三菱 パジェロ新車試乗記(第91回)
Mitsubishi Pajero
1999年09月07日
キャラクター&開発コンセプト
モノコックを採用、快適性を重視した3代目
クロカンブームの立役者、パジェロ。82年の初代デビューから、世界のラリーフィールドで優れた悪路走破性を証明し、ブランド力を高めてきた。そして何よりもパジェロ人気を決定づけたのが91年に登場した2代目。92年には国内だけで8万台以上の驚異的な販売を記録している。しかし、ブームが過ぎ去った後の販売台数は激減(今年7月は348台)し、大苦戦を強いられてきた。
巻き返しを図る3代目、新型パジェロの開発テーマは「新世代の世界基準パジェロを目指す」だ。オフロード性能向上はもとより、最近のこのクラスの主流である「高級&快適SUV」志向に沿い、乗用車並みの快適性と、ランクルに迫る車格を手に入れている。ボディサイズが一回り以上大きくなったことにより、室内空間は大幅に改善され、ボディ構造もラダーフレームからモノコックへ変更された。
搭載されるエンジンは時代の要請に応えた環境型ユニットで3.5リッターV6ガソリン、3.2リッター直4ディーゼル。ともに直噴タイプだ。
このように高い居住性、優れたエンジン、抜群の走行性能を獲得した新型パジェロは、クロカンという枠を超えた新時代のオールラウンダーに成長している。
価格帯&グレード展開
価格帯は299.3~429.5万円、ガソリンとディーゼルは同価格
ボディは3ドア・ショートと5ドア・ロングで、それぞれにガソリンとディーゼルを用意。これに装備の違いによる3つのグレードが設定される。廉価順に「ZR」「エクシード」「スーパーエクシード」となっており、計12グレード。20グレード以上もあった先代と比べると、実にスマートな構成だ。
ナビやオーディオ、空調、テレビ、ドライブ情報と全てを写し出すMMCS(ディスプレイは7インチ)はエクシード以上には標準装備される(一部グレードにMMCSレスの設定もある)。本革内装はスーパーエクシードに標準装備。その他の装備はボディ、エンジン、グレードにより微妙に異なってくる。3ドアと5ドアの価格差は40万円前後となる。
なお、全体の価格帯はほぼ据え置きとなっており、ボディの拡大分、MMCSの装着分だけお買い得という設定といえるだろう。なお、Jトップ(オープンモデル)は消滅した。
ライバルはトヨタ・プラド、日産・テラノ、いすゞ・ビッグホーン。トヨタ・ランクル100、ベンツ・Gクラスなども視野に入ってくる。
パッケージング&スタイル
一回りサイズアップ、ワイド感を強調するフェンダー処理
5ドアであるロングのボディサイズは、全長4735mm×全幅1875mm×全高1855mmで、先代よりも全長が+55mm、全幅+100mm。ホイールベースは+55mmの2780mm。一方、3ドアのショートは全長4420mm×全幅1875mm×全高1845mmで、先代よりも全長が+160mm、全幅+90mm。ホイールベースは+125mmの2545mmだ。
先代と比較するまでもなく、一見してデカイ! 特にワイド感はかなりのもの。先代は5ナンバー枠のボディに後付けオーバーフェンダーで膨らませた3ナンバーボディだったわけだが、新型はボディシェルそのものが増幅されており、正真正銘の3ナンバー。よって、室内空間は全幅の拡大分以上に広くなっている(室内幅は+110mm)。
デザインの基本はキープコンセプトで、一目でパジェロと分かるもの。クロカン必須(?)の背面タイヤは全車に装着されているが、スチール製バンパーガードは、さすがにもはやオプションにも姿はない。97年限定販売の旧エボリューションモデルに通じるマッチョな仕上がりで、特に大きくアーチを描いたフェンダーの盛り上がり印象的、いや、やりすぎというべきか。非常にボテッとしており、先代(前期型)のストレートなワイルドさと比べると、ちょっぴり幼稚な感じすらある。
モノコックボディの採用
別体フレームにボディを載せた従来のフレーム構造に代わって、フレームとボディを一体化したビルトインフレーム式モノコック構造を採用している点も見逃せない。グランドチェロキーやテラノと似た手法であるこの構造は、車重の軽量化、基本レイアウトの自由度が広がる、最低地上高が低くできるなど、多くの利点がある。新型パジェロが、ボディサイズを一回りアップさせているにもかかわらず、約50kgの軽量化と低重心化(フロア高は50mm低められ、最低地上高は30mm高められた)を達成したのはこのボディ構造のおかげといっていいだろう。また、ねじれ剛性も従来に比べて3倍高くなっているとのこと。もちろん三菱独自の衝突安全ボディ「RISE」も採用されている。
室内寸法を飛躍的に拡大し、乗降性もアップ。クロカン色は薄くなった
フロア高が50mm低くなったことにより、乗降性は格段にアップしている。標準的な男性ならサイドステップやアシストグリップを使わなくても、背伸びするだけで乗り込める。これは大きなメリットだ。
インパネは赤っぽい木目調をあしらった八角形センターパネルが個性的。特に巨根? のシフトノブは男らしい。しかし、クロカンの象徴でもあった3連RVメーターはなくなり、代わりにナビ、エアコン、燃費計などが表示されるMMCS(三菱マルチコミュニケーションシステム)モニターとなっている。野性的なムードはなくなり、もはやクロカンらしきアイテムといえば、2駆と4駆を切り替える副変速機のみ。質感はかなりペキペキとプラスチック感があり、高級感はあまり期待できない。購入者としてはせっかく大枚を叩いて立派なクロカンを購入するのだから、もうちょっと高級感か、あるいはワイルドなクロカンテイストがあったらいいと思うのではないだろうか。
室内幅は110mmも広くなっているわけだから、横方向の大きな余裕はいうまでもないだろう。ただし、その分は巨大化されたセンターコンソールにあてられており、前席のタイトな感じは従来とあまり変わっていない。そのセンターコンソールボックスは運転席と助手席のアームレストとして兼用されているので便利。そこには2人分のカップホルダーも用意されている。良くも悪くも軟派路線という感じではあるが、快適には違いない。
ホイールベースの拡大分55mmはしっかりと後席空間の拡大にあてられており、後席は前席よりも高い位置にあるので、開放感がある。3人掛けでも無理なく座れる。3列目シートはオデッセイ等の収納方法と同じで、回転させて荷室床下にスッポリと納まるもの。加えて脱着も可能だ。これで荷室スペースがグンと有効に使えるようになったわけだが、リアドアからのアクセスは超不便。2列目シート全体をごっそりとダブルフォールディング(スーパーエクシードは6対4分割となるので、左側だけとなるが)する必要があるのだ。まあ、3列目シートはほとんど使わなかったという従来車オーナーの声を聞けば、納得できる配慮といえるだろう。
基本性能&ドライブフィール
パワフルな新型直噴ディーゼルがウリ
エンジンは3ドア、5ドアともにガソリンとディーゼルターボそれぞれ1タイプに集約された。
ガソリンは従来型からの改良型3.5リッターV6のGDIで、最高出力220ps/5500rpm、最大トルク35.5kgm/3750rpmを発生。
一方、ディーゼルのほうは三菱初の直噴の「DI」ディーゼルが投入された。従来型をベースに直噴化と排気量アップした新開発3.2リッター直4で、最高出力175ps/3800rpm、最大トルク39.0kgm/2000rpmを発生。ギアボックスはグレードに応じてスポーツモード付きの5速(スーパーエクシード)、同4速(エクシード)、スポーツモード無しの4速AT(ZR)が組み合わせられる。なお、MTの設定はない。
エボリューション譲りの足回りと進化したスーパーセレクト4WD「SS4-II」
足回りは、フロントがダブルウィッシュボーンと先代と同じだが、トーションバー式からコイルスプリング式になっている。リアも先代の3リンクに代わって、ダブルウィッシュボーンを採用。これは先代のエボリューションモデルと同じで、量販車としてはクラス唯一の4輪独立懸架となったわけだ。
三菱独自の駆動方式スーパーセレクト4WDは、機械式から電動式になった。センターデフにビスカス付き遊星ギアを移用したことで、前後のトルク配分を従来の50対50から33対67に変更され、操縦安定性を高めている。
なお、ステアリングはボールナット式ピニオン式に改められた。これは、コスト削減の一貫と考えてもいいだろう。
ディーゼルエンジンの音はかなり耳障り、悪路走破性は未知数?
試乗したのはディーゼルのエクシード。ギアボックスはスポーツモード4ATだ。市街地と高速道で試乗してみた。
ディーゼル特有のエンジン音は、アイドリング時からしっかりと室内に侵入してくる。直噴は音が大きく、抑えるが難しいとの話だが、それにしてもかなり耳障りなもので、新開発と期待していただけに落胆の度合いは大きかった。アクセルをグイッと踏めば、「ガオーッ」と吠える。こんなところで、クロカン臭さを演出してどうする! といいたくなる。
少し憎まれ口がすぎてしまったが、不快な部分はそれぐらいで、エンジンの振動そのものはまったくステアリングに伝わらず、段差によるショックも上手く吸収しておりいわゆるディーゼルの不満は少ない。これがガソリン車ならなお、乗用車と比較しても遜色ないレベルにあるだろう。また、ド太いタイヤを履きながらも、ここまでゴツゴツさを感じせないフラットな走りについても、やはり三菱の技術力に感心させられてしまう。
たっぷりとしたトルクは、しっかりと超低回転で発揮され、パワーの伸びは感じられないものの、重鈍な印象があった先代とは比較にならないくらいに軽快かつ力強い。高速道での合流も楽勝だ。120km/h位でも風切り音は少なく、かなり快適なクルージングとなる。
運転席から見えるフェンダーの張り出しは前方の見切りに貢献しており、また、前後のオーバーハングが極端に切り詰められているので、取り回しはそれほど苦ではない。クロカンのマイナス要因が相当解消されたのは、8年ぶりの進化をつくづくと感じさせられる。
また微妙な加減速ができるストロークの長いアクセルペダルは、クロカンの文法通り。副変速機も電動式なので、走行中でもスイッチ感覚で操作できるようになっている(四駆にするとややドライブシャフトの音が気になる)。とはいえ、あまりにも乗用車っぽいので、クロカンを走ってみたいという気にさせてくれない、というのは皮肉というべきか。
ここがイイ
乗用車ライクな乗り心地で、乗用車ライクな走行性能を持ったこと。絶対的なパイが縮小していく中、ライバルも多いが、それらに十分対抗できる体力を持ったことで、プラドよりチョイ上、ランクル100よりチョイ下という微妙なポジションを確立できたと思われる。そして何はなくとも座面が下がって乗降性が良くなったことが大きい。シートの高さが中途半端でなくなったことは、乗用車的使われ方には大いなるプラスだ。
ここがダメ
ディーゼルのエンジン音は確かに気になるが、これをダメとするとディーゼルの存在価値が無くなりそうではある。一番ダメといえるのは大型四駆というクルマの存在意義といったら言い過ぎだろうか。こんな大きな四駆が入っていけるラフロードが日本に存在しているのだろうか。400万円の高級車でラフロードへ分け入る人がいるのだろうか(先代はほとんど四駆に入れたことがないというオーナーが大半だったとか)。クルマは大いなる無駄の産物だが、大型四駆というのはその最たるものに感じてしまうのだが。
総合評価
時代の流れによりクロカン四駆自体が売れなくなってしまい、かつて一世風靡したパジェロも「いつかはパジェロ」から「いまさらパジェロ」といわれるまでに衰退してしまっている。パリダカでの活躍も、今や一般消費者にはどうでもいいことと思われている。そこで今回の3代目は生まれ変わろうと、新しい提案をしてきた。それは、パジェロの持つブランド力を背景とした更なる高級化だ。
「本家のパジェロを世界に通用する象徴的な高級ブランドに育て、パジェロイオやミニで実売を稼ぐ」という戦略。三菱としてはこれは正解だろう。そしてそうした象徴的なクルマに乗りたい人には、不満なく楽しめる仕上がりだと思う。ただしどうせ買うならガソリンの方がより満足度は高いはず。10・15モード燃費も8.7km/lとこの手としてはかなりいい。
公式サイト http://www.mitsubishi-motors.co.jp/PAJERO/