シトロエン クサラ VTS新車試乗記(第74回)
Citroen Xsara VTS
(2.0L・5MT・299万円)
1999年05月14日
キャラクター&開発コンセプト
WRCで活躍するクサラの高性能モデル
ZXの後継モデルとして、1997年に本国デビューしたクサラ。従来の日本仕様は1.8リッター直4・SOHC(100PS/15.6kgm)と2.0リッター直4・DOHC(130PS/18.7kgm)という2種類のエンジンだったが、今年3月から2.0リッターエンジンのハイチューン版(165PS/19.7kgm)を導入。このエンジンを搭載したのが、今回試乗した2ドアハッチバッククーペの”VTS”だ。クサラはプジョー306と兄弟車の関係にあるので、このVTSはプジョー306S16のシトロエン版とも言える。ギアボックスは5速MTのみという、ファン待望のスポーツバージョンだ。
このクサラVTSをベースとした競技車両、通称「キットカー」はラリーで大活躍しており、'98年のフランス国内ラリー選手権のチャンピオンを獲得。今年のWRC第5戦カタルニア(スペイン)では2リッター自然吸気のFF車にも関わらず、フォード・フォーカスや三菱・ランエボVIといったWRカー(4WDターボ)をおさえて優勝、続く第6選ツール・ド・コルスでも優勝と、2連勝を決めている。
価格帯&グレード展開
5MTのみで299万円
クサラのセダン/ブレークの価格帯は220~279万円だが、VTS(5MTのみ)は299万円となる。ちなみにVTSと同じエンジンが搭載されるプジョー306S16(6MTのみ)は306万円だ。これらを比較する限りではそれ相応の値段だが、国産車を見回してみれば、VTSよりも高性能なクルマはたくさんある。それでもVTSを買う、そんなシトロエン・ファンのためのモデルだ。
パッケージング&スタイル
どことなくシトロエンらしい
現在、クサラには3つのボディバリエーションが存在する。ひとつは控えめながらもノッチを持つ5ドアのセダン、もうひとつがセダンのリアを190mm延長したブレーク(ワゴン)。そして巧みなウインドウ・グラフィックでスポーティさを表現する今回の3ドアクーペだ。
「カッコイイか?」問われれば、イエスとは言いづらい。かつての独創的なデザインセンスも今や見ることはできない(最近ではプジョーの方にこのセンスがある)。ただ、表現しにくいが、どことなくシトロエンらしさがあることも確か。シトロエンフリークを続けていると、この形もだんだんカッコよく見えてくる!?
ノーマルクサラよりも40mmローダウン
クサラの基本構造はプジョー306と共通だ。しかし、フロアに補強や防振材を施すなどの差別化が図られ、ホイールベースはプジョー306よりも40mm短い2540mmとなっている。VTSはノーマルよりも40mmローダウンされ、まるでかつてのシトロエンのようにタイヤの一部がホイールハウスに少し隠れている。お得意のハイドロニューマチックを装着しているかのようだが、むろんクサラにハイドロは付いていない。リアはトーションバーで、高速旋回中に前輪と同じ方向に後輪の向きをわずかに変える「セルフステアリング・リアアクスル」が採用されている。
スポーティというよりはラグジュアリー
内装はノーマルと同じ。スポーティモデルだからといって、日本車のようにホワイトメーターやカーボンパネルを装着するような手法はとられず、そのかわりに本革シートが奢られる。それも、そのままリビングで通用しそうな大柄なものだ。ステアリングには他のグレードでも見られるオーディオスイッチも装備されており、スポーティーというよりはラグジュアリーといった印象を受ける。品質はZX時代からは飛躍的に向上しているものの、グローブボックスとダッシュボードのチリが合っていないなど、シトロエンらしさは随所に残っている。
最初、ベストポジションが確保できないと感じる
後席の頭上空間にあまり余裕がないものの、どの席も広さ的にはさほど問題はない。気になったのが、ペダルに合わせると腕が縮まり、ステアリングに合わせるその逆になるという、小柄な日本人泣かせのシート&ステアリング位置。腰をシートに深く埋もれさせると、どうもシートポジションが決まらない。またシートの座面部が膝裏まであるので、足が短いとクラッチ操作もしにくい。とはいえこれも慣れの問題で、100kmも走っているとだんだん気にならなくなった。要は足が届く位置にシートを決めればよく、ステアリングは背もたれの角度で調節すればいい。
走行中にリアから、ミシミシ、ギシギシとした音が聞こえ、この音だけはかなり気なる。これは剛性の問題ではなく、恐らく本革シートのこすれる音だろう。このあたりもシトロエンらしさが残るところ。
基本性能&ドライブフィール
35馬力アップした2リッターエンジン
VTSに搭載される2リッター直4・DOHCエンジンは、吸気系をはじめとする各部のリファインにより、セダン/ブレークよりも35PS/1.0kgm高められ、最高出力165PS/6500rpm、最大トルク18.7kgm/4200rpmを発揮する。このエンジンはプジョー306S16と共通だが、最高出力と最大トルクは微妙に高められている。組み合わせられるギアボックスは5速MTのみ。ちなみに306S16は6速MTなので、できればクサラにも6速が欲しいところだ。
言われるほど硬い乗り心地ではない
エンジンは軽快に噴け上がるというより、低速からトルクを伴って回るという感じ。力強さがどの回転域でもある。従って加速面では何の不満もない。シトロエンとは思えない「速さ」を実感できるだろう。硬い乗り心地は、今までのシトロエンのイメージとは随分異なるもの。そうはいっても「ガチガチ」ではなく、ふつうより硬めといったところで、シトロエンという先入観がなければ、そう気になるほどではない。街乗りがいやになる硬さでないことは明記しておきたい。
「セルフステアリング・リアアクスル」が採用されており、これがなかなかいい仕事をしていて、コーナリングでは実に安定している。オンザレールで面白くないとも言えるが、ハイペースでも安定しているのは悪いことではない。
そして高速巡航の素晴らしさはさすが。速度を上げれば上げるほど安定してくるのはシトロエンならでは。高回転まで回せるエンジンなので、高速度域からでもギアを落とせば、心地よい加速をみせる。当然ながら室内騒音は高まるが、150km/hくらいでの巡航、高速コーナーでの安定性はクラスを超えている。
ここがイイ
シトロエンが好きな人、シトロエンを知っている人にはわかる、今までのシトロエンとはひと味違う走りの良さ。快適性を犠牲にしない範囲で、スポーティ。質感や信頼性も上がっているし、革シートにサイドエアバッグまで標準装備。24時間路上故障対応サービス「CIFT」もいよいよ始まるので、シトロエン初心者もそろそろ乗り時かも。
ここがダメ
インパネのウインドウスイッチは位置的にかなり使いにくい。カップホルダーとかも欲しいところ。クラッチの切れる位置が曖昧に感じられ、慣れるまでついついペダルを奥まで踏み込みがちになってしまう点。ギシギシいう内装。
総合評価
シトロエン好きには、パワフルでスポーティなエンジンフィーリングから硬めの乗り心地、変わらぬ快適性まで、今までにない新鮮さが魅力的に映るはず。反面、シトロエンに興味ない人には、なんだかよくわからない不思議なクルマに見え、拒否反応もでるだろう。しかしそれこそがシトロエンの面目躍如ではないか。同じフランス車でも、誰もが良いクルマと言うルノークリオ、斬新な中庸車プジョー306に比べ、やっぱりクサラは個性的。外観はずいぶんふつうだが、やっぱりどこかヘンな所を残し続けているシトロエンは、エンスーの味方だ(誉めてるんです)。
公式サイト http://www.citroen.co.jp/