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水とガソリンを混ぜて燃費とパワーを向上。水混合燃焼システムを発表

カテゴリ:クルマ関連ニュース / 2008年09月12日

 
 

伊藤レーシングサービス株式会社(本社:愛知県岡崎市)は2008年9月11日、同社が実験・開発中の、水とガソリンの混合燃焼システム(WCCS)の記者発表および試乗会を、スパ西浦モーターパーク(愛知県蒲郡市)で行った。

水を混ぜるだけで燃費とパワーを向上。排ガスもきれいに


冒頭の挨拶とシステムの概要説明を行う伊藤レーシングサービスの伊藤 猛志郎社長

伊藤レーシングサービスは、国内外の1線級レース車両やレース用部品、大手自動車メーカーの試作品開発などで有名な、知る人ぞ知る技術集団。今回同社が発表したのは、水とガソリンを混合した燃料で走る「水混合燃料車」、正式には「ウォーター・コンバイン・コンバスチョン・システム(Water Combine Combustion System、以下WCCS)と名付けられた水混合燃焼システムだ。

 

左がガソリン、右が軽油。デモ用の筐体には、実際のものと同じミキサーが組み込まれている。注ぎ込んでいるのは普通の水道水だ

これは一般のガソリン車もしくはディーゼル車をベースとしながら、ガソリンと水を専用のミキサーで混合した燃料を使用することで、燃費向上やパワーアップを果たし、さらにCOやNOx、PMといったエミッションを減らすというもの。

システムの要は燃料タンク内の「ミキサー」


ミキサーで混合を始めるとマイクロバブルが生じ、徐々に白濁。数分で混合状態になる

WCCSのシステムの要は、燃料タンク内に設置するミキサー部分。運転中は常に特殊なミキサーによって、ガソリン(もしくは軽油)と水を理想的な状態に混合。さらにガソリン/軽油と水は、比重が異なることから、時間が経つと燃料タンク内で分離してしまうので(水が下に沈む)、さらにフューエルパイプまで含めて常に混合された燃料が循環される仕組みとなっている。

 

こちらは軽油で、混合された状態。放置してもガソリンより軽油の方が長時間、混合状態が保たれるという

なお、実際の燃料タンクの場合、ノーマルでは最底部にある燃料吸い上げ口は、分離時に沈んだ水より高くなるように、20~30mm高い位置に置かれている(ゆえにタンク底部にはデッドボリューム=実際には使われない容量が生じる)。

これらWCCSの装備コストは、現状でも1台あたり20~30万円程度であり、量産化すれば数万円で済むレベルだという。根幹技術に関しては現在、特許出願中だ。

新旧3台のベース車で「水の力」を体験試乗


エンジン本体やインジェクターはもちろん、ECUもそのままという3台のWCCS仕様が用意された

今回は同社の所有するショートサーキット、スパ西浦モーターパークで、WCCS車の試乗が行われた。ベース車両は2008年式 トヨタ・ヴィッツの1リッター直3(1KR)・CVT車、2008年式 日産マーチの1.2リッター直4(CR12)・4AT車、そして「本来なら黒煙を吹く」はずの 2000年式トヨタ・スプリンターバン(CE107)の2.2リッター直4ディーゼル(3C)・4AT車の3台。

基本的にエンジンはECU(エンジン制御コンピューター)を含めて無改造であり、水の混合率は10%。 改造点はミキサーなどWCCS一式を燃料タンク内に設置したことと、燃料リターンパイプの追加、誤作動を防ぐためのセンサー類の解除くらいという。

社内テストによると、ガソリン車の場合、低回転域(約1000~3000回転)で約15%の出力向上(ベンチテストで計測。高回転域ではノーマルと差がないという)、燃費は現時点で10.8%向上(実走)を確認。ディーゼルに関しては、燃費が11.3%向上したほか、騒音の低下、黒煙の減少、無臭化などが確認されているという。また燃焼室内のスラッジの発生もほとんどなく、「非常に燃焼状態がいい」という。


こちらはディーゼルのスプリンター。入れているのはもちろん水

ただし残念ながら今回は、化石燃料のみのノーマル状態との比較が出きなかったため、パワーアップ云々は明確に分からなかったが、水を混合した状態でも動力性能にまったく問題なかったのは確か。ディーゼル車にはDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)が後付けされているため、黒煙の減少に関しても明らかではないが(通常ならPMが付着するDPFだが、WCCSではほとんど汚れないという)、少なくとも一切ディーゼルらしい排気やにおいは感じられなかった。

解析・検証はこれから


会場には自動車ジャーナリストの菰田 潔氏も出席し、WCCSの主にパフォーマンス面での向上について印象を語った

一方で、そもそも水を混合するとなぜ劇的に性能が向上するのか、その理由は解明されておらず、この「発見」自体も水素エンジンの実験・開発過程で、偶然見つけたものだという。仮説としては、燃焼室内で水(H2O)が分解され水素が生じ、それが燃焼して爆発力が向上しているのではないか、もしくは一種の水蒸気爆発が起こっているのではないか。あるいは、水に含まれる酸素が燃焼を助けているのではないか。NOxの減少に関しては、水の冷却作用により燃焼温度が適度に抑えられたからでは、などの推測がある。

現在、岐阜大学や北海道大学に、燃焼状態の解析・検証を依頼しているほか、所定の施設で10・15モード燃費の計測を行う予定。今後、同社では、あくまで排ガスのクリーン化、低燃費化を安価に実現できる方法として、大手メーカーを巻き込んでの研究開発や早期の市場投入を期待している。

DAYSのコメント

常識をくつがえす話で、開発した伊藤レーシングサービスの伊藤社長すらが「まゆつば物だと誰もが思う」と言うほどの信じられない話だが、どうやら事実らしい。燃料に水を混ぜたら、よりよく燃えた、というのは、水が水素と酸素でできている以上、考えられなくもないのだが、そのメカニズムが解明されていない今、これ以上語っても仕方ない。それより、実際に排ガスがクリーンになり、燃費やパワーが向上するのだから、ひとまず夢の技術と言ってもいいのではないか。

伊藤レーシングはレース用パーツ開発やメーカーからの部品開発委託、さらにスパ西浦というサーキットまで運営する会社で、社長も従業員もまじめな町工場風の人々。まして理屈を解明する前にこの話を記者発表したのは、できるだけ広く世に公開し、共同で開発してもらいたいためという。利益の独占ではなく、広く世の中に役立ててもらいたいという姿勢からも、この話がまゆつば物でないことがうかがえる。

燃料電池までのつなぎ技術でいい、と社長は謙虚に言うが、電子的に燃料マネージメントすることで、化石燃料と水の割合は半々まで可能になるというから、化石燃料が無くなるまでの時間が倍に延びるかもしれない。ガソリンに水素を混ぜようと試みているときに、たまたま発見されたことのようだが、もし燃料電池までのつなぎの技術として確立されるならば、素晴らしいことだろう。

■伊藤レーシングサービス http://www.ito-racing.com/

(Photo:DAYS)