 3月が8682台、4月が6652台で、新型の割に苦戦しているのが見て取れる。同じ4月にワゴンRは1万7379台、ムーヴが9615台なのだから。つまり軽自動車もすでに「良いだけではダメ」という難しい商品になっているのを痛感するところだ。個性とかルックスとか消費者のツボを刺激する部分というか、作り手の遊び感覚みたいなものを押し出せないと、大ヒットには結びつかない。特に軽自動車はほとんどクルマ好きが乗るタイプのクルマではないだけに、出来の良さよりファンシーさが重要なのだろう。このあたりこそ、まさに日本市場特有の傾向。クルマの良さで勝負させてもらえない、とても難しい市場だ。
「そんなことは百も承知」とばかりに作られたライフがファンシーさで勝負してもツボにはまらず、ゼストはその反省から質実に振りすぎたという感が強い。最近発売されたエッセやMRワゴン(モコ)あたりの個性と比べると、あまりにストレートだ。ホンダの場合、すごく個性的ないかにもホンダらしいクルマを発表し、それがヒットするとマイナーチェンジやフルチェンジでキープコンセプトの保守的なものを出し、次でまた個性を出すというパターンを踏むことが多い。このパターンはライフとゼストにも当てはまりそうだ。
ハードウェアを評価すれば、ゼストに大きな不満はない。在りし日のステップバンに比べれば、その進化のすごさに感動するはずだ。軽もここまで来たのか。これでいよいよ国民車としての軽は完成の域に達していると。もちろんそれはしばらく前に達成されたことで、これまでも何度も書いてきた。もはやゼストがいいのは当たり前。だからどういう個性があるのか。それが重要なのだが。最近乗った軽では、エッセにも MRワゴンにも、善し悪しは別として、それなりの個性とか開発者の思い入れが見られた。
ディーラーはホンダカーズとなって、ホンダは大きくブランドイメージを変えようとしている。スポーツを前面に押し出した緑のベルノ、軽を含むファミリーな赤いプリモ、青のクリオは何だっけ? まあそんな色をつけたブランド展開もこれで終わり。ホンダカーズの色はいまだ見えてこない(ブランドカラーは白ですが・・・・)。ホンダカーズとして、ではないものの、全ディーラーで発売される最初のクルマがあまり個性の感じられないゼストというあたりに、今後の戦略に何となく不安な部分が感じられる。ホンダとソニーはよく似ている。ソニーような苦境にホンダが陥らないよう、名古屋の地から祈るように見ていきたい。
試乗車スペック
ホンダ ゼスト スポーツ W
(0.66L・4AT・129万1500円)
● 形式:DBA-JE1●全長3395mm×全幅1475mm×全高1635mm●ホイールベース:2420mm●車重(車検証記載値):910kg(F: 560+350)●乗車定員:4名●エンジン型式:P07A●658cc・直列3気筒・SOHC・2バルブ・横置●52ps(38kW) /6700rpm、6.2kg-m (61Nm)/3800rpm●カム駆動:タイミングベルト●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/35L●10・15モード燃費:18.6km/L●駆動方式:前輪駆動(FF)●タイヤ:165/55R14(YOKOHAMA ADVAN )●試乗車価格:−万円(含むオプション:大型ルーフコンソール 1万6800円、ナビゲーションシステム<販売店装着オプション> −円、ドアバイザー<同> 1万3650円)●試乗距離:約120km ●試乗日:2006年5月
公式サイト http://www.honda.co.jp/ZEST/



